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もと勇者御一行様 ~還暦からの世直しじゃ!~  作者: 永月裕基
ここから二章です(二章完結後変更)
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取引を終え帰って来たレーナとルドルフは、今回の取引の成功を祝し、少し豪華な晩餐を食していた。

「なかなかいい成果だ。あれだけの金があればいくらでもやりようはある」

上機嫌に話、嬉しそうに食事を取るルドルフ。

今回の取引で手にいれた額はおおよそ80万Gガロ。それは国家予算としてはかなり少なく、個人の資産家に優に負ける程の額しか無いのだが、没落国家としてはとても多い額だ。

「そうですね。ですがその前に、明日を乗り切らなければいけません」

明日はここ最近起きたリンドベルクの事件を、国民に説明することになっている。それはつまり、全ての真相が明るみに出るという事だ。

「本当に1人で大丈夫なのか?説明会にはワシも出た方が良いと思うが」

「大丈夫です。これは、私1人でやり遂げなければならない事ですので、ルドルフ様は少し離れた所で見守っていて下さい」

そう言うレーナの顔は笑顔だが、いつもよりぎこちない。

本心は共に壇上に上がり支えになって欲しいと思っているが、その気持ちを必死に抑えて頑張っているのが見て取れる。

(野暮な事を言ってしまったな)

自分の発言に少し後悔をしたルドルフは、それ以上何も言わず食事を続けた。

(大丈夫。きっと大丈夫)

レーナも明日の説明会の事を考えながら、黙って食事を済ませた。



次の日 

レーナは城の前にリンドベルクの全国民を集め、最近起こった事件の全てを説明した。

街中の化物騒動、大量殺人、兵舎の大爆発、そして郊外で起きた光の正体。全てを話し終えた頃には全員その場にへたり込み、立ち上がる者は居なくなっていた。

「・・・・以上が最近起こった事件の詳細です。私たち権力者の不出来から、このような事態を招きお詫びの言葉もございません」

深々と頭を下げ、心からのお詫びするレーナだが、誰一人としてその姿を見るものは居ない。皆何処か遠くを見てその場に黙している。

それは至極当然な事だ。多くの希望を一遍に失えば誰だって絶望に目の前を閉ざされる。そうなれば生気が抜けたようになるのも仕方が無い。

想像通りの反応に、想像通りの空気感、全てがレーナの想像していた通りの形となった。しかし、所詮想像は想像に過ぎない。実際目にする『本物の痛み』は、想像ではその一片すら感じ得ることは出来ないのだとレーナは思い知った。

(私は、私は、)

思わず次の言葉を口ごもる。リンドベルク再建のためとはいえ、こんなにも苦しがっている国民に追い討ちをかけないといけないのだから。

暫しの沈黙に国民も何も言わずその場で項垂れるばかりだ。その事が更に次の言葉を言い辛くさせるが、レーナは失いかけた覚悟をかき集め、重い口を開いた。

「これだけ多くの希望を失い、国民の皆様の期待を裏切り、もはやこの国は終わりを迎えているのかも知れません。再起の道も閉ざされているのかも知れません。・・・ですが、私は諦めません。諦めたくないのです」

強い口調で話を始めるが誰一人として耳を貸す者はいない。皆顔も上げず地面を見ている。それでもレーナは口調を弱めず話続けた。

「例え何年何十年かかろうと、昔みたいな笑顔咲き誇るリンドベルクを絶対に取り戻して見せます。ですから皆さん顔を上げてください。もう一度だけ私を、リンドベルクを信じてください。お願いします」

思いを乗せた言葉を口にし、レーナは深々と頭を下げる。

その強い言葉に俯いた国民達も頭を上げるが、その顔は決して晴れやかなものでは無かった。

今まで信じてきた結果がこれなのだ。身も心もすり減り既に限界を迎えている。こんな状態でまた信じろと言われても、信じたくても信じる心が見つからない。

戸惑いと言うよりは呆然とした国民の姿に、レーナも現実を痛感した。最早、言葉も届かぬほど心を壊してしまったのだと。もう手遅れなのだと。

込み上げてくる悔しさを噛み締め、レーナは話を続ける。

「ですが、この道はとても過酷で厳しいものになります。望まぬ仕事をやることはもちろん、身を危険に晒すような事もしていただきます」

そこからの言葉は本当は口にしたくなかった。それを口にすれば全てが終わってしまうと分っていたから。けれど、ここでこの言葉を言わなければいけないのも分っている。

「そんな道を国王という立場だけを使い、共に歩ませるのは私の望むところではありません。なので、賛同頂けない方は申し出をしてください。一人につき5,000Gの生活補助金と、移住の手続きを行います」

決して口にしたくなかった言葉。それは移住の打診。国自らがここまで耐え抜いてくれた国民へ移住を進めるなど、一番の裏切りと言える行為だ。しかし、この状況でのその言葉は裏切り以外の意味を持つ。

「う、う、うあああああ」

「これで、ここから抜け出せるぞ!」

「やっと、やっと、この地獄が終わる」

王族が目の前にいる事など構わず国民は歓喜の声を上げ喜んだ。喜びから涙を流す者までいる。

「申請は今日から3日間受け付けます。その間の取り消しや、再申請は何度でも受け付けます」

そう言い終えたレーナは足早にその場を去った。分かりきっていた国民の反応も、実際目にするのは辛いことだ。取り戻したい笑顔が「国を去ることが出来ます」という一番口にしたくない言葉で取り戻せたのだから。


3日後の早朝、西門の前には視界を覆いつくす程の馬車が並んでいた。全て移住を決めた国民を運ぶ為に用意されたものだ。

「それでは、移住する方は馬車に乗り込んで下さい」

係員の指示に従い移住希望者が乗り込んでいく。その全ての人間が笑顔を浮かべており、去り際のもの悲しさなど微塵も感じさせない。

その姿を西門から少し離れた位置で見つめるレーナとルドルフ。2人はただ黙ってその姿を見つめている。

「もう居ませんね。それでは出発します」

係員の指示で馬車が出発をした。あれほどあった馬車は波が引くようにいなくなり、西門の前には誰一人居なくなった。

レーナとルドルフは皆が去った西門の前に立つ。

少し間までそこにあったはずも笑顔も、熱気も、全て馬車が運び出してしまった。残していったものは物悲しさと無力感のみ。

言葉を口にする気も起きずただ立ち尽くしていると、突然レーナが自分の頬を叩いた。

「こんな沈んだ空気ではいけません。リンドベルクはここから立ち上がるのですから」

カラ元気でそう言うレーナにルドルフも笑って見せる。

「そうだな。残ってくれた人の為にもここから盛り返そう」

2人は互いを支え合うように歩み城に戻っていった。

今回の移住で去った人間は約84人。そして残った人間は23人。

その中で意識を失い今だ目覚めないモンドの為に残った第二部隊の兵士が8人。レーナの使用人と城在中の第一部隊の兵士が合わせて10人。そして、ルドルフを支持し残った医者のマティスと、その助手が1人。

残った全ての人間が関係を持っていた人間で、関係の薄い国民は誰一人と残ろうとはしなかった。



そんな移住騒動から1日。鎖国状態だったリンドベルク市民により、閉ざされていたリンドベルクの情報は瞬く間に広がった。

各国で全ての事件が新聞に掲載され、世界に激震を走らせる。と思いきや、何のことは無い。全ての事件が大きく取り上げらる事も無く、掲載記事も新聞の片隅にひょっこりと載っているだけで、多くの者が事件があったことなど微塵も気にしていない。

夕刊には記事をどけられ追跡取材も無い。平和の国にとって勇者など存在は薄く、没落国家の出来事など誰も気にしないという事なのだろう。

・・・しかし、その中でもある男はその記事に衝撃を受けていた。


とある酒場

昼下がりの酒場でカウンターに腰を掛ける筋肉質の男。そいつはカウンターを独占し酒を飲み散らかしている。

「マスター!もう一杯だ!」

筋肉質の男がデカい声で注文すると、マスターと呼ばれるバーテンダーは呆れ顔を向けた。

「ヘルヴァさん。飲み過ぎだ。今日はもう止しな」

バーテンダーが止めるがヘルヴァという男は聞く耳を持たず、バーテンダーの手にある酒を奪い取ると、それを一気に飲み干した。

「また傭兵団をクビになったんですか?やけ酒はほどほどにね」

バーテンダーはそう言うと水と目覚めの実という木の実を差し出した。

目覚めの実という木の実は、噛み砕くと頭がスッキリする性質を持つ。そのため頭痛や二日酔いの特効薬として使われている。

「クビになったんじゃねえ。こっちから辞めてやったんだよ」

そう言うとヘルヴァは水だけを飲み干し席を立った。

「ヘルヴァさん目覚めの実はいいんですか?」

「へ、酒は酔いも含めて酒なんだよ。そんなもん食ったら酒を飲んでる意味が無くなるだろ」

言い捨てる様に言いヘルヴァは出口に向かった。そして、マガジンラックにぶつかった。

「もう、何してるんですか。ふらふら歩いてるからですよ」

バーテンダーが怒り口調で言うと、「わるいわるい」と軽く謝り散らばった雑誌や新聞を拾い集める。すると、新聞を見たヘルヴァの様子が変わった。

「どうしたんですか?気分でも悪いんですか?」

しゃがんだまま動かなくなったヘルヴァを心配してバーテンダーが声をかけると、酔いを感じさせない声でヘルヴァが答えた。

「マスター、さっきの実くれねえか」

そのただならぬ雰囲気に一瞬ギョッとするが、直ぐに目覚めの実をヘルヴァに手渡す。

受け取ったヘルヴァはそれを豪快に口に放り込むと、直ぐに立ち上がり置いていた装備を手に取った。

「悪いなマスター、片付け頼めるか?」

ヘルヴァの強烈な圧迫感に気圧されながらバーテンダーが「ええ、いいですよ」と答えると、ヘルヴァは足早に酒場を去っていった。

(いったい何が)

散らかった雑誌や新聞を拾い集めながら考えていると、新聞にあるルドルフの記事が目に飛び込んできた。

「ああ、なるほど。これを読んだからか」

納得したバーテンダーは直ぐに掃除を終わらせ夜の開店準備を進めた。

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