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9話…魔力結晶と召喚者[グロ注意]

 アルマスキルが不発に終わって、マリナとケリーさんが「え~…」みたいな顔で僕を見ている。居たたまれない。


 ――その時

 急に風が強くなり暗雲が立ち込め、稲光が空を走った。

 頭から胸元にかけて、何かに引っ張られるような感覚に襲われる。


「ぐぅっ!」

 思わず気持ち悪さに唸りながら自分の二の腕を抱きしめた。

 空に持ち上げられる感覚と内臓が口から飛び出そうな浮遊感。


「な、なんだよ…あの空…」

 ケリーさんが男の頭上に渦巻く暗雲を凝視した。


挿絵(By みてみん)



 男が魔力結晶と共に雲の渦に吸い込まれるように浮き上がった。


 大きな低い唸り音を上げて雲の渦の中が激しく回転しはじめている。竜巻が起こる前触れのような渦の中心、真っ黒い穴の中に男が吸い込まれた。


「うがぁぁあああ!!」


 轟音と共に男の叫び声が響き、血の雨が降り注ぐ。

「キンキンキンキン」と断続的に金属音も響いていて、魔力結晶が削られている様子がうかがえる。


 僕はそれを呆然と見上げていた。


「はぁ~…。中はすごいコトになってるだぁ」

 レーサー並みの動体視力を誇るマリナは手をかざして渦の中を凝視した。

「説明いらねぇから!黙ってろ!!」

 ケリーさんがマリナに向かって怒鳴る。


「ミンチになって再生してミンチになって再生して――」

「うあぁぁああ!言うなぁあ――!!」

 ケリーさんは顔の横に手を当てて耳を塞ごうとしていたけど、耳が頭上にあることに気付いて慌てて頭を押さえた。


 僕はとっさにリリィの腕を掴んだ。これはリリィとの多重詠唱だ。この魔法は男が完全に死ぬまで維持しなければならない。


 リリィが僕を見てニタリと嗤った。今まで見てきた中で一番悪魔らしい表情だった。




 すっかり日が落ちてきたころ、僕とリリィの精神力が尽きて魔法が切れた。

 茜色に染まった空から男も魔力結晶も落ちて来なかった。完全に消滅させてしまった。

 みんな座り込んだまま黙って沈む夕日をただぼんやりと見つめていた。



 現在のエーリン世界からおよそ200年前。一人のワーロック・ナイトが人間に捕まり、666回の処刑が繰り返され悪魔共々駆逐された。


 それから50年後、中田芳樹さんがエーリンに転生した。魔力結晶を作り出すことに成功した中田さんは世界中の魔力過多の子供を救い、その魔力結晶をちゃっかり持ち帰っている。ここで重要なことは魔力結晶と子供の繋がりを断ち切るということ。繋がりを切る方法は、本人に結晶があることを自覚させず魔力結晶と本人との距離を引き離すだけで済む。大抵物心つく前の子供たちが相手なので問題なく繋がりを切ることが出来る。


 でもイーグルさんは中田さんに感知できない魔力量だった。イーグルさんと中田さんが出会ったのは偶然で、既にイーグルさんは十歳。ちなみに中田さんは二十歳の頃だった。共に生活をし始めたその年からイーグルさんの魔力を結晶化させてみたところ、十年程度で中田さんの魔力結晶と同じ大きさになった。


 各地にそんな子供がいたのなら、中田さんが把握していない魔力結晶を持った人間がいる可能性もある。

 僕たちが対峙した男はイーグル型魔力結晶の持ち主ということかもしれない。


 そんなことを考えていると、沈黙を破ってケリーさんが口を開いた。

「なんつーかさ、あれリアルで見たら失神モノなのにオレ平気だった」

 僕は我に返ってケリーさんを見た。そうだ、僕は人を殺したんだ。

 それなのに罪悪感どころか冷静に男と魔力結晶のことを分析していた。


「僕もです。恐怖心に蓋をする感覚っていうか…」

 人殺しをして両親の顔すら浮かべなかった。


「そうそう!それだよ。感情が爆発する前に萎んでいく感じ…」

 と言いながらケリーさんが自分を見下ろす。

 マリナがニコニコしながらケリーさんの視線の先を見た。

「なんもないだ♪」

 ナニを連想したのかは突っ込まないでおこう。


「はっ!そうだ!オレはどこ飛んでった!?」


 ケリーさんが辺りを見回す。僕は焦って草刈鎌を見下ろした。

「戻ったのかな?」

「もう一回出せ!」

 僕の胸倉を掴んで揺さぶった。

「く、苦しいっ!ちょ、待ってくださいっ!もう魔力がないんです」


 僕を解放してケリーさんが再び辺りを見回す。

「タマもいねぇ!タマぁあ!どこだー!!」

 タ、タマってあの虎の名前?!


「あっち!あれでねぇか?」

 マリナが指さす夕日の方向から砂埃を上げて走って来る金色の虎。

 どうでもいいけどマリナはエーリン語で喋ってくれないかな…。


「何か背負ってる?」

 僕が目を凝らして呟くとケリーさんは僕を押しのけて前に出た。


「タマ!!――と、オレだぁぁあ!!」


 アサシンを背負った虎のタマがこちらに走ってきた。


「顔色さ悪いなぁ~」

 マリナがアサシンの顔を覗き込んで眉を顰めた。

 顔色が悪いというレベルではない。土色だ。


「死んでる…」

「死体を封印するスキルなので元々死んでます」

 僕が近寄るとケリーさんがグワっとこちらを睨んできた。

「生き返らせろ!」

「無理です」


『無理…かしら?』

 今の今まで黙っていたリリィが口を開いた。


「どういうことです?」

『この死体を屋敷まで持って行ってみましょう』

「死体って言うな!つかモノ扱いするなっ」

 ケリーさんの叫びが空しく響いた。



 森の湖畔に佇む大豪邸。ちょっとした城に見えなくもない。

 ケリーさんは庭に突っ立ったまま屋敷を見つめていた。


「久々に見た。まともな建造物」

「ケリーさんは兎人族の村に居たんですよね?」

 僕の質問にケリーさんが遠い目をした。


「ツリーハウスって知ってるか?少年の夢を実現させたような家だった」

「何か問題があったんですか?」

「揺れるんだよ。オレ三半規管弱くて」


 ケリーさんの言葉にマリナがピンときて手を叩いた。


「だからタマに乗って移動しないんだか~。折角大きな虎さいるのにな~」

「お前一言余計なんだよ!」


『どうでもいいけどコレ、死後硬直が始まってるわよ』

 リリィがそう言いながらアサシンの顔をツンツンと指で突いている。

「突くな!どこに行けばいんだ!?」

 ケリーさんがアサシンを庇うように覆い被さると、腐臭がしたようで顔を顰めて反らした。


「うえっ!臭ぇ…」

「ケリーさんが一番扱い酷いですよ」

 僕は思わずツッコまずにいられなかった。


 エントランスホールにアサシンを担ぎ込むと使用人さんたちが集まってきた。


 執事のエラメイルさんは遺体を見下ろし、そっと目を閉じる。

「明日埋葬致しますので、今夜は地下の霊安室へ」

「埋めるな!!」

 ケリーさんの怒声がエントランスに響く。


「霊安室とかあるんですか?」

「今から地下牢の一室を霊安室にしてまいります」

 おもむろに腕捲りをするエラメイルさんを止めて僕はリリィに視線を向けた。


『女神像に触れさせてみて』

 リリィの指示を受けてマリナがアサシンの腕を掴む。

 グググっと持ち上げようとしたけど死後硬直でガチガチに固まっている。

 無理やり手を動かそうするとミシミシと骨が軋む音がした。


「ちょっ!待て待て!オレがやる!」

 ケリーさんがマリナの首根っこを引っ掴んで脇に放り投げた。


 アサシンの手がアベーリア像に触れた瞬間、激しい光が放たれた。

 ケリーさんの力が抜けてアサシンが落ちていくのをマリナが素早くキャッチ。

 僕は気を失いかけたケリーさんを支えた。


「大丈夫ですか?」

「「あぁ、なんとか…」」

 同時にそう答えたのはアサシンとケリーさんだった。


「ぶ、分裂した!?」

 僕が驚いて声を上げるとアサシンとケリーさんがお互いを見つめて呆然としている。


「「これがホントの精神分裂」」


 誰が上手いこと言えと…。




 死者が女神像に触れると蘇生する。そんな説明は中田さんから聞いていない。僕は女神像にそっと手を翳してみた。

 すると枯渇していた魔力が体の奥から湧き出るように溢れて体中が魔力に満たされた。


 ゲームキャラを実体化するために魔力結晶の力を使ったと言っていたけど、僕たちの体はこの魔力結晶で出来ているのではないかと思ってしまう。


 今日出会った男は結晶が無くなるまで蘇生を繰り返していた。

 それを見てリリィはアサシンの体を魔力結晶で蘇生することを思いついたんだ。




 夕食の準備が出来るまで僕たちは各部屋に備え付けられている浴室で汚れを落とすことにした。ケロリンさんだけなんだかソワソワしていたけどスルーしておく。


 風呂から上がって暫くすると食事の準備が出来たとメイドちゃんが呼びにきた。

 食堂へ向かう途中、ケロリンさんとケリーさんに出くわした。


「なんか具合悪そうですね」

 僕が心配して二人を交互に見やるとケロリンさんが死んだ魚のような目をした。


「目の前に美女がいるのに、中身がオレだと思うと萎える…。しかもケリー目線で自分を見るとキモイ…」

「え?ケロリンさんって結構イケメンじゃないですか」

 身長も180センチ近くありそうだ。年齢も二十代前半くらいだろうか。

「凡顔だろ。つーかケリーばっかり見てると人の美醜の感覚が麻痺する」

「気になるようなら部屋分けますか?」

「いや…まだ二つの体を動かすのに慣れてないから離れられない」

「そうですか」

「今更だけどオレは2垢使いなんだ」

「はい」

 2垢使いとは二つのアカウントを取得して二つのキャラを同時に操作するプレイヤーのこと。VRゲームはゲームの仕様上、複数アカウントでプレイする人が少ない。でもやって出来ないことはない。


「ケリーさんって偽名ですよね?」

「あぁ、本当のキャラネームはケリリンだ」

「カエル好きなんですか?」

「好きじゃねーよ」


 ケロリンさんは頭をガシガシ掻いて溜め息を吐いた。

「オレのことはリンって呼んでくれ」

「リンですか…?」

「本名は池口(イケグチ)リンっていうんだ」

「なるほど!」

 イケ(クチ)リンで“ケロリン”というわけか。

「ケロリンってのは高校ン時のあだ名だ。ガキって変なとこに目付けるよな」

「ですねー!」



 夕食を取りながら僕は自分の知りうる大半のことをリンさんに伝えた。

 但し、中田さんのことと召喚されて目覚めるまで五十年の年月が経っていることは伏せておいた。


 偶然この屋敷の封印を解いて勝手に住み着いていることや自分がワーロック・ナイトであり、この世界で素性を知られてはならない存在であることを伝えた。


「オレがこの世界に来て目が覚めた時は兎人族の村だった」

 ケリーさんはその兎人族の族長の娘で姫と呼ばれていた。

 婚礼の前夜と言われて愕然としたらしい。相手は村の守護精霊様で巨大兎だったそうだ。


「まんま兎だぜ。二メートルくらいある巨大ウサギと交尾しろって言われて逃げ出した」

「うわ…」

 僕は思わずドン引きしてしまった。

 リリィは面白そうに笑った。

『その村に召喚者はいなかったの?』

「居なかったな。村中走り回ってプレイヤーに呼びかけたけど反応なし。呪い師(まじないし)のババァにマリッジブルーだと言われて監禁されかけた」


 笑いを堪える僕の目の前でマリナは遠慮なくケラケラ笑ってリンさんに睨まれた。


 夕食を終えた僕たちは何故かアベーリア像の前に座り込んで話し続けた。


「それでフィルたちはこれからどうするんだ?」

「両親がこちらの世界に来ているはずなんです。両親を探す旅に出たいと思ってます」

 僕がそう答えるとマリナが急に立ち上がって拳を握り締めて焦った様子で捲し立てた。


「旦那様!その前に一緒に来て欲しいところがあるんだ!星降りの丘に来て欲しいんだ~!」


 ――ひょっとして今まで忘れてたの?

2~9話まで修正しました。

もうちょっと矛盾点の修正が必要かもしれません。

読んで下さった皆様申し訳ございません。

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