07 ミリヤマダ・ルイ13世でいいわけないだろう!
ミリヤは今日もララミィと城下町を視察していた。
魔王はお目付け役の指導もあり、それなりにお嬢様らしい立ち振舞いにはなったのだが、それでも街で横暴な部下を見かけると、日傘を武器に成敗するので、いつの間にか城下町の顔役となっていた。
問題は、成敗している部下の中に『ミリヤ・シュトロホーン』の名前に聞き覚えがある者がいることだ。
城下町で庶民を相手に横暴を働く下級兵士が、魔王と謁見できるわけがないものの、魔王の名前くらい耳にした者がいる。
「いつまでも本名で活動するのは危険ですわ」
「え、ミリヤもシュトロホーンも、よくある名前だし、偽名を名乗る必要ないでしょう?」
「いいえ、ミリヤもシュトロホーンも、滅多にいないと思いますよ」
「そうかな?」
「せめて、シュトロホーンだけでも偽名にした方が良いと思います」
魔王シュトロホーンの呼び名は、代替わりしても定着している。
城下町では『ミリヤお嬢様』で呼ばれており、今さら変えるのが難しい。
「例えば、どんな名前が良いのよ?」
「ミミミノミリヤは如何ですか」
「ラララノララミィと被ってるから却下です」
「ではミリヤマダは如何ですか」
「それはミリ・ヤマダなの? それともミリヤ・マダなの?」
「私の中では、ミリ・ヤァマダですね」
「なんか、変なイントネーションになったよね?」
「まあ私の中では、そのように呼ばせていただこうと思います」
「小馬鹿にされているみたいだから却下です」
「では貴族ぽく、ミリヤマダ・ルイ13世は如何ですか」
「ララミィ、一回ヤマダから離れようか」
「お貴族のお嬢様らしい良い名前だと思ったのですが……まあフルネームを名乗らなければ良いだけですね」
「お貴族言っちゃってるし、絶対に遊んでるでしょう」
ララミィが名前を考えるのを飽きてきたとき、ミリヤがクルクルと弄んでいた日傘が、裕福そうなオークにぶつかった。
オークは、この城下町の執政官だった。