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もと勇者御一行様 ~還暦からの世直しじゃ!~  作者: 永月裕基
止まった時間が生んだもの
14/44

捜索

傷心でその場から動けないレイナルドの下に、大きな音を立てながら何かが近づいてきた。レイナルドは力無く音の方向を見た。音の主は馬に乗った二人組の兵士。兵士たちはレイナルドの前で止まると馬の上から尋ねた。

「これはどういう事だ。何があった」

どこを指して聞かれているか分からなかったレイナルドは、知っていることだけを淡々と答える。

「食料を積んだ荷車が襲われてた所に偶然居合わせて食料を奪還しようとした。それで森から戻ってきたらこうなってた」

そう答えるとレイナルドはまたその場にうなだれた。

兵士たちは辺りを見渡した。近場にある死体を見て事情を察した兵士は、馬から降りレイナルドに近づく。

「仲間は残念だったな。あとは俺たちに任せろ」

優しくそう言うと兵士はレイナルドをリンドベルクに送ると言ってきた。しかし、レイナルドは拒んだ。

「どうしてだ」

兵士が不思議そうに言う。

「まだ、仲間が見つかってない」

そう言うとレイナルドは立ち上がり、辺りを見た。

「もしかしたら危ない目にあってるかも知れない」

レイナルドは仲間の死を仲間の危機で一時的にも乗り越えようとした。だがボロボロのその体では動けるようには見えない。兵士たちがレイナルドを止めようと肩を掴むと、服から王族のブローチが見えた。

「そ、それは」

驚きその場で跪く兵士。

「申し訳ございませんでした。王族の方とも知らず無礼な事を、本当に申し訳ございません」

謝る兵士に目も向けずレイナルドは道具袋からエクスポーションを取り出し、飲み干した。すると全身の傷が徐々に癒えて行く。腫れが引き、傷口は塞がった。

「よし、これなら動ける」

そう言うとレイナルドはロベルトを見た。

(ロベルト。ポルタとアンナは絶対に助けるからな)

心の中で誓いレイナルドはアンナとポルタの痕跡を探した。

近くには荒らされた食料箱と男の死体。よく見ると男の顔はサジェフだった。体のほとんどが吹き飛んでおり顔と上半身と右腕以外は無かった。ロベルトの死後だったからかショックはあまり受けていないようだ。

食料箱は何かを強くぶつけた様な跡があった。そのサイズからして複数回ぶつけられたのは間違いない。

(何かに襲われたのか)

レイナルドは再度辺りを見渡した。すると少し離れた位置に手付かずの食料箱が置かれていた。不思議に思ったレイナルドは食料箱に近づくと、そこには2人の足跡があった。

(この食料はアンナとポルタが運んだのか)

レイナルドは足跡から行き先を探ろうとしたが、足跡はそこで終わっていた。

(土が変わったのか)

足跡は森の入口で途切れていた。森と道では土が違い、森の土は踏めば子どもの体重でも沈むが、道の土は馬が踏んでも沈まない。そこでレイナルドは、道に落ちている森の土を辿ることにした。森の柔らかい土ならば靴の裏に付き、少しの距離ならそれが足跡の代わりになると考えた。予想通り崩れた土が足跡代わりになり何とか辿ることができた。足跡は荷車に隠れるような位置で途切れた。

(この位置から見えるのは荷車の裏か)

レイナルドはかがみ荷車の裏を覗いた。するとそこには複数のウルフの死体が在った。

「何があったんだ」

近づき調べるとウルフの死体はどれも部分的に吹き飛んでおり、地面は大きくえぐられていた。よく見ると各地に肉片が飛散しておりその中には人間の手や足も含まれていた。

そこら一体に広がる血と肉片に気分が悪くなり、吐きそうになるがなんとか耐え捜索を続けた。

「血でよく見えなかったがアンナとポルタは近づいて無いな。だとしたら」

レイナルドは道具袋が落ちていた位置まで移動した。

さっきは気付かなかったが道具袋が落ちていた位置には矢が刺さっており、地面には血が付いていた。

(矢か)

この矢の正体を考えていると兵士が声をかけてきた。

「その矢、ゴブリンの放った矢ですよ」

顔を渋らせるレイナルド。

「なんで言い切れるだ」

レイナルドが尋ねると兵士は矢を手に取り見せてきた。

「この矢、矢尻も木で作られてるんですよ。こんなのゴブリンしか使わないです」

兵士の話を聞いたレイナルドの顔は曇った。それはアンナとポルタが負傷している可能性が出てきたからだ。

(血を辿れば行き先が分かるかも知れない)

レイナルドは血痕を探した。道には点のような血の痕があり、血痕は南の森まで続いていた。それを見たレイナルドは息を飲んだ。南の森は接触禁止種であるワーウルフの縄張りだからだ。南の森に入るということは、命を捨てるのと同じだった。

動揺したレイナルドは状況を整理することにした。

(まず、どういう順序で事が起きたのかを考えよう)

そう思い道具袋を漁り、紙とペンを取り出した。

(まずは別れたところからだ。俺達と別れてアンナとポルタは食料を奪還したはずだ)

レイナルドは調べた事を書き、一番矛盾のない組み合わせを探した。そして導き出された答えはレイナルドにとって最も残酷な結論だった。


1.食料を奪還して合流地点に運んだ。そしてもう1個取りに森に戻った。

2.2個目を持ち帰ったらサジェフが襲われていた。その場に食料を置き急いで駆けつけた。

3.サジェフに群がるウルフに爆弾を投げた。爆弾はサジェフごと吹き飛ばした。

4.救援を待っている間にゴブリンに襲われ、南の森に逃げた。


レイナルドは自分で書いた紙を強く握り、悔しがる。南の森に入っていないと言う可能性を見い出せなかった。

レイナルドがどうするか悩んでいると、兵士が声をかけてきた。

「あの、失礼ですがレイナルド王子ですか」

「そうだ」

今更名前を尋ねられ疑問に思ったレイナルドだったが、そんなことに構っている暇はないので簡潔に答えた。すると兵士は少し驚いた様子だった。

「そうでしたか。いやぁ髪の色が変わってるので気がつきませんでした」

そう言って頭の後ろを触りながら頭を下げてきた。

「では、探してるのは赤い髪の女の子と青髪の男の子ですか」

その問にレイナルドは驚いた。なぜこの兵士がアンナとポルタの事を知っているのだろうと。レイナルドは兵士に詰め寄り問いただした。

「お前その二人に見覚えがあるのか。どこで会った」

血相を変えて詰め寄られた兵士は少したじろいだが、すぐに答えた。

「どこでって、昼に西門でお会いしたじゃないですか」

その言葉で思い出した。この兵士は西門で地図を見せてもらった兵士だった。そう分かったレイナルドは落胆した。この兵士からアンナとポルタの無事を確認できると期待してしまったからだ。

「そうか、そうだったな。今まで気がつかなかった」

元気無く言うレイナルドとは対照的に、地図の兵士は喜んでいた。リンドベルク国民にとって王族に顔を覚えてもらえることは誉れ高いことだ。

「それで、俺に何か用か」

そう言うと地図の兵士は真剣な顔をして言った。

「差し出がましいと思いますが言わせていただきます」

「南の森に入るのはお止めください」

その言葉を受けレイナルドは不機嫌そうな顔をした。それでも地図の兵士は言葉を続けた。

「南の森に入るということは命を捨てるのと同義です。お仲間が南の森に入った可能性があるのは分かりますが、それでも南の森だけは入っては行けません」

地図の兵士はレイナルドがまとめた紙を見て、レイナルドが南の森に入らないよう釘を刺してきた。だが、レイナルドの考えは決まっていた。

「いや、俺は南の森に入る」

その言葉を受け地図の兵士は顔を渋くする。

「王子、ハッキリ言わせていただきます。南の森に入った時点で死んでいるんです。王子は死体を拾うために命を懸ける気ですか」

静かだけど強い口調で地図の兵士は言った。だがレイナルドの決心は揺るがない。

「なんで死んだと決め付ける。まだ死んだとは限らねえだろ」

レイナルドも強い口調で言った。これ以上逆らえばタダじゃ済まないかも知れない。それでも地図の兵士は臆せず言った。

「死んでますよ。王子はワーウルフの危険性を理解していないんです。あいつらの縄張りに入ったら御終いです」

「なら縄張りにさえ入らなければ生きてるかもしれねえんだろ」

「森の中でワーウルフの縄張りが分かるんですか。ましてやこんな夜に」

地図の兵士の言うことは正しかった。それでもレイナルドは諦めようとしない。その様子を見て今度は激しい口調で言った。

「王子!頭では分かっているはずです。生きているわけが無いと。それに、王子の命は1人の命じゃない。あなたは次期王にして勇者なのですよ。リンドベルクだけでなく世界の希望でもある御方なのです。その身にどれほどの価値があると思っているんですか」

地図の兵士は言葉はレイナルドを思ってこその言葉だった。それでもレイナルドの決意は変わらない。

その様子を見た地図の兵士は理解できなかった。そして純粋な疑問が口から出た。

「なぜです。なぜそこまでして行くのですか」

するとレイナルドは昔を思い出すように話しだした。

「俺のじいちゃんってさ、スゲェんだ」

兵士達は話を聞くことにした。

「どんな状況でも仲間の無事を信じて疑わない。そんな強さを持ってる人なんだ。だから俺もそうなりたいって思った」

そう言うと地面を見つめた。

「けど俺は、そうなれない。そこまで強くなれない。正直、死んでる可能性の方が高いって思ってる」

悔しそうに言うレイナルドの手は握られていた。

「でも、それでも行きたいんだ」

「大切な仲間だから、死体くらいは回収してやりたい、そんでロベルトと一緒に埋葬してやるんだ」

そういうとレイナルドは道具袋を拾い森へ向かった。するとレイナルドの前に地図の兵士が立ちふさがった。力づくでも止めようとしてくるのかと思いきや、その場で片膝を着きレイナルドを見つめて言った。

「王子が死地に赴くというのに、我々兵士が見過ごすわけにはいきません。我々も同行いたします」

驚いたことに止めるのではなく同行を求められた。だが今から向かうのは南の森、一般兵士が増えたところで死人が増えるだけだ。レイナルドは申し出を断った。しかし、兵士達は同行すると言って聞かない。

「ここの食料や北の森の食料はどうする気だ。誰がリンドベルクに届けるんだ」

そう言うともうひとりの兵士が笛を鳴らした。

短く二回鳴らし、三回目を長く鳴らした。それは救援要請の合図だった。用意がいいことに荷車には置き紙までしてあった。

「詳細は書いておきました。これで救援に来た兵士も分かるはずです」

2人の様子にレイナルドは観念した。

「分かった、お前らの命俺が預かる」

「名前はなんて言うんだ」

名前を尋ねると最初に地図の兵士が名乗りを上げた。

「第一部隊所属、ブライトです」

「同じく第一部隊所属、ルーファスです」

レイナルドはブライト、ルーファスと共に南の森に入った。




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