01 魔王の醜態である!
異世界小説にはまりつつあるカーネルキックです。
人生初の恋愛小説に挑戦しているので、面白かったら感想をくださると嬉しいです!
ミリヤ・シュトロホーンは、多くの魔物を従えた魔物の王であり、全ての魔法を修得した魔法使いの王でもある。
そして彼女が住んでいるのは魔物に守られた城、魔法で守られた城、シュトロホーンの魔城と呼ばれていた。
つまりミリヤ・シュトロホーンは魔城で暮らす魔王であり、絶対的支配者として世界に君臨している。
「ミリヤさまぁ、ミリヤさまぁ」
「どうしたオ爺! 勇者かッ、ついに勇者が私を討ちに現れたのか! シュトロホーン城一層のオークどもに武器を装備させてッ、城内で勇者一行を迎え撃つのだ!」
「いいえ、お食事のご用意が整いました」
「ズコッ!」
腰から玉座を滑り落ちたミリヤは、執事服を着ているオークの執事長オ爺に、純白のパンティを御開帳してしまった。
「魔王の醜態である見るなッ!」
「はいはい、見ません見ません。お食事の用意が整いましたので、リビングまでおこしください」
魔王は捲れた金糸で刺繍された黒いスカートを手で押さえると、鼻で笑ったオ爺を涙目で指差した。
「魔王の弱点を見たのに軽く流すなッ! もっと動揺しろッ!」
「お爺は先代の頃より、この城でお世話になっております。ミリヤさまのオシメも取り替えておれば、今さらパンツを見たところで動揺などしません……お爺は、ミリヤさまのもっと凄いところを見てますのじゃ」
ミリヤは杖代わりのデスサイスで、オ爺の首を斬り落とそうとした。
その刃をメイド服のサキュバスが手甲で受け止める。
桃色の巻き毛のサキュバスは、魔王のお目付け役ラララノ・ララミィだった。
「ララミィ、そこを退きなさい。魔王の凄い秘密を知る者は、生かしておけない」
「ミリヤ様が蘇生呪文のエキスパートでも毎日毎日、斬首していたらオ爺さんもボケますわ」
「め、めしはまだかいのぉ……めしはまだかいのぉ」
「ほら、ボケているわ」
「わかったわよ」
食事が用意されているリビングは、勇者一行との戦闘を考慮して広く作られた玉座の間のせいで、こじんまりとしている。
それでも窓を開ければ、エルフやハーフリングなど亜人たちが暮らす城下町が見下ろせる部屋で、薄暗く陰湿な城内にあって、唯一太陽光の降り注ぐミリヤお気に入りの場所だった。
「勇者は、いつになったら攻めてくるわけ? パパが亡くなって十年以上経つのにさ、勇者こないじゃん」
ミリヤは、ちぎったパンをスープで流し込むと、脚をぶらぶらしながら愚痴をこぼした。
「オ爺がお世話になってから百年、勇者が訪ねていたのは一度きりです。先代が、その勇者を完膚なきまで叩きのめしたせいで、それから客足がめっきり遠退きましたな」
「もしかして勇者は、パパが心筋梗塞で亡くなって、私に代替わりしたの知らないんじゃない。まだ十代の小娘が魔王だと宣伝すれば、スケベな勇者がわんさか集まるんじゃないかしら?」
「いやいや、わざわざ勇者を集める必要はありますまい。先代の逝去は、世間に公表しませんぞ。ミリヤさま、魔界も平和が一番ですよ」
「平和が一番とか、魔王の執事長らしからぬ発言ね。復活してやるから、今すぐ切腹しろ」
「なんで!?」
「暇潰し」
ミリヤは、フォークの切っ先をオ爺に向けた。
「まあまあミリヤ様、そんなに暇なら退屈しのぎに城下町でも散策しますか」
「え、ララミィ? 城外は暗殺の危険があるので出歩くなと、パパに言われていたんだけど――」
「魔王のくせに、いつまで親の言いつけを守るつもりなの?」
「そうよね。魔王なのに、親の言いつけを守るのも変よね?」
「では私の使い魔に、庶民の服を用意させましょう」
「なんか楽しみ」
オ爺が『オ爺は許しませんぞ!』と、城下町に行こうとするミリヤとララミィの前に立ち塞がる。
魔王は『うるせえブタ野郎』と、執事長の首を手刀で斬り落とした。
「あらあら、ミリヤ様」
「私は魔王だぞ? 意見するヤツには容赦しない」
ミリヤは窓の外を一瞥すると、ララミィの使い魔が運んできたパステルカラーのドレスに振り替えり、空色のスカートを手にとって笑顔で小躍りした。