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3話…ワーロック・ナイト

画像…カナダのハットリー城【イメージです】

3話…ワーロック・ナイト


 ぶっちゃけリリィはあまり詳しいことを知らないようだ。

 ただ、レベル100で召喚された人間とそうでない僕のような人間がいて、望まれて召喚された人たちはこのエーリン世界で役割がある。


 この世界に望まれて召喚された人とそうでない僕の身体的な違いってあるんだろうか。僕の姿はゲームキャラではなかった。がっつりリアルの僕の体だった。

 リリィの話ではレベル100の召喚者はゲーム内の姿のまま召喚されているはずだという。


 この世界のことと自分自身のことを知る必要がある。

 フラフラ出歩いてモンスターにぱっくり食われたらたまらない。

 僕は石橋を砕くギリギリ手前の勢いで叩いて渡る性格だ!




「普通の人間でも倒せるモンスターはいるんですかね。ゴブリンとか」

「ここは随分神聖な場所のようじゃからな。むしろこの森から出ないとモンスターは居ないのかもしれんのう」

「この世界出身なのに、ここがどこら辺か分からないんですか?」


 地図を開いてみたけど現在地を示す印が出るわけではないので、さっぱり分からない。リリィはふん、と鼻で笑って僕を薄目で見た。


「マスターは地球のどこに落とされてもそこがどこか分かると言うのじゃな?」

「いえ、分かりません。すみませんでした」


 僕は速攻で謝った。それもそうだよね。

 リリィは僕に小さな杖を渡してきた。


「なんですかこれ」

「雨も止んだことじゃ。家の表の立て看板にマスターの名前を書き入れてくるがいい」


 僕は首を傾げて杖を持ち手の方から先端まで眺める。

「キャラネームでいいんですか?フィルって日本語で?それともエーリン共通語で書きます?」

 僕の言葉にリリィは目を見張った。

「マスターはこの世界の言語を読み書き出来るのか!」

「そりゃ、3才からプレイしてるし…」

「ふむぅ」

 リリィが無表情で視線を落とし、何やら考え込んでしまった。


「あのぅ…リリィ?名前どう書けばいいかだけ教えて貰えませんか」

「ん?出来ればエーリン共通語で“フィル”の方がよかろう」

「分かりました。書いてきますね」

 

 僕は外に出て、何も書かれていない立て看板に杖の先端を付けた。すると木の焼けるような臭いが立ち込め看板が焼印のように文字を刻み始めた。チリチリと音を立てながら大きく自分の名前を杖の先で刻み込んだ。                                            

「これでよし!」

 そう言って僕が顔を上げると、目の前には大邸宅がそびえ立っていた。


挿絵(By みてみん)


「うぇぇええ!?」

 屋敷の使用人らしき人達が玄関まで続く道の両脇に立ってお辞儀している。

「「「お帰りなさいませ。ご主人様」」」

 

「えぇ!?ご主人様って僕のこと!?」

「ふむ。思いもよらぬ良い拾い物だったようじゃの」


 いつの間にかリリィが僕の横に立っていた。


「これってどういうこと?」


「家主は魔法使いだったんじゃろう。使用人たちはゴーレムと人形じゃ。家主は既に亡くなっておるやもしれん」


「そ、そうなんだ…」


 大層なものを勝手に自分の物にしてしまった罪悪感が半端ない!


 呆然と立ち尽くしている僕の目の前に背の高い白髪の男が歩み寄って来た.


「わたくしは執事のエラメイルと申します。どうぞエントランスの方へ。結界をお張りくださいませ」

「結界?」


 僕がリリィを見下ろすと、リリィは顎をしゃくって屋敷へ促した。

 玄関を開けると広いエントランスになっていて、その中央に巨大なクリスタルが床から少し浮いた状態で回転していた。


「これ…ホームポイント」


 ゲームだった時のホームポイントか屋敷の中に設置されている。ただしゲームのホームポイントの10倍くらい大きい。僕は執事のおじいさんに促されるまま、そのクリスタルに触れた。するとクリスタルは回転を止め光り輝き砕けた。

 僕は思わず顔を背け目を庇う。暫くして薄らと目を開けるとクリスタルが女性の形に変わっていた。この姿はエーリンの女神アベーリアだ。

 

「本来エーリンではこれが結界を維持する魔力結晶なのじゃ。このクリスタルがある場所だけはゲーム世界でもモンスターが近寄れなかったじゃろう」


「でも女神の姿はしてなかったですよね。しかも凄く…大きいです」

「ここが魔法使いの屋敷であれば、これくらいの魔力結晶を作ることはたやすいことじゃ」

「エーリンの魔法使いってゲーム内のソーサラーやメイジとは違うんですか?」

「微妙に違うのう。地球で言うところの燃料タンクのようなものかの」

「石油とか…核燃料的な?」

 僕が恐る恐るそう口にすると、リリィは不適な笑みを浮かべた。


 なんか怖いんだけど!


「さて、妾はこの屋敷を探索するぞ」

「え?じゃぁ僕も」

「マスターは庭の雑草でも毟っておれ」

 僕が付いていくとマズイことでもあるのかな。

 不信な視線を向けている僕に気付くと、リリィは視線を泳がせさっさとその場を離れようとした。

 僕は仕方なくエラメイルさんに訊ねた。

「エラメイルさん。書斎はありますか?」

「書斎と申しますか図書館なら離れにございます」


 スケール大きいな!

 僕が案内をお願いすると、リリィが慌てて僕を制した。


「待つのじゃマスターよ!好奇心は猫も殺すと言うじゃろう」

「異世界人がイギリスの諺を知っていることが不思議でならないですよ」

「NPC時代につまらん知識を押し付けられたのじゃ!」


 僕らはそんな言い合いをしながら図書館まで案内されてしまった。

 僕が目的の本を探そうとするとリリィが邪魔をする。


 僕は堪り兼ねてリリィの小さな頭を鷲掴みにした。

「リリィ、諦めて僕にこの世界のことを教えてください」

  


 僕は図書館で見つけた「ワーロック・ナイトの全て」という本を部屋に持ち帰った。リリィは渋っていたけど、知らなければどうにもならない。

 僕は意を決して本を読み始めた。


 …

 …

 ……


 ワーロック・ナイトは悪魔と契約をして魔の力を自在に操る魔道士であり騎士でもある。ワーロック・ナイトは老衰以外では死なない。怪我や病気で死ぬと契約している悪魔以外の悪魔の魂を持って復活することになる。

 要はワーロック・ナイトが死ぬと、見知らぬどこかの悪魔が突然死することになるのかな。怖すぎる…!


 人間と悪魔が戦争を起こした時、ワーロック・ナイトを捕らえて悪魔が全滅するまで処刑し続けたという過去がある。


 故に、この世界のワーロック・ナイトは自分の身分を隠して生きるか、悪魔の監禁という名の庇護のもと老衰まで暮らすか二択しかない。


 ちなみにこの世界のワーロック・ナイトと悪魔は絶滅している。


「これでマスターがこの世界の異分子であることは分かったじゃろ?」

 ティーセットを持ったメイドちゃんとともにリリィが僕の部屋に入ってきた。

 リリィは屋敷にあった新しい服に着替えている。ゴスロリだ。似合いすぎて感動が薄い。でも可愛い。


 僕はティーカップを受け取りながら自信なげに呟く。

「でもこれは悪魔と人間が戦争を起こしたら危険があるということで、現状悪魔は絶滅しているから戦争なんて起こりませんよね?」


 僕は言葉を切ってリリィを見た。

「何故リリィは存在しているんですか?」

「どこかの悪魔信者がゲームに乗じて復活させたか、はたまたどこかの神官が悪魔の核をゲーム世界に封印しようとして大失敗したか…」


「悪魔の核ってなんです?」

「悪魔は死んでも核だけは永久に残る。ワーロック・ナイトが誕生すれば核を基に悪魔は復活するのじゃ」

「え~…っと、ワーロック・ナイトってなんだか魔王みたいですね」

「魔王じゃからな」

「げふふぇっ!!」

 お茶吹いた。


 僕はメイドちゃんから布を受け取って口を拭う。

 てかこの話、使用人さんがいる前で続けていいの!?


「悪魔とは、元は人間。人間が大量に魔力を保持して生まれると、その魔力に食われてしまう。そして悪魔となるのじゃ。魔王も人間の中から生まれる」

「今この世界には召喚されたワーロック・ナイトが数人いますよね?」

「いや、おらん。ワーロック・ナイトはマスター一人じゃ」

 リリィが涼しい顔をしてお茶をすする。

 メイドちゃんがにっこり微笑んで退室した。僕はそれに手を振った。


「なんで分かるんですか」

「悪魔とワーロック・ナイトは切っても切れぬ存在じゃからな。気配でわかる」


 胡乱な目をリリィに向けたけど、リリィはお茶をお代わりして再び飲み始めた。


「なんだか混乱してきました」


「ふむ…。そうじゃろうな」


 僕はちょっと考えてリリィにたずねた。

「まず、悪魔の核をゲーム世界に封印しようとしたのは神官である可能性は高いですか」

「それ以外に悪魔の核を扱える人間はおらんからのう」

「では、悪魔信者とはなんですか」

「文字通り、悪魔を崇拝しているちょっとおかしな集団じゃ。悪魔にとっては都合が良いアホウどもじゃな」

 ――なんか酷い言われよう。


「マスターも悪魔ラブなんじゃろう?」

 リリィがニヤリと笑って僕を見る。でも僕は首を横に振った。

「いいえ。ダメ厨なんでワーロック・ナイトにしただけですから」

 ダメ厨とはダメージの数字ばかり追い求めて協調性のないプレイヤーのことだ。ワーロック・ナイトの攻撃必殺技はアサシンの自爆に似て諸刃の剣。使いどころがあまり無い上に、パーティーに誘われないから脚光を浴びることも出来ない。そう気付いた時にはもう引き返せないほどワーロック・ナイトに長い時間を注ぎ込んでしまっていた。


「マ、マスターは悪魔ラブではないんじゃな?」

「むしろ扱い難いし、レベルキープ出来るなら転職したかったですよ」

「――!?」

 紅茶のティーカップとソーサーがカチカチカチカチと音を立てている。

 リリィが何やらショックを受けているようだ。


「薄々感じておったのじゃ…。マスターはドMかと思っておったが、実はドSではないのかと…」

「僕はMでもSでもないですよ!」

「妾の振る舞いにマスターはゾクゾクしておったのではないのか!?」

「イライラしてましたけど?」

「ハァハァしておったのではないのじゃな」

「ワーロック・ナイトはそんな変態ばっかりなんですか!?」

「概ね変態じゃな」


 ワーロック・ナイトがSかMかは今問題じゃない。


 今考えるべきことはワーロック・ナイトがなぜ復活したかだ!

 エーリンの神官が悪魔の核をゲーム世界に封印し、悪魔信者がそれを利用して悪魔復活の手助けしたをしたのではないかと。


 僕がそう言うとリリィは「ふむ」と頷いた。

「それであればつじつまが合うな」

「そういえば、リリィは悪魔の核になっちゃったんですか?」

「そうじゃな。妾はどこぞのワーロック・ナイトが死んで復活する際の生贄となって死んだのじゃろう」

「自覚なしでポックリ死ですか?」

「ポックリ言うでない!」


 僕はリリィに失言を謝って、再び考え込んだ。


 悪魔は元々人間で、魔力が多いせいで魔に食われて悪魔となる。

 ワーロック・ナイトとなった人間が悪魔と契約をして魔王となる。


 奇妙な話だし、そもそもこの世界でワーロック・ナイトになるためにはどういう手順が必要なんだろう。


「ワーロック・ナイトの元々の職はエクソシストじゃ」


「え!?」


「多くの悪魔を退治し名をあげると、祓われることを恐れた悪魔がそのエクソシストと契約をして人間に悪さを働かないことと、その力をエクソシストの為だけに使うことを誓うのじゃ。その申し出を受け入れたエクソシストがワーロック・ナイトとなるのじゃ」


 僕はそこの言葉にピンときた。

「ワーロック・ナイトは上位職。エクソシストをレベル20まで上げないとワーロック・ナイトのジョブは選択出来ないんだ!」


 エクソシストはあまりに人気の無いジョブでワーロック・ナイトだけの為に存在するジョブだった。僕はワーロック・ナイトになる為にゲームを始めからエクソシストを選んだ。

 そのお蔭で墓地やホラーハウスやダンジョンエリアでゴーストやレイスばかり相手にしていた。十年近く昔のことですっかり忘れていた。


 僕は冷めたお茶を啜った。砂糖入れれば良かったな、とか思っているとリリィがお茶を入れてくれて角砂糖を2つその中に放り込んでくれた。


「ありがとうございます」

「頭を使うと甘いものが欲しくなるじゃろう」

「リリィは年中甘いものを欲しがりますよね」

「脳内で色々考えておるからの!」

 僕は目を細めて笑顔のようなものを顔に張り付けた。


 甘くて美味しい紅茶を堪能してほっと一息ついた時、僕はふとワーロック・ナイトから別のジョブへの転職方法を思い出した。


「そういえば、ワーロック・ナイトから他のジョブに転職する時、自分以外のワーロック・ナイトにお願いをして、契約している悪魔を退治して貰わないと転職できないシステムでしたよね」


 あまりにワーロック・ナイトの人口が少なかったので僕が転職を考えた時、リリィを倒してくれるワーロック・ナイトを見つけることが出来なかったんだ。でも見つけられたとしてもリリィが倒されるのは多分堪えられないから僕はどのみち転職できなかっただろう。

 そのまま惰性でワーロック・ナイトを続けていくうちに、僕より遅くにプレイし始めた新参者に悪魔を倒して欲しいと泣いて頼まれ、数十体倒したことがある。


 これはエクソシストのお仕事に入りますか?


 リリィがクスリと笑った。

「なるほどのう」


 順番はちぐはぐでも僕はワーロック・ナイトになる資格をいつの間にか持っていたんだ。それがゲーム世界であっても…。


「来るべくして来たのじゃな。マスターは」


「僕の意思じゃないですけどね」

諸刃の刃 諸刃の剣どっちが正しいのかよく分かりませんでした◎

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