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 期待と不安を胸に廊下を歩く。

 髪は整えはしたが、散髪には行かなかったので肩にかかるほど長い。

 女っぽいと馬鹿にされるだろうか? 登校は明日にして、床屋に行くべきだっただろうか?


 教室の前まできて、つい足を止めてしまう。

 黄坂達が退学になったからといって、虐めが完全になくなっているかどうかはわからない。


 また依然変わらずだったらどうしよう。

 優にも、昨日あんなに喜んでくれていた両親にも申し訳ない。


「うわ、カタリじゃん。マジで来てやんのスゲェwwwおもろwww」


 後ろから声を掛けられ、振り返る。

 声の主は、退学したはずの黄坂だった。


「え? な、なんで……」


「いや、カタリいないとマジ寂しかったわwww主に俺ちゃんの拳がwww」


 いるはずがない。

 なんで、どうして黄坂がここにいるんだ。

 おかしい。絶対におかしい。

 だって昨日、優が黄坂は退学したと言っていた。


 黄坂は俺の肩に手を回し、教室内へと押し込む。

 俺が教室に入ると、どっと哄笑が湧き起こった。


「本当に来やがったよ、やっぱマゾって本当だったんだな」「賭けは俺の負けかよ……クソ、あいつからカツアゲしなきゃ気すまんわ」

「髪伸ばしじゃん、気持ち悪……」「カマっぽいし似合ってんじゃない?」

「可愛らしくていいじゃないか。なかなか俺の好みだぞ」「ドン引きだわ」


 教室中から一気に向けられる、悪意の籠った笑い、視線。

 吐き気が込み上げてきて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。


 優、優はどこだ、優。

 ぐにゃりと歪む視界の中、俺は必死に優を探す。

 ただ一人、このクラスで俺の味方であるはずの優。

 情報の齟齬を説明してほしいというより、とにかく悪意以外の感情に触れたかったという部分が大きい。


「ほら、私が言ったら来たでしょ? だってあいつ、馬鹿だもん」

「すげぇwww優ちゃんマジ神www」


 優は、黄坂と楽しげに喋っていた。

 それを見た瞬間、俺の中の何かが切れた。


「うっぶ……おぶぉろぇ……」


 朝食と、母親が気合いを入れて作ってくれた晩飯が、ストレスに押し出されるようにして口から流れ出た。


 吐瀉物の一部が目に付く。スープに混ざった、ミンチの破片。


 俺の母は、御馳走というと決まってハンバーグを作る。

 小さい頃の俺の大好物だったからだ。

 今となってはそこまででもないし、それになんだかガキっぽいからお祝いと言ってハンバーグを出されるのは少し恥ずかしい。

 でも、そんな母親の不器用な愛情が、ちょっとだけ嬉しかったりもしていた。


「うわっ汚ねぇwww吐きやがったよwww」

「くせぇ……」「キモッ」「来て早々ゲロとかなんのテロだよ」


 俺は床に座り込んで、口を押さえる。


 パシャリ、スマートフォンのカメラ音が鳴った。

 ひとつ鳴ったら山彦のように、パシャリ、パシャリとこだましていく。


 がらりと教室の扉が開くと、急にカメラ音と笑い声が止み、一気に静まり返る。


「お前達、これは何の騒ぎだ?」


 どうやら担任の先生が教室に入ってきたらしい。


「おや……見知らぬ生徒がいると思ったら、ゲロリじゃないか! 学校に来てくれたんだな、先生は嬉しいぞ!」


 先生は俺の名前のかたりを捩り、ゲロリと呼んだ。

 そこで静まっていた笑い声が、再び教室中に響き渡った。


 今のは、当然間違えたわけじゃあない。

 わざとだ。

 数か月前も、先生はこういう人だった。

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