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3

 休み時間、黄坂に引っ張られ、トイレまで連れてこられた。

 黄坂はタイルの上に俺を引き倒し、俺を見下げる。


 黄坂の後ろから、二人の男が現れる。

 ガタイのいい坊主頭が青野あおの、薄い金髪の優男が赤木あかぎ


 よくこの三人でつるんでいることから、苗字を取ってクラスでは信号トリオとも呼ばれている。


「どうせまた明日から来なくなるだろうし、徹底的にやるとするか」


「俺ちゃんも同じこと考えてたわwww」


 赤木が無表情で俺を睨む。

 黄坂が赤木の言葉に同調し、歯を見せて笑う。


「警察沙汰になるようなことは、気を付けてくれよ。黄坂、お前はいつもやりすぎるから……」


「大丈夫っしょ、またお前の親父に頼んで有耶無耶にしてもらえばいいじゃんwww」


「あまり父に頼りたくはないんだがな」


 赤木の父親は、暴力団やマスコミと繋がりのある大企業の社長らしい。

 警察にも顔が利くらしく、よく教室で黄坂が自慢していたのを覚えている。

 嘘か本当かはわからない。



「ぱんぱかぱーん、人の顔に煙草押し付けたらどうなるののコーナーでぇっすwwww青野、しっかし押さえとけよ?」


「うす、任せてくれ。幽霊部員とはいえ、オレ、柔道部だからよ」


 青野が俺の後ろに回り、両手を押さえ込む。


「おいおい……顔は目立つだろう」


「じゃあどこならいいんよ? あ、チンコとかいいんじゃねwwwやべっ、テンション上がるわwww」


 笑いながら、黄坂が火の着いた煙草をゆっくりと俺に近づけてくる。


「やめっ! やめてくれっ! やめてくれぇっ! 優、俺を助けてくれぇっ!」


 俺の声を聞き、黄坂達はまた一層と笑う。


「だーかーらー、お前は優ちゃんに騙されたんだっつーのwww」


「そんなわけっ……」


「この期に及んでまだ否定とか、お前ストーカーじゃんwwwやべぇ、キメェwww」


 黄坂が、煙草の火を俺の頬に押し当ててきた。

 熱い。

 熱いなんてもんじゃない。頬が、頬の細胞が焼き切られている。そのことがはっきりとわかった。


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!」


 叫びながら暴れるが、がっちりと青野に身体を押さえられているせいで、びくともしない。


「おい黄坂! 顔は目立つって言っただろう!」


「やべっwwwノリでやっちまったわwwwでもどうせだかんよ、もっと顔面クレーターだらけの不細工にしてやろうぜwww」


 続けて二度、三度、俺の顔に煙草の火が押し当てられる。

 その度に俺は絶叫したが、誰もトイレに助けに来る者はいなかった。


 何度、顔に煙草を押し付けられただろうか。

 顔の左半分の細胞が壊死しているようで、感覚がない。片目もやられた。


 辺りには、俺が痛さに堪えられず漏らした後、吐いた胃液、千切れるほど噛みしめた舌から吹き出す血が散らばっていた。


「おいおい……ここまでやってしまったら、殺して埋めた方が隠すのは楽だぞ」


「え、ツマンネー、俺ちゃん、カタリが不細工面で必死に生きてくのが見たかったてぇーwww」


「だったら他にやりようはあったんだよ。まったく、黄坂は……」


「だって、前んときからインターバルあったから張りきっちまってwww」


 赤木と黄坂はまるで良心の呵責など感じていないようで、俺の前でへらへらと、日常会話のように俺の処分の話をしていた。


「……死……ね」


 口を動かすと、焦げ固まった唇の表面が剥がれ落ちた。


「死ねってwww死ぬのはお前なんだけどwwwマジ受けるわwww」


 言いながら黄坂は立ち上がり、俺の両肩を押さえる。そしてそのまま顔面に膝蹴りを噛ましてきた。


「あぐっ!」


 爛れた皮膚が剥がれ、欠けた歯がタイルの床を転がった。


「で、これ、どうしたらいいんよ赤木www引き籠りだから顔見せないし、逆に大丈夫だと思うんだけどwwwカタリの顔がどうなっても気にする奴はいないだろwww」


「……なるほど、それ、いいな」


「え、マジで言ってんのwww」


 黄坂が訊き返すのを無視し、赤木が俺の前に立つ。


「おい、カタリ。お前のことが騒ぎになったら、お前の家に火を着けるぞ。それが嫌だったら、病院も行かず、部屋に引き籠って誰にも顔を見せるな。いいな? お前は深夜まで学校に隠れて、それからバケツでも被ってこっそり家に帰れ」


 言いながら、赤木が俺の胸部を蹴飛ばす。


「名案www赤木っち鬼畜すぎぃwwwでもそれ、こいつがばらしたらどうすんのwww?」


「仕方ない。父に頼んで保険はかけておくさ。これならお前も満足だろう?」


「赤木マジ最強www神かよwww」


 黄坂が最後に俺の口に煙草を放り込み、舌に押し付けて火を消した。

 もう叫ぶ気にも、暴れる気にもなれなかった。



 俺は、夜中の二時までトイレの個室にいた。

 もう涙も何も俺の中には残っていなかった。少なくとも、そのときはそう思っていた。

 でも、家を見ると、一気に涙が出てきて、俺は絶叫した。


 俺の家は、ごうごうと燃え上がっていた。

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