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Sの執着  作者: アールグレイ
3/4

瀬戸

11月25日。

チカチカ眩しい繁華街。時計は、22時を過ぎていた。夜だというのに、まだ外は騒がしい。

「よっと」瀬戸は、人混みを上手く避けて、ビルの前に着いた。

反射する光しか通らない、真っ暗なビルの階段を上る。そのビルは7階まであり、目的の階は5階だ。

「終電は何時だったかな。」

瀬戸は、もう帰ることを頭に入れていた。


軽快な足音を立てて、瀬戸は一気に5階までたどり着いた。

勢いよくドアを開けたせいか、ドン、と大きな音が一面に響いた。

そのフロアにいたのは5人。「マジか、少ねぇな」

5人の男達は、目を大きく見開いた。そしてすぐに、近くのナイフや鉄パイプを握り、瀬戸に向けてきた。

「てめえ何モンだ」1人のリーダー格の男が一歩前に出る。

「ここはガキの来るところじゃ…」

その瞬間、何が起きたのか。瀬戸がリーダー格の目の前に立っていた。

「俺は、ガキって言われんのと、カッコイイって言われんのが大嫌いなんだよ。」

瀬戸は指をしなやかに動かしながら、相手の喉元を狙う。

リーダー格は地面に倒れた。そして静かに血が流れ始めた。

「て、てめええええぇ」大柄な男が大声を張り上げる。

それに続き、他の奴等も瀬戸に向かって走り出した。

「うるせえな、まったく」

瀬戸は、近くにあった椅子を踏み台にして、天井の似非シャンデリアを掴む。

先ほどリーダー格から奪い取ったナイフを、地面に向かって思い切り投げる。

一人の男の喉元に命中し、深く刺さり、倒れた。残りは3人。

「こんなショボいビルに、シャンデリアなんかつけてんじゃねーよ」

シャンデリアを大きく揺らし、部屋の一番隅に跳んだ。一人が走ってきて、と鉄パイプを降り下ろしてきた。

そんなのきかねえよ。と瀬戸は再びシャンデリアまで跳ぶ。鉄パイプがガラス張りの棚に辺り、中の書類を撒き散らす。

「てめえ、逃げてんじゃねえぞ!」大柄の男が叫んだ。

「逃げてる訳じゃねえんだけど、まあ、お前らにはわからねーよな」男達に哀れみの目を向ける。

シャンデリアから、部屋の隅々へ移動している。「完成。」瀬戸は、部屋の中央にあるテーブルに乗る。

「何が完成したんだぁ?」3人の中で、一番背の低い男が聞く。

そんな問いにお構い無しに、瀬戸は、思い切り腕を前に持ってきた。

すると、部屋のクローゼットや時計、椅子やマネキンなどが、切り刻まれた。

「っ」男達は、悲鳴をあげる間もなく、バラバラに引き裂かれた。

瀬戸の腕にはワイヤーが仕込まれている。部屋の隅々に移動していたのも、ワイヤーを張るためだった。

「はい、終了。」カシャッ、と持っていた携帯で写真を撮る。

その時だった。奥から鼻を啜る音が聞こえた。

まだいたのか?と瀬戸は足音を消して奥の扉に近付いた。


そしてまた、扉を勢いよく開ける。真っ暗でほとんど何も見えない。目を凝らす。だんだんと見えてきた。小さな牢屋みたいなその部屋に、女がいた。

女は、腕を縄で結ばれていて、身動きの取れない状態のようだ。

嘘だろ、俺の大嫌いな、女、だ。

「お前、何でこんなとこに捕まってんだ?」とりあえず、話してみる。

「この人達が犯行しているところを目撃してしまいまして。そのまま車に押し込まれて、殺されるかと思いましたが、どうやら怪しいお店に飛ばされるみたいで。」

「それで捕まってた、と。」ふーんと興味なさげに言葉を返す。

「ですがその心配もなくなったようですね。あなたがあの人達を、殺したのでしょう?」

瀬戸の血まみれの服を見れば一発だ。

「そこで、お願いがあるのですが。」

「助けろとか言うんだろ?やなこった。お前を助けて俺になんのメリットがあるんだよ」

「助けてくれとまでは言いません。ただ、この縄を切って頂きたいのです。そうすれば後は自分でなんとかしますから。」女はゆさゆさと、縛られている腕を動かす。

「お前の縄を切ってやる義理はねえな」

「そうですね。」女は少し考えてから、言う。「では、お金を用意します。」

「あのな。殺し屋の皆が皆金に釣られて動くと思うなよ」

「では何故あなたは仕事をしているのです?殺人鬼って訳ではないでしょう。生きていくためにはお金が必要ですよ」

「そりゃ一理あるな。」

瀬戸はもたれていた壁からのっそりと離れる。苦虫を噛み潰したような顔をして、渋々女の縄を切った。ぶちっと音を立てて、女の腕が自由になった。

「ありがとうございます。」

女は立ち上がると、血まみれの男達をスイスイ避けながら、一つの金庫の元へ着いた。

「1、2、5、6…」ぶつぶつ言いながら、女は金庫のダイヤルを回し始める。ガチャンと鈍い音が室内に響く。

「暗証番号知ってたのかよ?」

「あなたが来る何時間か前に、この人達が得意気に番号を言ってましたから」

「ただの間抜けじゃねーか」

瀬戸は、近くに転がっていた男の死体を軽く蹴る。

女は、金庫を瀬戸の方に向けた。「ここにある、好きなだけをどうぞ。」

「おいおい、泥棒か?」瀬戸は少し呆れるように女に近付く。

「死人に口なしです。それに、どうせ殺されるような連中です。この人達からお金を盗んでも誰も悲しみません。」女はしれっと言い放つ。

瀬戸はニヒルな笑みを浮かべた。「お前案外ヘビーだな」



11月25日。

物語が、動き始めた。

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