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 頭が痛い、気分が悪い。視界がグルグルする。

 脳味噌を掻き回されているようだ。


 魔法の反動なのだろうが、どんどん不快感が増していく。


 俺は頭を押さえながらも、右目を大きく開いて辺りを見渡す。

 壁に張り付いて震えていたり、扉を覆っている黒い根に必死に殴りかかってたりと、好戦的そうな相手はあまり見つからない。

 客席で震えたまま、動けない人間もいる。


 メアリーと目が合った。

 彼女は床に座り込んでガタガタと震えながら、悲壮な顔つきで俺を見つめていた。


「安心しろ。ここの奴らは、俺が全員……」


 メアリーを安心させようと俺が声を掛けると、彼女は後退り、背を椅子にぶつけた。


 ああ、なんだ。

 メアリーが怖がっているのは俺か。


「カ、カタリ……」


「…………」


 その弱々しい呼びかけは、本当に俺なのかどうか、という確認のようでもあった。

 俺は言葉が出ず、つい沈黙する。



「貴様ァッ! よくも、よくも私のショーを台無しにしてくれたなァッ!」


 声を振り返れば、ゴドーが俺を嫌悪の目で睨んでいた。

 顔に皺を寄せ、怒りで手を震わせている。


「けったいな魔法を使うと思えば、まさか数百年も前に所在不明になったトゥルムの書を持っているとはな。悪魔に魅入られた、哀れなクソガキが。貴様は、100回殺しても足りん! 甚振って殺して見世物にしてくれるわぁっ!」


 指揮棒のような短い杖を振るい、俺に向ける。


「輪廻に還ることなく、死して尚隷属する我が奴隷よ! 我に仇為すものを滅ぼせ! 『三つ子の人魂トリジャーアニマ』!」


 青白い光の塊が三つ、俺へと迫ってくる。

 黒い根で進行を妨げようとするも、光はすり抜けて俺に向かって来た。


「無駄だ無駄! そんな根っこなんぞがアニマに干渉などできるものかっ! 苦しんで死ねっ!」


 俺は椅子の上に乗り、後ろ向きに飛んで光から距離を取る。

 宙で魔導書のページを捲る。

 木で止められないのなら、こっちを試すしかない。


「破壊よ、我が元に集いて炎を象れ。禁魔術、『破滅の豪炎ペルデルスフィア』」


 俺の手から真っ赤な光の玉が現れ、ゴドーへと向かう。

 青白い人魂は、みっつとも光の玉に吸い込まれるようにして消えていった。


「なっ! そんな馬鹿なことがぁっ!」


 人魂を吸い込んで膨れ上がった光球は、ゴドーの肩に直撃した。

 光が身体に吸い込まれていった次の瞬間、ゴドーの身体が肩を中心に爆発した。


 腕やら頭部やらが四散し、ゴドーの象徴だったシルクハットがゆっくりと宙に舞って地に落ちた。

 俺はそのシルクハットを足で踏み躙る。



 剣士より、魔法を扱うものの方が厄介そうだ。

 発見が遅れれば不意打ちをくらいかねない。

 俺は杖を持っているものを探すが、闘う意思のあるもの自体、ほとんどいなさそうだった。


 だったら次は、逃げる相手を狩ることにしよう。

 不思議とそれに抵抗感はなく、むしろ義務感のようなものさえ感じた。


「な、な……なんで、なんでこんなことしたのよっ! 貴方、何考えてるの!」


 声を震わせながら、ミーシャが俺に叫ぶ。

 俺が睨むと、彼女は小さく悲鳴を上げる。

 きっと俺は今、よっぽど冷たい目をしているのだろう。


 俺は無言のまま、彼女に手を向ける。


「わ、私も殺す気!? どうしてっ! いい友達になれるって、そう思ってたのに!」


「俺も、そう思ってたよ」


「何が、何が気にくわなかったのよ! こんなの、どこにでもあることでしょ!」


「ああ、どこにでもあるな。言われてみれば、俺の故郷でも似たようなことがあった」


「だったら……」


「俺は、される側だったがな」


 俺は包帯の巻かれた、自分の顔の左半分を指で示す。


「あ……」


 小さく零し、口を開きながらミーシャは黙る。

 数秒沈黙が続いた後、ミーシャが喚きだす。


「わ、私が買ってあげたのよ! その服も、その靴も! 私が……私が、貴方に買ってあげたのよ! 私が何をしたっていうのよ! ただ、ちょっとショーを見に来ただけじゃない! 貴方、どうかしてるわっ!」


 俺は無言のまま、自分の顔に当てていた手をミーシャへと向け直す。


「いっ嫌っ! イヤァッ! なんで、なんでェッ!」


 ミーシャが自分の両腕で顔を隠し、縮こまる。


 恩があるのは確かだ。

 一緒に店を回っていて、楽しかったのも確かだ。

 苦しめずにぶっ刺してやろうと考えていると、俺とミーシャの間にメアリーが立ち塞がった。


「メアリー、どいてくれ」


「……ミーシャを殺したら、カタリ、もう……引き返せなくなってしまいマス。今のカタリは、変デス。ワタシの……魔導書のせいなんデスよね? ミーシャを殺したら、きっとそのままカタリは変わってしまいマス。だから、絶対にどかないデスッ!」


「…………」


 それを聞いても、特に何も思うことはなかった。

 ただ、自然と魔導書を持つ手に力が入っていて、紙に皺が寄っていた。


「そうか」


「カタリ、わかって……くれましたカ? 正気に、戻っ……」

「俺をわかってくれてないのは、お前の方だろ」


 俺の言葉に、メアリーは閉口する。


「変わったのが魔導書のせいだとしても、それを望んだのは俺だ」


 脅しの意味も込め、メアリーに向けている指を曲げ、俺は音を鳴らす。

 それが最後の通告のつもりだった。


 メアリーは退かなかった。


 俺の横から、細く黒い根がゆっくりと伸びる。

 その軌道がゆっくりと傾けられ、メアリーへと照準を合わせる。

 メアリーはぐっと目を閉じ、両手を広げた。


 黒い根がメアリーへと向かう。


 メアリーに当たる瞬間、黒い根は器用に軌道を曲げ彼女を避ける。

 そして背後にいるミーシャの、胸部を貫いた。


「あ”……嫌、死にたくな……パ、パ……」


 がくんと、ミーシャの首が前のめりになる。

 メアリーがゆっくりとミーシャを振り返り、それから泣き叫んだ。

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