真実
ツムギ、私のこと覚えてないの?
最初に会った日もそういえばこの場所だった。
そう、この自動販売機で炭酸ジュースを買って2人で飲んだ。
そして巨大な満月を見た。
今でも鮮明に覚えている。
ツムギは忘れちゃったの?
私は言いたいことが口から何も出てこなくて、しばらく固まってしまったが、我に帰って「ご、ごめんなさい」と言ってその場を立ち去ろうとした。
その時、「もしかして夕香子さん?」という女の人の声がして私は振り返った。
ツムギの後ろから40代くらいの綺麗な女の人と小学生くらいの男の子が手を繋いで立っていた。
私は驚いて「はい、そうですが、、」と小さな声で答えた。
「あなたが、、、お会いできてよかったです。
今、少しお時間大丈夫ですか?」とその女の人は聞いてきた。
「はい、大丈夫、、です、、」
私はモゴモゴとそう答えた。
困惑していた。この人たちは誰?もしかしてツムギの、、
「ねぇ、2人で先に家に帰ってくれない?ちょっとこのお姉さんと話したいことがあるから」
と言ってその女の人は、言った。
「え、この人知り合いなの?」
とツムギが驚いたように聞いた。
「うん、ちょっとね。
ね、お願い、リオくん連れて先に帰ってて。冷蔵庫にアイスあるから、食べてていいよ。」
「やったー!ツムギ、帰ろ〜」
リオくんと呼ばれた、その男の子は喜んで飛び跳ねた。
2人は手を繋いで歩いて行ってしまった。
そして私はその女の人とベンチに腰掛けた。
「ごめんなさいね、急に。
夕香子さん、初めまして、私はツムギの母の公香と言います。」
この人が、、ツムギのお母さん。
肌の色が白く、上品な雰囲気のする人だった。
柔らかい雰囲気がツムギとよく似ていた。
「3年前の夏、ツムギが一人で一時帰国した時に仲良くしてくれたのよね?
その後、文通もしていたわよね。
ツムギはいつもポストの前であなたからの手紙を待っていたの。
あ、大丈夫、内容は一切見ていないからね。」
公香さんはゆっくりと言葉を選ぶように話し始めた。
「実はね、ツムギはその後、事故に遭って生死を彷徨ったの。
信じられない話かもしれないけれど、本当のことなの。
一時は意識不明の重体だったけれど、数日後に意識が戻って、そこから辛いリハビリを乗り越えて、普通の生活ができるまでに回復したの。
でも、脳を損傷してしまっていて、一部の記憶が消えてしまったの。
事故から1、2年前くらいの間に起こった、比較的新しいことを覚えていないのよ。
だから夏に日本に帰ったことも。
夕香子さん、言いにくいのだけど、あなたのことも思い出せないみたいなの。」
私は目の前が真っ暗になった。
え、どいういうこと?
事故?何それ。
私のことを覚えていない?
「お医者さんの話だと、何かのきっかけで消えてしまった記憶を思い出すことはあるらしいのだけど、とにかくツムギの体調を安定させることが優先だったから、夕香子さんからの手紙はしばらくツムギには見せないようにしていたんです。
本当にごめんなさい。
前に来ていた手紙を見つけた時、とても困惑していて、治療に影響が出そうだったから、落ち着いてから徐々に、と思っていました。
リハビリ期間は半年ほどかかったけれど、頑張った甲斐があって普通に生活できるまでに回復して高校も復学できて、去年の夏に卒業して、今は日本で美術系の大学に通ってるわ。
あの子、昔から絵を描くのが好きでね。きっと私の父の影響。
リハビリ期間中、ベッドで横たわっている時もずっと絵を描いて過ごしていたんですよ。
これから私の姉の家に下宿させてもらって、通学する予定です。
今回はその準備で一緒に一時帰国しているんです。
まさかあなたに会えるなんて。
ごめんね、本当に驚かせてしまって。
連絡もできずに本当にごめんなさい。
あの子が普通の生活を送れることが一番優先すべきことだったの。」
ツムギのお母さんは真剣な眼差しで私を見た。
全て本当のことなのだろう、ということはわかった。
「あ、あの、教えてくれてありがとうございました。
ツムギくんはどうしているのか、とても心配でしたから。
でも、あの、正直びっくりして、、、なんて言ったらいいか、、」
私はこれからどうしていけばいいのだろう。
初恋の人にようやく再会できたのに、その人は私のことを覚えていないなんて。
ツムギ、私、これからどうしたらいいの、、




