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もと勇者御一行様 ~還暦からの世直しじゃ!~  作者: 永月裕基
止まった時間が生んだもの
20/44

偽物

呆然と横たわり空を眺めるレイナルド。傷も酷いので早く治療を受けたほうが良いのだろうが、まだ動く気になれなかった。そんなレイナルドの下に2人の男が近づいてきた。

「少し見ない間にいい男になったな」

「確かに、これなら恥ずかしくないですね」

2人は近づくなり馬鹿にしたような発言を浴びせた。だが今のレイナルドにとってはどうでもいいことだ。気にせずただ呆然と空を眺め続けた。

「おお、ずいぶん寛大になったな。ちょっと前までは怒り狂ったのによ」

「やっぱり友人を死なせて変わったんですかね」

またしても馬鹿にしたような発言を浴びせる2人。今回の発言にはイラついたレイナルドが2人を見ると、そこにはダナトスとページがいた。

「ダナトス、ページ」

驚き声が漏れた。2人はレイナルドを見下すように見ていた。

「やっと気づいたか」

鋭い目つきで見下しダナトスが言う。レイナルドは急いで立ち上がろうとしたが、思っていた以上に体が痛く動きにくい。

「こんな所で会うとは思ってなかったですよ。ポルタ達の代わりを探しに来たんですか」

嫌味っぽく言うページ。息子を間接的にも意識不明に追いやった原因が、酒場に来ていたら誰でも不愉快なる。

「そんなんじゃない」

「では何のために」

必至な様子で否定するレイナルドにページは冷たい目をしながら尋ねた。

「アンナの死体を回収するために傭兵を雇おうと思ったんだ」

「ほう、アンナちゃんの為に」

ページは疑ったような目を向けながら言う。全く信じていない様だった。

「で、傭兵はどこにいるんだ」

ダナトスの問いにレイナルドは黙った。喧嘩の挙句全てを失い、誰も雇えず倒れていたなんて言えない。その様子を見てページが口を開いた。

「ダナトスさん、聞くまでもないですよ。王子は騒ぎを起こして追い出されていたんですよ」

「何だと、じゃあ何の意味もねえじゃねえか」

2人はわざとらしく話している。最初から信じていない話にわざと乗り馬鹿にするためだった。レイナルドは何も言えなかった。どれだけ馬鹿にされても何も言えないほどの事を自分はやったのだから。

「ただまあ、アンナの回収はしなくてよくなったから良かったな」

「・・・どういう事だ」

レイナルドにはダナトスの言っている意味が分からなかった。なぜアンナを回収する必要が無いのか。もしかしたら回収されたのだろうか。

少し期待を込めて尋ねるとダナトスは顔を近づけて言った。

「アンナの親はな、2人共自殺したんだよ」

小さな期待は一瞬で吹き飛びレイナルドの頭は真っ白になった。

「アンナちゃんが死んだって聞いてから、直ぐに自宅で首を括ったみたいですよ」

「あそこの家庭は結構厳しい状況だったからな。それでもアンナっていう心の支えで何とか保ってた。その支えが亡くなったんだ。死ぬのもおかしな事じゃない」

「国がこんな状態ですからね。何か支えがないと生きていけないですよ。まあ、私もダナトスさんも亡くなりましたけどね」

レイナルドは改めて自分の愚かさを感じた。心のどこかで自分の行動は正しい面もあったと思っていたからだ。だが、最初から間違っていた。アンナを誘ったところから、いやその前から既に間違えていたのかも知れない。

ショックを受けたレイナルドはその場に崩れ落ちた。

(俺は、俺は)

頭の中に渦巻く後悔の念に、レイナルドはうつ向く事しか出来なかった。

「まあ、そんなにショックを受けるなよ。また会える」

「そうですよ。直ぐにまた会えますよ」

2人はさっきまでとは違いとても優しい声で言う。だが死んでしまった相手にどう会うのだろうか。困惑する頭の中で浮かんだ疑問を訪ねるために顔を上げると、ダナトスが鍛冶に使う槌を振りかざしていた。

体を逸らしとっさに避けた事で何とか槌の直撃を避けた。槌は石で作られた道に当たり、道は砕けた。避けなければレイナルドの頭がこうなっていたのだろう。

「な、なんで」

聞くまでもない質問がレイナルドの口から飛び出した。

「なんで?今言っただろ。直ぐに会えるって」

「死んだ人に会うには死ぬ以外ないじゃないですか」

笑みを浮かべていう2人の姿は不気味だった。ただの殺意とは違いもっと悪意のこもった、心の底を揺さぶるような殺意。レイナルドは体の芯から恐怖を感じて動けなかった。口を閉めることも忘れただ呆然と見ることしか出来ない。

「ダナトスさん、ダメじゃないですか。もっと苦しませ無いと」

「こんな風にね」

そう言うとページは液体の入った瓶を取り出しレイナルドの顔目掛けてかけた。

「あああ゛あ゛」

液体を受けたレイナルドは悲痛な叫び声を上げ、のたうち回った。その様子を見てページは満足そうな笑みを浮かべる。

「ふふ、苦労して手に入れた甲斐がありましたよ」

ページの持っている瓶には「濃硫酸」というラベルが貼ってあった。レイナルドは濃硫酸をかけられたのだ。

レイナルドの顔は見る見るうちに溶けた。特に大量にかかった右側が酷く、右目は視力を失い顔の感覚が無い。口を開けていたせいで飲んでしまい、喉も溶けてしまった。

「まだ、終わらないですよ。もっともっと苦しめてから殺してやる」

ページはまた濃硫酸の入った瓶を取り出した。

「まずは足を潰すか」

ダナトスは槌を構えてレイナルドの足に狙いをつけた。

(このままじゃ、殺される)

命の危機を感じたレイナルドは、とっさにフレイムを放った。

「う、うううああああ」

フレイムはページ持っている濃硫酸の入った瓶に当たり、瓶はページの手元で弾けとんだ。濃硫酸は飛び散りページの体は大きく溶けた。

「く、こいつ」

ダナトスも無事ではなかった。飛んできたガラスの破片で目尻を切り、大量の出血をした。

苦し紛れの一撃で運良く逃げるタイミングを得たレイナルドは、痛みに耐えその場から急いで逃げ出した。

「逃がさねえぞ」

ダナトスが追うために動き出したが、ページは痛みで暴れまわりダナトスの動きを邪魔した。

「おい、何すんだ」

「痛いぃぃぃ、痛いぃぃぃ」

ページは痛みで話を聞ける状態じゃなかった。そうこうしているうちにレイナルドは裏路地まで逃げてしまった。

「たく、何してんだよ。逃げられちまったじゃねえか」

ダナトスは怒鳴り声を上げるが、ページはそれどころじゃない。

「くそ、このままじゃヤバイぞ」

レイナルドが逃げ込んだ裏路地を抜ければ城は目と鼻の先だ。城に逃げ込まれればダナトスとページの悪行は知られてしまう。そうなれば処刑は確実だ。

痛みにもがき苦しんでいたページも徐々に落ち着き話せるようになってきた。だが様子がおかしかった。

「あいつ、絶対殺してやる」

「ぶっ殺してやる」

焦るダナトスなど気にせずページは恨み言を叫び続けた。その様子に仲間のダナトスですら恐怖を覚えた。

「まずは、ここを離れるぞ」

口調すら変わったページがダナトスに命令を出し、ダナトス逆らわない方が良さそうだと思い従った。



逃げ出したレイナルドは脇目も振らず裏路地を駆け抜けた。幸い足をほとんど怪我していなかったため走るだけなら普通に走れた。だが慣れていない視界では動きづらく、所々体をぶつけた。裏路地を抜け中央通りに出て直ぐに、振り向き2人が追ってきていないことを確認した。

(追って、来ていない)

追われていないことに安心したら全身の痛みが疼きだした。

(まずは治療を受けないと)

リンドベルクでは医者はマティスしか居ない。だが道具による治療ならば城でも受けることは出来る。レイナルドは近い城に向かって歩き出した。

(くそ、歩きづらい)

右目を失った事で普段と違う視界に戸惑い歩速も下がる。普段はなんとも思わない城への距離も格段に長く感じる。

(やっと、見えてきた)

城の前にいる兵士が見えてきた。兵士が見えたならあと少しだ。視界に慣れてきたこともあり歩速も早くなる。

もう少しで城だ。そう思った瞬間レイナルドは足を止めた。

もし、このまま城に行けば怪我の理由を聞かれる。そうなればダナトスとページの処刑は確実だ。

レイナルドは迷った。ダナトスとページがやった事は許せないが、やらせてしまったのは自分だ。それに、まだ謝れていない。

レイナルドは迷った挙句、城に向かうのを止めて病院へ向かった。



病院に着いた頃にはレイナルドは疲れきっていた。そもそも万全の体調じゃなかった所に、格上の相手との戦闘に精神的ダメージと大怪我。疲れない方が無理というものだ。

満身創痍で病院を尋ねると、病院のドアは閉まっていた。マティスが往診等で居ない時はいつも閉めている。だが、ここで帰るわけにはいかない。

(誰か居ないのか)

レイナルドは力強くドアを叩いた。

ドンドン、ドンドン

中からは何の反応もない。だがレイナルドは叩き続けた。すると中から足音のような音が聞こえた。

「何ですか。先生は居ないですよ」

気だるそうに言いながら誰かがドアに近づいてくる。レイナルドは先程以上に力強くドアを叩いた。

「ああもう何ですか。今出ますから叩くのを止めて下さい」

そう言うと病院のドアが小さく開き、隙間から看護師が顔を覗かせた。レイナルドの様子を見た看護師は驚き戸惑ったような顔をする。そんな看護師をよそにレイナルドは治療を受けたい事を伝える。

「ぢ・・・りょう・・を、うげ・・・だい」

時間を置いたことで更に悪くなった喉ではこれが精一杯だった。看護師は戸惑ったままだったが、何となく察してくれたようだった。

「えっと、とにかく中へ―

カンカンカンカン

看護師の言葉を遮るように大きな音がリンドベルク全体に鳴り響いた。これは緊急事態の時に鳴らす警鐘の音だ。

(何かあったのか)

レイナルドを始めリンドベルクにいる人間全員に緊張が走る。

「緊急事態。緊急事態。リンドベルクに化物モンスターが侵入しました。市民の皆さんは屋内にて待機してください。外にいる方は直ぐに屋内に避難してください」

リンドベルクの各地に設置されている拡声器から放送が流れる。放送を聞いた人は慌てて施錠を確認する。外に居る者は近くの建物に避難した。

(リンドベルクに化物が)

レイナルドにも緊張が走る。安全が売りのリンドベルクに化物が侵入することは今までに無かった。先王のヴァルトナが亡くなって国が傾いた時ですら無かった事だった。

「目撃情報によれば化物モンスターは人型で、顔は大きく溶けた様な顔をしているようです。背中は所々鋭利な何かが光っているとのこと。見かけた方は近づかないようにしてください」

(え、)

化物の特徴を聞いたレイナルドは戸惑った。その特徴は今のレイナルドそっくりだったからだ。そして、それは看護師も感じていた。先程までの戸惑いながらも受け入れてくれようとしていた態度とは打って変わり、恐怖と怯えしか感じられない顔になっていた。

「きゃっぁぁぁぁぁ」

耳を突くような悲鳴を上げると勢い良くドアを閉めた。

(しまった)

焦ったレイナルドは急いでドアノブを掴んだ。鍵をかけられないように力一杯引き、無理やり開けようとした。もし、このまま外に出されては化物として殺されてしまうからだ。

「誰か、誰か来て」

看護師の様子は見えないが、声から必死さが伝わる。少し申し訳なさを感じるが、レイナルドも譲れない。何とかして応援が来る前に中には入らないと殺される。レイナルドは残された力を振り絞りドアを引いた。

徐々にドアは開いていき、急げば入れそうなくらいは開いた。

(今だ)

レイナルドがタイミングを見て入ろうとしたその時、看護師がドアノブから手を離した。力一杯引いていたレイナルドはそのまま後ろに倒れ、背中を強く打ち付けた。破片が更に食い込みレイナルドは痛みで顔を歪める。そんなレイナルドの事など気にせず看護師は急いでドアを閉めた。

(くそ、くそ、くそ)

痛みと悔しさで涙が出てくるが、今は泣いている場合じゃない。看護師が叫んだことで兵士が近づいてきているかも知れない。レイナルドはまた裏路地に逃げ込んだ。



―それで私は必死に逃げたんですよ」

濃硫酸で溶けた皮膚を見せながらページは兵士に熱弁を振るった。

「俺も焦りましたよ。もう少しで目が見えなくなるところだった」

ダナトスは左目にガーゼを貼り、兵士に話している。2人の話を聞いた兵士は困った様な顔を浮かべていた。

「うーん。お二人の話を聞く限り私も化物だとは思いますが、直接見ていないので判断できません。なので上司に確認をとってから―

「それじゃ遅いんですよ!」

ページは兵士の言葉に被せるように言うと、すごい剣幕で詰め寄った。

「あれは確実に化物だ!私はアイツの吐いた酸でこうなったんだ。よく見てください」

ページは溶けた皮膚を見るよう近づいた。兵士は嫌そうな顔をして直視するのは避けようとする。

「これほどまでの強力は酸を吐く化物を放置していいんですか。私は商人なので仕入れで国外によく出ますが、こんな強力な酸を吐く化物は見たことも聞いたことも無いですよ」

ページの必死さに押される兵士。ダナトスも加勢する。

「俺も鍛冶屋の端くれ。武器の扱いにはそんじょそこらの兵士よりは覚えがある、そんな俺でも一撃も食らわせられずやられたんだ。あんなの一般人が会ったら直ぐに殺されるぞ」

2人の剣幕に圧倒された兵士はたじろぎだした。2人はここぞとばかりに責め立てた。

「何の為に警鐘を任されていると思ってるんですか。こういう時自分で判断する為でしょ。それとも警鐘を任されているのにそんな判断もできないんですか」

「グズグズしてたら人が死ぬぞ。もし死人が出たらお前の責任だぞ」

「そ、そんな」

頼りない声を出してその場に座り込む兵士。2人の必死さに飲まれてしまい、何も考えれなくなってきていた。

「分かったら警鐘を鳴らしてください。ここで鳴らさなければ貴方は危険を知っていながら放置した犯罪者になりますよ。でも、ここで鳴らせば貴方は危機を未然に防いだ英雄ですよ」

思考が停止してしまった兵士はページの甘い言葉通り警鐘を鳴らした。2人は含み笑いをしてその様子を見ていた。これでレイナルドは化物として追われる事になる。自分たちの手で殺せないのは残念だが、王子が国の兵士に追われて殺される。それはそれで面白い。

ダナトスとページは嘘を兵士に吹き込み警鐘を鳴らさせた。

(これで終わりだ。せいぜい苦しんで死ね)

2人は笑いを必死に堪えながら放送を聞いた。



裏路地に逃げ込んだレイナルドは霞む意識の中必死に歩いていた。外も中もボロボロの状態に加え、国中から追われる身になり最早レイナルドの生きる気力は尽きそうだった。

(もういっそ・・・)

トボトボと歩いていると、見覚えのある景色が見えてきた。裏路地にある小さな広場。1つのベンチと小さな花壇があるくらいの小さな広場は、レイナルドとスリアが初めてあった場所だ。初めて会ったのに直ぐに意気投合して仲良く遊んだ思い出の場所。ちょっと言いづらい事なども此処で語り合った。レイナルドとスリアにとっては特別な場所だった。

(いつの間にか、ここに着いてたのか)

レイナルドはベンチに腰をかけた。ゆったりしていられる状況では無かったが、無意識に座ってしまった。椅子から見る景色はより鮮明に思い出を呼び起こしてくる。ほとんどがスリアと過ごした楽しい思い出ばかりだ。

(たく、こんな時に出てくるなよ)

次々に思い出してくる思い出の波に、レイナルドの感情は高まっていく。それと同時に後悔の念も押し寄せてきた。

(あれが最後の別れか、最後は楽しく別れたかったな)

逃げる気も無いレイナルドは、思い出のベンチで人生の幕を引くことにした。目を閉じ、体重をベンチに預ける。

(ここで寝れば、幸せに眠れるかな)

閉じる意識への抵抗も辞めて全身の力が抜けていく。

・・・

「・・イ」

・・・・

「レイ」

気持ちよく閉じていく意識を起こすように優しい声が聞こえた。

(・・・うるさい)

寝に入っていたレイナルドは不機嫌そうな顔をして目を開けると、そこには見知った顔があった。

「ス・リ・・ア」

驚き思わず声が出る。まさかこんな所に居る訳が・・でもどう見てもスリアだ。眠気は吹き飛びレイナルドの頭の中は疑問で埋め尽くされた。

「やっぱりレイだったんだ」

自信なさげに言うスリア。冷静に考えれば今のレイナルドをレイと気づくのは難しい事だが、スリアは気づいてくれた。

すると、まるでレイナルドの状態を知っていたかの様に、スリアは薬と飲み物を渡してきた。

「とにかく飲んで」

ページの一件もあって少し警戒したが、レイナルドは言われるがままに口に運んだ。すると体を襲っていた倦怠感や痛みは徐々に収まり楽になった。

「あり・・がとう」

スリアのおかげで喉もだいぶ楽になった。こんなに楽になるなんて、もしかしたら貴重な薬だったのかも知れない。

「話すの辛いでしょ。これ使って」

そう言うとスリアは髪とペンを渡してきた。ここまで用意が良いと怖くなってくる。

「大丈夫?さっきの放送今のレイを指してるみたいだったけど」

スリアはこちらの疑問を尋ねる間も無く話を進めた。そんな事を聞いている場合では無い事を、スリアの方が理解しているようだ。

「何か出来ることがあったら言って。力になるから」

スリアは本気で心配してくれているようだった。国を出る前にしたレイナルドの仕打ちを、気にしていないかの様に振る舞い話を聞いてくれる。レイナルドは何故あそこまで酷い態度をしていたのか、自分で自分が分からなくなる。

(この状況で助かる方法といえば、アレしかない)

レイナルドはどうするか悩んだ。その選択はレイナルドの気持ちに反している。だがこれをしなければ助からない事も分かってる。

レイナルドは気持ちと自分の命を天秤にかけた。少し前までなら迷わず気持ちを優先したが、スリアと会ったことで生きたいと感じたレイナルドは、自分の命を優先した。

レイナルドはスリアにやって欲しい事を紙に書いて渡した。スリアは少し間を置いたあと直ぐに笑顔を見せた。

「分かった。取ってくる」

そう言うとスリアはその場を去った。1人残されたレイナルドは、スリアのくれた飲み物を飲みながら待った。命を狙われているレイナルドは、動かないのが一番安全と思い全てをスリアに託した。

レイナルドは辺りを警戒しながらスリアを待った。途中兵士の姿が見えたこともあったが、運の良い事に兵士はレイナルドに気づかず去っていった。

警戒しているせいか時間が長く感じる。レイナルドは小さな焦りを感じながら待っていると、スリアが戻ってきた。

「お待たせ」

いつも通りの明るい声で言うスリア。レイナルドは立ち上がりスリアに駆け寄ろうとしたが、止めた。スリアの近くには沢山の兵士が並んでいたからだ。

「なん・・で」

何故スリアがこんなことをするのか。困惑したレイナルドは呆然と立ち尽くすしかなかった。

そんなレイナルドにスリアは直ぐに答えをくれた。

「レイなら、こんなの頼まない」

スリアはレイナルドに渡された紙をその場に捨てた。紙には「病院にある隠れ里の秘薬を取ってきて欲しい」と書いてある。レイナルドは、自分の命の為にポルタに渡した隠れ里の秘薬を取ってきてもらおうとしたのだ。

「マティス先生に聞いたら、あれはレイがポルタの為に渡した薬だって。レイなら友達の為に渡した薬を自分の為に使おうなんてしない」

スリアは真っ直ぐレイナルドにを見て言った。レイナルドの事を一番知っているからこそ、この選択はレイナルドでは有り得ないと判断したのだ。

「アンタはレイじゃない。レイの姿をした偽物だ」

ハッキリと言われたその言葉に、何故かレイナルドは嬉しかった。自分の事が分からなくなっていたレイナルドにとって、スリアのハッキリとしたレイナルドの人物象は嬉しかった。

だが、殺される訳にはいかない。このまま殺されれば後から本物のレイナルドと知ったスリアが悲しむかも知れない。レイナルドはその場を急いで逃げ出した。

「逃がさない」

スリアはレイナルド目掛けてフレイムを放ったが、レイナルドは背中を向けたまま避けた。長く一緒に過ごしたことで、スリアのとっさの動きは読めていた。だがそれはスリアも同じ事。

「っ!」

避けたレイナルドに向けて今度はロックエッジを放とうとしたが、止めた。もし当たればあの偽物をレイナルドと認めるような気がしたからだ。

「おい、化物が逃げたぞ」

逃げるレイナルドを兵士達が追いかけたが、スリアはその場を動かなかった。



逃げるレイナルドの足取りは軽かった。スリアのくれた薬や飲み物も大きな理由ではあったが、それ以上に死ねないという思いが強かった。

裏路地を走り抜けると城下町に出た。閑散とした城下町では狙い撃ちされる可能性が高い。あまり逃げ道としてはいい選択では無かったが、そんな事を言っている場合ではない。

左右を見てどちらの門から逃げるか考える。ここから近いのは東門だが、東門には沢山の兵士が集まっているように見えた。よく見るとその中にはルドルフの姿もあった。調査隊の出発時間とかぶってしまったのだ。

(ジィジ)

一瞬ルドルフに頼ろうと思ったが、化物として殺される可能性を感じたレイナルドは西門から逃げることにした。

(8年も会ってなかったんだ。分かってもらえる訳ない)

レイナルドは西門目指して全力で駆け抜けた。

逃げている途中次々と兵士が集まってきた。こんな目立つ所を走っているのだから当然だ。西門には数人の兵士が待ち構えており、その中にはブライトとルーファスも居た。

兵士達は西門を塞ぐように立っており通る隙間が無い。だが今更進路を変えられないし、止まることも出来ない。レイナルドは速度を落とさず西門に突っ込んだ。

武器を構えて迎え射とうとしている兵士達の手前で、自分の足元に全力のフレイムを放った。地面は爆発し辺りを煙が覆う。

「くそ、化物くせに小細工を」

レイナルドを見失った兵士達が叫び声を上げ辺りを探すが、既にレイナルドの姿はそこに無かった。レイナルドは爆風に体を乗せ城の外まで自身を吹き飛ばしたのだ。そんな無謀な事をしたせいでレイナルドの体は傷つき全身ボロボロだ。

だが、一先ず城の外には出れた。流石にこれ以上動けそうに無いので、近くの馬小屋に身を隠した。

「近くにいるはずだ。草の根を分けてでも捜し出せ」

モンドの檄が飛ぶなか兵士達はレイナルドを探した。レイナルドは干し草の中に隠れて時間が経つのを待ち続けた。

(絶対に生き抜く)

レイナルドは決意を静かに決意し、息を殺して時間が経つのを待った。

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