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第一話:『コヨーテ』みたいなゲームで掃除当番を決める

この小説は、会話文の末尾の句点(。)を省略しないルールで書かれております。

ご了承ください。

挿絵(By みてみん)

 僕、上月良一こうづき りょういちは今、異世界で二人の奴隷少女と一緒に暮らしている。

 赤い城壁と白い建物が印象的なこのパプガナという町に、僕は自分の家を持っている。

 この町に長く定住するつもりはないが、しばらくはこの家に住むことになるだろう。

 今日はこれから三人で、家の掃除当番一週間の免除を賭けて、とあるゲームを遊ぶところだ。


「ご主人様、カードとかを持ってきました。」

 一人目の奴隷少女、ニニナがゲームに使うカードなどを僕が座っている床にそっと置いて、自分もその近くに座った。

 ニニナは背が低くて体つきも幼いので一見子供のように見えるが、実際には日本の感覚でいうと高校生ぐらいの年齢らしい。

 南の密林の村出身の彼女は、肌は薄い褐色で健康的な印象。

 髪は黒く、ウェーブがかかっている。

 顔つきはあどけなさが残るが、ただ本人の振る舞いは妙に大人びていて、感情をすぐに表に出さない事が多い。

 そんな彼女は時々地が出るのか子どもっぽい言動をするのだが、そういうときこの子は一番可愛いと思う。


「よーし! ご主人、ニニナ、本気で勝負! 手加減はしないよ!」

 二人目の奴隷少女、ナララがそう言ってにかっと笑い、僕ら二人の近くに座る。

 楽しそうなナララを身ながら、僕は運命と言うのは不思議なものだなあと思った。

 ナララとの出会いはある意味衝撃的で、僕はこの子に不意打ちされ、首を絞められて気絶させられた上で身ぐるみ剥がれたのである。

 あの時はショックだった。

 それが今は僕の奴隷であり、ニニナの親友なのだ。運命とは分からないものだ。

 ナララもこの南国の出身で肌は褐色だ。

 髪の毛は目が覚めるような赤い色。

 髪型は無造作で、日によってはぼさぼさと形容したくなるような状態だったりするが、顔立ちが整った美少女なのは否定できない。

 体形はちゃんと年頃の女の子なのだが、本人のさっぱりしすぎている性格ゆえか、僕はそれほどこの子に性的魅力は感じていない。


 床の上に敷いてある、ちょっとごわごわしたカーペットの中心にカードの束と、点数を数える小さな石が置いてあって、僕ら三人はそれを囲むように座っている。

 僕はとナララはあぐらをかいて座っていて、ニニナは正座だ。


 今から遊ぶゲームは、スパルタコ・アルベリタレッリというゲームデザイナーの作った「コヨーテ」と言うゲームを、僕がシンプルにしたものだ。

 異世界に来てから、日本で遊んだボードゲームなどが懐かしくなった僕は、この世界で売っていたトランプのようなカードセットを見て、それでこのゲームを遊ぶ事を思いついたのだ。

 コヨーテ自体がかなり単純なゲームなので、僕はシンプルにしたバージョンは本当に単純だ。


 カードを僕がシャッフルする。

 全員が、三つずつ小さな石を取る。

 ミスをするとこの石を一つ失って、三つとも失ったら負け。晴れて一週間の掃除当番に任命される。

 それではゲームの開始だ。

 一人に一枚のカードを配る。

 カードを受け取ったら、そのカードの表面を見ないで、他人からは見えるように自分の額の辺りにかざす。

 ぱっと見、インディアン・ポーカーのような様子になる。

「誰からスタートですか?」

 ニニナにいわれて、まだそれを決めていなかったことを思い出した。

「ご主人からでいいと思うよー。」

 ナララがニコニコしながらいう。

「僕からで良いかな?」

「はい。」

 ニニナの了解も得られた。

 僕は二人のカードを見る。

 右手に居るニニナが掲げているカードは「5」。

 左手側に居るナララの掲げているカードは「1」。

 そして僕自身が掲げているカードは当然、僕からは見えない。

 とりあえず僕は、

「7。」

 無難な数字を宣言した。

挿絵(By みてみん)

 これがどう無難な数字なのかは、あとで分かってもらえると思う。

 とにかく僕の番は終わり、今からナララの番だ。

「7か。7ね? どうしよっかなー?」

 ナララはニヤニヤしている。

 ナララがこの自分の番でできる事は二択だ。

 僕が宣言した7より大きな数字を言う、か、

 「多すぎ」を宣言するか、だ。


 数字を宣言すれば、番は終わって次の人の番になる。

 「多すぎ」を宣言した場合は……。


「じゃあね、12!」


 おっと、ナララが数字を宣言した。

 これでナララの番は終わり、ニニナの番になる。

「むー。」

 ニニナは可愛らしくうなって、考え込む。

 このゲーム、つまるところやる事はいつも二択なのだ。

 前の人が言ったより大きい数字を言うか、それとも「多すぎ」を宣言するか。


 説明の続きだが、ニニナがここで「多すぎ」を宣言したとする。

 その場合、3人は自分のカードをテーブルの上に明かし、数値を合計する。

 そして前の人が言った数字が、カードの数値の合計と比べて、「多すぎ」たのかどうかをチェックする。

 今僕から見えない僕のカードが4だったとすると、カード数値合計は5+4+1で10。

 ナララの12と言う宣言は「多すぎ」たことになり、ニニナの「多すぎ」宣言は成功。

 ナララはペナルティとして石を一つ失うことになる。


 また仮に、僕から見えない僕のカードの数値が9だったとすると。

 ニニナが「多すぎ」を宣言したとすると、三人のカード数値の合計は1+5+9で15。

 ナララの12と言う宣言は「多すぎ」なかった事になるので、「多すぎ」宣言をしたニニナがペナルティとして石を一つ失う。


 とまあ、このようにして進んでいくゲームだ。

「宣言します。13です。」

 ニニナが数字を宣言した。

 僕の番だ。

 14以上の数字を宣言するか、それとも「多すぎ」を宣言するか?

 判断材料は、見えている二人の数字と、ここまでに二人が宣言した数字だ。


 僕から見えている二人の数字は、5と1。合計は6。

 このゲームで使うカードの数字は最低が1だ。

 だから最初に合計6が見えていた僕は7を宣言したのは無難な手なのだ。

 自分のカードが最低でも1だから、合計7は絶対にあるのだ。

 7と言っておけば、「多すぎ」を宣言されて僕がペナルティを受ける事は絶対にないのだ。


 それはそれとして。

 僕は考える。

 僕の7宣言を受けて、ナララはいきなり数字を12に吊り上げた。

 その判断材料は何か。

 ナララには見えていて、僕には見えない判断材料。

 それは、僕が額の前に掲げている、僕のカード以外にはありえない。


 このゲームに使われるカードの数字は、

 「1」、「2」、「3」、「4」、「5」、「7」、「9」の7種類だ。

 ちなみに、それぞれ4枚ずつある。全28枚だ。

 ともあれ、ナララがそれだけ数字を吊り上げた以上、僕のカードは5か7か9あたりの大きいカードだろう。

 ……などと考えていたが……。


 久しぶりにこういうゲームを遊ぶので、いまいち頭が回転しない。

 今のコンディションで、深く考えても無駄な気がしてきた。

 今は深く考える事を放棄して、無難な手を打つことにした。

 前の数字より、1大きい数字を言うのだ。

「14。」

 僕は宣言した。

「んー? んー? 14? そんなに大きいかなー?」

 上機嫌なナララの言葉に、僕はドキッとさせられる。

 もしや「多すぎ」宣言がくるのか?

「んふふー。まあ、14ぐらいはあるかも知れないけどー。でも、あたしが12って言った時にニニナちゃんがそれを受けて13でしょー? それを考えるとー。」

 むむ。

 ナララにはナララなりに読みがあるようだ。

「宣言しちゃいまーす!『多すぎ』!」

 来たか。

 三人は同時に、額に掲げていたカードを床に置く。

 そして、僕のカードは7だった。

 三人の合計は5+1+7=13。

 14を宣言した僕は、「多すぎ」宣言をされて1ペナルティである。

「ぐはあっ!」

 僕はふざけて胸を刺されたようなしぐさをしてみせる。

 ニニナがくすくすと笑う。

 3つある僕の小さな石を、2つに減らす。

 次の勝負が始まる前に、僕は先ほどのナララの思考を想像してみる。

 ナララから見えていたのは、ニニナの5と僕の7。

 なるほど、それだけで合計12ある事はナララにとって自明だったのか。

 その「12」を受けたニニナは、とりあえずそれより1大きい数を宣言したのかな?

 それ以上二人の思考を想像するには時間が足りなかった。

 たった今使った3枚のカードを脇によけて、次のラウンドが始まる。


 三人に1枚ずつカードが配られ、各自それを他人に見えるように額の前に掲げる。

 右に居るニニナのカードは1、左に居るナララのカードは3だ。

 そしてまた、先ほどペナルティを受けた僕からスタートだ。


 僕から見える二人の合計値は4。

 僕はまた安全策をとることにする。

 つまり、自分のカードを最低の1と仮定し、4に1を加えた5を言うのだ。

 第一手目はこの方法をとっている限り、次の人の「多すぎ」宣言によりペナルティを受ける心配はない。

 防御的な手だ。

 攻撃的な手ではないから、後々自分が不利になる可能性が大きいのかもしれないが……。

「5。」

 シンプルにそう宣言した。

「えー? 5? これは難しいなー。」

 ナララが困ったようにそう言う。

 ここでナララが困った顔をするというのは、どういうことだろう?

 さっきは、僕のカードから得た情報で颯爽と数字を吊り上げていたのに。

 待てよ、今回それをしないという事は……。

 僕のカードから、強い情報が得られないということか?

 仮に僕のカードが9なら、ナララから見えるニニナのカード1と合わせて、10を宣言してきてもよさそうなものだ。

 今回、ナララはそう言うことをしていない。

 と言う事は、僕のカードは小さい数字なのか?

 そんなことを考えた。

「えーと、じゃあねえ、6!」

 ナララは僕の数字より1だけ多い数字を宣言した。

 ニニナの番だ。

「6、ですか……うーん……7!」

 ニニナはあまり長く考えず、宣言した。

 僕の番だ。

 しかし、二人とも弱気なのか、1大きい数字を宣言しただけか。

 全体的に数字が低いのか?

 というか、僕のカード、低い数字なのか。

 そう言う雰囲気はあるが、しかし具体的にいくつなのかなど分かるはずもない。

 今、僕の番にできる事は、8以上の数を宣言するか、「多すぎ」を宣言するか、しかない。

 しかし、僕から見えている二枚の合計が4なのに、8を宣言するという事は、自分のカードが4以上でなければ安全ではない。

 自分のカードが4以上なら、8を宣言して、「多すぎ」といわれてもセーフなのだが……。

 だけど、ここで「多すぎ」を宣言する勇気もまた、持てなかった。

 「多すぎ」を宣言して、合計値が多すぎなければ、また自分がペナルティなのだ。

「8?」

 宣言した僕の声は、ちょっと疑問系の語尾の上がり方だった。

「8ですかー? 8-? そんなにあるの? え? あたしのカード高い目の数字?」

 自分の番を迎えてナララはちょっと自信なさそうだった。

「ひょっとしてあたしのカード9? それとも7とか? うーん……。」

 そう言いながら僕とニニナの顔をうかがうナララのカードの数字は、3である。

「えーい! 女奴隷には度胸が大事! 言っちゃう! 9! はい、ニニナちゃんの番!」

「え、じゃあ、『多すぎ』です。」

「えー本当に?」

 3人は額の前に掲げていたカードをテーブルに置く。

 僕のカードは1だった。偶然にも最初に宣言した5が正解の数字だったのだ。

「あたし3じゃん……合計5しかないじゃん……。」

 ナララは笑いながら悶えていた。

「ペナルティですね。」

 ニニナがナララの石を一つ減らした。

「なんでみんなつり上げたのー?」

「いや、確信が持てなくてさ。」

 ちょっと言い訳っぽい口調になった。

「はいはーい! みなさん! と言う感じのゲームでしたね、思い出した? じゃあ、練習ゲームはここまでにして、今から本番と言う事で行きましょー!」

 突然ナララがそんなことを言い出した。

「え、今までのは練習ゲームだったのですか?」

 ニニナが戸惑っている。

「いや、僕はそんなつもりはない。」

「今から! 今からが本番! ペナルティはなかったことにしてまた始めよう!」

 ナララは勢いで押し切ろうとしている。

 ニニナの目が少し細くなる。

「わたしは時々思うのですけど、ナララちゃんのような悪い魂を持っている奴隷は、時々ムチで叩いて魂を綺麗にしてあげるといいのではないでしょうか。」

「え、あ、待って、冗談だから。ニニナちゃん、まさかあたしが本気で言ってると思った? 神聖なゲームを冒涜するような事をさー。」

 白々しくもナララはそんなことを言う。

「とにかく続行します。」

 僕が仕切った。

「はーい。」

 ナララは屈託なく返事をする。


 三人がカードを受け取り、額の前に掲げる。

 僕の右手側にいるニニナのカードは5、左手側のナララのカードは2だ。

 そして先ほどペナルティを受けたナララからスタートだ。

 ナララはニニナの掲げている2のカードと、僕の掲げている、僕からは見えないカードに目をやってから、

「16!」

 そう宣言した。

 え?

 ずいぶんと大きい数字だな。

 これはこの回の最初の宣言だから、宣言したナララにとっては、判断材料は僕のカードとニニナのカードしかない。

 整理しよう。

 ナララは16を宣言した。

 判断材料は僕のカードとニニナのカードであろうと思われる。

 僕のカードの数字は僕には分からない。

 ニニナのカードは5だ。

 むむ。

 これは、僕のカードは、このゲーム最大の数字、9である可能性が濃厚か?

 ナララから見える二枚のカードを合計しても14にしかならないが、ナララのカードの2を足すとちょうど16である。

 もしそこまで読み切っているなら、すごい直観力か洞察力である。


「16なのですね……?」

 ニニナはうーんとうなって目をつぶる。

 厳しいと感じているようだ。

 このゲームは全員の合計ちょうどの数字を、前の人が宣言すると厳しい。

 その場合、「多すぎ」を宣言したら自分がペナルティだ。

 数字がちょうどであり、多すぎはしないのだから。

 かといって、前の人が言ったよりも大きい数字を言ったとしても、次の人が「多すぎ」を宣言した場合、ペナルティを受ける。

 つまり、言われた数字がちょうどの数字らしい場合、次の人に「多すぎ」宣言をされないように祈りながら前の数字より大きい数字を言うしかないのだ。

「うー、17! 17です!」

 ニニナは意を決したようにそう宣言した。

 そして上目づかいでこちらを見る。

 なんだか、「どうか『多すぎ』宣言はしないでください」と言うメッセージを送られている気がする。

 ちょっと、「多すぎ」宣言を勘弁してあげようかな、と言う気にもなる。

 なるが、それをしてしまっては、僕は競技者ゲーマーを名乗る資格を失う。

 だって、少し考えればわかる。

 ニニナのカードが5。

 ナララのカードが2。

 合計は7。

 僕のカードの数字は僕からは見えないが、しかしカードに書かれている最大の数字は9なのである。

 たとえ僕の数字がその9だったとしても、三人の合計は16。

 つまり、ニニナの宣言した17は、どう考えても「多すぎ」るのだ。

「ごめんね。『多すぎ』。」

 僕は宣言した。

「はうー。」

 ニニナがあきらめたような声を出す。

 とにかく、三人はそれぞれ自分が掲げていたカードを床に置く。

 僕のカードはやはり9だった。

 という事は三人の合計はやはり、16。

 ナララはヒントの少ないスタート直後の宣言で合計ちょうどを宣言していたのだ。

「うはー! ちょうどだ! あたしすごい! もしかしてあたし、精霊に祝福された子だったのかな?」

 ナララは有頂天だ。

「どうして分かったの?」

 僕は思わず聞いた。

「え、だってさ、ご主人の9とニナナちゃんの5が見えたからさ、合計14でしょ?」

 ふむふむ。

「それでね、あたしのカードはなんとなく2ぐらいかなって思って、16って言ったの!」

 僕は脱力した。

 何の説明にもなっていない。

 どうやって自分のカードを2だと思ったのかが重要なのに、なんとなくかよ。

 これは何だ?

 いわゆる、女の直感と言う奴なのか?

 女の直感恐るべし。

「うー、そんなのどうしようもないよぉ……。」

 ニニナがぼやいていた。

 いまちょっと子供っぽくて可愛かったな。

 とにかくニニナが石を一つ失った。

 これで、石の数は三人とも二個になった。

 だれかが自分の石を全部なくしたら、一週間の掃除当番である。


 次の回が始まる。

 右を見るとニニナのカードが9。

 左を見るとナララのカードが3。

 そしてペナルティを受けたニニナから、スタートだ。

「ではいきます、8!」

 意を決したように、真っ直ぐな瞳でニニナが宣言する。

 さて、そろそろ僕も本気を出そうじゃないか。

 ニニナはナララのカード、3と、僕のカードを見て8と宣言した。

 8と言う数字は少な目の数字だ。

 これは、僕も使った例の防御的な手ではないだろうか?

 つまり、自分のカードの数字を最低数字の1と仮定して、見える二枚のカードに1を足した数を宣言するのだ。

 もし、そうだとしたら。

 簡単な算数だ。


 ニニナは、


 ナララのカード「3」を見て、

 ニニナのカードを「1」と仮定して、

 その合計に僕のカードの数字を足して、

 「8」と宣言したのだ。


 この読みを信じるなら、僕のカードは4だ。

 よし、それに賭けよう。

 僕のカードは4。

 そして、ニニナのカードは9であり、ナララのカードは3だ。

 その3枚を合計して。

「16!」

 僕は宣言した。


「やばいなー。これやばいなー。」

 ナララが頭を抱えた。

 きれいな赤い頭髪をわしゃわしゃとかき乱す。

「悩んでも仕方ないわー。宣言してみる。17!」

「『多すぎ』、です。」

 ナララの宣言に間髪をいれずにニニナが「多すぎ」を宣言する。

 三人が自分のカードを明かす。

 僕のカードは4だった。読みどおり。

 と言う事は。

「やーらーれーたー!」

 ナララがばたっと倒れて見せる。

 ニニナの「多すぎ」宣言の速さはちょっと意外だったが、考えてみればニニナからは合計7が見えていたわけだ。

 そこで17と言われたら『多すぎ』を宣言するのは鉄板だ。

 自分のカードの数字は最大でも9なのだから。

 さっきの僕の状況と同じだ。


「あーもー! ご主人強すぎます! ご主人の次の順番のあたしが不利すぎます!」

 ナララが文句を言い出した。

「それで?」

 ノーヒントの状態からちょうどの数字を宣言したナララに言われるほど強くはないと思ったが、続きを促した。

「回る順番変えましょう!右回りじゃなくて、左回りに!」

 なるほど。

 それは、別にルール違反でもないな。

 このゲームは「コヨーテ」を元に僕が作ったゲームだが、右回りで進行するのか左回りで進行するのかは特に決めていない。

 ゲームの途中で回転方向が変わっても、別に構わないだろう。

「よし、左回りにするか。ニニナもそれでいい?」

「ご主人様がそれでよければ。」

 澄ました顔のニニナ。


 新たな回が始まる。

 前にペナルティを受けたナララからスタートだ。

 ニニナのカードは9。

 ナララのカードは3。

「むむ。むむ。むむ。」

 楽しそうに僕とニニナのカードを見ながら何か考えているナララ。

「よし決めた! 20! へへーん。」

 無邪気な笑みを浮かべる。

 大きい数字だなおい。

 とにかく、それを受けて、僕の番だ。

 ナララの考えていることは読みにくいが、でも、僕の数字とニニナの数字を根拠に何かを考えているはずだ。

 ニニナの数字9。

 僕の数字、何か。僕にはわからないがナララには分かっている。

 ナララの数字、3。これはナララには分かってない。

 とにかくその3つを合計して、20よりは大きいだろうと踏んだのだろう。

 僕の数字は9か?

 ナララが自分の数字を2と仮定しているなら、僕が9の場合、ちょうど20になる。

 よし、その勘に賭けよう。

 僕の数字は9。

 そしてニニナが9で、ナララが3なんだから、合計は21。

「21!」

 実際より自信ありげに、そう宣言した。

「うーん、22!」

 ニニナはあまり考えずにそう言ったようだ。

 うまい読みが成立せずに、安全策として1だけ大きい数を宣言したのだろう。

「えへへ。『多すぎ』。」

 ナララが迷わずに「多すぎ」宣言をした。

 全員が自分のカードを確認する。

 僕のカードは9。勘が当たっていた。

「ナララ、どうしていけると思った?」

 思わず聞いた。

 ナララから見えていた合計値は18。

 これは、22と言われても、「多すぎ」を宣言するかどうか迷ってもいいところではないか?

 だって仮にナララの数字が4以上だったら、「多すぎ」ではなかったのだ。

「え? だってご主人が21って宣言したじゃん? だったら合計は21なのかなと思って。実際そうだったでしょ?」

 明るい調子でそう言った。

 僕を信じたパターンか。これもまたすごい割り切り方だ。

 でも、確かに今の僕は良い調子だ。

 石の数も二個残している。

 ニニナとナララはどちらももう一つしか石を持っていない。

 多分この勝負、僕は負けないだろう。


「むー。」

 ニニナがちょっとがっくりしているようだ。

 敗北の予感でも感じているのだろうか。


「ニニナちゃん負けそう?」

 ナララがニコニコしている。

「なんですか。」

 ニニナは不機嫌そうにウェーブのかかった自分の髪をいじっている。

「負けたくないでしょ?」

「負けたくない。」

 そりゃそうだろう。

「勝つ方法教えてあげようか?」

「別にいいです。」

 ニニナは、ナララに対して何を言っているんだろうというような顔になっている。

「今日は暑いね?」

「べつに暑くないです。」

「いやー暑いなー、服脱いじゃおうかなー。」

 ん?

 疑問に思っていると、ナララはするすると来ている服を脱ぎ始めた。

 たちまち上半身裸になった。

 それなりに女性を主張している胸を隠そうともしていない。

 さらに、腰布まではずそうとしている。

「おいちょっと、今は全裸禁止で。」

 僕はくぎを刺す。

「大丈夫ぱんつ穿いてるよー。」

 あまり色気のない脱ぎ方で腰布をはずした。

 脱ぎ方には色気がないが、褐色の肌に布面積の少ない白いぱんつは強いエロスを感じさせた。

 思わずつばを飲み込む。

「わたしも暑いような気がしてきましたー!」

 ニニナまで服を脱ぎ始めた。

 こいつら。

 色仕掛けでこちらの集中力を攻撃するつもりか!

 うれしい!

 じゃない。

 面白い! の間違いだ。

 受けて立ってやる!

 ニニナのつけていた下着は、いつか僕が買い与えた紐みたいなパンツだった。

 布地面積は極限まで少なくて、隠すべきところが隠せているかどうか怪しい。

 それを見ていたら、僕は受けて立てないような気がしてきた。


 新たな回の始まり。

 僕に見えているカード二枚はニニナの2、ナララの1。

 スタートはニニナからだ。

「5です!」

 ニニナが元気よく宣言。

「あ……10……です……んんっ……。」

 ナララが、無意味に色っぽい声で宣言する。

 笑えてくるからそれはやめてほしい。

 僕の番か。

 しまった。思考能力がマヒしていて、二人がどういう考えでさっきの宣言に至ったか想像できてない。

 頭が回転しない。

 くそ、色仕掛け効果抜群かよ。

 ああニニナ、なんで正座じゃなくてあぐらをかいて座るの?

 いつも君正座だったよね?

 ぱんつなの? ぱんつを見せるためなの?


 頭の中にイメージされる二人のぱんつを押しのけて、頭を回転させる。

 ニニナは5を宣言した。ニニナから見える僕とナララの合計は少ないのだろう。

 次に宣言したナララはニニナの7が見えている。宣言した数字が10か。

 僕の数字が少なめな数字なのは間違いないだろう。

 しかし自分の数字がいくつなのか、読み切ることはできない。

 どうするか。


 僕はこういう時こそ攻撃的に仕掛けるべきだと思った。

 逆境の時こそ冒険をするのだ。

 点数的に不利な逆境であろうと、ぱんつによって引き起こされた逆境であろうと、それは同じだ。

 具体的には、強気で大きめの数字を言う事で、次の番であるニニナに、自分は9を持っていると思い込ませるのだ。

 うまくやれば『多すぎ』を宣言されることなく、ニニナは自分の数字が9だという前提で数字を吊りあげるだろう。

 そこをナララが『多すぎ』宣言でとどめを刺すのだ。

 敗者はニニナで決定、僕とナララは掃除当番を免れるのだ。

 そのプランに最適な宣言数字は……。

「僕は宣言する。12」

 ちょっと格好つけた。

 もし「多すぎ」宣言をされたら僕のペナルティだが、自信たっぷりに宣言したことによりニニナにそれはできない。

「えーと、『多すぎ』です。」

 あれ?

 いま、ありえないことが起きたような気が。

 三人が自分のカードを確認する。

 僕のカードは2。

 合計は10。

 確かに12は『多すぎ』た。


「まいったな、ニニナ、自分のカードが9かも知れないって思わなかった?」

 どうして僕のブラフが失敗したのか、知りたくて素直に聞いた。

「思いませんでした。」

「どうして?」

 何がいけなかったんだ。

「ご主人様、9はもう4枚とも出ています。」

「うわあ!」

 僕はのけぞった。

 まさかの回答。

 この子、今まで使ったカードを数えて覚えていたのか!

 言われてみれば、さっきの回で9が二枚出て、それで9のカードは品切れだった。

 ゲームに使われたカードはすべて脇にのけてゲームは進む。山札は減っていく。

 同じ数字のカードは4枚しかないので、4枚出てきたらもうその数字である可能性はないのだ。

 簡単な原理だ、だけど、出てきたカードの枚数を覚えておくのって、結構大変なんだけど。

 この子はそれをやっていたのか。侮れない。


 そうして迎えた最終ラウンド。

 三人とも石の数が一つなんだから、一人敗者が出たら終わる今回のルールでは、間違いなくこれが最終ラウンドである。

 ニニナの数字2、ナララの数字7。

 宣言は僕から。

 さっきは失敗したが、もう一度さっきの戦術で行こう。

 大きめの数を宣言して、次の番であるニニナに大きい数字を持っていると誤解させるのだ。

 その誤解から生まれた隙を、ナララがついて、勝負は終わるだろう。

 よし。

 たださっきの戦術と言っても、ニニナに9を持っていると思い込ませるのは無理だ、もう9は無いんだから。

 このゲームにおける次に大きい数字である、7を持っていると思い込ませよう。

 ああ、だけど、そのために最適な宣言数字はなんだろう?

「よし、宣言する、20!」

 半ばやけくそのように、大きい数字を言った。

 だが、ブラフと言うのはこれぐらいの勇気を持って……。

 あれ?

 ニニナがにっこり笑った。この子にしてはちょっと珍しい。

「『多すぎ』です。」

 ニニナは言った。

 ああ。負けた。

「ニニナ……自分が7を持ってるとは思わなかった?」

 未練がましいが僕はそう聞いた。

 どうして引っかからなかったんだ?

「ご主人様、ご主人様のカードをご覧になってください。」

 え?

 言われるまま自分が掲げていたカードを見た。

 7だった。

「ナララちゃんの7と合わせて、それが4枚目の7です。わたしのカードは7ではありえませんでした。」

 なんてこったい。

 そういう可能性は想定していなかった。

 要するに、ぱんつに悩殺されてボロボロだったのだ。

「負けた―!」

 ぼくは床の上に転がった。

「やったー! ご主人、お掃除頑張ってね!」

 僕は苦笑するしかない。

「あの、ご主人様。お掃除が嫌な時は、いつでも代わります。」

 ニニナがそう言ってくれたけど、それは勝負を冒涜する事のように思えた。

「ニニナは優しいなー。」

 僕はそうは言ったが、一週間、掃除はするだろう。


 まあとにかく、幸せな時間だった。

 日本にいた時はボードゲームの相手、男子ばっかりだったからな。

 もちろん楽しくなかったわけではない、楽しかったのだが、華はなかった。

 今は夢みたいな時間だ。


「さてニニナちゃん、負け犬になったご主人を、慰めてあげようよ。」

「余計なお世話だー」

 今はエッチをしたい気分ではなかった。

 たぶんナララが言う慰めって言うのはそっち方面だ。

「んー、じゃあ、ぱんつは脱がないけど。でも、ぱんつの匂い嗅がせてあげようか?」

「嗅ぐ。」

 僕はその誘惑には負けた。

 ナララとニニナが僕にぱんつの匂いを嗅がせるべく、こちらの方ににじり寄ってきた。

 こんなに幸せでいいのかなと思った。

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