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「な、なんだよここ……」


 西洋風の地下広間、といった感じがする。

 壁には蝋燭台が付けられているが、その光もあまり強くはない。


「え? 何が起こったんだ?」

「教室が変形したのか?」


 クラスメイト達も皆、混乱している。


 俺は包丁のことを思い出して自分の周辺を見るが、鞄がない。

 理解の及ばない状況ではあるが、武器さえあれば多少は安心できると思ったのだが、机や椅子同様消えてしまったらしい。


 俺は騒いでいるクラスメイト達の間をくぐり、メアリーの肩を叩く。

 彼女も状況を理解できていないようで、あの魔法陣が描いていた分厚い本を抱き締め、不安気に辺りを見渡していた。


「おい、メアリー、これはどういうことなんだ? さっきの魔法陣は何か関係あるのか?」


「わ、わからないデス……。タイミング的には、そうだと思うのデスガ。メイビー、もしかすると、悪魔の生贄にするため、ワタシ達が悪魔の元へと召喚されたのかもしれないデス」


「……なるほど、そういう考え方もできるわけか」


 となれば、ここに悪魔が出るということだろうか。

 信じ難い話ではあるが、目の当たりにしているのだから信じないわけにはいかない。


 たん、たん、と通路の方から急に足音が聞こえてきた。

 まさか悪魔かと思って顔を上げれば、黒のドレスを着た女の人がこちらに向かって歩いてくるところだった。


 鼻が高く、桃色の髪をしていて、年齢は18歳前後……辺りだろうか。

 とんがり帽子を被って、黒いマントを羽織っている。

 何かのコスプレだろうか?

 胸を強調するような服装をしていたので、思わず目を逸らしてしまった。


「あらあら、物音がするから魔物かと思ったのですが、まさか人間でしたとは。アナタ方、いったい何を考えて悪魔の迷宮などに? 見慣れない顔つきですけれども、いったいどちらの大陸の方達でしょうか?」


 クラスメイト達があれこれと口ぐちに言い始め、場がまとまらない。

 先生が手を挙げ、一番前へと立った。


「俺が代表として話す。俺達の状況については、むしろこっちから尋ねたい。気がついたらここにいたとしか言いようがない」


「あら、まぁ。嘘を吐いている様子もありませんし、集団転移魔法? 場所から考えても、あの悪魔の封印が弱まった結果、ということなのでしょうか。私のようなC級魔術師には手に余る案件ですわねぇ」


「なに?」


「ここは強大な悪魔を封じ込めるために作られた場所なのですわ。恐らく、あの悪魔の封印が弱まって、その影響としてアナタ方が遠くの地から呼ばれたのでしょう」


 女の人の話はメアリーの推測と被っている部分がある。

 やはりあの魔法陣が現状の原因と考えて間違いなさそうだ。


「魔法? 悪魔? 封印? ふざけているのか?」


 先生が言うと、生徒達もそれに同調し、女の人に口々に文句を言い始める。

 当然の反応だろう。

 急に言われ、受け入れられるものではない。


「はい? アナタ方こそ、私をからかっているのかしら? いや、でもこの顔つき……それに、言語は通じている……。書物に記されていた特徴と一致するけれど……まさか、アナタ方、全員異世界人?」


 女の人がそう言い、先生は面食らったように顔を顰める。


「だとすると……ああ、もう。説明が本当に面倒ですわね。とにかく、ここを出ましょうか。案内しますので、ついてもらえます?」


 女の人が、出てきた通路を引き返していく。

 皆どうするべきか戸惑っていたが、先生が率先して動くと全員それに続いて動き始める。

 俺とメアリーは、前の人と少しだけ間隔を開けて最後尾に並んだ。



 どうやら女の人の話によると、ここは俺達がいた世界とはまた別の世界であるのだとか。

 稀に俺達のよう、異世界からやってくる人間がいると、伝承や記録などに残っているらしい。


 ここは俺達の元いた世界とは様々な点で異なる。

 文化も生態系もそうだが、決定的に違うのは、魔法と呼ばれる力が存在するという点。


 彼女は名前をレイアと言い、アイルレッダという国の魔術師である。

 この俺達が今いる建物、悪魔の迷宮の調査を国から頼まれ、単独で来ていたところだった。


 調査といっても悪魔の封印が守られているかの定期検査のようなもので、ここはさほど危ないところでもないらしい。

 

 最初の内は誰も信じていなかった。

 しかし道中で巨大な蝙蝠が現れたとき、レイアは手にしていた杖を振るい、火炎を発生させて撃退してみせた。

 それを見てようやく話に真実味が出てきたというか、信じざるをえなくなったというか、段々と疑うものはいなくなっていた。


 現状がわかり始めると、化け物と魔法の世界への恐怖とか、家に帰れないことへの嘆きとかで、すっかりと暗いムードになっていた。

 しかし俺からしてみればただデカイだけの蝙蝠よりも、平然と人の顔に煙草を押し付け、放火するあいつらの方がよっぽど化け物にしか思えない。

 人の家を焼いておきながら、それを聞いて笑っておきながら、よくもまあ家に帰れないと涙を流せるものだ。


 幸いなことに、クラスメイトの皆は黒板の魔法陣が原因だとは微塵も思っていないらしかった。

 レイアが『悪魔の封印が緩んだせい』と結論付けてくれたことが大きいだろう。


「あらまぁ……そうまで落ち込まなくてもよろしいのに。異世界人の方々は、不思議と魔法の素質が高いと言われていますのよ。それに、帰れる方法が皆無というわけでもございませんの。天空島に住まうハイエルフが、長くに渡って異世界についての研究をしていると聞いたことがありますので、一度訪れてみればよろしいかと」


 レイアは軽々しく言うが、誰もそれに対して言葉を返せるものはいなかった。

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