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4話…召喚後の初めての戦闘

 それにしてもこの屋敷、快適すぎて人をダメにする。


 朝はメイドちゃんに優しく起こされ、食堂に行くとイスを引いてくれる使用人さんがいて、食事を運ぶメイドさんが居て、コックさんが挨拶にやってくる。

 食後のデザートと共にお茶まで出されて、僕はいつかこの宿泊費を請求されるんじゃないかとヒヤヒヤしているんだ。一度じっくり執事さんと話がしたい。


 僕がそう言うとリリィが鼻で笑った。

「貧乏性じゃな」

「庶民なんですよ!」


 そういえばリリィってどんな環境で育ったんだろう。使用人さんの扱いに慣れているし、まるで実家に帰ってきた娘みたいに当然のように寛いでいる。

 ワーロック・ナイトの秘密を教えてくれたんだから、いつかリリィの生い立ちも教えてくれるかな。



 さて、僕がこの世界でも通用するワーロック・ナイトである可能性が高いことから、それを実証しようということになった。


 食事が済み、僕はホームポイントに手をかざした。この世界ではホームポイントではなく魔力結晶と呼ばれている結界の大もとだ。

 リリィの説明ではこの魔力結晶で女神像が作られた際に飛び散ったクリスタルが世界中に散らばって、小さな転移魔法陣が出来ているはずだという。

 この屋敷の主とそれに準ずるもののみが使用出来るらしい。

 女神像の前で地図を開くと赤く点滅する光が現れた。これが転移魔法陣が出来た場所だ。僕らはこれからその一つ一つに転移してみることにしたんだ。



「まずは近場からじゃな」

 この屋敷は森の中央にあり、北に山脈が連なり、南に平原が広がっている。

 南の平原に一つ転移魔法陣の赤い点滅がある。僕がこの世界に飛ばされた時に倒れていた場所だと思う。

 北の山脈から東側に川が流れている。その先に多分海があるんだろう。

 地図は途中で途切れていてこの森周辺までしか描かれていなかった。


 行きたい場所を地図上で指さしながら女神像に触れる。

 体が輝き、光の粒になって気が付くと眼前に平原が広がっていた。

 足元には赤く光る魔法陣。


「お~!成功だ!」

「何もないところじゃな」

 

 とことん平原。草と岩が所々あるだけで、見渡す限り平原だ。

 僕は辺りを見回し、僕が倒れていた場所を探した。


「この辺だったかな」

 森に向かって立って、近場の岩や草木の景色を思い出す。

 記憶を頼りにウロウロしていると、キラリと光るものが落ちていた。


「カギだ」

 光沢が消えた金色の細長いレトロなカギ。金のチェーンが付いていて首から下げるものだ。

「これってもしかして、ゲーム世界で僕が購入した屋敷のカギかな」

 リリィも横から僕の手にあるカギを覗く。

「マスターの屋敷までエーリンに召喚されている可能性は低いと思うがの」

「一応持っておきます」

 僕はカギを首から下げて再び辺りを探索した。


 僕とリリィはなんとなく東側に見える大きな岩を目指して歩いていた。

「寄らば大樹の陰ならぬ岩の陰。大きなものに吸い寄せられるのは人の性ですかね」

「人だけとは限らんようじゃぞ」

「え?」


『グガァァアアア!!!』

 咆哮が轟いた瞬間、僕は咄嗟に鎌を構えようとした。

「マスター!ワーロック・ナイトの能力は使うでない!」

「あ、そうだった」

 僕は慌ててソーサラーとワーロック・ナイトが装備できる杖を構えた。

 岩陰から飛び出してきたのはサイクロプスだった。一つ目の巨人で体長3メートルはありそうだ。

「トルナード!!」

 砂利と砂煙を巻き上げ瞬時に激しい竜巻が起こる。

 魔法を発動させている間の硬直が無い。

 僕は杖から剣に武器を持ち替えた。

『ギャウアァァア!!』

 サイクロプスが腕を激しく振り回し始めた。目が潰されたようだ。

 手に持っている棍棒も振り回され、風圧がこちらまで届く。竜巻を打ち消す効果があるようだ。

 竜巻を収まりかけると、僕は素早くサイクロプスの足元を転がりながらアキレス腱を切った。


『ギュワオォオオオ!!』

 サイクロプスが前のめりに倒れかけた。咄嗟に跳躍してサイクロプスの顔面を蹴り上げる。

 サイクロプスの顔面に足がめり込む威力の蹴りが見事に入った。

 サイクロプスは仰け反り、仰向けに倒れた。すかさず僕は剣を構えサイクロプスの目に突き立てようとした。その時――


「額じゃ!!」

 僕は咄嗟に狙いを反らし、サイクロプスの額を剣で貫いた。

『グガァァアア!』

 額は急所ではない。これでもサイクロプスは死なないようだ。 

「目が急所ですけど!」

「止めに心臓も突き刺しておけ!」

 僕は言われるがままに剣を引き抜き、振り向きざまサイクロプスの心臓に剣を突き立てた。

 サイクロプスの上げかけた腕が大きな音と砂埃を上げて地に落ちた。


 ぐずぐずと崩れ始める体は暫くすると大地に同化して消えた。この現象はゲームと変わらないようだ。

 ドロップアイテムは目玉と牙と、人間では持てない棍棒と、絶対触りたくない腰巻だった。

「目玉を潰さなくて良かったです。ゲームと同じドロップアイテムだということが分かりました」

「目玉はエーリンでも高値で取引されるからの」


 僕はヌメヌメした目玉と涎まみれの牙をどうしたものかと見下ろしていた。

 リリィは僕のそばに歩み寄ってきて、皮の手袋と袋を手渡してくれた。

 リアル過ぎてキモイ。でも我慢だ!屋敷の宿泊料を請求された時のためにお金は稼いでおかないと!


「それにしても手応えがないですね」

 目玉と牙を袋に入れて更にマジックバッグに仕舞って手袋を外した。


「い、いや…マスターが異様に強いようじゃ」

 リリィのドン引きした表情に僕は首を傾げた。


「そう言えば格闘ジョブでもないのに、蹴りの威力が凄かったですね」

「他人事のように言うでないわ!マスターの能力はこの世界に来て異様に跳ね上がっておるぞ」

 そう言われてもメニュー画面もなくなってしまった今、ステータスを見ることも出来ない。

 魔法だって記憶しているものしか使えない。

「魔法の威力も凄かったですね。発動してから最大風力になるまで一瞬でした。しかも魔法効果中の硬直もなくてやりたい放題でしたし」

「そうじゃな…」

 リリィは手を顎に添えて考え込んでしまった。


「リリィ、一度屋敷に戻って別の場所へ転移しましょうよ」

「いや、今日はここの探索で終わった方が良いじゃろう」

「え?どうしてです?」

折角無双出来ると思ったのにリリィにそう言われて僕はがっかりした。


「マスターの能力だけが向上しているのであれば問題はないのじゃが、召喚された者達が同じだけの力を手にしていたならば、エーリンは非常に危険な世界になるじゃろう」


 僕ははっとしてリリィを見た。リリィは真っ直ぐ僕を見つめていた。


「召喚者全員がチート能力を持っていたとして、ワーロック・ナイトであることがバレた時、マスターはどうなると思う?」

「悪魔は全員、エーリンに戻ってきているんでしょうか」

「悪魔も悪魔の核も戻ってきておる」



挿絵(By みてみん)



――――――


 北の大地リベルレーベン王国から南下し、エルフェルト山脈を越えると大森林が広がっている。

 マリナ・ユヴェールは大森林の原泉を目指していた。

 一日掛けてリベルレーベン王国からエルフェルト山脈の中腹まで歩いてきたが、普通の人間なら三日は掛かる距離である。

 ゆったり歩いているように見えるがブーツに魔法が掛かっているため、すいすいと険しい山を登り進む。

 山頂まであと僅かというところに、荷馬車が倒され人の亡骸が無残に打ち捨てられていた。


「へっへっへ…。こんな真夜中の山奥に女が一人で歩いてるなんてよ。襲ってくれと言わんばかりだな」


 この辺り一体を根城とする山賊がいつの間にかマリナの周りを取り囲んでいた。


「さぁ荷物を置いて、ついでにねーちゃんは服を脱いで――って」


 マリナは荷物から筒状の鉄塊を取り出した。

 何の前口上もなしに山賊に向けて攻撃を放つ。

 「チュドーン!」と爆発音と共に、鳥が一斉に飛び立った。


「な、なんだあの武器!?」

 まとめて5、6人が瞬時にバラバラ死体となって転がった。

 もう一発放つと、さすがに山賊は焦り始めて逃げ惑う。マリナは短剣を握り締め、それを追う。

 首筋を裂き、心臓を突き、頭を潰し、一人、また一人と無言で命を奪う。無駄はなく、慈悲もなく、苦しみを与える間もなく。



「なんだ!なんなんだ。あの娘は!!」

 山賊の男がゼイゼイと荒い呼吸を繰り返し木立の中を逃げ惑う。

 やがて息が切れ脚も動かせなくなり、大木に寄り掛かるとズルズルと座り込んだ。


 なんとか呼吸音を押さえるが、他人に聞こえそうなほど心音がバクバク鳴っている。

 長年暗がりで狩りをしていたために夜目が利くが、少女の姿を捉えることはできない。

 やがて呼吸が整って心音も収まり、静寂に包まれた。

 かなり長い時間、男は物音ひとつ立てずに闇と木立に潜んでいた。

 少女が追ってくる姿も音もなく、男は助かったのだと思った。

 男が安堵した次の瞬間、何の気配もなく突然男の鼓膜に「サクッ」と小気味良い音がした。

 景色が横倒しになったのかと錯覚したが、自分が倒れたんだと自覚する前に男は絶命した。


 首から血を吹きだす男を見下ろしていた少女は、緩慢な動きで鉄塊の筒――ロケットランチャーにも似たその武器を巨大なリュックに仕舞い込んだ。


 立ち上がった拍子に少女の首元から金色のチェーンに付いたカギが飛び出した。

 慌ててそれを胸元に仕舞い、服の上からそっとそのカギに手を当てた。


「旦那様…。どこさ行っただぁ~」

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