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もと勇者御一行様 ~還暦からの世直しじゃ!~  作者: 永月裕基
止まった時間が生んだもの
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再会

城に入ったルドルフはあまりの変わりように驚いた。装飾も少なく少し簡素にすら感じていた城の中は、沢山の装飾品で飾られている。特に変わっているのは王と王妃の石像が城の廊下や階段と至る所に置かれていることだ。1つ1つポーズの違う石像には並々ならぬこだわりを感じる。

「少し見ないうちにずいぶん趣味が悪くなったのう」

辺りを見渡しそう呟く。ルドルフの呟きが聞こえていた兵士達はなんとも言えない表情をしている。

ルドルフは階段を上り謁見の間に向かう。

リンドベルク城は大きい割には部屋数も少なく階層も3階しかないシンプルな構造になっている。

1階は誰もが入れるようになっており、お金さえ払えば宿泊もできる。

2階は招待客以外は立ち入れないようになっている。主に来客者を泊める為の部屋が並ぶ。来客用の為1階と比べて部屋が豪勢だ。

3階は大部分が謁見の間になっており、部屋は王と王妃の住む2部屋のみだ。また謁見の間には城の中央にあるでかい扉を開ける以外入れないようになっている。

ルドルフは謁見の間に入るため身の丈以上にでかい扉を押し開ける。

謁見の間は300人くらい入れそうな程広く、部屋の装飾は一際豪勢だ。奥には小さな段があり、王と王妃の座る玉座が置いてある。もちろん玉座までの道には赤いカーペットが敷かれている。

謁見の間に入ったルドルフは玉座に座る息子のライドを見つけた。細面で背も高くなく、あまり明るい性格でな無かったが、芯は強く、自分の意思を明確に持ち、それをハッキリと言葉にできる勇気と聡明さを持ち合わせている自慢の息子だ。

ライドもこちらに気がついたようで、玉座から立ちこちらに向かってくる。ルドルフもライドの方に向かう。お互い久々の再会を嬉しく思っているが、部屋が広くてなかなか距離が縮まらない。加えてお互い年なので早く歩こうともしない。

数秒の後やっと話しやすい距離まで近づけた。

「父さん久しぶり。会えて嬉しいよ」

ライドは嬉しそうに声をかける。

「ワシも嬉しいぞ」

ルドルフも嬉しそうに返す。

「急な呼び出しで悪かったね。長旅で疲れたでしょ。食事を用意してあるから一緒に食べよう」

そう言うとライドは2階の食堂へ案内する。ルドルフは聞きたいことがあったがまずは食事を済ませることにした。

来客用の食堂は広く、20人は座れそうな長方形のテーブルが置いてある。テーブルには数十人分のナイフとフォークが用意されていた。

2人はテーブルの中心に向かい合うように座り、食事を取ることにした。

出てくる料理は豪勢な料理ばかりで、ルドルフにとって初めて食べる物ばかりだった。

ルドルフとライドは昔の話に花を咲かせながら楽しく食事を取った。


食事を済ませたルドルフは疑問に思っていたことを尋ねる。

「ところでライド。最近国の方はどうなんじゃ。城に来る途中城下町を寄ったんじゃが酷い有り様じゃった。上手くいっとらんのか」

ルドルフの問いにライドは表情を曇らせる。

「実は、あんまり上手くいってないんだ」

そう言うライドはとても辛そうだ。

「どうしたんじゃ。何があった」

ルドルフが聞くとライドはゆっくりと話始めた。

「少し前から問題が山積みで、もうどうしたらいいか分から無いんだ」

そう言うとライドは頭を抱えだし、机にうずくまる。ルドルフはその様子を見て驚いていた。

(ライドがこんなに悩んでいる姿は初めてみたのう)

ルドルフは優しく声をかける。

「ワシにも何か出来るかも知れん。何があったか話してくれんか」

ライドは抱えた頭を上げて質問してきた。

「父さんはこの国の事をどこまで知ってる」

ライドは賢いが故に1つの質問で多くのことを聞いてくる。ルドルフは自分の知る限りを答えることにした。

「世界の国の中では南に位置し、国周辺の化物(モンスター)は比較的凶暴なのは少なく諸外国の中では安全性が高い。そのくらいじゃ」

ライドは頷きながら話を聞いている。

「分かったよ父さん。じゃあ最初から話すね」

どうやらルドルフの知識では最初から話さないと伝わらないと判断されたみたいだ。

「まずは各国の位置の話から」

そう言うとライドは近くに置いてあった地図を取りテーブルに広げた。地図は世界地図のようだ。ライドは地図を見ながら話し始めた。

「父さんの言うとおり地図の最南端に位置するのがこの国だ。そして諸外国のほとんどは北に密集している」

地図上では南にあるのはリンドベルク1国のみ。後は西に1国。東には国はなく。北には4国ある。

「このとおりこの国は他の国と離れて建っている。そのおかげで国同士の争いごとはとても少ない。ただ、距離が離れすぎて輸入などの取引では条件が悪いんだ」

「それはなぜじゃ」

「輸送に手間がかかるんだ。特に生鮮品などは急いで運ばないと鮮度が落ちてしまう。それに比較的安全と言っても化物は出るから護衛も必要になる」

「なるほどのう」

「だからこの国で店を開きたがる人も少ないし、放浪人の露店商もここでは商売を初めようとしない」

「そうか、じゃがワシが居た8年前は店も多く、露店も多かったのは何故じゃ」

「それはね、場所代を安くしたんだ」

「場所代。なんじゃそれは」

「場所代っていうのは商売をする場所を借りる時に払う代金のことなんだ。他の国が一律10日で500Gガロのところをこの国では30日で100Gにしたんだ」

「それは安いのう。じゃがそんなに安くして良かったのか」

「あまり良い事では無いけど商売人が居ないんじゃ意味が無いからね。それにリンドベルクは90%を輸入品に頼っている輸入依存国なんだ」

「90%は多いのう。なぜそんなに頼っとるんじゃ」

「それはリンドベルクの国土が狭いからだよ。野菜を作るにも家畜を飼うにも土地がいる。狭いリンドベルクにとって自生は難しいんだ」

「そうか」

ルドルフは周辺を開拓すればいいと思ったが、聞くのを止めた。それが難しいのはルドルフにも分かったからだ。リンドベルク周辺の化物は凶暴では無いが繁殖力が強い。減らしたそばから生まれては処理しきれない。

「場所代を安くしたことで沢山の露店商が来たけど場所代だけでは店を持ちたいという人は少なかった。だから商会を廃止したんだ」

「商会を廃止することで本当の意味で価格の自由競争を実現させたんだ」

「ほお、それはすごいのう」

本来どの国にも商会があり、おおよその値段を商会が決めてしまうためどの店もだいたい同じ値段を付けないといけなくなる。しかし商会が無くなったことで個人レベルで好きな値段を付けれるようになった。

「その効果もあって起業を狙っている商人なども集まってきてあんなに賑わっていたんだ」

「そうじゃったのか。では何故こんなに廃ったんじゃ」

ルドルフの質問にライドは下を向いて答えた。

「他の国が真似をしたんだ。そのせいでこの国に来る商人はいっきに減ったよ」

ライドはとても悲しそうな表情をしている。

「それでも残ってくれる商人は居た。この国ほど安全な国は無いと言ってね。だけど問題が起きた」

「なんじゃ」

「東の湿地化だよ」

「湿地化?」

「東の土地が急に湿地帯になったんだ。この国は東と西の大通りから輸入をしていたから湿地化のせいで使えなくなってしまったんだ」

「原因は分かっているのか」

「分からない」

「調査はしなかったのか」

「今から話すよ」

先ほどからの質問攻めにライドは少々苛立っているようだった。

「もちろん調査しようと兵を送った。けど送った兵は帰ってこなかった」

「送った兵の中には先王時代から使えていたランパルドも居たんだ。妻のレーナにとってランパルドは第2の父とも言えるくらい慕っていた人だった。ランパルドが失踪して以来レーナはほとんど部屋から出なくなった」

「救出隊は送らなかったのか」

「送ったけど救出隊も帰ってこなかった」

ライドは悔しそうに言って唇を噛み締めた。

「原因はおろか手がかりも掴めず調査は打ち切った。レーナはその判断に怒って今では口も聞いてくれない」

「しかも、調査の失敗は各国にすぐに広まってね。リンドベルクの兵士はゴブリンも殺せない。なんて言われるようになったんだ。湿地帯にゴブリンなんて居ないのに」

リンドベルクは他の国と比べて安全という事もあり、他国から兵士の能力を馬鹿にされていた。それが調査失敗という事実によって拍車がかかった。

「唯一残されてた安全性も無くなって、残ってくれてた商人も離れていった。国に居た国民もこの国を見放した」

「商人も。国民も。資源も。何も無い。もうどうしたらいいか分からない」

そう言ってまたライドは頭を抱えてうずくまった。

「他国に支援を求めたどうじゃ。せめて湿地化を止められれば状況が変わるかもしれん」

ルドルフがそう言うとライドは空笑いをしてルドルフを見た。

「僕がそんなこと思い当たらないと思った?求めたさ。当然。恥も外聞も捨てて頼んださ。けどダメだった。だから旅立ちの儀式っていう一大イベントを理由に直接交渉しようと思ったんだ。けど・・・」

ルドルフはやっと気がついた。豪華な料理に20人も座れる長いテーブル。数十人分のナイフとフォーク。それが意味することは言うまでもない。

「そうか。すまん」

「父さんが謝ることなんてないよ」

「ならば直接頼みに行けばいい。国政は誰かに任せて」

「誰に?レーナは閉じこもり話も聞いてくれない。大臣達はずいぶん前に国を離れた。レイナルドは旅立つしそもそも任せられない」

「・・・」

ルドルフは黙るしか無かった。何も思い浮かばなかったし何も言えることが無かった。  

「ごめん父さん。1人にしてもらっていいかな」

「ああ」

なんの力にもなれない事に悔しさと歯がゆさを感じながらルドルフは用意された部屋へ向かった。


ルドルフはベットの中で何か出来ないかを考えた。そして思いついたのは1つだけだった。

(明日ライドに話してみるか)

ルドルフは明日のためにも早く寝ることにした。

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