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 開けっ放しにされていた扉から、館の中へと入る。

 中にも私兵が多い。

 すでにどういう事態かわかっているらしく、俺を見つけると即座に叫びながら襲いかかってくる。


「その蔦は地の果てから天にまで伸び、やがては神々を穿つ一本の槍となった。禁魔術、『魔界庭園の暴れ者オルトゥムアリムヘデラ』」


「むぐっ!?」


 蔦で先頭に立っていた男を首吊りにし、後続を牽制する。

 もがきながら絶命していく様子を見て、他の者達が足を止める。


「ゴルベドはどこにいる?」


「魔術師だぁッ! 逃げろぉっ!」

「無理だ、敵うわけがねぇ!」「化け物だぁッ!」


 質問には答えず、我先に逃げて行く。

 禁魔法で吐かせるくらいなら自力で探すかと考えていたところ、頭上から声が聞こえてきた。


「貴様、何者だ!」


 二階から柵に手を乗せ、こちらを見下す身なりのいい男がいた。


「お前がゴルベドか」


「ゴルベドは俺の兄だ。貴様こんなことをしてただで済むと思っているのか! いいか、我がウーベルト家に手を出せば、アイルレッダ聖騎士団が動くことになるだろうよ! ハハハ、怖気づいたか! どこの魔術師だ、言え! 今大人しく捕まるというのならば、命だけは見逃してやっても……」


 『魔界庭園の暴れ者オルトゥムアリムヘデラ』の蔦を操り、二階の床へと思いっ切り打ち付ける。

 柵ごとあっさりと崩れ、瓦礫の中からゴルベドの弟だと言う男が落ちてくる。


「あ、あぐぁー!」


 男は床に身体を叩き付け、更には落ちてきた床の下敷きになり、下半身を潰した。


「ひぎゃ、痛い! 痛い! 死ぬ! シロナ! シロナはいないのかぁっ! 早く来い、役立たずがぁっ! どこにいるぅっ! 俺を治療しろォッ! 痛い痛いぃぃィイッ! シロナァッ!」


「ゴルベドはどこにいる」


「き、貴様ッ! このエルベド様に向かって、よくも! わかっているのかぁっ! 我がウーベルト家は王家と血の繋がりがあるのだぞ! 貴様ァッ! こんなことをして、こんな、こんな! この馬鹿、身の程知らずがぁっ! 俺を殺してみやがれ、必ずや後悔するぞぉっ!」


「ゴルベドがどこにいるのか教えてくれ。それさえ聞ければ治療してやる。俺も治癒魔法を持っている。俺は、ゴルベドに用があるだけだ」


「物置の奥の、地下室だ! そこを通ったところに通路側の扉が倉庫だ! 言った、言ってやったぞ! 早く俺を治療しろっ! 早くしろォッ! 死ぬ、このままだと死ぬぅッ! 俺が死んだら、貴様は一国を敵に回すぞォッ!」


 俺は魔導書を開きながら、エルベドを見下ろす。

 目が合うと、エルベドは高圧的に喚いていた口を閉じ、唖然とした表情でを見る。

 

「おい、貴様……本当に……」


「その箱を縋ってはならない。その箱に触れてはならない。その箱は開けてはならない。禁魔術、『悪魔の箱パンドラ』」


 宙に、一本の真っ黒な腕浮かぶ。

 黒い腕をエルベドの下半身を押さえている瓦礫へと向かい、そのまま瓦礫もろとも下半身を抉らせた。


「ヒィギャァァァァアッ!! あ、死ぬ……死にたくない! 死にたくないぃっ! 誰かいないのか臆病共がぁっ! 兵は残っておらんのか! 所詮は農奴かクズがぁっ!  クロエ、シロナァッ! 助けろ、俺を助けろっ! 助け……助け……」


 エルベドは腕だけで這って動き、顎が外れそうなほど口を開けて叫ぶ。

 本人は気付いていないようだが、下半身は抉り潰したものの、『悪魔の箱パンドラ』の魔力があるためエルべドは死なない。

 臍から下の部分がなくなりはしたが、それでも出血はもうしていない。

 綺麗に再生している。

 もっとも体内器官が途中で途切れているため、いつまで生きられるかはわからないが。


「助けっ! 誰か俺を助けろっ! 助けろぉっ!」


「約束は守ったぞ」


 言いながら俺は振り返り、エルベドが指差していた通路を見る。

 倉庫奥の隠し階段、そこにゴルベドがいるはずだ。


『妾の下僕よ。別に、律儀に魔法を使ってやらなくても良かったのではないか? パンドラは、消耗がかなり激しいであろう』


「ああ、正直あんまり気分が良くない」


 腕を一本に抑えたが、それでも反動は大きい。

 ガリガリと身体と心を削られるような苦しみ、寒気、吐き気。

 そして頭に残る国木田の幻聴が、一層と声の大きさを増す。


『だったら……』


「でも、相手を苦しめて殺すにはこれが一番だ。優を前にするより先に、もうちょっと慣れておきたかった」


 地下室に、優がいるかもしれないのだから。


 裏切られ、片目を失い家族を殺され、それすらも笑いものにされ。

 その復讐の果てに、きっと俺は禁魔法の反動に蝕まれ、苦しんで死ぬことだろう。

 だから、アイツにはその分と同等の苦しみを与えなければいけない。


「行くぞ、エレ」


「はい、御主人様」


 トゥルムからの声が止んだので、エレに声を掛け、倉庫へと足を進める。

 背後からは、まだエルベドが助けを呼ぼうと叫んでいる声が響いてきていた。

『転生したらドラゴンの卵だった〜最強以外目指さねぇ〜』

http://ncode.syosetu.com/n4698cv/


新作投稿しました。

こちらもぜひよろしくお願いします。

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