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 メアリー?

 嘘だろ、おい。


 俺は必死にメアリーを抱き起す。

 頭から流れ出ている血を止めようと、傷口を手で塞ぐ。

 しかし血は、指の合間をすり抜け流れ落ちていく。


「あ……救急車、救急車を呼んでくれ! メアリーが、メアリーが……」


「なんだ? 気でも触れたかよ。こんなところに、救急車なんかあるかっつうの、馬鹿が。おい、水っち、とっととこいつも殺しちまおうぜ」


 矢口が面倒臭そうに答える。


「まだ、メアリーは生きてる! 心臓、動いてるから! だから……早く、メアリーを……」


「あ、まだ生きてんの? でも、時間の問題だろ。血だらけの女とヤル気もねぇし、とっとと殺してやっから」


 矢口は俺の腕からメアリーを奪い、土の上へと勢いよく引き倒した。

 メアリーの身体は力がなく、まるで人形のようだった。


 矢口はそのままメアリーの腹部に足を乗せ、笑いながら踏み潰す。


「や、やめろテメェッ!」


「うっせぇな、だったら止めてみろ。ほら、ほらほら、ほーら」


 矢口がメアリーの腹を靴の爪先で蹴って転がす。


「殺すっ! 殺してやるっ! 殺すっ!」


 俺は矢口に掴みかかるが、割り込んできた水野に木槌で顔面をぶん殴られた。


「が……あ、殺す、殺す……」


 視界が霞んで、脳がぼんやりとする。

 しかし、ここで倒れるわけにはいかない。

 必死に意識を保とうと、憎悪と殺意で自分を焚き付ける。


「矢口、カタリを生きたまま崖から落としてやれ。ちょっとした余興にはなるだろう。死体を野ざらしにしていて、万一レイアに見られでもしたら弁解が面倒になる」


「了解了解」


 矢口が俺の服の襟を掴み、引き摺る。

 崖端まで来てから、矢口は俺の顔を覗き込んで笑う。


「なあ、なあ、カタリ。命乞いしたら、助けてやろっか?」


「……死、ね」


 矢口ははぁ、とつまらなそうに溜め息を吐く。


「お前、死ぬ直前までつまらんのなマジで。ま、どの道落とす気だったけど」


 気力を振り絞り、俺は矢口の手首に思いっ切り噛みついた。

 噛み潰してやる気で顎に力を込めると、歯は思ったよりも深くまで喰いこんだ。


「がぁぁぁあっ! て、テメェッ!」


 矢口はぶらぶらになった手首を押さえ、数歩後退る。


 俺は水野と矢口の後ろに控えている赤木を睨む。

 赤木はもう狩りが終わったと思っているのか、あの薄ら寒い笑みを消し、いつもの無表情で突っ立っている。


「さっさとしろ、矢口。そろそろ戻らないと、他のメンバーが捜しに来るかもしれないぞ」


 赤木は命令だけ出して、自分はずっと高見の見物を決め込んでいる。

 徹底して自分の手は汚さないつもりらしい。


 まだ、まだこんなところでは終われない。

 こいつらがこの先も今までと同じように生きていき、他人を踏み潰していきながら幸せに暮らす。

 そんなことは、絶対に許せない。


 殺す、なるべく惨たらしくぶっ殺してやりたい。


『ふむ、カタリ、か。いい憎悪と殺意である』


 急に、脳に直接刻まれるような声が聞こえてきた。


 それと同時に、自分の手がいつの間にか何かを握っていることに気がついた。

 水野にぶん投げたはずの、あの分厚い本だった。


 なぜ、なぜこれがここにある。

 抱えたままでは逃げきれないと判断し、確かに手放したはずだ。


『力を求めるのならば、血を欲するのならば、妾に従い、妾に心を捧げよ』


 辺りに誰か人が増えた気配はない。

 まさか、この本か?

 この本が、俺に思念か何かを送ってきているのか?

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