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もと勇者御一行様 ~還暦からの世直しじゃ!~  作者: 永月裕基
止まった時間が生んだもの
9/44

生命線

休憩中は前回同様各々が自由に過ごした。

ポルタとアンナは怪我の手当てと魔力の補給をしていた。ロベルトはストレッチをして体を休めている。レイナルドはまた悩んでいた。

(俺はどうしたいんだ)

苦悶の表情を浮かべながら悩むレイナルド。

(俺は早く全国を回らないといけないんだ。その為にダナトスさんやページさんからお金や物を取った。なのに・・・)

レイナルドは他の3人を見た。

(こいつらと居ると昔みたいに過ごしたくなっちまう)

3人を見つめるレイナルドは、とても苦しそうだった。

「今何時くらいかな」

アンナがポルタに聞くとポルタは太陽の位置を確認した。

「今は16時40分くらいだと思うよ」

ポルタは太陽の位置でおおよその時間がわかるというちょっとした特技を持っている。

「もうそんな時間なの」

そう言うとアンナはレイナルドを見た。

「ねえレイ君。今日って何処に泊まるの」

アンナが聞くとロベルトとポルタもレイナルドを見た。

ここから行けるのはルドルフが住んでいる山にある小さな村かリンドベルクくらいだった。

レイナルドは悩んだ挙句答えた。

「野じゅ-

「私、野宿は嫌だよ」

レイナルドが言い終わる前にアンナが口を挟んだ。有無を言わせないような圧力で言われて、さすがのレイナルドも何も言えなかった。再度考える。

レイナルドは小さくため息をついて言った。

「リンドベルクに帰ろう」

その答えはロベルトにとって予想外の答えだった。リンドベルクに帰ればポルタがページに何があったか知ることになる。そうなればおそらくアンナは旅に出ることを止める。レイナルドにとっては良い事なんて何一つ無いハズ。

ロベルトはレイナルドの決断に何か裏があるのか考えたが、気にしても仕方ないので監視を続けることにした。

「休憩はもういいだろ。じゃあ帰るぞ」

レイナルドがそう言うと4人は準備を整え帰路に着いた。



帰る道中4人は今日の出来事を語り合っていた。

「今日は色々あったね」

アンナが今日の出来事を振り返った。

「初めて見る外の景色に、初めての実戦。あとポルタの成長した姿とか」

そう言われたポルタは少し気まずそうだったが嬉しそうだった。

「すっごく楽しかった」

満面の笑みで言うアンナにポルタもロベルトも笑顔になる。

「スリアも来ればよかったのに」

アンナの言葉にレイナルドとポルタは気まずそうな顔をする。

「スリアも来れば同級生5人で伝説になれたかも知れないのにな~」

そう言うアンナは残念そうだった。

「ねえねえ。もう一回誘ってみない?今度は4人で行こうよ。そうすればきっと行きたくなるよ」

アンナが誘うとポルタはレイナルドをチラッと見る。レイナルドは何とも言えない表情を浮かべており、何も言おうとしない。

「そうだな。それも良いかも知れないな」

アンナの提案にロベルトは乗った。ロベルトは正直言ってこの提案に本気で答える気は無かった。なぜなら考える意味が無かったからだ。

(リンドベルクに戻れば旅は終わるだろう。そうなればスリアを誘う話も流れる)

そう思っているロベルトにとって明日の予定や未来の話は意味が無かった。

「そ、そうだね。また誘ってみようか」

ポルタもアンナの提案に乗った。

「レイ君もいい」

「ああ、そうしよう」

アンナの問いにレイナルドは生返事をした。

アンナは嬉しそうにしている。アンナは今日の体験が余程嬉しかったのだろう。終始笑顔でみんなと話しをしている。その姿が更にレイナルドを悩ませた。

(俺は、俺は・・・)

どんどん表情が暗くなる。

「ドン!」

突如大きな音が鳴り響いた。音の方向は城の方からだ。

「何かあったのか・・・」

レイナルドは険しい表情を浮かべた。

「おい、行くぞ」

レイナルドはそう言うと城に向かって走り出した。



「これは・・・」

城に向かう道中でレイナルド達は倒れた荷車を見つけた。どうやら音の主は荷車だったようだ。レイナルドは不謹慎だが少し安心した。

ただ、その光景は悲惨だった。

頭を潰され横たわる馬に、バラバラに壊された荷車。所々血が飛び散っているのは戦闘の形跡だろう。

「何があったんだ」

4人は辺りを調べた。荷車の近くにはゴブリンの死体が2つあった。どちらも剣で切られた跡がある。

「切った人が生きてるかも知れない」

そう思って周りを見ると木にもたれかかる人がいた。しかし、既に息は無かった。手には剣が握られており最後まで戦ったのが伺える。

「こっちに誰かいるよ」

アンナの方に行くと森の近くで倒れている男がいた。

「まだ息があるな。ポルタ。ポーションを飲ませろ」

レイナルドの指示通りポーションを飲ませると、男はゆっくりと目を開けた。

「あんた達は・・・」

男は状況が理解できてないように問いかけた。

「俺たちは音を聞いて来ただけだ。あんたは誰だ。なんでここに倒れていた」

男はレイナルドの問いに答えた。

「俺はサジェフ。荷車の主だ」

「リンドベルクに商品を輸送中ゴブリンの群れに襲われたんだ。護衛の傭兵が戦っている間、俺はこの木に隠れてた。そしたら見つかっちまって頭を叩かれてそのままここで気を失ってた」

その話を聞いている途中でレイナルドは険しい表情を浮かべていた。

「護衛の傭兵はどうなったんだ」

サジェフの問い掛けにロベルトは黙って首を横に振った。

「そうか・・・」

サジェフはうつ向き残念そうに言った。

「何を運んでいたんだ」

そう聞かれた途端サジェフは少し顔を曇らせた。

「だたの日用品だよ」

明らかに様子が変わった事にレイナルドの表情はどんどん険しくなる。

「なあ、もしかして運んでたのは食料か」

レイナルドの問いに驚くサジェフ。その様子でレイナルドは輸送品が食料だと確信した。

「隠さなくていい。強奪する気も無いし、物も無いだろ」

レイナルドの言葉にサジェフは観念した。

「そうだ。食料だ」

レイナルドは何か考え込んだ。するとロベルトが聞いた。

「なあ、食料だったらなんだって言うんだ」

ロベルトが聞くとレイナルドは険しい表情で話しだした。

「この食料はおそらく露店商工会からの食料支援だ。そうだろ」

サジェフは頷いた。それを見て3人の表情も険しくなった。

リンドベルクの食料の物価は以上に高い。この食料支援のおかげで物価が下がり何とかリンドベルクの市民は生活ができてる。だが、食料支援が無くなれば物価は下がらず、品薄で値段が上がってしまう。そうなれば生活ができなくなって最悪餓死する人だって出てくる。露店商工会の食糧支援はリンドベルクの生命線と言っても過言じゃない。

「どうするの」

ポルタが慌てたように言う。アンナもロベルトも落ち着きがない。

「ゴブリンは何体いたんだ」

レイナルドはポルタの問を無視してサジェフに尋ねた。

「確か5・6体だ」

それを聞いて少し表情が和らぐレイナルド。

「2体減って残りは3体か4体。殺れない数じゃないな」

そう言うとレイナルドは立ち上がり森の方を向く。

「おいレイナルド。まさか行く気か。森は危ないって言われただろ。それにもうすぐ夜だ。危険すぎる」

「そうだよ。それに兵士を呼べば良いじゃん。そうすれば兵士の人がどうにかしてくれるよ」

ロベルトとアンナが必死に止める。そのようすはレイナルドの事を思ってと言うよりは、自分の安全の為に言っているようだった。

レイナルドはそんな2人の姿を見て少し残念そうに言った。

「兵士は呼べない。時間がかかりすぎてゴブリンを逃がしちまう。それに」

「俺1人で行くから良い」

その発言にロベルトとアンナは少し安心してしまった。さっきまでの怯えた様子とは変わり、少し落ち着いた様だった。

「おい。積み荷は何個あった」

偉そうにサジェフに尋ねるレイナルド。

「大きな箱が4つだ」

それを聞いたレイナルドは辺りを見渡し足跡を探した。

(ここか)

森の中へ続く足跡を見つけたレイナルドは森に入ろうとした。

「待って」

レイナルドを呼び止めたのはポルタだった。

「なんだよ」

無愛想に言うレイナルド。

「僕も行くよ」

その言葉に3人は驚いた。まさかあの臆病なポルタがそんなことを言うとは思わなかった。

「ポルタ何いってんだよ」

「そうだよポルタ。森の中は凄く危険なんだよ」

ロベルトとアンナが止めに入るがポルタは何も言わない。

「森の中は敵が何体いるか分からないんだぞ」

「生きて帰れないかもしれないんだよ」

必死で止める2人を見つめポルタは言った。

「2人はそんな危険な所に、友達を1人で行かせる気なの」

ポルタの言葉に2人は胸が痛くなった。国の為に危険を冒そうとしているレイナルドを、2人は見捨てようとしたのだから。

「私どうかしてたよ。今日もピンチはあったけど何とかなったもんね。皆で力を合わせれば何とかなるよね」

アンナも行く気になっていた。だがロベルトは違った。

「こいつは友達じゃない」

ロベルトが呟く。

「こいつは自分の事しか考えてないクズだ」

突然ロベルトが声を張り上げると、ポルタを見て話し出した。

「こいつはリンドベルクを出る前にオヤジやページさんを痛ぶって物を無理矢理奪い取ったんだ」

そう言うと次にアンナを見た。

「お前を誘ったのはお前の体を餌に酒場の傭兵を誘うためだったんだ。アイツはお前の事なんて何とも思って無い」

ロベルトはレイナルドの悪行を晒した。そうしないと2人を止めれそうになかった。だが、2人に動揺は見られなかった。

「そんなのは気付いてたよ」

そう言うとアンナとポルタにロベルトは驚いた。

「気付いてた・・何でだ」

ロベルトが問いただすとポルタは話始めた。

「僕が旅立つことを伝えたとき、父さんが「気を付けて」って言ったって言ったよね」

「ああ」

確かにロベルトはそう言った。

「父さんがそんなこと言うはず無いんだよ。父さんだったら何が何でも止めるよ」

今度はアンナの方を見て尋ねた。

「アンナは何で気付いたんだよ。ポルタが言ったのか」

アンナは首を横に振った。

「気付くよ。私の魅力それくらいしかないし。それにレイ君どう考えても私の事好きじゃないじゃん」

ロベルトは驚いた。2人が知っていた事にも驚いたが、何より驚いたのは2人が知っていながらレイナルドを受け入れていたことだった。

「何で、何で許したんだ。許せないだろ。責めるか何かするだろ」

戸惑い尋ねるロベルトにポルタは答えた。

「それは、レイくんが昔みたいに戻ってくれそうだったから。それはロベルトも感じてたでしょ」

その言葉にロベルトはドキッとした。ロベルトも旅の途中で殺そうと思わなくなってたからだ。

「でも、たった1日一緒に居ただけだぞ。それなのに、昔みたいに戻れるわけないだろ」

「だからだよ。ずっと一緒に居れば昔みたいに皆で仲良く過ごせるかも知れない。僕は昔みたいに皆で笑って過ごしたいんだ」

ポルタの真っ直ぐな言葉にロベルトも心動かされた。ロベルトは諦めた様に言った。

「はー全く。お前らはお人好し過ぎるんだよ。これで俺だけ行かなかったら俺が悪者みたいじゃねえか」

「じゃあ」

嬉しそうに言うポルタ。

「一緒に行くよ。そんで4人で食料取り返してリンドベルクの危機を救おうぜ」

そう言って3人はレイナルドの下に集まった。レイナルドは森を向いて「勝手にしろ」と言った。

レイナルドの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。






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