レイナルドとロベルト
レイナルドは赤い斬撃で木を燃やし、明かりの代わりにした。燃える木のおかげで森は明るくなり、合流地点まで迷わず進むことが出来た。しかし、大怪我を負っている2人では思ったように体が動かず、なかなか森を抜けれないでいた。
何とか歩いているがロベルトは既に限界を迎えている。岩に当てていた手は垂れ下がり、目は虚ろで視界はぼやけてほとんど何も見えていなかった。意識を保っている方が不思議なくらいだった。
「もう少しだ、踏ん張れ」
レイナルドが励ますとロベルトは小さく頷いた。
「ほら、押さえとけって言ったろ」
そう言うとレイナルドはロベルト腹の岩を支え始めた。万が一岩が落ちればロベルトは死んでしまう。それを避ける為にも必死で支えた。
「大丈夫だ。助かるに決まってる。だから踏ん張れ」
その言葉は自分自信にもかけているようだった。レイナルドもボブゴブリンにやられ、ロベルトに引きを取らないほどの怪我を負っていた。それでも、自分を鼓舞しながら何とか意識を保っていた。
「おい、見えてきたぞ」
合流地点の壊れた荷車が見えてきた。希望が見えてきたレイナルドの顔は少し明るくなったが、ロベルトはうなだれたままだ。
「おいロベルト、もうすぐだ。もうすぐで着く。そうすればお前は助かる」
レイナルドが声を掛けるがロベルトはうつむいたままだった。それでもレイナルドは話し続けた。
「実はな、すげぇ薬があんだよ。それさえあれば死人以外は全部助かるって言われてんだ。それを使えばお前の怪我なんてあっという間に治るんだぞ。すげぇだろ」
「ただその薬、ページから奪い取った物なんだよ。この剣もお前の親父から奪った物だしな。だからリンドベルクに戻ったら謝るつもりなんだ。許してもらえるまで精一杯謝る」
「そん時は一緒に来てくんねえかな。すごい怒ってたし正直一人じゃ怖いからよ」
前を向きながらひたすら話し続けたレイナルド。ロベルトは返事はしなかったが笑顔だった。
レイナルドはロベルトを引きずるように歩き合流地点まで運びきった。
「なんだよこれ」
その光景にレイナルドは声を漏らした。そこにはアンナもポルタも居らず、兵士も居ない。在ったのは荒らされた食料箱とポルタに渡した道具袋。そして男の死体だった。
戸惑うレイナルドだったがまずはロベルトの治療を優先した。壊れた荷車にロベルトを寝かせ、落ちていた道具袋を漁った。中にはページから奪い取った隠れ里の秘薬が残っていた。
「よし、これさえあれば何とかなる」
嬉しそうにロベルトにかけ寄った。
「おい、あったぞ。これだ、これさえあれば助かる」
「ほら早く口開けろよ。これさえ飲めば助かるぞ」
レイナルドが催促するがロベルトは口を開かない。
「おい、どうした早く開けろよ」
ロベルトは一向に口を開こうとしない。
「おい、何して―
レイナルドがロベルトの体を触ると思わず手を離した。ロベルトの体は冷え切っておりとてもさっきまで生きていたように思えなかった。
レイナルドはひどく動揺した。
「なんでだ。さっきまで暖かかったじゃねえか・・・!」
そう言った途端レイナルドは気がついた。ロベルトの体温だと思っていたのは自分が周囲に放っている熱気ということに。
レイナルドはそれでもロベルトの体を揺らし続けた。それは現実を受け入れられないからこその行動なのか。諦めない気持ちからなのか。
「なあ、起きろよ。なあ、起きてくれよ」
だがロベルトは動かない。
「こっからだろ。俺とお前の夢は。こっから一緒に叶えるんだろ」
レイナルドは体を揺らし続けた。
「なあ・・起きろよ・・起きてくれよ・・・・」
ロベルトの体から感じる温度はロベルトの死を確定づけていくだけだった。
レイナルドの目からは涙がこぼれ落ち、その場に崩れ落ちた。
「なんでだよ・・・やっと・・やっと昔みたいに笑い合えると思ったのに・・・なんでだよ・・・なんでなんだよ・・・」
涙をこぼし悔しそうにうずくまる。
「お前がいなきゃ楽しくねえだろ」
そう叫ぶとその場で泣き続けた。涙が枯れるまで。




