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もと勇者御一行様 ~還暦からの世直しじゃ!~  作者: 永月裕基
止まった時間が生んだもの
18/44

許さない

目を開けると少し古びた天井が目に映った。所々汚れやヒビがあり年季を感じる。漂う空気は静かでここが本当に現実なのか疑いたくなった。

レイナルドは起き上がり周りを見る。部屋は狭い個室でベットと小さい机以外何も無い。

「ここは、病院か」

まだ覚めない頭を働かせ徐々に自分の置かれた状況を理解していく。

(俺は、倒れたのか)

少しずつ自分の身に起きた事を思い出していると部屋のドアが開いた。入ってきたのはマティスだった。

「具合はどうだね」

マティスは落ち着いた様子で尋ねてきた。レイナルドは手を握ってみたり足を揺すってみる。

「まあまあです」

その言葉を聞いてマティスは満足げな顔をして見せた。

「まあ、まだ本調子では無いだろう。2.3日はゆっくり休みなさい」

そう言うとマティスは机に薬を置き部屋を去った。残されたレイナルドは寝転び天井を眺めていた。マティスの言う通り休もうにも旅の事が頭によぎり休めなかった。

(あの時、俺はどうすれば良かったんだ)

レイナルドは自分の選択を思い返していた。あの時こうすれば、あの時ああすれば、考えても仕方が無い事だったがそれでも考えずにはいられなかった。どれだ考えても残るのは後悔だけだった。

(俺が、アンナを誘いさえしなければ)

悔やみきれない後悔を悔み続けていると、ふと思い出した。

(ポルタは、どうなったんだ)

失うばかりの旅の中で、唯一残ったかもしれないポルタと言う希望に、レイナルドは居てもたっても居られなくなった。机に置かれた薬を勢い良く飲み干し、部屋から出ていった。

「マティス先生」

レイナルドが声をかけるとマティスは不満げな顔をした。

「どうしたんだ。休めといっただろ」

少し怒ったように言うマティスをよそにレイナルドは尋ねた。

「マティス先生。ポルタは、青髪の男は運ばれてないですか」

「青い髪の男、ああ、運ばれてきたよ」

「生きてますか」

少し緊張気味に尋ねるとマティスは困ったような顔で答えた。

「生きてはいる。しかし、」

「しかし、なんですか」

歯切れの悪いマティスに詰め寄るように尋ねると、マティスはレイナルドを病室に案内した。

「本来は家族以外は入ってはいけないんだが、特別だぞ」

そう言うとマティスはポルタの居る病室のドアを開けた。レイナルドは嫌な予感を感じながら部屋に入った。そこにはベットに横たわるポルタの姿があった。

「ポルタ!」

喜び近づくレイナルド。だがポルタは何の反応もしない。

寝てるのか。そう思ったレイナルド体を揺すってみたが、起きる気配はない。その時マティスが沈んだ声で言った。

「何をしても無駄だよ。ポルタ君は、意識不明の重体だ」

それは、余りにも残酷な現実だった。レイナルドはその場に崩れ落ちる。

「俺のせいだ、俺のせいでみんなは・・・」

悔しさと後悔がレイナルドの目からこぼれ落ちた。マティスは何も言わず部屋を出た。



レイナルドが目を覚ましたと聞いたライドとレーナは病院に駆けつけた。本当はルドルフも来たかったが調査の準備のため来れなかった。

「レイナルドはどこですか」

病院に入るなり尋ねるレーナ。本当は病院に泊まりたいと言ったのだが、王女をこんな所に泊められないという理由で帰された。その為レイナルドの姿を見たくて仕方が無かった。

「王子は先ほどマティス先生と居ました。確か奥に」

レーナは受付の看護師の話を最後まで聞かず走り出した。ライドは受付の看護師に会釈して後を追いかけた。

「マティス。レイナルドはどこですか」

病室から出てきたマティスにレーナが尋ねるとまずは落ち着くようにと言った。

「レイ君はいま病室にいます」

その言葉を聞いたレーナは病室に入ろうとするが、マティスはドアの前で立ち入れないようにした。

「マティス。どきなさい」

命令するように言うがマティスはドアから離れようとしない。

「マティス。そこをどけと言っているのです」

威圧的に言うレーナだったがマティスは動かない。その様子を見たライドは少し不思議に思った。

「何かあるのですか」

怒るレーナとは違いライドは冷静に尋ねる。

「今、レイ君は友達と会ってます。なので、少し待ってあげて下さい」

そう言うとマティスは頭を下げた。その様子から何かあると察したライドは後にすることにした。だがレーナは違った。

「友達が居るなら居るで構いません。そこをどきなさい」

どうしても会いたいと言うレーナにライドが耳打ちをした。

「レーナ。レイナルドの友達は意識不明の重体なんだ。だから、今はやめておこう」

ライドの言葉を聞いてレーナは驚き落ち着きを取り戻した。

「分かりました。ではまた来ますのでそれまでレイナルドをよろしくお願いします」

本当はここに居たかったが、多忙な2人は城に引き返した。



病室でポルタに寄り添うレイナルドはあることを考えていた。それはアンナの死体のことだ。ポルタが起きた時、アンナの死を知ったポルタは大きなショックを受けるのは明白だった。しかも、死体すら無いのではその悲しみはさらに深いものになる。

レイナルドはある決意をした。

(アンナは、アンナは絶対連れ戻す)

レイナルド顔を拭い病室から出た。

「大丈夫かい」

病室の外で待っていたマティスが心配して声をかけてきた。

「マティス先生。俺の装備品って一緒に運ばれてきてませんか」

先程までの弱った顔とは違い、覚悟を決めた顔になっているレイナルド。

「運ばれてるよ。だが、それがどうかしたのか」

「それ、返してくれませんか」

「返すのは構わない。君の物だからね。ただ何かする気なら今じゃない方が良い。まずは休むべきだ」

何かを察したマティスは理由を聞かずに止めた。理由を聞いたら止めないといけない事なのは明白だったからだ。

「レイ君。君は倒れたんだ。魔力切れはよくある事と軽視されがちだが、重大な病気を引き起こす原因にも成りかねない病気だ。今無理をすれば魔力を失うかも知れないんだぞ。それでもいいのか」

「構いません」

一瞬の迷いもなく答えるレイナルドに覚悟の大きさを感じた。

「私には君をここに縛り付ける権利は無い。だから君の好きにすればいい。ただ、これだけは覚えておいて欲しい」

「君が大切な人を思う様に、君の事を大切に思う人が居ることを」

そう言うとマティスは装備品を返した。レイナルドは深く頭を下げお礼を言った。するとレイナルドは道具袋を漁り小さな小瓶を取り出した。

「マティス先生。これを」

レイナルドが渡したのは隠れ里の秘薬だった。

「これさえあれば大抵の病気が治るって聞いたので。ポルタに使ってやってください」

隠れ里の秘薬を受け取ったマティスだったが、ポルタには使えなかった。万能薬と名高い隠れ里の秘薬だったが、それには1つだけ使用条件があった。それは、使用者自ら使うという条件。意識の無いポルタでは使えなかった。

「分かった。使わせてもらうよ」

だがマティスは何も言わず受け取った。それを見たレイナルド少し嬉しそうだった。もしかしたらレイナルドは使用条件の事を知っていたのかもしれない。

「外に行くなら着替えたほうがいい。私のお古で悪いが良かったら使ってくれ」

そう言うとマティスは少しくたびれた服を渡してきた。お世辞でもいい服とは言え無いが、それでも病院支給の寝巻きよりは数段マシだ。

「ありがとうございます」

礼を言い病室で退院の準備をした。何もないので着替えるだけでほとんど準備は終わった。

「ありがとうございました」

レイナルドはマティスにお礼を言い病院を去った。

レイナルドを見送ると、マティスは少し顔を曇らせた。

(この選択であっていたのだろうか)

マティスは医者としての判断より個人としての感情を優先したことを迷っていた。すると受付の看護師がマティスに近づいてきた。

「先生は間違ってないですよ」

その一言だけ言うとカバンを手渡した。

「往診の時間です」

この妙なところに気がつく看護師にマティスの気持ちは少し晴れた。

「ああ、分かった」

マティスは愛想の無い返事をして往診へ向かった。



病院を出たレイナルドは最初に鍛冶屋に向かうことにした。ロベルトを旅に巻き込んだ事や、旅立つ前にした無礼を謝るためだ。しかし、鍛冶屋は閉まっており、電気もついていない。窓は木で補修され中も見えなかった。仕方がないので今度は道具屋に向かった。だが道具屋も閉まっていた。こちらも鍛冶屋と同じで状態だった。窓からかろうじて中を覗けたが、人の気配は無かった。レイナルドは出直すことにした。

次にアンナの家に行こうとも考えたが、止めておいた。今行っても何も出来ることは無かったからだ。なのでまずはアンナの死体の回収を優先した。死体の回収にはワーウルフと戦えるだけの実力を持った人が居ないと話にならない。そうなると最低でも兵士長くらいの実力が必要になる。だが、レイナルドに兵士長を動かす程の権利はないし、それだけはしたくなかった。。そこでレイナルドは酒場で人を雇うことにした。酒場には各国の傭兵が常に集まっており、そこには騎士団長クラスの実力の人が居る事がある。

酒場に着いたレイナルドは酒場を見た。二階建てで看板にはイズベルの酒場と書いてあった。少しくたびれているが中からは騒ぐような声が聞こえる。廃ったリンドベルクの中で酒場だけは別世界のようだ。

少し緊張した面持ちで酒場に入ると酒場の中は酒の匂いが漂っていた。未成年のレイナルドにとってはあまり良い環境とは言えない。嗅ぎ慣れない酒の匂いに耐えながら席に座ると、酒場の主らしき女性が声をかけてきた。おそらくこの女性がイズベルだろう。

「こんな所に何の用だい」

イズベルは愛想の感じられない言い方で尋ねてきた。とても客を相手にする態度では無かったがレイナルドは気にしない。

「依頼を出したい」

そう言うと、カウンターから一枚の用紙を取り出しレイナルドの前に置いた。

「ここに依頼の内容を書きな。そしたらあそこの掲示板に載せてあげるよ」

「ちなみに掲示代は5Gガロだよ」

レイナルドは依頼内容を書き渡すと女は驚いたような声を出した。

「あんた、内容はこれで間違いないんだね」

レイナルドは黙って頷いた。イズベルは「信じられないよ」などとつぶやきながら掲示板に依頼の紙を貼った。

レイナルドが依頼したのは付近の調査だった。それ自体は珍しくないのだが報酬の額が異常に多かった。

報酬金1000G

その額はリンドベルクの依頼の相場としては史上類を見ないほどだった。相場は100~200Gだ。

そんなことは知らないレイナルドは自分の出せる最大の額を書いていた。

依頼を受けてくれる人を待っていると女が話しかけてきた。

「ここで待つなら何か頼みな」

相変わらず愛想の無い言い方で言ってくる。仕方ないのでレイナルドは店の中で一番安いミルクを頼んだ。するとイズベルは明らか様に不満げな顔をした。依頼の額が多いから高いものを注文すると期待したのだろう。

「ほら、ミルクだよ」

そう言うと大きな瓶に入ったミルクを出してきた。コップにすら移さない悪態極まりない態度だがそんな事は気にしない。

ミルクを飲みながら待っていたが、中々依頼を受けてくれる人が現れなかった。掲示板の前を通った者は皆一度はそこで止まるが、受けようとはしない。あまりに高い報酬金にみんな警戒をしていた。

するとまたイズベルが声をかけてきた。

「あんた、いつまで居る気だい。ミルク1杯で粘られても困るんだよ」

不満げに言われたレイナルドは仕方なく料理を注文することにした。ろくな物が無いと思っていたが、割と品数は豊富だった。レイナルドはサンドイッチを注文した。またしても安い方のメニューに不満そうな顔をするイズベル。

出されたサンドイッチは思っていたより美味しそうだった。倒れる前から考えると、丸一日位何も食べていなかったレイナルドはサンドイッチを軽く平らげた。

待ち続けるレイナルドだったが中々依頼を受けてくれる人は現れなかった。時計を見ると時刻は1時半を回っていた。レイナルドが酒場に来てからもう2時間は経っている。

さすがに居づらくなってきたレイナルドが席を立とうとした時、酒場の2階から大声で話しながら降りてくる数人の男たちが現れた。4人ほどの少人数だがその中の1人がすごい大男だった。2mは優に超し、当たれば吹き飛ばされてしまいそうなくらいガッチリした体をしている。おそらく残りの3人はただの取り巻きだ。

こいつらが依頼を受けてくれたら。レイナルドはそう思ったがそう上手くはいかない。男達は掲示板を素通りして店の真ん中のテーブルに向かった。

「邪魔だ、どけ」

大男は先客を追い払い席を奪い取った。とても態度が悪い。

「おい、女。酒だ、酒持って来い」

「あと料理も何品か持って来い」

命令するように注文すると、待っている間に大男は近くのテーブルから酒と料理を奪い取った。奪い取られた客は反抗しようとしたが、大男が睨むとビビってしまい何も言わないで店を去っていった。

店員が酒や料理を運ぶと男達は豪快に食べ始めた。

「お、なんだ。昨日よりかなり美味くなってんじゃねぇか」

「お、本当だ。うめぇ」

驚いたように感想を言いテーブルいっぱいに広げられていた料理を平らげた。ボロボロこぼし食い方も汚い。今のリンドベルクではありえない程の雑な食事の取り方だった。

「あー食った食った」

食事を終えた男達はゲップをしながら歯に詰まった食べカスを取り除いていた。まだ食べられそうな位皿に料理が残っているにも関わらず、大男はテーブルの皿を床に払い除けた。床には割れた食器と残された料理が散乱した。

「ちょっとアンタ達。なにしてくれるんだよ」

イズベルが大男に向かって文句を言うと大男はイズベル向かって酒の入ったジョッキを投げつけた。屈んで何とか避けたイズベルだったが後ろの棚にあった酒瓶は幾らか割れた。

「うるせーんだよ。こっちは金払ってんだ。黙ってろクソ女」

イズベルは悔しそうな顔をして睨んだが、どうしようもない。本来の酒場なら態度の悪い者は用心棒やその場の客たちで追い出すのだが、用心棒も居ないし客達もビビって手を出せなかった。それだけ強いという事だ。

レイナルドもあまりの悪態にムカついていたが、奥歯を噛み締め、感情を押し殺しこの大男に直接依頼を申し込むことにした。

「食事の最中に悪いがちょっといいか」

レイナルドが話しかけると不満そうな顔で男たちはレイナルドを見た。

「なんだ、ここはオメェみたいなガキの来る場所じゃねぇぞ」

取り巻きの1人が文句を言ってくるが無視をして話を続けた。

「あんたに依頼を頼みたい」

そう言うとレイナルドは掲示板から外した依頼書をテーブルの上に置いた。大男はそれを見て確認をとってきた。

「この報酬は本当だろうな」

「ああ、本当だ」

そう言ってレイナルドはお金の入った袋をテーブルに置いた。大男は袋を手に取り金を確認した。

「へへ、確かに1000Gはありそうだな」

気持ちの悪い笑いを浮かべて大男は笑う。あらかじめダナトスから奪ったお金は別の袋に移していた。

「確かに払えるのは分かった。だがなんだこの調査ってのは、詳しく言え」

「南の森で落し物をした。それを探す間の護衛をして欲しい」

依頼内容を聞いた取り巻きが文句を言ってきた。

「バカじゃねぇのか。南の森になんていくら積まれても行かねーよ。頭湧いてんじゃねーのか」

頭に指を立てながら馬鹿にしてきた。

「話に入ってくるな。お前みたいな金魚の糞には頼んでない」

「なんだと」

怒った取り巻きの男は剣を抜き、レイナルドに剣を向けた。

「ぶっ殺してやる」

そう言うと取り巻きの男がレイナルド向かって剣を振りかざした。レイナルドも剣を取り出し応戦しようとした瞬間、レイナルドが剣を抜くよりも早く大男が取り巻きの男を殴り飛ばした。

殴られた取り巻きは吹っ飛び壁に叩きつけられた。突然のことにその場にいた大男を除く全員が驚いた。

「それで、どのくらいの範囲を探すんだ」

大男は何事も無かったかのように話を続けた。レイナルドも気にしないで話を続けた。

「道沿いだ。リンドベルク周辺から草原までの間を探したい」

「そうか」

そう言うと少し黙り、レイナルドを見た。

「受けてやってもいい。だけどこの額じゃ足りない、もっと出せ」

大男は破格の報酬でも足りないと言ってきた。完全に足元を見ている。

「ならもう1000G払う。前金に1000G後金に1000Gでどうだ」

残りの1000Gはレイナルドが旅立ちの為に貯めておいたお金だった。レイナルドが提案すると大男は大きく笑った。

「はっはっはっ、そんだけ貰えりゃ十分だ」

上機嫌になった大男は椅子に座るように言ってきた。逆らうと鬱陶うっとうしそうなのでレイナルドは吹き飛ばされた取り巻きの椅子に座った。

「こんな気前の良い依頼は久々だ。ここは俺のおごりだ。好きなだけ飲んで食え」

そう言うと大男は追加で大量の料理と酒を注文した。イズベルは不満そうに注文を受ける。

テーブルの上はまたしても大量の料理で覆われた。

「さあ食え食え」

大男は上機嫌でそういうが、とても1人で食べきれる量じゃない。

「そういや紹介がまだだったな。俺はロブソン。お前は何て言うんだ」

「レイナルドだ」

「・・・・レイナルドだと」

名前を答えた瞬間、急にロブソンの顔から笑顔が消えた。

「おい、依頼はキャンセルだ。帰れ」

突然の事に驚くレイナルド。

「な、ちょっと待て。なんでキャンセルなんだ。理由を教えてくれ」

名前を言っただけでここまで態度を変えられる覚えが無いレイナルドは納得がいかない。

ロブソンは鼻で笑って答えた。

「決まってんだろ。お前が死神だからだ」

初めて聞く言葉に戸惑うレイナルド。

「死神・・・どういう事だ」

分からず尋ねるとロブソンは不快な笑みを浮かべて答えた。

「死神ってのはなぁ、お前みたいに1人だけ無事に帰ってくる奴の事を言うんだよ」

死神は傭兵達にとっては不幸の象徴と言われており忌み嫌われる。その為人の死に関する情報は酒場が一番早い。

ロブソンはレイナルドを突き飛ばした。レイナルドは吹き飛び椅子もろとも床に倒れた。

「死神が、依頼なんか出すな」

そう言うとロブソンはレイナルドめがけて唾を吐き捨てた。

レイナルドは悔しさと怒りに身を震わせた。こんな奴に頼らないといけない自分の弱さが悔しくて、自分自身に腹が立つ。レイナルドは奥歯を噛み締め自分の感情を押し殺した。噛み過ぎて口の中には血の味が充満していたが、それでも噛み続けた。どれだけ苦渋を舐めさせられても絶対に依頼を受けてもらおうとロブソンに近づく。

「お願いだ。受けてくれ」

ロブソンに依頼書を手渡す。するとロブソンはレイナルドの頭を掴み料理に押しつけた。その衝撃でテーブルの上の皿が倒れ、幾らかは床にこぼれ落ちた。

「俺様より高い目線で話すんじゃねえ」

これほどの屈辱を受けたことは今まで一度もない。だがレイナルドは耐えた。レイナルドの決意は並大抵のものでは無い。

「お願いだ。受けてくれ」

レイナルドは押し付けられた状態でロブソンに依頼書を渡す。だがロブソンは受け取らない。

「死神の依頼なんて、受けねぇって言ってんだろーが」

ロブソンはレイナルドの体を起こし顔を殴った。レイナルドは大きく吹き飛びカウンターに叩きつけられた。あまりの衝撃にレイナルドは動けなくなった。

「たく、死神が酒場にくんじゃねーよ」

不機嫌そうに言うとロブソンはわざと大きな声で話し始めた。

「そういえばよ、死神そいつの仲間、どうして死んだか知ってるか」

そう言うとテーブルの上にあったりんごを手に取った。

林檎こいつを守るためらしいぜ」

「馬鹿だよな。3Gの価値も無い食料守るために命かけるなんてよ。しかも守りきれず死んだんだとよ。無駄死にもいいとこだ」

そう言うと足元に落ちていた依頼書を見た。

「だいたい依頼の内容もおかしいんだよ。森の調査って、どうせ仲間の死体でも探そうとしたんだろ。無駄だ。今頃ワーウルフの胃に収まって糞にでもなってるよ」

そう言って大笑いをした。取り巻き達も手を叩いて大笑いした。

耐え続けていたレイナルドだったが、完全に切れた。仲間の侮辱だけは我慢ならなかった。髪は燃えるように赤くなった。それはレイナルドが以前森で見せた姿だった。

レイナルドは立ち上がり剣を抜いた。折れた剣だが前回同様炎で刀身を造った。

「なんだその姿は、俺とやろうってのか」

馬鹿にしたように言うロブソンの頭目掛けてレイナルド赤火斬を飛ばした。ロブソンは少ない動きでそれを避けた。避けられた赤火斬は後ろのテーブルを切り裂きそのまま壁に当たった。切り裂かれたテーブルと壁は燃え上がった。前回は切れない斬撃だったが、今回は切れる斬撃になっていた。

「ちょっとあんた。こんな所で戦うんじゃないよ」

イズベルが文句を言うがレイナルドは無視をして赤火斬を飛ばした。ロブソンはまた少ない動きで避ける。「なかなかいい技持ってんじゃねーか」

ロブソンは余裕ありげに言うと椅子から立った。取り巻きの2人は急いでその場から離れた。

「仲間の事言われて怒ったのか。しょうがねーだろ事実なんだからよ」

わざと挑発的に言うロブソン。レイナルドの手に力がこもる。

今度は胴体めがけて赤火斬を飛ばすと、ロブソンはそれを片手てで弾き飛ばした。弾かれた赤火斬は逃げた取り巻きの背中を切り裂き燃え上がった。

「あ、ああ、熱い」

苦しそうに叫ぶ声を聞いて笑うロブソン。ロブソンはわざと取り巻きに向かって弾き返したのだ。

その行為が更にレイナルドの怒りを煽った。

「どうした。ビビったのか」

またしても馬鹿にしたように言うロブソン。

「今謝れば許してやるぜ」

そう言うとロブソンは手に持ったいたりんごを足元に叩きつけた。りんごがバラバラに砕け散ると今度は砕けたりんごを踏みつけ始めた。りんごは原型をとどめていないほど潰れ、見るも無残な姿に変えられた。

「「俺の仲間は3Gの価値も無い人間でした」って言いながらこれ食えば許してやるぜ」

レイナルドはこれ以上ないほど怒り、ロブソンを睨みつけた。

「お前だけは、お前だけは許さねえ!」

レイナルドの髪は更に赤くなり魔力は跳ね上がった。周辺は塵が燃える程熱くなっていた。

格上の相手であるロブソンにレイナルドは決死の覚悟で挑む。

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