女の子は砂糖でできている
一時期なろうにアカウントがあることを忘れていました。
1年と3カ月の間300文字くらいだったのは仕様です。
女の子は何でできている?
砂糖と、スパイス、それから?
彼女は夢を見ていた。森を歩く夢だ。
獣道すらない中を、どこまでも進む夢。
2対の翼をもつハチドリ、斧のような腕をした蟷螂、二頭の大トカゲ。
さまざまな生物が跋扈する森を彷徨い、やがて小さな空白地帯にたどりついた。
中心に生える小枝のような若木まで進む。
木々の合間から無数の目が自分を見ていることに気付いたのは、夢が覚める数瞬前のことだった。
生まれ変わったようなすっきりとした目覚め。
いつの間に眠ってしまっていたのだろうと寝起きの頭でぼんやりと思った。
もたれ掛っていたものに手をついて立ち上がろうとしたところで、
触れた感触に彼女は思わず手を引っ込めて後ろを見た。
見上げるような巨木だ。
その木を知っていた。その木に止まっている蟷螂を知っていた。
夢が覚める夢を見た、ということなのだろうか。
「はー、何だろうこれ。服も変わってるし」
ゆったりした白い長袖のワンピースの裾を軽くつまむ。
お尻が緑色になっていないといいけれどと独り言ちて軽く後ろをはらって立ち上がった。
「お、白い」
髪も肌もなにやら凄く白くなっていた。いずれも彼女の知る自分とは大分違っている。
モデルさんみたいな透明感のある白さでなく、結構マットな感じになっている。
夢の中だし私の願望かなで済ませてしまうあたり、まだまだ寝ぼけているだろう。
拝啓、おかあさん。
絵具だったりしてと舐めて擦ってみたけど落ちなかったり、
なめた指が甘くてちょっと驚いたり、
濡れた指が風向きを教えてくれたり、
風下の方角の茂みが揺れたりしたけれど私は元気です。
敬具。
がさりと揺れた茂みから男が転がり出てきた。
新手のガチャである。
彼女のセンサーはそれなりに格好のいい感じだが裏切りそうと53点をつけた。
茶髪。黒が基調で赤と緑のアクセントがいい感じな布の服。
30代くらいだろう。 それで、腕に持っているのはナイフ……ナイフだ。
そして茂みが再び揺れる。ガチャは10連で回すべきだろう。
弾丸のように吐き出された黒い影は男に飛びかかり、首を噛み裂こうと大口を開けた。
それに左腕を割り込ませて防いだ男はナイフ順手に持ち、黒い犬らしきものに2回、3回とねじりこんだ。
耳をふさぎたくなるような悲鳴を上げて黒い犬は男の腕を離し、
茂みへ逃げ込むそぶりを見せるがそれもかなわず、よろけて大地に伏せたきり動かなくなった。
さて、男の恨み言っぽい外国語で我に返った彼女は、ひとまず木の陰にこそこそと移動開始。
1歩、2歩、3歩、小枝を踏むようなへまはしない。4歩、5歩、はい、アウト。
目と目が合う。鋭い眼光を放つ、黒い瞳。
足音を消せるわけでもない一般人が森の中でこっそり移動なんて無理なのだ。
気まずい沈黙。
「ハ、ハローゥ?」
決死の覚悟でアメリカ語で声をかけたら男が物凄く警戒してしまった。
視線をちらちらと犬に刺さったままのナイフに向けているあたり、結構まずい状況かもしれない。
彼女は不意に力の流動を感じた。不可視の何かが男の瞳に集まる。
これで向こうの敵意が薄まれば安全に退散できるはずと彼女は男の好きにさせることにした。
男がこちらを見ている
青い瞳が見ている。
見ている。
青い?
なんだか目を合わせるのが急に恥ずかしくなり、ちょっと目をそらす。
なにやら警戒といてくれたようだから安心できる。
よく考えたらこの人、第一村人だ。いろいろ情報が得られるかもしれない。
この際だから村か何かに案内してもらおう。
男が懐から貝殻をモチーフにしたネックレスみたいなものを取り出した。
首をかしげると、とっととつけてというジェスチャーをされた。
受け取ってみるとネックレスにも力を感じる。
これはもしかして凄いお守りなのでは。
留め金がよくわからないから頭からスポッと通して、髪を抜いて。
せっかくなので男に見せびらかしてみる。
あ、反応薄い。悲しい。
「これでどうなるの…ぉおぉぉぉぉお!?」
キュイーンと耳障りな音が鳴ってちょっと驚いた。
男のリアクションがないということは、私だけ聞こえたのか。
「あー、吃驚した……」
≪こっちへ≫
「おー」
なんかテレパシー的なアレだ。
しかしこれ、私の言葉は伝わってないのではなかろうか。
さっきの犬も気になるし、ひとまず森から出られるなら何でもいいね。
≪急ぐ≫
「あ、はい。って待って、早い、ちょっと」
足場が悪いのにささっと進まれても追いつけない。
そんな残念な子を見る目で見ないでいただきたい。
≪襲われる≫≪急ぐ≫
「といわれてもー?」
≪遅い≫≪乗る≫
背負うとばかりに背中を向けられましても。
乙女としてはちょっと難しい。
「え、腕大丈夫なの?」
≪乗る≫
「あ、これ言葉通じてないのね」
さて、背負われること15分。この人体力は相当なものだ。
結構な速度で森を進んでいるのに息が切れている様子がない。
最初はちょっと体を離し気味でいたんだけれど、
バランスが悪いからもっと寄せろとの要望があったのでしがみついている。
私としては緊張で気が気じゃない。どうでもいいけど、なんかいい匂いがする。
≪そろそろ≫
「ふお、はいはい」
気付けば樹もまばらになり、遠目に馬が見える。
まさかあれに乗るのかな。
あ、乗るのね。
荷物をいくつかくくられている馬の前に来る。
初めて見た馬は結構大きくて怖い。
強靭な足を見れば蹴飛ばされるシーンを妄想してしまい、恐怖が加速する。
≪おろす≫
「あい。これ乗らなきゃだめですか」
ビビっている私をしり目にほいほいと馬に乗ってしまった男。
その差し出された手を取らないという選択肢は私にはない。
≪来た≫
なぜなら、森から犬の群れがわらわらと迫ってきていたからである。