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もと勇者御一行様 ~還暦からの世直しじゃ!~  作者: 永月裕基
止まった時間が生んだもの
6/44

準備 レイナルド

一方。城を飛び出したレイナルド


怒って飛び出したレイナルドは城の前でこの後どうするか考えていた。

勢いで飛び出したせいで服は装飾品の付いた旅には適さない服装に、今日の為に貯めたお金は城に置いたまま。けれど城に戻れば親父の顔を見ないといけない。

戻るか否か。意地か現実か。若いレイナルドにとっては悩ましい選択だ。

レイナルドはひとまず餞別に貰ったお金を確認することにした。

「け、こんだけかよ」

レイナルドは餞別に貰った袋を覗いて文句を言う。袋に入っていたのは1,000G(ガロ)。庶民にとってはとても多い額だが、裕福な暮らしに慣れているレイナルドにとってははした金だ。

「どースッかなぁ~」

頭の後ろ掻き、独り言をつぶやく。

剣も確認する事にした。剣はリンドベルクの兵士が使っている剣と同じだった。その事がレイナルドをイラつかせた。

(この俺に一般兵士ごときが使ってる剣を使えだと)

王族として育ったレイナルドはとても高いプライドを持っていた。

(ここで戻ったら親父にまた怒られるしな。けどこの服にこんだけの金じゃこの先面倒だしな)

どうにも踏ん切りがつかず迷っていると、儀式の時に貰ったブローチが目に入った。

ブローチを見たレイナルドは悪意に満ちた表情を浮かべ城下町へ向かった。


レイナルドが向かったのは鍛冶屋だった。リンドベルクでは唯一の鍛冶屋で兵士の剣や甲冑など全てここで造っている。

キュィ。少し動きの悪いドアを開けてレイナルドは店内に入る。

店内には剣、槍、斧、などの武器と、何種類かの甲冑が置かれていた。

その中でも一際目立つのはショーケースに入れられた少し変わった剣だ。柄はT字で持ち柄に丸い石が埋め込まれている。刃は一見両刃の剣に見えるが、よく見ると片刃でもう半分は刃がない。刃先は刀の様に曲線を描いている。変わってはいるがショーケースに飾るほどの品には見えない。

ショーケースの前には《鍛冶屋コンテスト武器部門8位作品》と大きな文字で書かれた紙が置かれている。

その隣には店のなかでは一番高そうな、全体的に角張ったデザインの甲冑が置かれていた。

店内を物色したレイナルドはレジに行くと奥からムキムキで短髪の男が現れた。

「ん、レイナルドか。ロベルトは居ねーぞ」

この男は鍛冶屋の店主のダナトスだ。ロベルトとはダナトスの息子でレイナルドと同じ学校に通っていた。

「ロベルトに用はねえ。今日は武器と甲冑を見に来たんだよ」

レイナルドが用件を伝えるとダナトスは思い出したように言った。

「ああ、そういや今日から旅に出るって言ってたな」

「何だ。何がほしい」

レイナルドは指を指して答えた。

「そこのショーケースに入った剣と隣の甲冑貰うわ」

それはさっき見ていた8位の剣と角張った甲冑だった。ダナトスは顔の前で手を左右に振った。

「あれか。あれはダメだ。あれは売りもんじゃねえ。それにあの剣と甲冑はお前じゃ使いこなせない」

ダナトスは冷静にレイナルドの実力を見極めただけだったが、レイナルドにとっては侮辱以外の何物でもなかった。

「それに剣ならあるだろ。お前にはそれで十分だ」

その言葉が更にレイナルドのプライドを傷付けた。

(この俺に一般兵士ごときが使う剣で十分だと)

レイナルドは怒りに震え。奥歯を噛み、手を強く握った。

レイナルドはダナトスに文句を言った。

「おい。さっきから何だその口の聞き方は。俺を誰だと思ってやがる」

レイナルドの言葉にダナトスは不機嫌そうな顔をして答えた。

「何だ急に。この際だから言っておいてやる。お前は王子だが偉くもなければ力もないただのガキだ。あんまり調子に乗るな」

そう言ってレイナルドの頭を小突いた。この行為が完全にレイナルドを怒らせた。

「調子に乗ってるのはテメェの方だ」

そう言って儀式の時に貰ったブローチを袋から取りだしダナトスに見せつけた。ブローチを見たダナトスは一瞬驚いたがすぐに表情が戻った。

「それがどうしたって言うんだ。王族のブローチだろ」

それを聞いてレイナルドは大きく笑った。

「フフフッハァッハッハッハア!全然分かってねぇみてーだなぁこの意味が!」

「どういう事だ」

「バカなお前の為に分かりやすく教えてやるよ。このブローチを与えられた時から俺は王子としての権利を得たって事なんだよ」

「ん、どういう事だ。前から王子だろーが」

不思議そうに尋ねるダナトス。その様子をレイナルドは鼻で笑う。

「フッ。そこまでバカだと哀れだな。ならもっと分かりやすく教えてやるよ。お前がさっきまで力の無い王子だと思っていた男は権力をもった力のある王子になったんだよ」

「つまり、お前はさっき王子に売り物を売れないといって、その態度を注意したら事もあろうにお前は暴力を振るった。これは重大な国家反逆だ」

レイナルドの言葉にダナトス怒りながら反論する

「何言ってやがる。そんなわけねぇだろ」

「じゃあどこが違うか言ってみろ」

「売れないのは売り物じゃ無いからだ。それに、あんなの暴力に入らねーだろ」

ダナトスは怒りながら弁明する。

「そうかそうか」

「売り物じゃ無いものを売り場に並べるのか。おかしな話だな。それと暴力じゃないと言ったが俺は凄く痛かったぞ。頭が割れるかと思ったなあ」

そう言ってレイナルドは頭を擦った。ダナトスは怒りで顔が赤くなる。

「分かっただろ。お前は重大な罪を犯したんだ。罪は償ってもらうぞ」

ダナトスは納得いかなかったが、言い返す言葉が思い浮かば無かった。。

「せっかくだからお前に罰を選ばせてやる。2択だ。」

「1つ目は俺に土下座して謝罪し、此処の剣と甲冑を献上することだ」

「2つ目は此処から去ることだ」

「さあ。どっちにする」

ダナトスはあまり迷わなかった。

(どのみちいつかは出ていくつもりだったんだ。貯金は3,000Gはある。息子と2人で馬車代は1,500G位のはず。十分足りる)

ダナトスは前々から不満を持っていた事もあり、出ていくことにした。

「分かった。出ていってやるよ」

そう言ってダナトスは奥に行こうとする。

「そうか。そっちを選んだか」

「じゃあ、去る前に罪を償って貰おうか」

ダナトスは足を止め振り向き尋ねる。

「どういう事だ。さっき選んだろ」

レイナルドは鼻で笑って答えた。

「フッ。何を勘違いしてるんだ。お前の罪は1つじゃ無いぞ」

「忘れているのかも知れないから教えてやる。この工房の所有権は国にある。国の代表である王子に物を売らないような奴に貸す必要は無い」

「つまり、退去は俺に武器を売らなかった事への罰。暴力に対する罰とは関係ない」

「それと、反逆者が武器を持って悪いことをするかも知れんからな。全ての武器と防具は没収する。これが俺に武器と甲冑を売らなかった罰だ」

「何だと」

ダナトスは怒りレイナルドの胸ぐらを掴む。

「そんなの。さっきの罪を選んだ意味がねぇじゃねーか」

レイナルドは笑って答えた。

「犯罪者に罰を選ばせるわけ無いだろ」

ダナトスの拳が怒りに震えた。

「もうひとつの俺を殴ったことに対しての罰は3,000G相当の罰金だ」

そう言うとレイナルドは胸ぐらを掴んでいる手を掴む。

「この手も暴力だな。罰金を追加するか」

ダナトスは手を離し奥歯を強く噛み締める。

「今すぐ兵士を呼ぶからお前は此処を去る準備を進めておくんだな」

そう言ってレイナルドは店の外に向かった。

ダナトスの怒りは頂点に達していたが、それ以上に焦った。さっきレイナルドが言った罰を本当に受けないといけないのであれば、ダナトスは一文無しで家を追われることになるからだ。そうすればダナトスも息子のロベルトも生活できない。ダナトスは覚悟を決め、急いでレイナルドに近付く。

「ま、待ってくれ」

ダナトスが声をかけてもレイナルドは止まらない。

「お願いだ。待ってくれ」

それでもレイナルドは止まらない。レイナルドの手がドアノブにかかったとき、ダナトスは大きな声で叫んだ。

「お願いします。待ってください」

その声でレイナルドはやっと止まった。その顔は悪い顔で笑っている。レイナルドは表情を整え、振り返りぶっきらぼうに尋ねる。

「何だ。早く去る準備をしろ。反逆者が居座っていい処じゃねんだよ」

ダナトスが何の用で呼び止めたか分かっているレイナルドは、わざと怒らせるように言った。だがダナトスは怒らずレイナルドに頼み込む。

「さっきのは無かったことにしてくれ。家の商品で良かったら何でも献上するから退去だけは勘弁してくれ。頼む」

頭を下げて頼み込むダナトスの様子にレイナルドは自分の優位を確信し、さらにダナトスを追い込もうと考えた。

「何だ今更。罰を聞いて怖くなったのか。下らない男だな。テメーみたいな意地もねぇクソは存在が要らないんだよ。分かったらさっさと消える準備をしやがれ」

そう言ってダナトスにつばを吐きかける。ダナトスはそれでも怒らず頼み込む。

「本当に悪かった。この通りだ許してくれ」

その様子を見てさらに調子に乗ったレイナルドはもっと追い詰めることにした。

「だいたいさぁ。口の聞き方がなってねーんだよ。何ださっきから、王子にため口聞いてんじゃねーよ。ああ」

そう言ってレイナルドはダナトスの顎を掴む。ダナトスは必死に謝る。

「しゅいましぇんでしゅた」

顎を掴まれてるから上手く発音ができないがそれでも必死さは表情から伝わってくる。その様子を見てさらに調子に乗るレイナルド。レイナルドは顎から手を離しダナトスの周りを回り始めた。

「それにさぁ。さっきから謝罪のしかたがなってねーんだよ。こういう場合の謝罪の仕方はそうじゃねーだろ。もっと違うのがさ、え、ダナトスさんよ」

ダナトスは凄く悔しかった。今すぐにでもこいつをぶち殺したい。そう思うが家族のため、生活のため、謝ることを決意する。

ダナトスはその場で土下座した。

「本当に申し訳ございませんでした」

レイナルドはその様子を見てさらに調子に乗った。レイナルドはダナトスの頭を踏みつけ、踏みにじる。

「ハッハッハ。無様だなぁダナトス。お前にはプライドがねーんだな」

やっと満足したレイナルドは足をおろし話し出した。

「よし。じゃあさっきの事は無かったことにしてやる。それと罰の方も免除してやる。俺もお前に酷いことをしたからな」

急に寛大になったレイナルドに気味の悪さを感じたが、ダナトスはお礼を言って感謝しているような態度をとった。

「ありがとうございます」

レイナルドは満足そうに頷き。話を続けた。

「じゃあ約束通り。此処にある全部の物を献上しろ」

「え」

平然と言うレイナルドの言葉に驚き思わず声が漏れた。レイナルドは不満そうな顔をした。

「え、じゃないだろ。何でも献上すると言っただろ。だから全部と言ったんだ。何だ嫌か。ならさっさと国を去る準備をするんだな」

そう言ってレイナルドは振り向きドアノブに手をかける。ダナトスは慌て謝罪する。

「嫌ではありません。喜んで献上させていただきます」

レイナルドは満足そうな表情を浮かべる。

「たく。最初からその態度でいればいいんだよ。いちいち反抗的なんだよ。お前は」

そう言ってレイナルドはダナトスの顎を下から小さく叩く。

「じゃあ。全部貰ってくけど全部は持てないからさ、あのショーケースの剣と隣の甲冑以外お前に売るわ」

「え」

ダナトスは言ってる意味が分からなかった。

「何だ。分からなかったのか。だから、お前が献上した武器と防具をお前に売るって言ってんだよ」

「えっとそれは・・・」

ダナトスが何か言おうとしたのが分かったらレイナルドは遮るように言った。 

「何。なんか文句あるの?」

「いいえ。ございません。」

「じゃあ。全部で3,000Gで良いわ。早く払え」

それはさっきレイナルドが言っていた罰金と同額だった。レイナルドは国としての金ではなく、自分が使う為の金としてダナトスから金を巻き上げた。ダナトスは逆らう意味が無いことが分かっていたのですぐに払ったが、その胸中は悔しさで一杯だった。

「剣と甲冑も早く用意しろ」

ダナトスは言われるままに用意してレイナルドに渡した。レイナルドはその場で甲冑を着て、剣を背負った。

「じゃ。また来るわ。今度も色々献上してくれよ。その場でほとんど売るけどな」

そう言ってレイナルドは笑いながら店を出た。

レイナルドが店を出た直後、ダナトスは近くにあった商品棚を蹴り飛ばし、散乱した剣を手に取り、暴れまわった。ショーケースを叩き割り、棚を切りつけ、窓を割った。

「んん!んん!!んん!!!!」

言葉にならない怒りをぶつけ続けた。

店を出たばかりのレイナルドにはもちろんその音が聞こえていたが、気にしないで次の餌食の事を考えていた。


レイナルドが次に向かったのは道具屋だった。傷薬など旅には有った方がいい物が沢山売っている店だ。

もう少しで店に着くところで丁度、道具屋の店主が店に入るところを目撃した。道具屋の店主は何か大事そうに抱えている。

(あれは)

レイナルドは微かに見覚えのある箱にまたしても悪い顔をした。

カラン。レイナルドはドアを開けて道具屋に入ったら目の前に店主が居た。

「ようページ。買い物に来たぜ」

店主の名前はページ。小太りで人の良さそうな顔をしており、少し派手な服を着ている。レイナルドよりかなり歳上だが、レイナルドはため口で話す。

「レイナルド王子。いつもありがとうございます」

ページはレイナルドが王子と分かっているから丁寧に話をする。

ページは少し困った顔で言う。

「王子。申し訳無いのですが今日は臨時休業とさせていただくので、すいませんが買い物はまたの機会にしていただけませんか」

ページは低姿勢でレイナルドに頼む。だがレイナルドは聞き入れない。

「いやそれは無理だわ。俺今日から旅立つからさ。道具買っときたいんだわ」

ページはとても困った顔をしたが、レイナルドは店内を物色し始めた。

「へー薬草にポーション。簡易テントに清水か。なかなか揃ってるな」

レイナルドは来たことがなかったが、国の備品の殆どは此処で仕入れているのを知っているからデカイ顔をしている。

「お褒めにあずかり光栄です」

ページはダナトスと比べ賢い。その為レイナルドの格好を見ただけでだいたい何があったか察しがついていた。

(ダナトスの奴。クソガキを怒らせたんだな。バカだなアイツは)

ページは一見人が良さそうだが、性格は悪い。

「どれになさいますか」

レイナルドは迷ったが、いい案を思い付いた。

「じゃあよページ。何か献上してくれよ。お前なら見て分かったと思うけどこの甲冑と剣はダナトスが喜んで献上してくれたんだわ。だからさ、お前も俺の旅立ちを祝してなんか献上してくんね」

ページは笑顔だったが内心はイラついていた。

(ああん、献上だと。ふざけやがって。あのバカのせいでこっちまで被害でたじゃねーか。あのクソ筋肉が)

「分かりました。私の店ではダナトスさんの所みたいに高級品はありませんが、便利な物がいっぱいあるのでそれを詰め合わせにして献上させていただきます」

そう言ってページは商品を袋に詰める。レイナルドは満足そうに頷き、それを待つ。

「お待たせしました」

ページは用意したものをレジのカウンターに並べる。

薬草にポーション。簡易テントに清水。フレアに投げナイフ。それと爆弾も。それが各種10個づつある。

「なかなかの量だな。だが簡易テントは10個もいらねえ」

そう言って簡易テントを8個除いて他の物を受け取った。

さんざん献上させたが、レイナルドはまだ満足していない。

「ページ。お前はダナトスと違って聞き分けがいいな。だがこれだけでは安すぎるな。さっきお前が店にはいる前に持っていた箱の中身を貰おうか」

レイナルドの言葉にページはビックリし焦っている。

(くそ。このガキ見てたのか。だがあれは渡せない)

「レイナルド王子。申し訳ありませんがあれだけはご勘弁を。他の物ならいくらでも献上しますのでどうかあれだけは」

ページが頼み込むがレイナルドは聞き入れない。

「ダメだ。あれを頂く。早く渡せ」

レイナルドの様子にページは諦めて差し出すことにした。

「・・・少々お待ちください」

そう言ってレジの後ろから箱を取り出した。箱にはエクスポーションと書かれている。エクスポーションは飲めば重傷も治るほど強力な傷薬だ。

ページが箱を開けると真っ赤な液体が入っている装飾の施されたビンが入っていた。

「へぇ~。なかなか良い品だな」

レイナルドは瓶を手に持ち眺める。

「だいたい3,000Gくらいか」

レイナルドの見立ては正しかった。王子と言うだけあって目が肥えている。ページはとても悔しそうだったが、これで終わると思って心に見切りをつけた。

「ご満足頂けたでしょうか」

「ああ、満足だ」

そう言ってエクスポーションを袋にしまう。

「よし。じゃあさっきの箱のを寄越せ」

レイナルドは平然と要求する。

「え」

ページは唖然とする。

「えっとあの。さっきのエクスポーションが私の持っていた箱なのでもう何もありません」

ページの言葉を聞いたレイナルドは深くため息を吐く。

「はぁ~。俺もナメられたもんだな。こんな物とさっきの箱を見間違えるわけ無いだろ。しらばっくれないで早く渡せ」

ページは隠し通せないと分かり思い頼み込む。

「すいません。どうか。どうかそれだけは勘弁してください」

ページが必死で頼み込むが、当然レイナルドは聞き入れない。

「そう言うの良いからさ。早く渡せよ」

レイナルドが強く言うが、ページは断固として渡そうとしない。

「あーもうめんどくせーなぁ」

そう言うとレジに入ってきて勝手に漁り出す。ページはレイナルドを止めようとする。

「王子。止めてください。止めてください!」

ページがレイナルドの手を掴むとレイナルドは怒り勢いよく手を払う。

あまりの勢いにページはその場で転んだ。

「邪魔すんじゃねぇ!」

レイナルドは怒鳴り、なおも漁り続ける。

「お、これだこれ」

レイナルドが取り出したのは豪華な装飾の小さい箱だった。

それを見たページはレイナルドの腰にしがみつく。

「どうか。どうかそれだけは。お願いします。お願いします」

レイナルドはページの頭に肘を食らわせる。ページはその場に倒れこんだ。レイナルドはゆっくりと箱を開けた。

箱にはとても小さい瓶が入っていた。

「これは。隠れ里の秘薬じゃねーか」

豪華な物は見慣れているレイナルドではあったが、これには驚いた。

「生で見るのは初めてだな。入ってるのは1滴か」

隠れ里の秘薬は1滴垂らせば死にかけの人間でもたちどころに治ると言われている程の薬で、幻の逸品と言われている。

「これ貰ってくわ」

そう言ってレイナルドは店から出ようとするが、ページはレイナルドの腰にしがみつき離そうとしない。

「それだけは。それだけは勘弁してください」

今までに無いほど必死に食らいつくページに、苛立ったレイナルドはページの蹴りつける。

「うっとおしいんだよ」

レイナルドの蹴りがページの腹に入りやっと離れた。しかしすぐ足にしがみついてきた。

「お願いします。それだけは。それだけは」

ページの必死な表情に気味の悪さを感じたレイナルドは怖くなり、本気で蹴りだした。

「おい。離れろ。離れろ!」

ページの顔面を蹴りつける。それでも離れようとしないが、さすがに10回20回と蹴られ続けたページはついに手を離した。

顔からは大量の血が出ており、顔の形が少し変わっていた。

「おねがい・・・します。それ・・だけ・・・・は。お・ね・・・がい・・・・し・・ま・・・す・・・・・・」

レイナルドを見ながらうわ言のようにいい続けるページが怖くなり。レイナルドはすぐに店を出た。

店を出たレイナルドは息を切らしながら小声で言った。

「なんなんだよ。アイツは。気持ち悪りぃ」

レイナルドは足についた血を地面で拭い。その場を急いで離れた。



武器も防具も道具も揃ったレイナルドは次に旅の仲間を探そうと思った。旅の仲間を募るので一番手っ取り早いのは酒場で金を払って雇う方法だ。ダナトスから巻き上げたお金を使えばかなり優秀な人間を雇える。

レイナルドが酒場に向かって歩いていると、前方から見覚えのある2人の姿が見えた。向こうもこっちに気が付いたようだった。

「おう。久しぶりだな。ロベルト。ポルタ」

レイナルドの前に現れたのは鍛冶屋の息子のロベルトと道具屋の息子のポルタだった。ロベルトは鍛冶屋を手伝っていることもありガッチリとしている。短い髪で体の所々に火傷の痕があり、いじめを見過ごせない勇気と優しさをもつ男だ。ポルタは背が少し低く、内向的で常にオドオドしている。そんな性格なのに髪の色は青という目立つ色をしている。

「何か用かよ」

ロベルトは明らかに嫌そうに話す。

「別に用はねーよ。ただ久しぶりに会ったから挨拶しただけじゃねーか俺が卒業したぶりだから1ヶ月ぶりか」

レイナルドはニタニタと笑いながら話す。レイナルドとロベルトとポルタは同じ学校に通っていた。ロベルトは不快そうな表情を浮かべ、ポルタは怯えている。

「用が無いならもう行くぞ。じゃあな」

ロベルトは話を終わらせ先をこの場を去ろうとする。そう言ってロベルトはレイナルドの横を通ろうとした。するとレイナルドは剣を抜きロベルトの行く手を阻んだ。

「何だ」

ロベルトが不機嫌そうに言うとレイナルドは笑っている答えた。

「何が?相変わらずお前は鈍感だな。よく見ろよ」

そう言ってレイナルドは剣を上下に揺らす。ロベルトは剣を見て驚き声が漏れた。

「これは・・・!」

すると突如レイナルドに詰めより、凄い剣幕で怒鳴った。

「この剣どうしたんだよ!これはオヤジの宝物で非売品のハズだ!何でお前が持ってるんだよ!」

その様子を見たレイナルドはニタニタ笑って答えた。

「どうしてって、貰ったんだよ。勇者である俺の冒険に役立ててくれってなあ」

レイナルドの様子にロベルトはさらに大きな声で怒鳴った。

「そんなわけ無いだろ!!オヤジがお前みたいなクズに渡すわけがねえ!!!」

レイナルドはその発言に苛立ちロベルトを殴った。突然殴られたロベルトは体制を崩しその場に尻餅を着く。

「うるせぇな。親子揃ってよぉ。お前もお前の親父も口の聞き方がなってないんだよ。だからこれを渡す羽目になったんだよ」

そう言ってレイナルドはロベルトの顔に剣を向ける。ロベルトは奥歯を噛みレイナルドを睨み付ける。

「まあ、親父さんの行為を無駄にしたくなかったら口の聞き方と態度を改めるんだな」

そう言うと剣を納め、ポルタの方を向く。ロベルトは何か考え込んでいた。

「なあポルタ。ちょっと聞きてーんだけどよ。アンナの場所しらね」

アンナとはポルタの幼馴染みで、同じ学校に通っていたクラスメイトの1人だ。成績は良くなかったがスタイルが良く長い赤い髪が特徴的だった。

「アンナちゃんに何か用なの」

怯えながらポルタは聞いてくる。

「お前には関係ねーだろ。知ってるのか、知らねーのか」

高圧的に聞かれたポルタはまた怯える。その様子に苛立つレイナルドは良いことを思い付いた。

「まあ、いいや。お前には教えてやるよ。俺今日旅立つんだけどさ、まだ仲間が見つかってなくてさ~アンナ誘おうと思ってんだよ。だから居場所教えてくんね」

レイナルドの言葉にポルタは絶望的な表情を浮かべる。ポルタはアンナの事が好きだったからだ。レイナルドもその事は知っていてわざと言った。

「ア、アンナちゃんは辞めといた方がいいよ。アンナちゃん成績良くないし。身体能力も高くないからさ」

ポルタは怯えながら言う。

「そんなのは分かってる」

そう答えるとレイナルドは笑って話した。

「用があるのはアンナの体だ。アイツ、スタイルが良いから酒場で仲間募るときに使えそうなんだよ」

そう言うとポルタの胸ぐらを掴んで引き寄せる。

「分かったら早く答えろ」

脅すように言うとポルタはビクビク震えた。言うべきか言わないべきか。迷っていると突如レイナルドがポルタの腹を殴った。

「グッフ」

腹を殴られたポルタはその場にうずくまる。

「おい。やめろ」

ロベルトがレイナルドに詰め寄る。

「そんな理由で探してるんだったら言えるわけ無いだろ」

レイナルドはため息をつき呆れたように言う。

「ハァ。お前には聞いてねーよ。それにさぁ」

レイナルドは話している途中でロベルトを殴った。

「口の聞き方に気を付けろって言っただろーが!」

またしてもロベルトは尻餅をついた。

「まったく。お前にはもっと分からせてやらないといけないなぁ」

そう言って剣を抜きロベルトに突きつける。

「俺とお前の差をよぉ」

そう言うとレイナルドは刃の付いてない側でロベルトの左脇腹を叩きつけた。

「ガッ、アァ」

ロベルトはあまりの衝撃に苦しむ。レイナルドは苦しむロベルトを見て笑っている。

「これで少しは分かったか。俺とお前の差が」

今度はポルタに剣を向けた。

「お前もこうなりたくなかったら早く答えろ」

ポルタはロベルトを見た。左脇腹を抑え苦しそうに息をしている。自分もそうなるのかもしれないと思うと背中が凍った。

「ア、アンナちゃんは-

「なにしてんの!」

ポルタが話している間に割って入ってきたのは、アンナだった。アンナはポルタに駆け寄りレイナルドを睨み付けた。

「これはどう言うことなの」

アンナの問にレイナルドは笑顔で答える。

「俺がアンナを探してるって言ったら教えてくれなくてよ。それで色々あってこうなったんだわ」

アンナは納得していないようだった。

「色々って何よ。それに何で私を探してたのよ」

アンナの質問攻めにレイナルドは冷静に答える

「アンナを探してた理由は俺の旅に誘うつもりだったからだよ」

レイナルドの言葉にアンナは戸惑った。

「え、どう言うこと。何で私を誘うの。誘うならスリアの方が良いじゃない。学校での成績1位だし。それに私は成績良くないし、魔法の発動も遅いし・・・」

スリアもレイナルドのクラスメイトの1人で、茶髪のポニーテールが似合う女の子だ。成績は学校で一番良く、特に魔法の才能は凄い。

アンナはやんわりと誘いを断ったが、レイナルドは聞き入れない。

「それでもお前が良いんだよ」

レイナルドは真剣な顔で言った。あまりの真剣さにアンナは少し緊張しながら尋ねた。

「どうして私なの」

レイナルドは呼吸を整え、アンナの目を見つめながら言った。

「お前が好きだからだよ」

その場にいたレイナルドを除く全員が驚いた。アンナは顔を赤らめ、ポルタは唖然とする。ロベルトは目を見開いて止まる。

そんなみんなの様子を余所にレイナルドはアンナの手を引いて自身に手繰り寄せる。

「真剣なんだよ。頼む」

アンナは動揺している。レイナルドは性格は良くないが顔は良く、家柄も良い。それに異性に対しては同姓ほど態度が悪くない。

アンナは困ったように言う。

「え、えっと、嬉しいけどレイ君はみんなに暴力振るうし、今回は剣まで抜いてるし、ちょっと怖いから」

アンナは動揺しながらも断ろうとした。動揺しながらもレイナルドが最低な男と理解していた。それでもレイナルドは引かなかった。

「これは、俺がアンナに告白しようと思って探してるって言ったら、突然殴りかかって来たんだよ。甲冑は着てるけど2人がかりは危ないと思って剣を抜いたんだ」

レイナルドは平然と嘘をついた。普段のアンナなら嘘と分かったかも知れないが、動揺している事もありそれを信じた。

「そうだったんだ」

ロベルトは否定しよう思ったが、レイナルドが剣の刃の付いた側を左脇腹に近付けており、何も言えなかった。アンナはレイナルドに引き寄せれていたから見えていない。ポルタは否定する勇気が無い。

「でも、暴力はやめてね。友達同士仲良くしよ」

アンナは笑顔で言う。レイナルドも笑顔で答えた。

「分かった。アンナがそう言うなら暴力はやめる」

2人はいい雰囲気になっていた。本来なら祝福したくなる光景だが、ロベルトもポルタもあの話を聞いていたため、何とかして止めないといけないと思っていたが、2人とも何も言えない。

「じゃあ付いてきてくれるか」

「・・・うん。良いよ」

アンナはレイナルドの口車に乗って承諾してしまった。このままではアンナがレイナルドの策略に飲まれてしまう。そんな時ポルタが突然声を上げた。

「ア、アンナちゃんが行くなら僕も行く」

突然の申し出に驚く一同。弱虫のポルタが城の外に出ると言うこと事態が驚きだった。すかさず乗っかるロベルト。

「ポルタを連れてくなら俺も連れてけ。心配だからな」

レイナルドは不満そうな顔をした。これでは計画が破綻してしまう。

「お前らなんか役に-

文句を言おうとしたが、アンナの言葉で遮られた。

「いいね。みんなで行った方が絶対楽しいよね。スリアも誘ってみんなで冒険しよ」

「ね、良いでしょ」

アンナは笑顔で確認してきた。レイナルドは計画外だったがアンナの笑顔に負けた折れた。

「そうだな。そうするか」

レイナルドが答えるとアンナは嬉しそうだった。

(予定とは違うがまあいいか。流石に気が引けてたしな)

「じゃあ、12時までには出発しないといけねーから。12時に西門に集合な」

そう言うとレイナルドはポルタに近付き肩を組む。

「俺はコイツとスリア誘いに行くからさ、ロベルトはコイツの分も準備してくんね」

ポルタは嫌そうな顔をしているが抵抗はしない。ロベルトは抗議した。

「何でポルタとお前が一緒なんだよ。お前一人でスリアの処に行けよ。」

レイナルドはロベルトを睨み付けて言った。

「お前とコイツでアンナに変なこと吹き込まれても困るからな。お前らは俺のこと嫌ってるからよ」

そう言うとレイナルドは袋から薬草とポーションを取り出してロベルトに投げた。

「文句言ってねーで早く準備しろ」

ロベルトは受け取り尋ねた。

「どういうつもりだ」

レイナルドは不満そうに答えた。

「その傷じゃ動けねーだろが」

そう言ってレイナルドはスリアの家に向かった。

アンナも準備をするために家に帰った。

1人残されたロベルトは、気味が悪かったがポーションを飲み、薬草を傷にあて、家に帰ることにした



スリアの家に向かったレイナルドだったが、誘う気は無かった。アンナ1人の方が色々と好都合と考えていたからだ。

行くふりをして西門に向かった。ポルタは怯えながらレイナルドに尋ねた。

「レイ君。何でスリアさんを誘わないの」

レイナルドはめんどくさそうに答えた。

「アイツが居るとめんどうだろうが。アイツは頭が良いからな」

そう言ってレイナルドは黙々と歩き続けた。さっきまであんなにも傍若無人だったのに、いきなりおとなしくなった事が、更にポルタを怖がらせた。

西門で待っていると買い物に来たスリアとバッタリ出会ってしまった。

「ちっ、面倒なことになったな」

レイナルドは舌打ちして、文句を言った。

スリアもこっちに気が付き手を振って近付いてきた。

「レイにポルタ。久しぶり。どうしたの?珍しい組み合わせだね」

気さくに話し掛けてくるスリアにレイナルドは少し迷惑そうにする。

その顔を見たスリアは不満そうに言った。

「何よその迷惑そうな顔は。もっと嬉しそうにしなさいよ」

「はいはい。スッゴク嬉しいです」

レイナルドは適当に返事をして話を終わらせようとするが、なかなか帰らない。

「そんなことより。何でこんなとこにいるの?今日はレイが旅立つ日でしょ」

スリアの質問にレイナルドはぶっきらぼうに答える。

「お前には関係ねーだろ。早く帰れ」

レイナルドは何も言わず帰らそうとするが、スリアは何かあると疑って帰らない。

「ねえポルタ。何かあるの」

急に話を振られてポルタはオドオドしている。レイナルドは何も言うなと耳元でささやく。

「えっと何も無いよ。たまたま会って一緒に話してただけだよ」

ポルタはオドオドしながら答えたが、内容が良くなかった。いじめる側のレイナルドといじめられる側のポルタが一緒に仲良く話していること事態おかしい。

「あんた達が仲良く話してるはずないでしょーが。此処で何してるのか早く言いなさいよ」

いい加減めんどくさくなったレイナルドは白状した。

「あーもーめんどくせぇな。お前以外の皆で旅に出ようと思ってんだよ」

それを聞いたスリアは怒った。

「何でよ!何で私を誘わないのよ!たった5人のクラスメイトでしょ!誘ってくれたって良いじゃない」

寂しそうに言ったスリアの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。その様子を見たレイナルドは心苦しくなったが、それでもレイナルドは厳しく言い放った。

「お前みたいなブスは旅にはいらねーんだよ」

レイナルドはスリアの顔を見ないで言った。スリアは凄く悲しそうな顔をして泣き出してしまった。

「分かったら。早くどっか行けよ」

レイナルドはまたスリアの顔を見ないで言った。

「分かったわよ!じゃあね!」

涙混じりの悲しそうな声でスリアはそう言うと、走って何処かへ言ってしまった。

レイナルドは終始横を向いて話していたが、その表情は今までに無いくらい辛そうだった。


一方家に帰ったロベルト


ロベルトが家で見た光景はとても凄惨だった。

家の各地に折られた剣と割れた刃、バラバラに粉砕された家具が散乱していた。壁や床には斬ったような跡が沢山あった。一番多かったのは穴だった。何か重いもので叩いたような跡が各地にあった。

(何があったんだ)

ロベルトが辺りを見ていると奥の方から音は聞こえた。

キン、キン、カン。音の正体はダナトスだった。ダナトスが鍛冶で使っていた鉄槌で自分の作った剣を叩きわっていた。その様子は鬼気迫るものがあり、とても話しかけれる様子では無かった。ロベルトは服を着替え、自室に閉まっておいた自分で作ったダガーを持ち出し何も言わず家を出た。

ロベルトは家を出たとき少し震えた。今頃になって体が恐怖に震えた。

次に道具屋に向かったロベルトだったが、道具屋は閉まっており開いていなかった。窓から中を覗くと床には割れた瓶や壊されたテントがあり、かなり荒れていた。

(こっちもか)

ロベルトはすぐにレイナルドの仕業だと思い憤りを感じた。ロベルトはある決意をして西門に向かった。


それから数分後4人は西門に集まった。


アンナは少しワクワクしているように見える。ロベルトはとても暗い表情だった。

「よう、準備できたか」

レイナルドが聞くとアンナはその場で回り服装を見せる。服は学校の制服に、手には実習用の杖を持っていた。

ロベルトはTシャツに厚手のズボンで、ザ・鍛冶屋という服装だった。

手にはグローブがはめられダガーを持っていた。

「やっぱりこの服が一番動きやすいからね」

アンナはその場で跳びはねる。

「ロベルトは普段着だね」

ポルタが声をかけるが返事をしないでレイナルドを睨み続けた。レイナルドもロベルトの視線に気付いたが何も言わない。

「ところでスリアは」

アンナが聞くとレイナルドが悲しそうに答えた。

「アイツは行けないってさ」

「そっか・・・」

アンナも悲しそうに言った。

「まあ、仕方無いさ。行きたくない奴は行かない方がいい」

レイナルドはそう言うと西門の方を向く。

「今から俺の伝説が始まるんだ。行こうぜ皆」

レイナルドの掛け声で4人は城の外へ歩き出した。 

こうして若き勇者達の旅が始まった。

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