運命の赤い糸
…ねえ、運命の赤い糸って信じる?…
今日は、トオルと付き合って2回目の記念日。
付き合っても、何故かすぐに別れてしまう私にとって、トオルと2年も続くという事は、よほどウマが合うのだろう。
同じ大学に通っていた私達…学部は違ったけれど、キャンパスで見掛けた私に一目惚れした…ってトオルが告白してくれたっけ…。
今日まで、ケンカなんかしたことがないくらい、2人はラブラブだ。
優しくて、かっこよくて自慢の彼。
…何より私の事を、とても大事にしてくれている。
僕たちは、運命の赤い糸で結ばれてるんだよ…
…僕は、君の為なら、何だってできる……
そう言ってくれた時、涙がでる程、嬉しかった。
本当に、運命の赤い糸ってあるんだね…
きっと、この先もトオルと、ずっと一緒にいられるんだろうなぁ…。
今日は2人の記念日…
だから、夕方まで学校から帰ってこないトオルを驚かせようと思って、手料理を作るためにアパートに来たのはいいんだけど…。
『…その前に掃除と洗濯が先ね』
私は、散らかっているトオルの部屋を片付け始めた。
『ん?何これ?』
机の下に分厚い手帳が落ちていた。結構、年季が入っているらしく、革の表紙が、ぼろぼろになっている。
トオルに悪いかなぁ…と思ったけど、パラパラと中を開けてみた。
中身は日記になっているらしく、細かい字でたくさん書いてある。
『2004年だって…3年前かぁ…。私達が大学1年の時だ…』
3年前、2人はまだ出逢ってなかった。
付き合う前のトオルの事をよく知らない私は、悪いと思いつつ、日記を読む事にした。
〇月×日…
やっと、運命の人を見つけた。
君に一目惚れしたんだ。
このキャンパスにいるという事は、同じ大学なんだね。
でも、僕はすぐに失恋したんだ。
君と付き合うのは難しそうだね。
君の隣には、体育会系のゴツい男がいる…。
ヤツと別れる日が来るまで、僕は待つよ。
…いつまでも待つよ…
〇月×日…
君が泣いている。
どうやら彼氏と、別れたらしい。
…あんな男、君には相応しくないよ。
なかなか別れないから、僕が別れさせてやったんだよ…
だって、君の恋人は僕なんだから…
待ってて…
すぐに迎えに行くよ。
〇月×日…
バカな女が、君を合コンに誘っている。
早く手を打たないと、君がさらわれてしまう。
余計なことは、しないでほしい。僕の計画が台無しじゃないか!
『なに……これ…』
もうこれ以上、見ない方がいい…。そう思っても、読みたい衝動は、抑えられない。
私は、恐る恐るページをめくった。
〇月×日…
君は今日友達と、好きな芸能人の話をしていたね…。
そいつと同じ顔なら、僕の事、好きになってくれる?
待ってて…そいつと同じ顔に整形して、君に逢いに行くから…。
私は、何かを思い出したようにトオルの部屋を後にした。
嫌な予感がする……
…単なる偶然であってほしい思いと、必然的に仕組まれたのかも知れないという恐怖感…。
怖くて、胸が潰れそうになる。
でも私は、その事実を確かめずには、いられなかった。
自分の日記を片手に、トオルの部屋に戻ってきた。
息を切らせながら、昔の自分の日記と、トオルの日記とを照らし合わせてみる。
トオルの日記に書いてあった、女の子が彼と別れて泣いてた日…
私の日記には、付き合ってた彼氏と別れた事が書いてある……
何かに怯えるように、私の元を去って行った彼。
彼との別れに、トオルも関係しているのだろうか?
女の子が合コンに誘われた日…
私の日記には、友達のヤスコから、合コンに誘ってもらった事が書いてあった。
新しい出会いを少し期待していた私…
…だけどその合コン当日、ヤスコが交通事故に遭ってしまい、それどころではなくなってしまったのだ。
そして、トオルの日記の君が、好きだと言っている芸能人……私も芸能人の中では好きなタイプなのだ。
偶然なんかじゃない。
そう確信して、私はあの日の日記のページを探す…
2年前、トオルに告白されたあの日……
〇月×日…
やっと、君を迎えに行けたね。
でも、心配しないで…
これからは、いつも一緒だよ…
…僕は君の為なら何だってできるんだ…
そして僕は、君を永遠に離さないよ。
…だって僕達は、運命の赤い糸で結ばれてるんだから…
声が出ない…
私の身体に、冷たい何かが流れていく。
多分、血だと思う…
血の気が引いてるんだ…
そこには、突然帰ってきたトオルが赤い紐で、私の首を締めている。
途切れていく意識の中、私はトオルの優しい声を聞いた…
…ねぇ、運命の赤い糸って信じる?…
高橋です。
Bank〜の続編や、新しい物語を書いていて行き詰まった時、書いたものです。(こちらの方が先に出来上がってしまいましたね)