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2話…悪魔幼女リリィ

 気が付くと、そこは荒野だった。


 草と土の臭いに交じって雨が降り出しそうな臭い。

 僕は空を見上げて呆然とした。


「ここ…どこ?」

「エーリンじゃな」


 ――エーリン?アルマギーア・レギオーの世界の名前じゃないか…?


 そう思ってふと我に返り声のした方へ視線を向けると、そこには美幼女が立っていた。

「リ、リリィ?」

 なんだかリアルに見える彼女をマジマジと見つめた。


「そうじゃが、マスター。こんなところでボケボケしておると魔物に食われるぞ」


「えぇ!?」


 僕は立ち上がる。そして違和感を覚え自分の体を見下ろした。


「ゲームキャラじゃない…?」

「おなごのような顔立ちをしておるぞ」

 リリィがクスっと笑った。

 

 ――ということはリアルの姿になっているということか。


 僕はため息を吐いてそしてはっとして辺りを見回した。

「父さん!母さん!!」

「両親はどこかに飛ばされたようじゃな」

「どこに!?」

「妾が知るわけがなかろう」

「そうですか」


 僕はもう一度大きく息を吐いて辺りを見回した。


「町はどっちだろう」

「取り敢えず雨を凌げる場所まで移動じゃ」

 そう言ってリリィが指さす方向には深い森があった。


「え~…なんか強い敵が居そうなんですけど」

「さぁ!急ぐのじゃ」

 

 僕たちが森に入ると同時に雨が降ってきた。木々が覆い被さるように立っているため、雨は直接当たらないけど水滴が落ちてきて地味に冷たい。本降りになる前に小屋でも見つけて雨宿りしたいところだ。


「最悪、贄の壁で家でも作るのはどうじゃ?マスターよ」

「却下です」


 最後に武器に覚えさせた死体はアサシンだ。

 泣き女9人とアサシンがスクラム組んでいる下で雨宿りってどんな罰ゲーム!?


「リリィこそ、姿を消して雨を凌いだらどうなんですか」

「ここは妾が住んでいた元の世界じゃ。ゲームの世界とは勝手が違うのじゃ」

「リリィが住んでいた世界?ゲームの中の世界じゃないんですか?」

「話は後じゃ!日暮れになる前に雨を凌げる場所を見付けないと、この雨の中松明も点かぬぞ」


 色々聞きたいことが山ほどあったけど、僕たちは雨宿り出来る場所を求めて黙って走り続けた。


 こんなに森の深いところまで来てしまって大丈夫だろうか、と不安になってきた頃、日が暮れて足下が見えにくくなってきた。雨が小降りだったので松明を付けることが出来たが、あまり明るくない。


「松明ってあまり役に立たないんだな~。しかも顔が地味に熱い」

 ゆらゆらと動く炎が照らしたい道の先を上手く照らしてくれない。

 ワーロック・ナイトの魔法にライト的なものはない。我慢するしかないようだ。


「仕方ないヤツじゃのう。ほれ」

 そう言って幼女が魔法で作った光を頭上に浮かべた。

「え…」


 道の先の方まで明るく照らす光を見て僕はジト目でリリィを見つめた。

「なんで松明点ける前に出してくれないんですか」

「いや、なに一生懸命に火を点けるマスターを眺めているのが楽しくてのう」


 僕の中で何かがキレる音がした。

 ぐわしっとリリィの頭を片手で掴んで引き寄せる。


「こんな非常時に僕で遊ばないでくださいよ。リリィ」

「ふ、ふわい…」


 リリィが何故か涙目になって僕を見上げている。

 あれ?笑顔でお願いしたのに、なんでリリィの脚がカクカク震えてるんだろう。

 

 幼い女の子をイジメた気分になって僕はちょっと反省した。

 リリィもきっとこの状況に戸惑っているんだろうな。


 それから僕らは直ぐに湖の畔にある小屋を見付けることが出来た。小屋から明かりが漏れている。


「すみませーん!旅の者ですが、雨宿りさせて貰えませんかー」

 僕が声を張ってそう言っても中から人が出てくる気配がない。

 仕方なくドアノブに手を掛けるとあっけなく開いた。

 小さくドアを開けた状態でもう一度声を掛けるが返事なし。

 僕とリリィは顔を見合わせて中に入ることにした。


 小屋の中は意外に広くて暖炉のあるダイニングキッチンと他にも部屋がいくつかあるようだ。


 リリィは暖炉の前を陣取ってそれ以上探索する気はないようだが、僕は暖炉も明かりも点いた状態で誰もいないことに不信を抱き、声を掛けながら部屋を一つずつ見て回った。


 結局誰もおらず、スゴスゴとダイニングに戻ってくるとリリィが冷めた目で僕を見ていた。

「誰もおらぬじゃろう」

「なんで分かるんです?」

「気配で分かる」

「早く言ってください」


 僕はため息を吐いてリリィの横に座った。


「色々聞いていいですか?」

「よかろう」

 ドヤ顔で僕を見上げるリリィに僕は乾いた笑みを向けた。

「かたじけない…」



 VRMMOPRG『アルマギーアレギオー』は異世界の魔導士が作ったヴァーチャル世界であると同時に、戦士養成世界でもあった。

 魔法を覚えさせ、戦闘技術・生産技術を学ばせ、同時にアルマギーアレギオーの本来の世界であるエーリンの常識を叩き込む場であった。


「そういえば、エーリンの歴史を知っていると得するクエストが多くありましたね」

「そうじゃ、他のゲームと違ってアルマギーアレギオーはメニュー画面に頼る間を与えずストーリーが進んでいくように出来ておる」

「他のゲームってリリィはゲームやったことあるんです?」

 僕は疑いの視線をリリィに向けた。


「あるぞ。『ラスト・ドラゴン』なぞは実に良いゲームであった」

「あぁ。オフラインゲームですよね。ってゲームの中のNPCがどうやって他のゲーム出来るんですか!」

「まぁそれはあの手この手での…」

 ごにょごにょと言葉を濁してリリィは話を続けた。


 

 アルマギーアレギオーの配信が始まったのが20年前。その20年間でトッププレイヤーだけを召喚しようとしたらしいが、上手く調整できずに関係ない低プレイヤーまで巻き込んでしまったそうだ。

 当然のことながら僕は召喚対象者ではない。両親は確実に召喚対象であったそうだ。


「マスターは低プレイヤーであったが、それ以前にワーロックじゃろう。ワーロック・ナイトを選択した時点で召喚対象外であったのじゃ」

「ワーロック・ナイトってなんで作ったんですか!」

「性格診断というヤツじゃな。ワーロック・ナイトはエーリンの世界でその昔…いや、これは教えるべきではないじゃろう」

「ちょ…!そこまで言ってなんで最後まで言わないんですか!!」

 食い下がったがリリィはそれ以上ワーロック・ナイトについて語ろうとしなかった。仕方がないので何故このような大規模召喚に至ったのか、経緯を語って貰った。

 

 エーリンは魔物とそれ以外の種族が存在していて、昔は魔物討伐に長けた人間が多数いたそうだ。

 しかし魔法技術が急速に発展し、一国を丸ごと囲む結界が登場した。

 そして遠く離れた国や町へ行く転移魔法陣が登場した。

 そのため街道を移動せずとも一瞬で移動できるようになった。

 故に魔物討伐をする人間が居なくなり、気が付くと外は魔物が大繁殖していた。ということだ。

 

「魔物の数に対し戦闘出来る人間の数が圧倒的に不足しておっての、異世界人に頼ることにしたんじゃよ」


「バカですかね。この世界の人(笑)」

 僕はにっこり微笑むと、リリィは嫌そうな顔をして僕を見た。


「妾に言うな。小僧」


「リリィはこの大規模召喚が行われることを知っていたんですか?」

「知っていた。ゲーム内のNPCは全てを理解した上でゲーム世界で暮らしていた。」

「誰がこんな大がかりなことをしたんですか?」

「妾は知らん。ゲーム内のNPCは召喚術が発動することを知っていた。こうして召喚された人間に最低限の助言をするために用意された元エーリン世界の住人じゃ」

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