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 北と南で富裕層と貧民層に綺麗に分かれている街、ミーデニガンド。


 北部には綺麗な建物が並び、優雅に日傘なんかをさして散歩している人を見かける。


 南部は道がまともに舗装されておらず、廃墟かと思ったところから人が出てきたり、道の脇で寝ている人間や物乞いなんかが見られる。

 よくもまあ、ここまで二極化が進んだものだ。


 北部で乞食をやった方が金がもらえそうなものなのだがと思ったが、そういえば北部で警備兵らしき人にどこかへ連れて行かれている貧しそうな人を見たような気がする。

 向こうは取り締まりが厳しいのかもしれない。



 俺とメアリーはクラスメイトの情報を集めるために最初は北部をうろついていたのだが、俺達の学生服姿が悪いのか、冷笑の目を向けてくるものばかりであった。

 特に俺の服は、芹沢の魔法を受けたせいで背が焼け焦げて穴が開いていた。


 こっちから話し掛けてもまともに答えてくれそうにないと思って南部に移動したのだが、これまた失策。

 誰に聞いても情報料を寄越せと返された。

 本当に知っているのかも怪しいし、それに何より俺達はここの金を持ってなどいない。

 あらためてハンナが優しかったことを実感した。



「カタリ……どうしマスカ? まだ、北部に戻った方がマシなんじゃあ……」


「かもしれねぇなぁ……」


 こっち側は景観が最悪なだけに留まらず、悪臭も酷い。

 生まれてから身体を洗ったことなどないといった風貌の人間を何人も目にした。


 それに乞食が寄ってきて、金などないと言ってもなかなか引き下がってくれない。

 クラスメイト達が南部に立ち入っていたともあまり考えられない。


「ネェちゃんヨ、ネェちゃんテ、オイ」


 歩いていると、急に端に座り込んでいる奴からメアリーが声を掛けられた。


「え? は、はい?」


 メアリーが混乱気味に立ち止まったので、俺は男のメアリーの間に立つ。


 男は頭に布を巻き、ボロボロの服を着ていた。


「なんだ、メアリーに何か用かよ?」


 男はしゃがんでいるまま、俺の足許を指差した。

 ほとんど土と同化していて見えなかったが、どうやら男は布を地面に敷いていたらしい。

 俺の足が、その布をわずかに踏んでいた。


「え? あ、ああ悪い」


 すっと足を退けると、その下に金属片のようなものが落ちていた。


「オマエ、踏んだろ? 買い取れ、買い取れヨ」


「え?」


 どうやら露店商のようなものだったらしい。

 俺がアクセサリーの類を踏んで壊してしまったのかと思いきや、他に布の上に並べられているものも鉄くず擬きのようなものばかりだ。

 捨てられていたのを拾ってきましたといった感じがする。


 恐らく最初にメアリーに声を掛けたのは、この街では身なりがかなり綺麗な方なので金を持っていると思い、宣伝のつもりだったのだろう。

 そこで俺が商品を踏んだので、これ幸いと押し売りする気だ。


「いや、悪いけど金ないし……」


「買い取れヨ!」


 男がすっと立ち上がり、声を荒げる。

 辺りに怒声が響くが、周りの人間はまったくこちらなど気にしていないようだっだ。

 きっと、よくあることなのだろう。


「メアリー、走るぞ」


「え?」


 俺はメアリーの手を引いて走り、建物間の狭い道へと入り込んだ。


「買い取れヨ! 買い取れヨ!」


 思ったより相手は早い。

 商品を踏まれて怒っているにしては、よくもまあその大事な商品をほっぽりだしてここまで追いかけてくるものだ。

 そりゃそうか。


「仕方ねぇな……」


 蔦でも召喚し、身体を二つに裂いてやるか。

 そのために目立たない裏路地に逃げたという節もあった。

 俺は脇に挟んでいた魔導書を片手で開き、ページを漁る。


『……何をするつもりである?』


 トゥルムの声がして、俺はふと我に返る。


 俺は今、たまたまちょっと揉めただけの相手を殺そうとしていた。

 蔦で転がすくらいならばいざ知らず、なぜ先に殺すという選択肢が浮かんだのだろうか。


 俺は開きかけた魔導書を閉じ、より強くメアリーの手を握って走った。





 どれくらい走っただろう。

 かなり裏路地の奥まで入り込んでしまったが、しかしなんとかさっきの男を撒くことができた。


「カタリ、足……」


 俺は足を曲げ、自分の足を見る。

 靴下が破れ、血塗れになっていた。

 おまけに怪我したところで吐瀉物のようなものを踏んでしまい、なかなかに最悪だ。


「大したことねぇよ。メアリーは大丈夫か? 靴、サイズ合ってねぇから走り辛かっただろ?」


「ワタシは大丈夫デスけど……」


 俺を追いかけてきたメアリーは裸足だったため、俺の靴を貸している。


「靴、やっぱり返しマス……」


「平気だって」


「だって怪我したままの足だと……。この辺りはあまり清潔ではなさそうデスし、感染症になるカモ……」


 片方だけでも、と靴を返そうとするメアリーとあれこれ言い合いをしながら裏路地を歩く。


 早く表通りに出た方が良さそうだ。

 干乾びた死体が転がっていたり、壁一面に血がべったりと塗りたくれていたりと……どうも貧民街の裏通り最奥地は、あまり治安が良くないらしい。


「そろそろ手、放さねぇか?」


 俺が言うとメアリーがブンブンと思いっ切り首を振り、むしろ手を握る力を一層と強めた。

 死体を見たばかりのせいか、顔が真っ青になっている。


「カタリは……カタリは、どうしてそんなに平然としているんデスカ?」


 その問いには、俺は答えなかった。

 俺も感覚が麻痺してきたんだろうかと、そんなことを考えながら魔導書に目線を落とす。


「キャァァァァァァッ! 誰かァァァアッ!」


 近くから、女の叫び声が聞こえてきた。


「こら、喚くな! 静かにしろっ! 大人しくついてくるんだ!」


 そしてそれに対する、男の声。


 どうやら、今歩いている道の突当りを曲がった先で何やら事件が起きているらしい。


「ちょっと待っててくれ、様子を見てくる」


 俺はメアリーの手を振り払い、魔導書のページを開きながら走る。


「カタリッ!? ス、ストップ! フリーズ!」


 少し遅れて、メアリーが俺の後を追いかけてくる。

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