改世の勇者達
城へ向かう道中ルドルフは2つの疑問を感じていた。
1つ目は城下町の廃りぶりだ。いつまでも賑わい続けるのは難しいが、8年でここまで廃るのはおかしい。
もう1つは城下町に兵士が居なかったこと。昔は悪徳商人を取り締まるために何人か兵士が居たはずなのに1人もいなかった。
ルドルフはこの8年の間に何があったのか聞くためにも足早に城に向かった。
城に着いたルドルフは久々に訪れたリンドベルク城を眺めていた。
リンドベルク城は国土の5分の1をも占める大きな城であり、見たものを惹き付ける優美な城である。ルドルフは特別城に詳しいわけでは無いのだが、その美しさには目を奪われずにはいられない。
「相変わらず綺麗じゃのう」
何度見ても声が漏れる美しさにルドルフはしばし見とれていた。
数分か数十分かいくらか時が経った・・・
(いかん。また見とれてしもうた)
我に返ったルドルフが城に入ろうとしたところを、中年の兵士と若い兵士の二人組に止められた。2人とも見るからにやる気が無さそうだ。
「失礼。今は御用のない者は入れてはいけないんです。要件はなんでしょうか」
若い兵士が事務的に聞いてくる。
「明日の儀式に招待されたんじゃ」
ルドルフが明日の儀式に招待された事を伝えると、若い兵士は招待状を見せるように言ってきた。しかし、ルドルフは招待されたことを明確にする物は持っていなかった。
「すいませんが、招待状をお持ちでない方は入れることは出来ません」
ルドルフはどうにか入れないか交渉していると、若い兵士が招待客のリストに名前があるかもしれないと名前を聞いてきた。
「ルドルフ・ベルトラムじゃ」
若い兵士は手に持っていたリストを確認したが、リストにはルドルフの名前は無かった。その事を伝えようと話している途中で、突然中年兵士が大声を上げた。
「残念ですがリストには名前が-
「ルドルフ・ベルトラムだって!?」
中年兵士は若い兵士を押し退け興奮しながらルドルフに尋ねる。
「貴方はあの勇者ルドルフ・ベルトラムですか!?」
あまりの興奮ぶりに少し驚いたが、ルドルフは優しく答える。
「そのルドルフ・ベルトラムじゃ」
中年兵士は感動のあまり目にはうっすらと涙を浮かべている。
「あ、あの握手してもらって良いですか」
「ああ、構わんよ」
そう言うとルドルフは中年兵士と力強く握手をした。状況が読み込めていない若い兵士はただ呆然と立ち尽くしている。
「勇者ルドルフなら招待状は不要です。どうぞお通り下さい」
中年兵士がルドルフを通すと、若い兵士が慌てて止めようとしたが、中年兵士が溝内に肘を食らわせ黙らせた。
ルドルフはその様子を見ていたがなにも言わず城に入った。
ルドルフが城に入った後、苦しそうにうずくまる若い兵士が中年兵士に尋ねた。
「先輩。何であのお爺さん通したんですか?リストに名前無かったですよ」
若い兵士の問いかけに、中年兵士は呆れたように答える。
「何でって、勇者ルドルフはライド王の父親だからだ。お前そんなことも知らないのか」
「え、あのお爺さん王様のお父さん何ですか」
驚いたように若い兵士は言われたことを繰り返す。
「でも、姓が違いましたよ」
また、呆れたように中年兵士が答える。
「それはそうだろ。ライド王はリンドベルク家に婿入りしたんだから」
「え、王様って婿だったんですか。」
また、驚いたように若い兵士は言われたことを繰り返す。
「そもそも王様やそのお父さんのルドルフさん・・・でしたっけ?は何した人なんです。さっき先輩勇者とか言ってましたけど」
中年兵士は大きくため息をついた。呆れるのを通り越して哀れにさえ感じてくる。
「はぁ、まったく。最近の若い奴は勇者ルドルフも知らないか」
時代の変化で偉大な人が忘れられる事に憂いを感じながらも、力強く答えた。
「いいか。勇者ルドルフは40前化物の王を倒して世界に平穏をもたらした救世の勇者達の1人だ。今の暮らしがあるのも全部救世の勇者達のお陰だと言っても過言じゃない」
中年兵士の話に聞き入っていた若い兵士が、ふと何か思い出したように言ってきた。
「それって改世の勇者達の話みたいですね」
「改世の勇者達?何だそれ」
初めて聞く言葉に中年兵士は意味を聞いた。
「世界に平穏をもたらした勇者達の事が書かれた絵本があって、その絵本に出てくる勇者達を"改世の勇者達"って言うんです。子どもの頃よく読んでもらってたな~」
若い兵士は懐かしそうにふけっている。
「そんな絵本があるんだな。でもその改世の勇者達の絵本は救世の勇者達の事を書いたんだろうな。俺が親父から聞いた話と似てるし」
「そうっぽいですね。世代によって呼び方が変わるのかも知れませんね」
2人はリラックスしながら話している。すると、急に若い兵士が悔しそうな顔をする。
「それにしても、まさか改世の勇者達の1人がさっきのお爺さんだなんてなぁ。俺も握手してもらえば良かったな~」
中年兵士はその様子を見て頬をあげて言ってきた。
「やっとあの御方の凄さが分かったか。何てったって絶望の時代を終わらせたんだからな」
また若い兵士は疑問そうにこっちを見てきた。
「何ですか。絶望の時代って」
「何だ。絵本には書いてなかったのか」
「絵本には、改世の勇者達が化物の王を倒して世界に平穏が訪れました。みたいな感じでしか書いてなかったんですよ」
「そうか。まあ俺も親父から聞いただけだから詳しくは無いんだが、親父が言うには"この世に生を受けた事を後悔する時代"だそうだ」
へぇ~。若い兵士は初めて聞く話に感嘆な相づちを打つ。
「先輩もザックリですね」
若い兵士の指摘に中年兵士は少しムッとする。
「仕方無いだろ。親父から聞いた話だったし、親父もその時代の話はしたく無さそうだったんだ」
「そうなんですか。まあ、産まれたことを後悔する何て相当酷い環境だったんでしょうね」
「確かにな。後悔することはあってもその時だけだったり、失敗したタイミングくらいだしな。産まれたこと事態を後悔する何て相当なことが無いとならないだろう」
そう言い終わると中年兵士は息を吐いた。若い兵士も一緒に息を吐く。しばしの沈黙の後、若い兵士がそっと呟いた。
「俺、今の時代に産まれて良かったです」
「俺もだ」
2人は空を見上げて過去に思いを馳せる。
いくらか経った後思い出したように若い兵士が中年兵士に尋ねる。
「あ、そういえば王様は何した人なんですか」
まだ過去に思いを馳せてた中年兵士は、若い兵士の声で現実に引き戻された。
「え、あ、王様か。王様は・・・知らん」
「え、知らないんですか」
若い兵士は不満そうに言う。中年兵士はこめかみをグリグリしながら思い出そうとするが思い出せない。
「あー確か凄く頭が良かったって言う話は聞いたことある。でも何か成し遂げたって話は聞いたことないな」
「そうなんですか」
不満そうに若い兵士は相づちを打つ。
「まあ、親が偉大過ぎて活躍が埋もれたんだろうな。凄くない人が王族の娘と結婚できるわけ無いだろうし」
そう言って中年兵士は話を終わらせた。若い兵士は不満そうな表情をし、誰にも聞こえないような小声で呟いた。
「凄く頭が良い・・・か」
そう言って若い兵士は周りを見渡す。
若い兵士の目に映るのは苦しそうな人の表情だけだった。空気は相変わらずどんよりと重い。
(本当に凄く頭が良いのか。この国を見る限りそんな風には思えないけどな)
若い兵士は頭の中で王様への不満を漏らしたが、すぐに忘れようと仕事に集中することにした。




