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今後どう動くのか、ゴルベドと話し合った。
二人して壁の地図にいくつもの矢印を書き込み、敵兵の進路を予想したり、私兵の配置について決定していく。
とはいえ、あまり細かい話をしている余裕はない。
こうしている間にも、アイルレッダ王都の兵はこちらへと向かってきている。
それに早めに説得をしなければ、私兵がどんどん逃げていってしまう。
ゴルベドは館を中心に地図の中に丸を描いた。
「領地の端で迎え討つのは、こっちの分散が大きすぎて不可能だ。元より、今更領民の住宅地を守る気もない。この円の枠付近に散って戦えば、向こうの合流も防げるはずだ。その巨人……召喚魔物が四体ならば、これが一番確実な陣形だ」
「なるほど。これなら、館に敵兵がなだれ込んで来る危険性も減る」
俺は館で待機し、上手く黄坂達だけを自らの所へと誘導したい。
アイルレッダ王都の兵には興味がない。
範囲を狭め、館を中心に抗戦を行ってくれるというのならばありがたい。
「……き、貴様の用が済めば、俺の護衛をしながら逃げてくれるんだな?」
ゴルベドは、額に脂汗を浮かべながらそう言った。
確かに予定では、俺がゴルベドの護衛をしながら他国まで逃げることになっている。
今までに取り決めた大まかな動きはこうだ。
最初に領民を大量に東側へと逃がし、東側から回り込んで来る敵兵の進行を妨害する。
他の方角から攻めてくる敵兵に対しては俺の召喚する魔物を中心に抗戦を行う。
そしてその間に、黄坂達を俺のいる館に誘導して殺す。
それから俺とゴルベドが合流し、戦いの間に敵兵が疲弊してできた包囲の粗を突き、このゴルベド領を脱出する。
「ああ、護衛してやる」
「じっ、自分の用が済んだら、散々利用した挙句に俺を見殺しにする気ではないだろうな!」
疑い深い男だ。
この問答はもう三回目になる。
「こっちも逃げるのには足が必要だ。馬車がいるし、俺は馬を扱えない」
いくら禁魔導書で喚び出した魔物とはいえ、たったの4体で300の兵を全滅させることはできない。
だからといって、これ以上魔物を召喚するつもりはない。
俺としては、クラスメイト以外には必要最低限以上には魔力を使いたくない。
相手はゴルベドの私兵のような雑兵ではない。
きっちりと訓練を積んでいる実力派揃いのはずだ。
こっちの目的を終えたらとっとと逃げるべきだろう。
そのときに歩いて逃げるつもりはない。
「しかし、馬を動かすことなど俺でなくてもいいではないか! 保証だ、保証をよこせ! 俺を絶対に助けると!」
煩い奴だ。
何人も殺しておいて、自分が死ぬのはよほど怖いらしい。
俺は苛立ちを抑えるため、自らのこめかみに強く指を当てる。
「安心しろ。逃げた後、お前に任せたいことがあると言っただろうが」
「だから、それがなんだと言っているのだ! ぼやかしてばかりではないか!」
時間がないのに、鬱陶しい。
俺が軽く念じると、ゴルベドの影から、すうっと使い魔が現れる。
使い魔の手にしている鎌の先端が、ゴルベドの背に触れる。
「ひいっ!」
ゴルベドは悲鳴を上げ、うつ伏せに倒れる。
「見張りつけてるって言ったの、忘れたのか?あまり諄いと、今すぐ首を撥ねることになるぞ」
「や、やめろ! やめてくれ!」
ゴルベドが床に這う姿勢のまま顔を上げ、吠えるように叫んだ。
使い魔が鎌を下ろし、ゴルベドの影の中へと戻っていく。
「安心しろ、ゴルベド。今は説明し辛いが、お前にとっても悪い話ではないはずだ」
ゴルベドは立ち上がってから、恐る恐ると頷いた。
納得した様子ではなかったが、しかしこれ以上無駄口を叩けば殺さねかねないと判断したらしい。
「時間がない、さっさと準備を始めるぞ。逃す領民には、ゴルベドはもう東方面に逃げたと嘘を教えておけ。捕虜になったとき、デマを撒いてくれる」
貧困層の領民に、捕まったら嘘を流せと命令するのは効果がない。
虐げられていた彼らにゴルベドへの忠誠はない。
捕虜になれば、知っていることを全て話すだろう。
最初から嘘を吹き込ん出おいた方が得策だ。
アイルレッダ王都の兵も、ゴルベドが東方面に逃げることを一番恐れている。
だからこそ東側の兵が多いのだ。
ゴルベドがすでに包囲を潜り抜けて東側に逃げたと聞けば、それが嘘であると思っても、確認しないわけにはいかないはずだ。
元より向こうは過剰戦力であるし、その自覚もあるだろう。
情報の真偽を確かめるため、逃げたはずであるゴルベトを追うのにそれなりの人員を割いてくれることが期待できる。
ゴルベドを連れて外に出てから、魔物の召喚を始める。
二体目に召喚したのは『二つ頭の黒山羊』だ。
大きな角のある双頭を持っており、体格もかなり大きい。
グリントロルと同様、その大柄を活かして戦いの中心となってくれるであろうタイプの魔獣だ。
三体目に召喚したのは『消化粘体獣』だ。
スライムといえば王道RPGなんかでは愛らしい姿で雑魚キャラとして出てくるが、そんな生易しいものではない。
触れれば人体を溶かすことができる。その上、すばしっこい。
乱戦の中、足許を走りまわせれば、かなりの敵兵の足を潰せるはずだ。
足を潰すことができれば、その兵が戦うことはもうできない。殺す必要はない。
向こうも負傷した仲間の治療に人員を割く必要が出てくるので、殺す以上に有効に働く場合もある。
それにこのスライム、物理的な攻撃ではまず死なないというのも利点だ。
敵兵の中にも魔法を使えるものいるだろうが、スライムに任せたいのは相手の壊滅ではない。
戦線の維持だ。
身の安全に優先順位を置いて動き回ってもらえばそれでいい。
俺の召喚した魔物を中心に戦う以上、早々に死なれてはその方面での戦線が一気に崩れる。
多人数を相手にできて、かつタフな魔物でなければいけない。
四体目に召喚したのは、『屍人形師』という魔物だ。
術式がぴっちりと書き込まれたローブで身を包んでいる。
トゥルムの説明によれば、魔術師が外法によって力を得たリッチの一種らしい。
目の焦点が合っておらず何も喋らないので、人間らしい感受性が残っているようには見えなかった。
元女性のようではあったが肌は青白く、口の端から涎を垂れ流しにしていた。
ひょっとしたら俺もいずれはああなって、魔導書の端に名を刻み、トゥルムの手下の魔物の一柱に数えられることになるのだろうか? いや、深くは考えまい。
ネクロマンサーは多人数を相手取るには体格は小さいが、死体を操ることができる。
戦闘が長引けば長引くほど、こちらの戦力が増える。
とはいっても生前の知能も魔力もほとんど発揮することができないので、あまり期待し過ぎるのは危険だが。
東側へは領民を逃がすことで足止めを図るつもりだが、念のためにバフォメットを置いておこう。
領民による足止めが上手く機能していて大丈夫そうならばすぐに館まで戻ってきてもらい、それから他所の援助に回せばいい。
バフォメットはグリントロルに比べて破壊力で劣るが、俊敏性に優れている。
エレの感知魔法では敵兵の一番薄かった北側には、ネクロマンサーを置く。
ネクロマンサーは死体が少なければ本領を発揮できない。
序盤はあまり手出しをさせず、中盤死体が増えてから西側への手助けに入ってもらえばいい。
西側にはスライムを置く。
スライムはグリントロルやバフォメットと比べて小回りが利く。
黄坂達の誘導に一躍買ってくれるはずだ。
スライムだけで持ち堪えられなくなったら、バフォメットやネクロマンサーの屍兵を回せばいい。
黄坂達の誰かが魔法に優れていて、スライムを楽々と突破される可能性もあるが、そのときはそのときでラッキーだ。
上手く調子づいてくれれば、少数でこの館まで向かってきてくれる。
南側にはグリントロルを置く。
グリントロルはかなり安定した戦線の維持が期待できるので、他方角から援軍を送り辛い南側を任せることができる。
「いいか、こいつの言うことを聞き、各地で敵兵に備えてくれ」
俺はゴルベドを指で示し、四体の魔物に命令する。
ゴルベドは四体の魔物を見回しながら、顔面を蒼白にして震えていた。
グロテスクな魔物を前に、すっかり委縮してしまっているらしい。
「後はお前の部下を使って、さっさと予定通りに配置しておいてくれ。いいな、裏切るような真似をすれば、使い魔がお前の首を撥ねる。そのことを忘れるなよ」
俺と顔を合わせるとゴルベドはぴくりと肩を震わせ、それから自らの影へと目線を落として唾を呑み込んだ。
「わ、わわ、わかっている……」
一応、最後に釘を刺しておいた。
ゴルベドのことだ。
このまま魔物を引き連れ、自分一人で逃げようとしかねない。
「それじゃあ、任せたぞ。俺はお前の館で待機する」
ゴルベドはネクロマンサ―と共にバフォメットへ跨り、憔悴しきった表情で走って行った。
ゴルベドの姿が見えなくなってから、俺はもう一体、保険に魔物を召喚しておく。
レッドタワーのときにも活躍してくれた白い大蜘蛛、『八足の暗殺者』だ。
いざというときの館の守り兼、黄坂達誘導のための保険だ。
スライムだけでは不安が残る。
エレの感知魔法で位置を確認してから出せる手駒をひとつ用意しておきたかった。
体格が小さく大規模での戦闘には向かないので、前線で戦う魔物としては召喚しなかったが、国木田を捕らえてくれたこともあり、俺はこの大蜘蛛を気に入っていた。
さて、後は館の地下へと戻り、エレから今までの報告を受け取るとしよう。




