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秋の短編2017

木曜日のスーパーコカド

作者: 鷹枝ピトン

 駅から十五分、住宅街に溶け込む商店、スーパーコカド。そこにはある噂がある。


 スパーコカドは、死神が経営しているスーパーであり、もし万引きしようものなら、その商品の金額に応じて寿命を奪われるのだという。


 変な噂であるが、出所がはっきりしているので、みなが信じている。と、いうのも、実は先月、市内の高校生が、老衰で死ぬという事件が起きたからだ。その高校生は、死ぬ間際、コカドで万引きしなければ……と後悔の言葉を残したのだという。そこから、同級生、高校、近隣の学校、と波のように噂は広がっていき、ここに都市伝説が完成した。


 わたしたち、黒緑高校怪奇探偵同好会は、このような都市伝説を取集し、『同好会メンバーの都合があえば』集まり、検証する。活動は活発ではないが、先々代の会長が生徒会長を兼任していたときに、えげつないほどに私腹を肥やした影響で、同好会で唯一部室を持っている。そのため、放課後に暇を潰したい暇人たちが、入会しており、会員数はなかなかのものである。

ただし、ほとんどが幽霊部員であり、毎日のように来ているのは、現会長であるわたしと、三人の会員だけである。


 ここで、三人の会員の紹介をしておこう。


 まず、一人目。カズ。元、サッカー部員。マネージャーとなにかがあったらしく、きまずくなり、サッカー部を退部し、わが怪奇探偵同好会に栄転した。もとは明るい性格だったらしいが、いまはとんだ根暗になっている。彼の存在だけで、うちの同好会が怪奇探偵だと再認識させてくれる貴重な存在。本日は欠席。

 次に、二人目、フナコシ。バカである。おしゃべりなタイプの、馬鹿である。このようなおちゃらけた人間は、実はまともなことも考えられるのが常だが、彼がまともなことを喋っているところをわたしは見たことがない。だから、わたしは、フナコシはバカという生物だと認識している。本日は欠席。

 そして、三人目、マヨ。同好会の紅二点。こいつが入会したせいで、わたしの女としての立場がなくなった。おしとやかで、お嬢様。そして都市伝説大好きというオタクっぷり。オタサーの姫になるべきしてなった。この女は、ひざを抱えるカズを慰めたり、バカ騒ぎするフナコシの相手したりと、潤滑油となってもいる。順当にいけば次期会長は彼女だろう。気に食わないが。


 この三人の暇つぶし相手をわたしは親しみを込めて、『極つぶし三人衆』と呼んでいる。

最後は会長であるわたしの紹介であるが、自分のことをいうのは恥ずかしいので、省略させてもらう。ひととなりはそのうちわかってもらえるだろう。わたしが素晴らしい人間だということは、滲み出る魅力に当てられれば、すぐさま理解してもらえるはずだ。




 さて、それでは本題に戻るが、本日わたしは、マヨとともにスーパーコカドに赴いている。目的はもちろん、例のうわさの調査である。市内で起こったホットな話題、怪奇探偵同好会の活動にはうってつけである。

 

 木曜日の夜。お嬢様のマヨが、週に一回の家庭教師がない日である。そしてわたしもバイトがなく、二人の都合があったので、半年前から計画していたこの調査に、重い腰をあげた。いい加減、活動をしないと、同好会費が減らされてしまうのだ。

 

 マヨが、スーパーの入り口に立ち、目を輝かせる。


「会長、わたしわくわくしています。このような庶民的な商店、初めてですっ」

「へえ……。お金持ちは買い物、スーパーでしないの?」

「来てくれるので……。あ、あと、あそこにはいきますね」


 マヨが挙げたのは、高級スーパーの名前であった。そうか、通るたびに誰がこんな店にはいるのだ、と思っていたわたしであったが、案外身近に利用者がいたのか。ちっっ。


 わたしは、マヨを引き連れ、自動ドアをくぐる。両脇には探知機。万引きをしたら、商品に反応して、ブザーが鳴るという仕組みである。もちろん、入店時であるので、わたしたちに反応することはない。


 店内は薄暗い。古いスーパーにありがちだが、照明が古いため、このような照度になってしまうのだ。さらに、店内の棚の背が、総じて高いことも暗さに影響しているようだ。


 見通しが悪いということは、万引き犯にとっては好都合なのではないだろうか。

 

 監視カメラを探す。明らかな形のカメラは見当たらない。無い、ということはないだろうが、上手に隠しているのだろうか。ダミーでもあるだけで抑止力になるものだが、

 

 この店の場合、かのうわさ『死神』が抑止になっているのか。張り紙として「万引きは犯罪です」のイラストがあるが、鎌を持った骸骨であるのは、店側もうわさのことを知っているのかもしれない。

 

 とりあえずは、店内を回るが、さて、ここからどうしようか。わたしか、マヨが実際に万引きをすれば、バックヤードで真実に触れられるだろうが、それは嫌だ。経歴、大事。

 

 マヨはかごをもって、普通に買い物を始めた。駄菓子を買っている。彼女にとっては物珍しいのだろう。


「すごいです!会長!うまい棒ってチョコ味以外あったんですね!」


 うまい棒チョコ味。同じ値段で小ぶりなことから、セレブの買うものとして知られる。これが、格差か。


「ふん……マヨ、わたしは弁当コーナーに行くから」

「はーい」


 この時間なら、半額シールが貼られているだろう。今日の夕食にしよう。そう思い、わたしは棚を潜り抜け、弁当売り場へ向かう。

 

 牛すき弁当、二百五十円。いい。これはいい。わたしは、すぐにかごに入れる。そして、総菜コーナーにて焼き鳥を見つける。安い。これは、買いだ。かごに入れる。このたれが、なんといっても食欲を刺激する。なんだ、いい店じゃないか。


 わたしは、幸福な気持ちでお菓子コーナーに戻る。


 すると、そこには、呆然と空を見つめるマヨがいた。


「どうしたの」

「いや、あのさっき……中学生くらいの男の子が店員さんに連れていかれて……」


 きた。不謹慎ながら、わたしは好機を喜んだ。


「じゃあ、行くわよ、マヨ。バックヤードに耳を当てて、中の様子を探りましょう……」


 と、そのとき。件のバックヤードの扉が開き、なかから老人が出てきた。


「え……?あれ、え?」


 困惑するマヨ。わたしも、自分の目を疑う。


「なんで、あんなおじいちゃんが、学生服なんて着ているの」


 老人、その男性は、垂れたしわだらけの顔で、よたよたと歩いており、全体から老いを感じさせている。しかし、それと不似合いなのが、その服装である。彼が着ているのは、近くの中学校、第三中のそれである。高齢者が着るには、五十年くらいは遅い。

 ほどなくして、その後ろから、店員さんが出てきて、老人をスーパーの外に送り届けた。


「……マヨ」

「会長、これは、つまり」


 二人で目線を合わす。


「中学生が、おじいちゃんにされたってことね」

「高齢者の万引き問題ですね」


 わたしは、マヨを睨む。マヨは、首を傾げる。


「違いますか?」

「……とりあえず、会計を済ませましょう。で、あそこのイートスペースでしばらく見張りましょうか」

「門限が近いですう」

「もお帰れよおおお」


 ここで、まさかのマヨが離脱。何だあいつ。まじイラつく。


 わたしは、弁当と焼き鳥を食しながら、じいと店内を見渡す。店の片隅に申し訳程度に置かれたこのイートインスペース。見渡すには、おあつらえ向きの場所である。


「肉うめえ……」


 独り言をつぶやきながら、買い物客をにらみつける女子高生。ヤバいやつなのは、わかっている。自分を客観的に見るのは、心が傷つくから、やめよう。


 こんなことをやっている自分は、何者なのだろう。フリーの万引きgメン?誰か時給をよこせい。


 悶々としていると、買い物袋を提げたおばあちゃんに声をかけられた。


「部活帰り?」

「ええ、まあ……」

「いいねえ、若いって。うちの孫もあんたと同じくらいでねえ。最近は会ってくれなくて寂しくってねえ」


 長くなりそうだ。牛すき弁当をかきこみ、意思表示とする。


「あら、ごめんなさい。食事中だったわね。じゃあ、おばちゃん、これあげちゃう」


ことん、とジュースを置いてくるおばあちゃん。柿のジュース。見たこともない。どうして、こう若者の趣味とずれるのだろう。


「あ、はい、ありがとうございます……」


 わたしは、ポッケにジュースをしまう。あとでお父さんにあげよう。


「あんまり遅く帰ると、あなたのママ心配しちゃうからね」

「はーーーい……」


 去るおばあちゃん。見ず知らずの人に話しかけられるのは、疲れる。いや、あたたかみがあっていいんだけども。


 ……ね?


 と、ここで、ブザー音が鳴り響く。直後、さっきのおばあちゃんが店員さんに連れていかれる。


「うわ……まじで」


 あのおばあちゃん、万引きしていたのか。


 扉の向こうに消える老体に、さびしさを感じる。一分に満たない付き合いであっても、思うところはある。


「ん……あれ?」


 待てよ。都市伝説が本当なら、この場合はどうなるんだ。


 死神は、商品の金額に応じて、寿命を吸い取り、万引き犯の見た目もそれに準じた老体となる。さきほどの例でいえば、中学生は、六十代に、実に五十歳近くの寿命を搾り取られている。

 もし、あのおばあちゃんが、かの中学生と同じく五十歳相当の万引きをしていたならば、すでに六十歳くらいのところへ、五十歳が加算されて百十歳。余程健康的な人でないと、もう死んでいるくらいの歳になってしまう。


 さすがに死神といえど、これは免除ではないのか……?そんな淡い希望を抱いていると、ついにバックヤードの扉が開く。

  

 出てきたのは、店員一人であった。

 手には木箱を持っている。


「あれって……」


 骨壺。その言葉が浮かぶ。

 まさか。まさか。まさかまさかまさか。


「そーいうこと、なのお?」


 冷や汗がほおを伝う。背筋が凍る。こわい、こわすぎる。こんなの、一介の高校生が立ち入っていい話ではない。

 わたしは、席を立ち、ごみ箱に弁当を入れる。急いで、この店を出なくては。


『高齢者の、万引き問題』。マヨの言葉を想い出だす。


 高齢者のなかには、一人暮らしをしていて、孤独を常に感じている人たちがいるという。家族からは煙たがられ、同居していても、独りぼっちの人もいる。そんな彼女たちは、万引きをすることで、人に構ってもらおうとするのだ。


 街で、急に話しかけてくるご老人も、もしかしたら、寂しさからのものなのかもしれない。そう考えると、もう邪険にするのはよそう。わたしは決意した。



 そして、出口の自動ドアをくぐったとき、ブザーが鳴った。



 あたりを見渡す。誰も、いない。


 ……わたし?


「あのお、ちょっと、よろしいですか」


 店員が話かけてくる。動揺しているからか、まっすぐと店員の顔を見れない。


「万引き、しましたよね」


 心臓が張り裂ける痛みが襲った。


 そこで、気が付く。おばあちゃんが渡してくれた、柿のジュース……。会計、通してなかったのかよ……。


そうして、わたしはバックヤードに連れていかれ…………。








次の日。怪奇探偵同好会の部室にて。

「あれ、会長、なんか変わりました……?」

「あーマジだ!なんか会長、エロいっすよ。アダルティっす!」

「黙れ極つぶしども」

 カズとフナコシを黙らせる。まだ自分のなかで処理できていないのだから、指摘するな、ばか。

 マヨが部室に来る。

「会長、おはようございます」

「……十年後あたり、かな。マヨあんたの若さを呪っているかも」

「へえ?なんのことです?一歳違いじゃないですか。あ、これ食べます?」


 わたしは、うまい棒のチョコ味をかじり、柿のジュースで流し込んだ。


明日は、金曜日→https://ncode.syosetu.com/n0010ei/

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