06 血は争えない
先代の魔王ゴールデン・シュトロホーンは、遊び人の金さんと身分を偽り城下町で不正を働く役人や盗賊を成敗していた。
先々代の魔王アヌス・シュトロホーンは、隠居したちりめん問屋を名乗り、世界各地に点在する占領地を漫遊して悪事を働く執政官を懲らしめていた。
「パパもお爺ちゃんも、魔王のくせに身分を隠して悪事を正すとか、ずいぶんマッチポンプじゃないか?」
「ミリヤさまも、先代たちのことを言えませんぞ」
服を着替えたミリヤが玉座に戻ると、溜め息まじりにオ爺は吐き捨てた。
「ララミィから聞きましたが、露店商を取り締まるリザードマンと一悶着あったそうですな」
「露店商と言えども、我がシュトロホーンの城下町で暮らす市民だぞ。私が市民を助けたところで、べつに問題なかろう?」
「血は争えない……ということですかのぉ」
「そもそも魔王がレアカード欲しさに、部下に露店商を襲わせたなんて噂が広まったらどうする。金銀財宝ならばいざ知らず、たかがレアカードだぞ?」
「まあ、恥ずかしいですな」
「だろう? そんな恥ずかしい命令したなんて、私の沽券にかかわる大問題だ」
「それでリザードマンから取り上げたカードは、露店商に返却したのですか」
「いや、カード返却すれば役人に目をつけられると、露店商から助けた礼だともらった」
ミリヤは、キラキラ輝くレアカードをオ爺に自慢した。
「結局カードを手放した露店商は災難でしたな……役人にも目をつけられて、城下町での商売もできんでしょう」
「その点ならば、私に逆らったリザードマンは極寒の牢獄に左遷してやったわ」
「なんですと!?」
「我が魔王軍の役人が、人間の小娘に敗北したとあっては示しがつかない。今後も城下町で私に逆らう者がいたら、遠慮なく極寒の牢獄に左遷してやるわ」
「なんで、そこだけ発想が魔王なんですかのぉ」
「アホか、私は根っからの魔王ぞ」
顔を横に向けたミリヤは、エヘヘと照れ笑いしている。