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1話…アルマギーア・レギオー

 VRMMORPG。未成年のプレイ時間は一日たった二時間。

 保護者の許可を得られる場合は一ヶ月に一日だけ長時間ログインが可能となる。PvP(プレイヤー同士の戦闘)はR15指定となっている。

 2065年、世界共通インターネット法で定められた。


 数多あるVRMMORPGの中で僕は『アルマギーア・レギオー』、通称AMLというゲームにその貴重な2時間を注ぎ込んでいる。

 アルマ(武器)・マギーア(魔法)のレギオー(軍団)という意味。アルマとマギーアの被ったマを抜いてアルマギーアと名付けられた造語のタイトルで、一部のマニアからは「マヌケ」と呼ばれている。アクティブユーザー数800万人の人気VRMMORPGだ。


 僕はそのAMLの全ジョブの中で一番の攻撃力を誇るワーロック・ナイトを選んだ。紙・ティッシュ・豆腐など言われる防御力最弱ジョブだけど悪魔と契約し魔術と物理攻撃に長けた花形アタッカー。


 まあ、僕だけがワーロック・ナイトを花形アタッカーって言ってるだけで、実際は人気ジョブランキングでワースト一位。ワーロック・ナイトは全プレイヤーの中で一握りしかいないとまで言われている。


『召喚された悪魔がウザイ』『役回りが分からなくて邪魔』『ソロではレベルが全く上がらない上にパーティーにも誘われないマゾジョブ』など言われ続けている。


 別に人気者になりたいわけじゃないし?ソロプレイだから誰にも迷惑かけてないし?気にしてないよ。あれ…?目からパナケイヤ(万能薬)が…。


 そもそもウリである悪魔召喚に問題があり過ぎる。

 悪魔がマスター(プレイヤー)の命令に従う確率が低い!

 悪魔の性質を忠実に再現しすぎて、マスターの足を引っ張るような行動すらする。ワーロック・ナイトではなく、いっそギャンブラーというジョブで良かったのでは、と非難の声も上がるほど。


 しかし、その救済措置とも取れるアイテムが存在する。

 レベルキャップ100の現在において、僕のレベルは80だ。レベル80になるとコロッセオで行われるトーナメント戦の参加資格を得られる。

 優勝商品は優勝者のジョブによって異なり、ワーロック・ナイトは召喚できる悪魔を絶対服従できる腕輪が貰える。ワーロック・ナイトの召喚悪魔は、一人一体しか契約できないが、悪魔の種類は多数あって、それぞれのプレイスタイルやクエストの時に選択してきた結果を元に悪魔のキャラやAIが形成される。

 人によっては永遠に封印したくなるような悪魔もいるらしい。そんな悪魔を引いてしまった人は大抵転職して別のジョブになっている。


 僕の悪魔も例外なくクセの強い性格で、なんとしてもコロッセオで優勝したいと思っているんだ。


 僕はレベル80になった次の日曜にコロッセオのあるデレシア帝国へ向かった。コロッセオでの闘技大会がある時は保護者の許可があれば開会式から閉会式までの時間ログインし続けることが可能だ。


「よぉ来たなフィル」


 そう声を掛けて僕の方に手を上げてみせたのはウォーリアで帯剣を背負った大柄な男だ。フィルは僕のキャラネームで本名とは違う。


「父さん!どうして日本サーバーにいるの?」

「おい、父さんはやめろ。ギャレットと呼べ」


 僕の両親はこのAMLの古参プレイヤーでゲーム中に知り合って結婚したんだ。未成年の『長時間ログイン承諾』のボタンを躊躇なくクリックした僕の保護者。


「各サーバーで行われるコロッセオは観戦できるし、世界大会ともなると別のサーバーから移動もできるのよ」

「かあさ…エレミーさん…」


 父さんの背後からひょこり現れたのはアサシンの美女。まあ中身も美人な方だけど少し残念な人だ。日本の文化を大いに勘違いしたアメリカ人。アメリカサーバーで二人は知り合った。


 アサシンなのに着物を着て扇子をヒラヒラさせている。全く忍べていない。これが戦闘服ではないとは思うけど。


「お前に100ドル注ぎ込んだんだから勝てよ」


 父さんが事もなげにそう言って笑った。僕は呆然として父さんを見上げる。


「リアルマネーで賭けてるの!?」

「シーッ!デカい声だすなよ」

 父さんに口を塞がれて、危うく戦闘前に窒息死しそうになった。脳筋ジョブとの触れ合いは命懸けだ。


 父さんに口を塞がれて目を白黒させていると開会式のアナウンスが流れた。僕は慌ててコロッセオの控室に向かう。その背後から母さんが「頑張ってねー!勝ったら今夜は焼き肉よ~」と声を掛けた。母さん公認のギャンブルか…。


 僕は第一試合からの出場となった。相手はアサシンだ。


『第一試合!レベル95アサシンのケロリン対レベル80ワーロック・ナイトのフィル!両者前へ!!』


「お前、ワーロックなのか…?」

 アサシンの男が僕に複雑そうな視線を向けた。可哀想な人を見るような目だ…。


「すみません。ワーロックです」

 何故か謝った。僕が武器を取り出すと会場が騒めいた。


「なんだあれ、武器…なのか?」

「草刈鎌じゃねぇのか。採取でもするのかワーロック」


 失笑が漏れヤジが飛ぶ。確かに僕の武器はホームセンターなどに売られている草刈鎌みたいだ。ぶっちゃけ見た目はしょぼい。


 アサシンの目が吊り上がった。なんか怒らせた。

「バカにしやがって!様子見ようと思ったが、瞬殺決定だ!!」


 なんか僕の武器は不評だ。物凄い時間を注ぎ込んで鍛えたのに、理解できる人がいないんだ…。


『それでは第一試合開始!』


 審判がそう言った瞬間、アサシンの姿が消えた。想定内だ。ただ速いだけ。僕は落ち着いて武器を構えて高く跳躍した。


 僕の居た場所にアサシンが現れ、僕が消えたと思って辺りを見回している。僕はその上から鎌を振り下ろす。

 頭上の僕に気付いてアサシンが煙幕を張った。でも僕は構わず突っ込む。

「ドゴォォオン!!」と激しい音と風圧が起こった。期待していたほど手応えは感じられなかったけど、敵のHPゲージは確実に減っている。自分の立っていた場所に悪魔の種を仕込んでおいたんだ。悪魔の種はスティルプス(蔓の戒め)というMP消費の魔法で、敵を拘束し毒を与える。


「あの武器、草刈鎌のくせにつえぇえ!!」

「すげぇ風圧だ!」


 これでこの武器が草刈鎌ではないことを証明できた!


 アサシンはギリギリで『縄抜け』の技で切り抜けた。レベル95は伊達ではないみたい。恐らく毒攻撃もレジストされているだろう。

 アサシンもワーロック・ナイトも『拘束技』と『拘束脱出技』を得意とする。そしてお互い紙装甲(低防御力)だ。油断すれば一撃死もあり得る。


 アサシンは再び高速移動でこちらに飛んできた。


 エフェクトで分かる。


 ――来る!百裂切り!!


 アサシンは必殺技ゲージが溜まっていなくても僅かなポイントでスキルを発動させることが出来る。但し威力は激減する。


 僕は素早く武器(アルマ)スキルを発動させた。


「贄の壁!!」


 一度倒したモンスターの死体を10体まで出現させる。武器に記憶させているもので、敵のHPを削るダメージは与えられないけど、状態異常を与えることは出来る。


「うげぇ!女の死体!?」

「キモい!キモ過ぎる~~っ!!」


 女の子の観客もキャーキャーと騒ぎ始める。


 リディア王国のサージェリス王の墓にいる『泣き女』の死体10体。それに向かってアサシンがスキル技を繰り出している。一度発動するとスキルを途中で解除することは出来ない。


「ブォォオ!!」と風圧と共に、アサシンの腕が千手観音のように見える。百裂切りは早くて威力がある。例えゲージが溜まる前のフライングスキル発動であってもだ。しかも百裂切りは敵にダメージを与えながら必殺ゲージが溜まるアルマスキルだ。


 物理攻撃が有効な『贄の壁』は少しヤバかったかな…。


 切り刻まれながら『泣き女』が悲鳴を上げ、泣き叫ぶ。

 観客も耳を塞ぐほどうるさい。アサシンの動きが鈍くなってきた。『泣き女』の悲鳴は様々な状態異常を敵に与えることが出来る。アサシンは『グラウィス(攻撃間隔増)』『パラリシス(麻痺)』に掛かったみたいだ。


「我が息子ながらエグイなぁ」

「どうしてあんな可愛くないものが好きなのかしら」


 両親のそんな呟きもここまでは聞こえない。

『泣き女』が頑張ってくれている間に重力魔法を発動。


『ズズズン…!!』と地響きがしてアサシンの足元がすり鉢状に抉れた。

 そしてアサシンが『泣き女』に与えたダメージで僕の必殺技ゲージがマックスになった瞬間、更に拘束魔法を発動した。


アイアンメイデン(鋼鉄の処女)!」


 アサシンの背後に聖母マリアが出現した。慈悲に満ちた笑みを湛え、両腕を開きアサシンを抱き締める。これは召喚ではなく魔法のエフェクトだ。重力魔法で逃げられずあっけなく囚われたアサシンは無数の釘に貫かれた。


 アサシンのHPゲージが一気に減った。


 しかしアサシンは自爆を使って僕の魔法を打ち消した。この拘束魔法を打ち消す方法を知っていたようだ。『泣き女』の攻撃で溜めた必殺技ゲージを使って自爆技を発動させた。

 自分のHPを削る攻撃の衝撃は凄まじい。僕は後方に吹き飛ばされた。その僕を追撃してアサシンが再びアルマスキルを発動させようとしている。


 自爆はその名の通り、自分の命を懸けて敵に大ダメージを与える。それと同時に必殺技ゲージが100%になるから、連続でアルマスキルが使用可能になるんだ。


 僕は吹き飛ばされながら、アサシンに向かって手を翳した。

 小さな魔法陣が現れて、アサシンから黒い霧が抜け出し、僕の手に吸い込まれていく。敵の必殺技ゲージを吸い取る『アブソプション』を発動させた。

 その手で武器をしっかり握りしめる。


メメントー・モリ(死を記憶せよ)!!」

 これは武器に掛ける魔法の呪文。


「ドゥーコー・イーンフェルヌス(地獄への導き)!!」


 僕の体に死神の姿が重なり、僕の体は武器スキルの発動で激しく回転した。


『地獄への導き』別名、千切り。草刈鎌と笑われたこの武器のもつスキルで激しい回転を伴うため使えるプレイヤーは僅かだと言われている。


「すげぇあの回転!!酔わねぇのか!?」

「ドラゴンライダーの空中戦より激しいぞ!」


 三半規管が弱いと酔うらしい。僕にはよく分からないけど。回ってると楽しいな~って思うくらいだ。回転は死神任せだけど、アサシンの姿を捉えて微調整しないと敵のいないところに逸れて行ってしまう。


 回転が止まるとアサシンはボロボロになっていて、僅かに武器を振り上げようとした。それを素早く弾き上げて留めを刺した。


「勝者!ワーロック・ナイト、フィル!」


 会場は…沸かなかった。ドン引きというやつだろうか。技が技だけに、誰もがどんな反応をして良いのか分からないのかも。ワーロックはそれだけプレイヤー数が少ないんだ。


 しかし観戦席の一角で、武器の柄を地面に打ち付けて歓声を上げ始めた一団がいた。父さんが同じサーバーの仲間を呼んだみたいだ。


「「「フィール!フィール!ワーロック・フィール!!」」」


 なんか恥ずかしい…。


「おい!あそこの団体、アメリカのPvPサーバーの連中じゃねぇのか」

「ほ、ホントだ!監獄脱獄のギャレットもいる!!」


 あれ?パパン…ゲーム内で暫く会わないうちに二つ名が変わってる?


 両親のキャラがいるサーバーはプレイヤー対プレイヤーのカテゴリーで、寝落ちでもしようものなら身ぐるみ剥されて死体となって転がるほど治安が悪い。

 僕は15才になったと同時に両親のサーバーに移動させられそうになったけど、ノーマルサーバーが良いと必死で抵抗した。


 その時、僕の頭の中に直接語りかける声が響いた。

『マスターよ、両親に答えてやらぬのか?勝鬨を上げよ。』

「いや、いいです」

『何を照れておる。よし、妾に任せるがよい!』

「うぅっ!?」


 僕の体を勝手に動かし始める声の主。右腕の拳を勢いよく天へと突き上げる。


「うぁぁああ!!やめてくださいーっ!!」

『笑え!不敵な笑みを浮かべるのじゃ!!』

「もうやだ!この悪魔っ!!」


 僕の表情筋が勝手にドヤ顔を作る。


 蘇生魔法を受けたアサシンを見下すような視線を向ける。

「このヤロウ…調子にノリやがって」

「ちがうっ!ちがうんです…ぐうぅう!!……!!」

 そう言って必死に首を横に振ろうとするのに顔が動かない。しかも口まで乗っ取られた。

「我が勝者じゃ!皆の者、我を湛えよ!ヌフフフハハハハハーッ!!」


 僕は自分の意に反して高笑いを始めた。

 嗚呼、早く服従の腕輪~!!



 一回戦が終わって次の試合まで時間がある。僕は両親のいる観戦席へ視線を向けた。

 その瞬間、辺りが急激に暗くなった。

 ざわつくプレイヤーとNPCまでもが空を見上げる。


「なんだあれ!星がぶつかる!!」


 何のことか検討が付かず僕は空を見上げてぐるりと回った。

 そして地球に似た青い星がすぐ間近まで迫ってきているのが目に入った。


「フィル!!――!!早くログアウトしろ!!」


 父さんの叫び声がした。僕のキャラネームとリアルネームを叫んでいる。

 母さんも「ログアウトして!――!!」と僕の名前を呼ぶ。


 混乱の中、僕はメニュー画面を開こうと指を宙に翳した。

 しかし降って来た星が両親を押し潰し、両親のキャラが歪み消えてしまったのを目撃して動けなくなった。


「父さん!!母さん!!」


 僕はあらん限りの声で両親を呼ぶ。

 でも僕も落ちてくる星に飲み込まれた。

 この世界に青い星が重なったように感じた。

 僕は意識を失い、その場に倒れた。

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