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「なんだそれ? ぶっ殺すぅ? オレ様に言ってんのか?」


 芹沢はわざとらしく肩を竦め、愛媛と大宮に目配せし、それから豪快に笑い出した。


「バッカじゃねぇのか? オメェの顔面焼き切って、土下座させてやろうかぁ?」


 芹沢が杖を俺に向ける。


「焼き払え『灼熱(フレンマ)』!」


「破壊よ、我が元に集いて炎を象れ。禁魔術、『破滅の豪炎(ペルデルスフィア)』」


 少し抑え付けられるような反発力を感じたが、それでも何とか光の玉を生成することができた。

 俺は向かってくる炎に対し、光の玉を放つ。


 光の玉は炎と衝突すると、炎を巻き込んで膨れ上がった。


 ニヤニヤ笑っていた芹沢の表情が凍り付く。


「……は?」


 炎を吸って軌道のずれた光の玉が、芹沢のすぐ横を掠めて飛んで行き、あいつの真後ろで破裂した。

 芹沢はゆっくりと振り返り、大きく抉られた地面を見ると一気に顔を青褪めさせる。


「え? カタリも魔法使えんの?」


「芹沢、もう殺しちゃおうよアイツ! ほら、全力でちゃっちゃっとやっちゃってよ!」


 女子陣から野次が飛び、芹沢は顔を引き攣らせながらもまた俺と向かい合う。


「や……焼き尽くせ……」

「その蔦は地の果てから天にまで伸び、やがては神々を穿つ一本の槍となった。禁魔術、『魔界庭園の暴れ者オルトゥムアリムヘデラ』」


 芹沢の足許に魔法陣を浮かべ、そこから細目の蔦を伸ばす。

 芹沢の足首に巻き付け、あいつの身体を宙吊りにする。


「何をしたぁっ! 降ろせェッ! 降ろしやがれェッ!」


「「キャァァァァァァッ!!」」


 愛媛と大宮が絶叫し、一目散に俺とは逆方向へと逃げ出した。


「オレ様を置いていくんじゃねぇっ! ふっ、フザケンナァッ! 愛媛のために、オレ様はわざわざここまで付いて来てやったんだぞぉっ! オレ様を助けろぉぉぉおぉっ!」


 宙吊りにされているせいか、はたまた怒りのせいなのか、芹沢は顔を真っ赤にして怒鳴る。


「知らない! 私知らないもんっ! 何もしてないもんっ!」


「芹沢が全部悪いんじゃんっ! ね? カタリくん、私は止めようと思ってたんだけど、逆らうのが怖かったの! そう! だから私は悪くないからっ!」


 愛媛と大宮は痛烈な掌返しをかまし、走って逃げていく。


「テメェらそれでも人間かぁっ!」


 芹沢は吠えるように叫ぶが、二人は振り返りもしなかった。


 当然、見逃すつもりはない。

 俺は魔導書のページを捲る。


「影よ、我が従者と成りて災厄を撒け。禁魔術、『闇夜の使い魔(ティネットシネット)』」


 自分の影に重ねるように魔法陣を浮かべる。

 影が浮き上がり、俺から離れる。

 念じると二つに分離し、それぞれ小さな悪魔のシルエットへと姿を変える。


「キャハハハァッ」


 使い魔は人工的な鳴き声と共に宙を飛んで愛媛と大宮の後を追い、彼女達の背に抱き付いて引き倒した。


『妾の下僕よ、魔法を試すのはよいが……使い魔は燃費が悪すぎる』


「もう決着はついてるんだから、問題ないだろう」


『すでに勝敗が決しているからこそ言っておるのだ。連続で使い過ぎれば、魔力はともかく、心も急速に蝕んでゆくぞ』


「またその話か」


 前にも答えたはずだ。

 そんな問いかけは、悪魔らしくないと。

 トゥルムもそれに笑って返したはずだ。


「解け! 解きやがれやぁっ! 殺すぞぉっ!」


 頭上から芹沢の喚き声がする。

 その手にはまだ執念深く杖が握られている。


「芹沢、そこにある大岩に火魔法を当てろ」


「ゴミがオレ様に命令するんじゃねぇっ!」


 芹沢が俺に杖を向ける。

 俺が手をグッと握ると、蔦の一部が伸びて芹沢の首に巻き付いた。


「ひ、ひぃっ! やめろ、やめろぉっ!」


「お前が言う通りに動くなら、生かしてこき使ってやる」


 芹沢はがむしゃらに暴れていた身体を止めて少し黙った後、大岩へと杖を振った。


「……や、焼き払え……『灼熱(フレンマ)』」


 宙吊りの芹沢から放たれた火炎が大岩を包む。

 振った勢いで杖が芹沢の手を擦り抜け、落ちて地面に刺さった。



 枯草に少し引火した程度だが、岩はかなり高温になったはずだ。

 俺は使い魔が押さえつけている愛媛と大宮の方へと指を向ける。


「こっちまで引き摺って連れて来い」


「イヤァァァッ! 私ッ、何もしてなイイイイイッ!」


 使い魔は襟を掴み、抵抗する彼女達を俺の前まで連れてくる。

 そのまま使い魔へ、大宮の顔面を熱した大岩にぶつけるよう指示を出す。


「ヤ、ヤダッ! なんで、なんでこんな、イヤ、イヤ嫌嫌嫌嫌いイギャァー!!」


 岩と顔が接触するとジュウ、という音と共に白い煙が上がって、肉と髪の焦げる臭いが辺りに漂った。

 それから辺りに響く、金切り声。

 凄惨な光景ではあったけれど、なぜか俺は目を背けようとか、耳を塞ごうとか、そんなことはまったく考えなかった。


 たっぷり一分間続けてから、俺は使い魔に岩から離すよう命令を出した。

 出したのだが、岩と顔がくっついていてなかなか離れなかった。

 ぶちぶちと皮膚の千切れる音がして、岩には黒焦げのマスクが残った。


 大宮の顔は、焦げた人体模型のようだった。

 本人にもその無様な顔を見せてやりたいが、気を失っているようだったし、それに何より眼球も使い物にならなくなってしまっている。


 使い魔が腕を離すと、力なく顔から地面に落ちた。


 しん、と場が静まり返っていた。

 反抗的だった芹沢も、耳と目を塞いで喚き散らしていた愛媛も、今や呆然と口を開き、グロテスクに変貌したクラスメイトの顔を、釘付けにされたようにただじっと見ているばかりだった。

 

魔法樹を焼かれたローズが、彼らと同じ表情をしていたことを、なんとなく思い出した。


「ところで愛媛、お前の顔の怪我を治すためにわざわざここまで来たんだったか?」


 俺の問い掛けがスイッチになったらしく、愛媛の凍り付いていた表情が解ける。

 精神を守るため現状の理解を拒んでいた脳が、矛先が自分に向けられたことでそんな甘ったれたことをいっていられなくなったのだろう。


「イヤァッ! やめて! なんでもするから! だから、やめてっ! 本当にっ! 本当にっ!」


「心配性だな、安心しろ」


「やめてくれるの? やめてくれるんでしょう? ね? ね?」


「一本切り傷が増えたくらい、気にならない面にしてやる」


 愛媛の絶望しきった顔を堪能してから、俺は使い魔に指示を出す。

 大宮と同様、高温の岩へと顔面を擦り付けてやった。


 焼けていく森の中、愛媛の悲鳴だけが響き渡る。

 大宮のときで学んだので、意識がなくなるギリギリを見極め、離しては付けを繰り返す。

 その度に顔の皮膚が岩に付着し、そして千切れた。

 単に押し当てているときよりも、皮膚が千切れたときの方が大声を上げて泣き喚いた。


 やがて喉が潰れたのか、頭がいかれたのか、愛媛は何も言わなくなった。

 ただ離してから岩に近づけるとき、恐怖からか身体の震えが強まるので、まだ意識があることはわかっていた。


 俺が指を向けると、使い魔が振り返り、愛媛の無残な顔をこちらに向ける。


「おい芹沢、あれをどう思う?」


「そろそろ降ろしてくれぇっ! 擦れた蔦が、足に喰い込んできたんだ! このままだと足が……」


「あれをどう思うって聞いてんだろうがぁっ!」


「き、気持ち悪い……」


 芹沢の言葉を聞き、愛媛の剥き出しの表情筋がわずかに蠢いた。

 まだ顔の神経が死滅していなかったのかと、俺はそれが少し意外だった。

 もっとも、その表情がどういう表情なのかはわからなかったけれども。


 俺は自分の足で愛媛と大宮の手足を踏み潰した。

 骨が折れ、皮が剥がれ、血が吹き出し、肉が抉れ、足の形が変わるまでやった。


 これでもう、一生歩けはしないだろう。


「なぁ! 降ろしてくれッ! 足が、足が千切れちまうッ! 骨の近くまで蔦が来てるんだ!」


 芹沢が叫ぶ。


 俺は魔導書を開きながら、芹沢を見上げる。


「手下にするっつったけど、あれ、嘘だから。杖なくても魔法は使えるだろ? 全力で抵抗しろよ」


「は?」


 使い魔に指を向けると、片方の使い魔が鎌へと変形した。

 残された使い魔に宙に浮かんでいる鎌を掴ませ、芹沢へと向かわせる。


「キャハハハハッ」


「焼き払え『灼熱(フレンマ)』! フレンマ! フレンマァァッ! フレンマァァァァアッ!!」


 身体が弱っており集中できない状態だからか、杖がないからか、芹沢の手から放たれる火魔法は林檎ほどの大きさしかない惰弱なものだった。

 声を張り上げてはいるが、それに反比例するように勢いは落ちていっている。


「キャハハハハハッ」


 使い魔は鎌で防いだり、わざとぶつかったりしながら芹沢へと向かう。

 弱った火魔法などものともしていない。


 芹沢まで到達した使い魔は、絡まっている蔦ごと足を斬った。

 芹沢の身体は逆さまのまま落下し、そして首に巻かれている蔦のため宙に固定される。

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