表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/24

05 私は魔王だぞ?

「魔王様が探していたカードだぞ!」


 カードゲームのショーケースを覗きこんでいたリザードマンの役人は、大声で衆目を集めた。


「これが魔王様が探しておられたレアカード『深眼のダークエルフ』か! おいオヤジ、このカードを献上せよ!」

「お、お役人様、それは10万フェンのレアカードでございます。献上するのは、ちょっと難しいかと……」

「なんだと? 魔王様の命令に逆らうのか」

「いいえ、滅相もございません」


 玩具の露店商がショーケースからレアカードを取り出すと、リザードマンの役人は胸ポケットに納めて満足げに笑った。

 それを見ていたミリヤは『私は、あんなカード要らんぞ』と、ララミィに伝えて席を立とうとした。


「ミリヤお嬢様は今、魔王ではありません。10万フェンのレアカードは、あの者が欲しかったのでしょう」

「しかし奴は、私に献上するためにカードを接収したのだろう?」

「露店を取り締まる役人が『魔王様に献上する』と言えば、何でも差し出しますからね。魔王の名前を騙り、私腹を肥やしているのでしょう」

「ええ……それでは、私の悪評が広まるではないか?」

「悪評を気にする魔王というのは、ちょっと矛盾してますけどね」

「文句を言ってくるわ」


 ララミィは『だから』と、いきり立つミリヤの腕を掴んだ。

 ここで魔王を名乗れば、お忍びで街を視察する意味がなくなる。

 それにミリヤが魔王を名乗ったところで、城下町に暮らしている市民は、先代の魔王が亡くなったことも知らなければ、魔王の名前を騙る偽者と思われるのが関の山だ。

 彼女が魔王だと知る者は、各地に散らばる執政官クラスの悪魔と、シュトロホーンの魔城で身の回りの世話をする城の者だけである。


「だから魔王としてではなく、個人的に文句を言えば良いのだろう?」

「ミリヤお嬢様が文句を言っても、役人のリザードマンが改心するわけないし、改心したらしたで残虐非道の魔王軍の役人として問題ですよ」

「うん?」

「あのリザードマンは小悪党(チンピラ)ですが、露店商から高額な商品を取り上げるなど、なかなか見所のある魔王軍の役人ではないですか。むしろ称賛に値します」

「そういうものか?」

「ええ、だって彼は魔王の手先ですよ。部下の蛮行は、称賛すべきですわ」

「なんか腑に落ちないのぉ」


 ミリヤはララミィの手を払うと、日傘を剣のように構えてリザードマンの前に立ち塞がった。


「なんだ小娘、俺に何か用でもあるのか?」

「そこのお前、魔王への献上品を薄汚いポケットに入れて良いのか? もっと丁重に扱わなければ、魔王に叱責されるぞ」

「ああん? そんなこと、貴様みたいな人間に言われる筋合いねぇぞ」

「私が人間? ほう、お前には私が人間に見えるのか」


 魔王の象徴であるミリヤの角は、ララミィの魔封じの護符でツインテールと一緒に結われており、見た目が人間のようだった。


「ミリヤお嬢様っ、騒ぎを大きくしてはいけません! それに今は――」

「魔法は使えん。しかしララミィ、私の剣はリザードマンごときに負けはせぬ」

「お嬢様!」

「黙れッ、人間どもが! この街が魔王のお膝元ッ、この俺が魔王軍だと知っての狼藉ッ、魔王様にケンカを売ったも同然の愚行を見過ごすわけにはいかん!」

「お前こそ、誰に向かって牙をむいておるんだ!」


 目を血走らせたリザードマンに、黄色のオフショルダードレスの少女が対峙している。

 さすがの露店商も『カードは差し上げますからお引き取りください』と、リザードマンを宥めすかしているが、大衆の面前で小娘に小馬鹿にされては、引くに引けない様相だった。


「こいよ三下、私が稽古をつけてやる」


 ミリヤが手招きで挑発すると、姿勢を低く構えたリザードマンが腰の辺りにタックルした。

 だが刹那、少女の体はするりと彼の頭上に抜けて、背後に回り込んだ彼女に後ろ足で尻を蹴飛ばされる。

 前のめりに地面に倒れた彼が、態勢を整えようとついた手の甲に、鋭く尖った日傘が突き刺さった。


「ギャーっ!」

「うちの執事長は、首チョンパされても叫ばないぞ? あ、叫べないのか?」

「ま、魔王軍に逆らってっ、ただで済むと思うなよ!」

「お前こそッ、私に逆らってただで済むと思うな!」

「な、何者だ!?」


 ミリヤは『ええと……何者って言われても』と、ララミィに目配せして助けを求めたが、お目付け役は顔を手で覆って首を横に振っている。


「名乗るほどの者ではないわ!」

「え?」

「さらばだ!」


 人混みに逃げこんだミリヤは、ララミィの手を捕まえて現場を走り去った。

 お目付け役には、部下の蛮行に拳を振るったのは、魔王らしからぬ言動だと怒られたが――


「私は魔王だぞ? 意見するヤツには容赦しない」


 と、ミリヤは言い放って、ララミィの瞳に日傘を突き付けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Orphan Wolfもよろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ