試験
城を出たレイナルド達は目的地を決めるために話し合っていた。
「で、どこに向かうんだ」
ロベルトがレイナルドに尋ねた。アンナもポルタもレイナルドの返答を聞いている。
レイナルドは頭を掻きながら言った。
「決めてねぇ」
その様子に苛立つロベルト。
(親父をあんなにして決めてないだと)
「なんだ。目的もないのに旅立ったのか」
威圧的にロベルトが言うとレイナルドはめんどくさそうに答えた。
「旅の目的はある。全国を回って各国の王の悩みを解決する。そんで解決した証を貰う」
レイナルドはとてもやる気が無さそうだった。
「じゃあ西の国を目指すの」
尋ねるようにアンナが言うとレイナルドは少し迷った後答えた。
「いや、今日は周辺で軽く化物倒してお前らの実力を見極める」
「特におまけ組の方の実力をな」
そう言うとロベルトとポルタを見た。
ロベルトは平然としているが、ポルタは不安そうだった。
「じゃあここら辺に詳しい奴に話聞くか」
そう言うとレイナルドは近くにいた兵士に声をかけた。
「おい、そこの。ここら辺の化物について教えろ」
レイナルドが偉そうに尋ねると兵士は怒った。
「あん、誰に口きいて・・・」
兵士は途中でレイナルドと気づき言葉を止めた。するとその場で土下座をした。
「すいません。すいません。本当にすいません。王子と知らず無礼な事を・・本当にすいません」
レイナルドは許し話の続きをした。
「もういい。で、化物の分布は分かるのか」
聞かれた兵士は地図を出し話し始めた。
「えっとこれがリンドベルク西周辺の地図です」
地図にはリンドベルクが東に書かれている。北は森が広がっており地図に描ききれていない。南にも森が広がっているが、こちらも描ききれていない。東には微かに草原が見える。リンドベルクから草原までは一本道だった。
「ほとんど森だね」
アンナが感想を言う。兵士は気にせず話を続ける。
「この北の方の森ではゴブリンとウルフがよく出ます。たまにゴブリンより強いボブゴブリンやソルゴブリンも出ます」
「なので最初は入らないのが身の為です」
「次に南なのですが、こちらは絶対に入ってはダメです」
「なんでだ」
レイナルドが尋ねる
「ワーウルフが出るんです」
「ワーウルフ。なんですかそれ」
アンナが尋ねると兵士は真剣な顔で答えた。
「ワーウルフっていうのは凶暴な化物の事で、縄張りに入った者を執拗に追い回してくる厄介な奴のことだ。もし追われるようになったら命を諦めるしか無いよ」
兵士の言葉に4人の表情が強張る。
「でも、そんなに強いんですか。ウルフの一種ですよね」
今度はポルタが尋ねる。
「ウルフと名前についるが種族は別なんだ。ウルフは獣族で、ワーウルフは魔獣族だ」
「”魔”がつくのか」
レイナルドが呟く。
種族名の頭文字に魔がつく種族はとても強力で、接触禁止種に指定されている。
「だいたいここら辺に巣がありますよ」
そう言って兵士は地図に✖印をつけた。そこはリンドベルクの真南だった。
「まあ、縄張りにさえ入らなければ問題ないですよ」
楽観的に言うと話を続けた。
「比較的安全なのは東にある平原です。あそこは武器を持たないゴブリンくらいしか出ないので実戦経験を積むには一番いいですよ」
そう言って兵士は地図をしまった。
レイナルド達は兵士のアドバイスどおり平原に向かうことにした。
平原に向かう途中アンナとポルタが楽しそうに話している。
「実戦って初めてだから緊張するね」
アンナが笑顔で話しかけた。
「うん。そうだね」
ポルタも笑顔で返した。仲良く話す2人とは対照的にレイナルドとロベルトは一言も話さない。
2人の間には不穏な空気が流れている。とても話しかけづらい空気だ。
先頭を歩くレイナルドを見つめ、ロベルトは町での決意を再確認した。
(オヤジがあんな状態になっちまったのも、ページさんの店があんなになったのも全部こいつのせいだ)
(この旅の間に絶対殺してやる)
ロベルトは静かにレイナルドを殺す決意を固めた。
レイナルドは今後の計画を考えていた。
(予定外のおまけをどう追い払うか)
(怪我でもさして帰すか)
レイナルドはニヤリと笑った。
「あ、そういえば父さんに旅に出ること言ってなかった」
思い出したように言うポルタ。その言葉にロベルトはドキッとした。
(ポルタがあの状態の店を見たら)
ポルタがあの状態の店を見たら十中八九旅に出ることを辞めてしまう。そうなればロベルトが同行する理由も無くなり、レイナルドを殺す機会も無くなる。そしてアンナが危険な目にあってしまう。
「それは良くないよ。引き返して伝えた方がいいよ」
アンナがポルタに帰るように言った。ポルタも帰る気になっているようだった。
ロベルトはポルタに言う。
「ポルタ。ページさんには俺から伝えておいた」
とっさに嘘をついたロベルト。
「そうだったんだ。父さん何か言ってた」
「気をつけてと言ってたぜ」
ロベルトは胸が苦しかったが嘘を突き通した。
「そっか」
ポルタは納得してまたアンナと話しだした。
「伝えたねぇ」
レイナルドがぼそっと呟いた。
草原に着いたレイナルド達は辺りを見渡した。
どこまでも続いていそうな見渡す限りの草原。初めて見た光景に4人は胸を高鳴らせていた。
「これが外の世界か」
レイナルドは感動のあまり声を漏らす。4人とも国から出た事がなかった。知っていたのは付近の森くらいだ。
「何だかお弁当が食べたくなるね」
アンナが笑顔で言った。いつの間にか漂っていた不穏な空気は無くなり、みんなとても楽しそうだ。
「よし、じゃあこれから初めての戦闘だ。準備はいいか」
レイナルドが声をかけるとみんな自分の装備を確認する。みんなが装備を確認する中、ポルタだけはとても不安そうだった。なぜならポルタは何も持っていなかったからだ。それを見たロベルトがポルタに近づきダガーを手渡した。
「ポルタ。これ使え」
「え、でも・・・」
ポルタは申し訳なさそうにして受け取らない。
「いいから受け取れ。お前の分も用意する約束だった。気にするな」
「ロベルトはどうするの」
ポルタが尋ねるとロベルトは自分の腕を叩いた。
「俺には鍛冶で鍛えたこの腕がある。大丈夫だ」
自信満々に笑顔で答えるとポルタは安心した様子だった。
「ありがとう」
ポルタは笑顔で受け取った。ポルタはダガーを差すところが無いので手で持った。
「よし、じゃあ行くぞ」
レイナルドのかけ声で草原のある通りを歩いた。
歩いてすぐの処でゴブリンの群れを見つけた。
「おい、ゴブリンがいるぞ」
声を落として言うレイナルド。数は3体。数だけで言えばこちらの方が有利だ。
「いきなり3体は多いだろ」
ロベルトが苦言を呈するがレイナルドは聞き入れない。
「ゴブリン3体如き倒せなくてどうするんだ」
バカにした様に言うレイナルドにロベルトはイラついたが他の2人は不安そうだった。
「やっぱり3体は多いよ」
アンナがそう言うとポルタも同意した。
レイナルドはため息を吐いた。
「ゴブリン如きにビビってんじゃねーよ。それに、ちゃんと作戦があるから大丈夫だ」
そう言って作戦を言い出した。
「まずはアンナが魔法で奇襲する。それと同時に3人で一気に襲いかかる」
作戦を聞いた3人は不安そうだ。
「そんなんで大丈夫かよ」
ロベルトが不安そうに言うがレイナルドは自信満々の様子だ。
「アンナの魔法で仕留めれなかったら、そいつはポルタ。お前が殺れ」
「わ、わかったよ」
不安そうにポルタは返事をした。
「残りの2体は俺とロベルトでやる。いいな」
「わあったよ」
ロベルトも渋々作戦にのった。
「じゃあ行くぞ」
レイナルドの指示でアンナが魔法を放つ準備をする。
「はぁぁぁ」
アンナは両手を前に突き出し魔力を溜めた。アンナから出た魔力が手に集まってくる。小さな光の粒は徐々に赤みを増していき拳程の大きさになった。
「ちいせぇな」
レイナルドが感想を漏らす。ロベルトもポルタは何も言わなかったが同じことを思っていた。
「い、威力はたぶん大丈夫」
アンナが不安そうに言うから他のみんなも不安になる。
「そろそろ行くよ」
アンナが声を掛けると3人は武器を出し、飛び出す準備をした。
「フレイム」
アンナの言葉と同時に拳程の火球がゴブリンめがけて飛んでいった。フレイムはゴブリンの背中に当たりゴブリンが叫び声を上げた。
ゴブリンの叫び声を聞いたレイナルドは一目散に飛び出した、それに遅れて2人も飛び出す。
レイナルドは一番奥のゴブリン目掛けて走り、首筋から脇腹にかけて斜めに切り裂き、一撃で仕留めた。ロベルトもゴブリンの顔面めがけて勢いを乗せたパンチを食らわせた。ゴブリンはあまりの衝撃に吹っ飛んだ。
「よし!奇襲成功だ」
レイナルドがそう言って周りを見ると、フレイムの当たったゴブリンがアンナに向かって走り出していた。
「なんでだ」
戸惑いレイナルドが周りを見るとポルタが来ていなかった。飛び出したがすぐに止まってしまったようだ。
「あのバカが」
レイナルドは叫びゴブリンを追うが追い付けない。レイナルドは甲冑を着ているためどうしても走るのが遅くなる。
(くそ。追いつけない)
「アンナ逃げろ」
レイナルドは叫ぶがアンナは恐怖で身がすくんで動けなかった。このままではアンナがゴブリンに襲われてしまう。
「アンナ!かがめ」
レイナルドの言葉にアンナは従い身をかがめる。それを確認したレイナルドは袋から投げナイフを取り出しゴブリン目掛けて投げた。ナイフはゴブリンの足に当たりゴブリンはその場で倒れた。
「このクソが!」
レイナルドは叫びながらゴブリンの背中に剣を突き立てた。ゴブリンは断末魔をあげ動かなくなった。
「ハァハァ」
レイナルドは息を切らしてその場にかがみ込む。
「大丈夫か」
ゴブリンを倒し終わったロベルトがこちらに駆け寄ってきた。
「ああ、何とかな」
レイナルドはロベルトに返事した後、立ち尽くすポルタに詰め寄り胸ぐらを掴んだ。
「なんで来なかったんだよ!お前のせいでアンナが危険な目にあったんだぞ!!」
すごい剣幕で怒るレイナルド。ポルタは何も言わず黙り込んだ。
ロベルトはレイナルドの様子に驚いた。レイナルドが他人の為に怒ることが意外だった。
「黙ってないで答えろ!」
レイナルドが問い詰めているとアンナが割って入ってきた。
「いいよレイ君。何ともなかったんだから」
そう言ったアンナの体は震えていた。ゴブリンが向かってくるのが余程怖かったのだろう。
レイナルドは納得いってなかったがアンナに免じてポルタを攻めるのを止めた。レイナルドは手を離し警告した。
「よく聞けポルタ。アンナが良いと言ったからお前を一緒に連れてきた。けどな、ゴブリンも殺せないような役立たずはいらねえ」
そう言い放つとレイナルドはゴブリンに刺さった投げナイフを引き抜き、血を拭ったあと袋にしまった。
ポルタは凄く落ち込んでいたがロベルトもアンナもかける言葉が無かった。
歩いているとゴブリンの群れをまた見つけた。
「また3体か」
ロベルトが呟く。レイナルドはポルタに話しかけた。
「ポルタ。お前が役立たずかどうか試してやる」
ポルタは下を向いて黙っている。
「試すってどうするんだ」
ロベルトが尋ねるとレイナルドが計画を話しだした。
「さっきと同じ要領で奇襲をかける。だが、ロベルト。今度はお前がフレイムの当たったゴブリンを仕留めろ。俺が残り2体を相手する」
計画の中にポルタの名前は無かった。
「ポルタの役割は無いのか」
ロベルトが尋ねるとレイナルドは真剣な顔で答えた。
「ポルタの出番はその後だ。2体の内1体を捕まえてポルタと戦わせる」
3人は驚いた。直後ロベルトは強く反対した。
「ポルタには無理だ。そんな事したらポルタが死んじまう」
ポルタは学校でも断トツで実習科目の成績が悪かった。それに加えて弱気で人を傷つけるのも嫌いだ。
「そんなのは分かってる」
平然というレイナルドにロベルトは怒っていう。
「じゃあなんでだ。ポルタを殺す気か」
そう言うとレイナルドは真剣に言った。
「そのくらいして貰わないとこいつを信用できない」
その言葉にロベルトは納得してしまった。確かにあんな姿を見せられると信用はできなくなってしまう。
「でも、その条件は厳しすぎる。もっと簡単な条件にできないのか」
ロベルトが頼むとレイナルドが尋ねた。
「じゃあどういう条件ならいいんだ」
「傷ついた死にかけのゴブリン以外にどんな相手を用意すればいいんだ」
ロベルトは黙り込む。
「腕を切り落としたゴブリンか、足を切り落としたゴブリンか、それとも四肢を切り落としたゴブリンか」
「なあ、どんな条件なら良いんだ。答えろよロベルト」
「やめて」
レイナルドが問い詰めているとポルタ声を上げた。
「どんな条件でも良いから。もう一度チャンスを頂戴」
ポルタは震えながら言った。レイナルドは不信感だらけの目でポルタを見つめた。
「じゃあ・・・」
突如レイナルドは剣を抜き自身の後ろを切りつけた。
「ゴブッ」
すぐ後ろまで迫っていたゴブリンは叫び声を上げながら死んだ。その声で他の3人は初めてゴブリンが迫っていることに気がついた。
「ゴブリン1体仕留めろ」
そう言うとレイナルドは迫り来るもう1体のゴブリンを切り殺した。
「最後の1体だ。早く戦え。ポルタ」
突然の事でポルタは準備が出来ていなかった。レイナルドは襲ってくるゴブリンのパンチを避けながら催促する。
「早く。ダガー抜いて切れば殺せる」
ポルタはダガーを抜いて体の前に構えた。両手で持つダガーは震えている。レイナルドはゴブリンのパンチを避け、背中を蹴ってポルタの前に突き出した。
「アンナ、ロベルト。離れろ」
レイナルドの言葉通り2人もポルタと距離をとって、ポルタとゴブリンを囲うような位置を取った。
「ポルタ頑張って」
「ポルタ頑張れ」
2人の声援を受けポルタは覚悟を決めた。
「う、う、うわぁぁぁぁぁ」
ポルタは叫び声を上げながらダガーを突き出しゴブリン目掛けて突進した。だが、ゴブリンに避けられてしまった。しかも、避けられたことによりポルタはバランスを崩し転けた。すぐに立とうとしたがゴブリンに蹴られ、ポルタはその場に倒れ込んでしまった。
(このままじゃまずい)
そう思ったロベルトはゴブリン目掛けて走り出した。
「止まれ」
ロベルトを止めるレイナルド。
「なんでだ。このままじゃポルタは」
ロベルトは不安そうに言うがレイナルドは無視してポルタを見つめ続けた。ロベルトはその様子を見て割り込むのを止めた。
ゴブリンがポルタに近づき蹴ろうとした時、ポルタはゴブリンの左足を切りつけた。痛みでゴブリンは倒れ、その隙にポルタは立ち上がる。
「今だポルタ。殺れ」
ロベルトが言うがポルタはその場を動かない。
「どうしたんだ。なんで動かないだ。ポルタ」
ダガーは構えているが一向に動く気配がない。
「まさか、化物を殺すことをためらってるのか」
ロベルトは驚いている。戦闘に向かない思っていたがここまでとは。
ポルタがためらっているうちにゴブリンは立ち上がり、左足を引きずりながら近づいてきた。だがポルタは迷ってしまった。足を引きずっているようなゴブリンならポルタでも仕留めることは容易だった。しかし、ポルタはたとえ化物だとしても殺すのは嫌だった。
迷っている間にゴブリンはすぐ近くまで近づいていた。ポルタは迷った挙句目を瞑ってダガーを振り上げた。
「うあぁぁぁぁぁ」
ポルタは叫びながらダガーを振り下ろしたが、ダガーは当たらなかった。ポルタはとっさに切りつけるのを避けてしまった。するとゴブリンはポルタの腹を殴り、次に顔面を殴った。殴られた勢いでダガーを落とし、倒れ込んでしまった。倒れ込んだポルタにゴブリンがのしかかり、ポルタは動けなくなった。
(これは本気でまずい)
そう思ったロベルトはゴブリンに襲いかかろうとしたが、それよりも早くレイナルドがゴブリンに近づきゴブリンの頭をハネた。
ポルタはひどく怯えた様子だ。
レイナルドは冷ややかな目でポルタに言った。
「ポルタ。もういい」
レイナルドの冷たく発せられた言葉を聞き。ポルタはショックを受けている。
「少し休もう」
レイナルド達は見晴らしの良い草原を探し休むことにした。
レイナルド達は座り込み各自自由に行動した。レイナルドは皆と離れて座り甲冑についた血を拭った。ロベルトはそんなレイナルドの姿を見てなにか考え込んでいる。ポルタは落ち込んでいる。アンナは落ち込んでいるポルタに寄り添い励ましていた。
ロベルトはさっきのレイナルドの行動が理解できなかった。ポルタが危険な時、自分より早く動いてポルタを助けたこと。あそこで助けに入らなければ1.2発はゴブリンに殴られていたはずだった。そうなればポルタは怪我をして旅から抜きやすくなったはず。
(何でだ。なんで助けたんだ)
(もしかして昔みたいに・・・いやそんなハズはない。こいつはオヤジやページさんに酷いことをしたんだ)
理解できないロベルトは悩み、同時にレイナルドを殺すという決意まで揺らぎ始めていた。
一方甲冑の血を拭うレイナルドも悩んでいた。
(なんで助けちまったんだ。あそこで手を出さなければポルタは町へ帰ったハズだ。そうすればロベルトも帰せて元の計画どおりになったはずだ。なんで助けたんだ)
レイナルドも自身のとっさの行動に悩んでいた。
「レイ君ちょっといい」
いつの間にか近くにいたアンナがレイナルドに声をかけた。
「ポルタの事なんだけど・・・」
アンナは言いずらそうに言うとレイナルドは何も言わないで聞いていた。
「もう一回チャンスあげてくれない」
手を顔の前で合わせ頼むアンナ。だがレイナルドは冷たく言い放つ。
「ダメだ。ポルタはもう旅には連れていかない」
だがアンナは食らいつく。
「そんな事言わないでさ、もう一回。さっきは突然襲われて気が動転してたし次は大丈夫だよ。ね、もう一回」
レイナルドは聞き入れない。
「ダメだ。あいつに戦闘は向いてない。それに突然襲われたのはあいつが声を上げたからだ。自業自得だ」
レイナルドの言葉を聞いてアンナはしょんぼりした、すると今度はロベルトが頼んできた。
「レイナルド。もう一回くらい良いだろ。次は必ず仕留めるはずだ」
レイナルドはロベルトを睨み付けた。
「随分よそよそしい呼び方をするじゃねーかロベルト」
そう言うとレイナルドはロベルトに詰め寄った。
「昔みたいにレイって読んだらどうだ。ええ、ロベルト」
実はレイナルドは自分の名前を嫌っている。だから親しい人や友人にはレイと呼ばせている。
「そんな風に呼んだらまた口の聞き方を注意されるかも知れないからな。レイナルド王子は話し方に厳しいから」
ロベルトはわざと煽るように言う。レイナルドも相当苛立った。
「ポルタの為に頼みに来たのかと思えば喧嘩売りに来たんだな。やってやっても良いぞ。お前の親父みたいに不様に這いつくばらせてやるよ」
レイナルドもロベルトを煽った。これにはロベルトも相当苛立った。
「上等だやってみろ!」
拳を構えるロベルト。レイナルドも剣を抜き一触即発だ。
「止めなよ二人とも。仲間同士で喧嘩するなんて良くないよ」
アンナが必死で止めに入るが二人は聞こうとしない。
「いくぞロベルト」
レイナルドは剣を構える。その様子にロベルトも息を飲む。
「やめてよ」
そう叫んで2人の間に割って入ってきたのはポルタだった。
「どけ、ポルタ」
レイナルドが言うがポルタは動こうとしない。
「どけって言ってんだろ」
レイナルドが再度言うがポルタは動かない。ポルタはポルタなりに必死で喧嘩を止めようとしていた。ロベルトはそんなポルタの姿を見て拳を納めることにした。レイナルドもロベルトが構えを解いたので剣を納めた。ホッと胸を撫で下ろすアンナ。
「邪魔しやがって」
吐き捨てるように言ってその場を去るレイナルド。
「待って。レイくん」
去ろうとするレイナルドを呼び止めた。
「なんだよポルタ」
背を向けながらレイナルドは威圧的に答えた。ポルタは臆せず言った。
「レイくん。もう一回チャンスを頂戴。今度はちゃんと仕留めるから」
苛立ったレイナルドが振り向きポルタを見ると、ポルタはいつもみたいにビクビクしておらず、真剣な表情でレイナルドを見つめていた。その様子にレイナルドは驚いた。
「レイくん。頼むよ」
黙るレイナルド。アンナもロベルトもレイナルドの様子を伺う。ポルタはいつまでもレイナルドを見つめ目を離そうとしない。
「覚悟はあるのか」
黙るポルタ。だが、目はレイナルドを見つめ続けた。
「殺す覚悟はあるのかって聞いてんだ」
平然と言うその言葉はいつもの威圧的な言葉よりも怖かった。だが、ポルタの覚悟は揺るがなかった。
「あるよ。今度は大丈夫」
その言葉、その表情、少し震えながらもレイナルドの目を見つめて言うその言葉にレイナルドは少し考える。考えた末にレイナルドは言った。
「なら、もう一度試してやる」
アンナとロベルトは喜んだ。ポルタも少し安心した。
「今度は前みたいな優しい条件じゃねーぞ」
「次は仲間の命がかかってると思え」
そう言ってレイナルドは道具が詰まった袋をポルタに投げ渡した。
「これは」
戸惑うポルタにレイナルドは言う。
「道具はお前のほうが使い慣れてるだろ。今度はそれ使って戦え」
ポルタは強く頷いた。
「今度は認めてもらおうね」
ポルタの左肩に両手を置いて嬉しそうに言うアンナ。
「気合入れろよ」
右肩に手を置いて笑顔で言うロベルト
力強く頷きポルタは覚悟を固める。
「休憩は終わりだ。行くぞ」
レイナルド達は休憩を止めてポルタの試験の為に敵を探した。




