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「矢口は取り押さえに掛かれ、水野は木槌であいつらの頭をかち割ってやれ。カタリの方が足が早いだろう、あいつから殺せ。躊躇うなよ、まだナイフの類の武器を持ってる可能性もある」


「任せとけよ赤木、俺はゴキブリ潰すのに躊躇いなんて持たねぇよ」


 赤木の指示に従い、水野と矢口が飛び掛かってくる。


「なあ赤木っち、カタリぶっ殺した後は、黒崎犯してもいいか? あいつ電波だけど、顔とカラダは行けてると思ってたんだよなぁ、俺」


 矢口がメアリーを見ながら舌なめずりし、赤木に尋ねる。


「勝手にしろ。だが、最終的には絶対に殺せ。カタリは、母親のミスで家が焼けたのをなぜか俺達のせいだと思い込んでいるらしいからな。逃がしたら、逆恨みで寝首を掻きにくるかもしれないぞ」


 赤木はわざとらしい言い方で言い、挑発を仕掛けてきた。


 怒りで我を忘れそうになるが、しかしここで立ち向かっても勝てるわけがない。

 メアリーもろともボコボコにされるだけだ。


 一人だったら、ここで逃げる決心ができずに殺されていたかもしれない。


「メアリー! 逃げるぞ!」


 俺はメアリーの手を引き、森を走った。


「焦って追いつこうとしなくていい。確実に追い込んで行け」


 赤木は水野と矢口に先を行かせ、その後ろを無理のないペースで走っている。


 もしも俺が本当にナイフか何かを持っていた事態を考え、自分だけ安全圏にいようという腹積もりか?

 よくもまあ、そんな身勝手が許されているものだ。


「ペースが落ちてきたぜ? もうお終いか?」


「これでもくらえやっ!」


 俺は走りながら、メアリーから預かっていた分厚い本を水野へと投げつけた。

 胸部で受け止めた水野は、嗚咽を漏らしながら足を止める。

 矢口もそれにつられ、立ち止まる。


 至近距離から本をぶつけるため、わざとペースを落としたのだ。

 メアリーのものなので勝手に投げるのには抵抗があったが、残念ながらあれを抱えて逃げ切るのは不可能だ。 


「お婆ちゃんの家で見つけた、ワタシの宝物……」


 メアリーが小さく未練を零す。


「悪いが今は諦めてくれ! ほとぼりが冷めてからまた拾いに行くから!」


 結構しっかりダメージが通ったらしく、水野はしゃがみ込んだまま、俺を睨みながら呼吸を荒くしている。

 まだ立ち上がるまでは時間が掛かりそうだ。


「バカヤロウ! さっさと追え! 水野はまだいいとして、矢口まで何を突っ立ってるんだ!」


 赤木が吠えるように叫ぶ。

 それに急かされるように水野は立ち上がり、木槌を拾い直して追いかけてくる。


「わ、悪い……赤木……」


「謝ってる暇があったらとっとと追え! 俺の勘が、あいつをここで逃がすととんでもないことになると言ってるんだよ!」


 赤木が怒っているのを見たのは、俺も初めてだ。

 どんな残酷なことを言っているときも、実行しているときも、まるでただテレビゲームでもしているだけだというふうな、そんな冷めた顔をしている男だった。


 赤木に怒鳴られた水野と矢口は、走るスピードを一気に上げた。

 水野は木槌を持っているし、本を受けたダメージもあるだろうに、よくあんな速度で走れるものだ。


「カ……カタリ、ワタシ、もう……走れまセン……。囮になりマス、だから……カタリだけでも……」


「馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ! このまま走ってたらきっと、こっちの世界の人とかにも会えるかもしれねぇ! そうなったら、もしかしたら助けてもらえるかも……」


 助けてもらえるかもしれないと、最後まで言えなかった。


 なぜなら前方に、巨大な崖端が見えたからだ。

 向こう側まではかなり距離がある。跳んで向こうまで行く、というのは不可能だろう。

 丘続きになっていたから、気付くのが遅れてしまった。


「う……嘘、だろ……。こんなの、ねぇだろ……あんまりだろ……」


 メアリーが、俺の手を握る力を強める。


 背後から、水野と矢口、赤木が追いかけてくる。

 鬼ごっこの終わりが近いと判断したらしく、水野と矢口は笑っていた。

 弱者を甚振るもの特有の、嫌な笑いだった。

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