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 早朝から馬車に乗り、ついに王都にまでたどり着いた。

 とはいえ、クラスメイト達は高い城壁の内側、城の中にいるはずだ。

 簡単に忍び込めるところではない。


 城壁を遠目に見ながら、王都の中心部へと歩く。

 赤い屋根に白塗りの建物が多い中、屋根が黒く一際高い建物がある。

 屋根の上には月を象ったモニュメントが乗っかっている。

 教会だろうか。黒い服を着た真面目そうな人が出入りしていて、そのことが建物をより厳かなものに感じさせている。


「この辺りでいいか。エレ、前と同じように頼む」


「はい、エレにお任せくださいませ。精霊魔術、『ふたりでひとつコネクト』」


 すうっとエレの身体を、白い光が覆う。


「で……では、失礼します」


 エレが俺の肩に手を乗せる。

 エレの身体を覆っている白い光が、彼女の身体から俺にへと流れてくる。

 精霊魔術は、空気中に眠る精霊の力を借りて発動する魔術であるらしい。

 普通の人間は精霊に呼びかけることすらできないため、実質的にエルフの専用魔術となっているのだとか。


「精霊魔術、『聞き上手の話し下手クァルナベルツ』」


 先に唱えた『ふたりでひとつコネクト』は、他の人間と五感を共有できるというものだ。

 これのお蔭で今、俺とエレは聴覚を共有している。


 そして『聞き上手の話し下手クァルナベルツ』は、使用者の聴覚を引き上げる魔術だ。

 正しくは精霊に音を拾ってきてもらう魔術らしいが、そこのところはよくわからない。

 本来は唱えた本人以外に効果はないのだが、二つの魔法を組み合わせることで、間接的に俺もその恩恵を得ることができるという寸法だ。

 エレと一緒に行動してからは、ずっとこの方法で情報収集を行っている。


「俺のクラスメイトに関係ありそうなことを中心に頼むぞ」


「はい」


 エレが答えた瞬間、大量の情報が頭に流れ込んでくる。

 脳内が掻き乱されるような歪な感覚。あまり、長時間やっていたいものではない。


『……が、……で、水を持って来……』『その……は、もうちょっと負けてくれても……』

『今日は……の、領主様が……』『ラーク……の村……雨が……』『クニキ……らなどに……ってもらって……』


 最後のは城の方からか。

 万が一でも見つかりたくなかったのと、なるべく広範囲から拾いたかったとので街の中心を選んだが、素直に城近くで行っても良かったかもしれない。

 声が拾いにくかったら、もうちょっと城寄りに移動しよう。


「今の……クラスメイトの名前かもしれない」


 俺が言うと、さっきの声へとエレの意識が向いたのがわかった。

 途切れ途切れでしか聞こえなかった言葉も、段々と明瞭なものになっていく。


『ミーデ……ンドで、例の教団が動い……しい。あの連中にも、とっとと使い物に……てもらわ……と困る』

『では、ちょっと急ぎすぎ……しれませんが、魔力が高くて扱いやすい者を選別し、レッドタワーに登ら……しょう。魔物に慣れさ……べきです』

『しかし、随分と平和ボケしたところから来たようだが……』

『レイアに先導させましょう。あの人が一番信頼を得ているわ』

『それでは18日の昼頃、十人前後でレッドタワーに向かうようレイアに命じておく』


 あの連中、とはクラスメイト達のことだろうか。

 魔物に慣れさせるため、塔に登らせる……。

 レッドタワーとやらがどういった建物なのかにもよるが、これは好機なのではないだろうか。

 見張り役の人間も一人しかいないようだし、さほど危険なところではないのだろう。


 条件によっては先回りして塔に入り、待ち構えておくというのも悪くない。

 何かを罠を仕掛けてやってもいいかもしれない。



 盗み聞きを続けていると、魔物が大量発生している洞窟や古い神殿などをダンジョンと呼んでおり、危険な魔物が溢れて外に出てこないよう、定期的に魔術師を派遣して魔物を狩っているということがわかった。


 レッドタワーは弱めの魔物を生け捕りにし、中に閉じ込めることで作られた訓練用の疑似ダンジョンらしい。

 魔術師の試験に使われることが多いのだとか。

 扉は頑丈に閉ざされているが、万が一魔物が逃げ出したときのことを考え、人気のない森奥に建てられているとのことだった。


「ありがとう。とりあえずは、これくらいで充分だ」


 エレに礼を言い、得た情報をメアリーにも伝える。


「……ということで、準備を整えたらレッドタワーを目指したい。あいつらよりも先に着きてぇ」


 ギリギリでもどうにかなるだろうが、できることなら万全の準備をしてから罠に嵌めてやりたい。


「…………」


 メアリーは話を聞いている最中、ずっと浮かない顔をしていた。


「今回は、王都に残っておくか? レッドタワーには、俺とエレだけで向かう」


「え? い、いえ、ワタシも……」


「危険だし、足を引っ張られても困る。俺としても、そっちの方がありがたい」


「で、でも……その……」


「どこかでちゃんとした地図を買い直して、レッドタワーの位置を確認しようと思う。それから食糧を買い溜めが終わったら、今日はまた宿でも取って休むつもりだ。出発は明日になりそうだから、それまでに考えておいてくれ」


「……そのまま、ワタシを置いて行くつもりデスカ?」


「んなことは言ってないだろ。どうした?」


「いえ……ゴメンナサイ、デス」


「別に謝んなくたっていいけどよ」


 メアリーはどうにも様子がおかしい。

 口に出したら、おかしくなったのはそっちだと返されそうだが。

 やっぱり別れた方がいいんじゃないかと、そんなことがふと頭を過る。


 彼女を背負い、泣きながら走っていたのが遠い過去のように思えてくる。


 やっぱり、俺は魔導書の影響で変わってきているのだろうか。

 旅が終わったとき自分がどうなっているのか、考えるとぞっとする。


 だけれども、同時にこうも思う。

 俺をもっと、残酷にしてくれと。

 何の呵責もなくアイツらを甚振れる、何の後悔もなくアイツらを苦しめられる、そのためのもっと残酷な心が欲しい。


 今は復讐心に燃えているけれど、実際に優を目前にすれば、俺は本当に彼女を殺せるだろうか。

 笑った顔が可愛いこととか、野良猫を撫でるのが好きなこととか、小中学校でのバレンタインデーの思い出とか、二人で一緒に通学路を帰ったときのこととか、ふとしたときに思い出すことがある。

 その度に何かの間違いなんじゃないかって、無理矢理やらさせられていたんじゃないかって、そう疑ってしまう。疑いたくなってしまう。


 絶対に迷いたくはない。

 けれども優を前にしたとき、俺は手を緩めず、容赦せず禁魔術を使うことができるだろうか。

 言い訳や命乞い、聞こえのいい言葉に騙されず、殺すことができるだろうか。


 そう疑問に思うからこそ、俺は必要以上に派手な禁魔術を使うことを選んでいたのかもしれない。

 もっと、もっともっと残酷になれば、悪魔に心を売ってしまえば、絶対に迷わないと。



「どうなされましたか、御主人様?」


 エレが首を傾げながら、俺を見る。


「ちょっと考えごとを。さて、とっとと準備をするか。レッドタワーの位置によっては、今日移動する必要もあるかもしれない」


 さっき会話していた人物は、18日の昼間と言っていた。

 ならばこっちは前日の夜にはもう着いておきたい。


 それにしても、最初に聞こえた人名らしきクニキというワード。

 もしかすると、1年C組の学級委員長だった男、国木田秀吉のことかもしれない。

 後期には生徒会長に立候補するつもりらしいと、そういう噂を聞いたことがある。結局その話がどうなったのか、夏前に高校に行かなくなった俺は知らないが。


「そうか……国木田が来る可能性が高いのか……」


 徹底的にやろうと、そう強く思い直す。

 やはり、今回だけでもメアリーは置いて行くべきだ。

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