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もと勇者御一行様 ~還暦からの世直しじゃ!~  作者: 永月裕基
止まった時間が生んだもの
11/44

「おい、大丈夫か」

必死にレイナルドに駆け寄るロベルト。兜は割れ、頭から血が出ている。他にも腹や腕は膨れ上がり全身傷だらけだった。

「何があったんだよ」

レイナルドの肩を掴み揺するが反応は無い。

「おい、起きろ。起きろって言ってんだろ」

必死に叫ぶロベルトの声に反応したのか、レイナルドの指が動いた。すると徐々に目を開け、ロベルトを見た。

「なんだよ、せっかく気持ちよく寝てたのに。じゃますんじゃねーよ」

悪態をつくレイナルドだったがその声には生気がこもっていない。ロベルトはさらに心配になった。

「なんだ、お前の方は終わったのか」

力のこもっていない声で尋ねてくる。

「ああ、こっちは終わった」

ロベルトの答えを聞くと安心したように笑った。

「そうか、なら食糧持って逃げろ」

笑って言うレイナルドにロベルトは困惑した。

「逃げろって・・・お前の方は終わってないのか」

ロベルトの質問にレイナルドはうつむいた。その行為が何よりの証拠だった。

「なら、一緒に逃げるぞ」

そう言うとロベルトはレイナルドの腕を掴もうとしたが、レイナルドはロベルトの手を払った。

「何すんだ」

怒って言うとレイナルドは力ない声で言った。

「逃げるのはお前一人だ」

その言葉に更に怒るロベルト。

「何言ってんだ。こんな状態のお前を置いていける訳ねえだろが」

そう言ってレイナルドを掴もうとするが、また手を払った。

「いい加減にしろよ。ここで死なれたら夢見がワリーんだよ」

怒鳴るロベルトにレイナルドも怒鳴り返す。

「いいから行けって言ってんだよ。今回の作戦は食料の奪還だ。最優先すべきは食料だ」

2人は言い争いを始めた。

「食料より命の方が大事だ。命か食料なら選ぶまでもねえだろ」

「食糧がなけりゃ命は守れねえ。それに俺が止めなきゃ全員アイツに殺される」

「なら2人で戦えばいい。そうすれば勝てる」

「お前1人加わった所でどうこうなる相手じゃねぇんだよ。2人とも無駄死ににするだけだ。だから俺1人でいい」

「それじゃあお前は死んじまうじゃねーか。仲間の命を捨ててまで救う命なんてねえ」

その言葉に一瞬たじろぐレイナルドだったが感情を押し殺し言い放った。

「俺はお前の仲間じゃねえ。お前だってそう思ってる言っただろうが」

その言葉にロベルトの胸が苦しくなった。確かに森に入る前に言った言葉だった。

「それに、お前はそもそも森に入るのは反対だったろ。ポルタやアンナの為に来ただけだ、俺のためじゃねえ」

全てレイナルドの言うとおりだった。

「分かったら食料持って早く逃げろ」

2人が言い争いをいているとボブゴブリンが姿を現した。

「くそ、来やがったか」

レイナルドは折れた剣を取り立ち上がった。

「おい、その体で戦うのは無理だ」

ロベルトが止めるがレイナルドは聞く気がない。レイナルドはボブゴブリンを迎え撃つ気でいる。

「早く行けよ」

ロベルトは迷っているのかその場から動こうとしない。

「行けって言ってんだろうが」

レイナルドはロベルトを突き飛ばした。

「おい、何すんだ―

ロベルトは言葉を止めた。レイナルドの顔を見たら何も言えなくなった

「お前には夢があるだろ。こんなところで終わるんじゃねえよ」

その言葉は優しく、強い思いが込もっていた。

(なんで、なんでこんな時にそんな顔すんだよ。ずりぃだろ)

レイナルドは微笑みかけるように笑っていた。その顔は昔のレイナルドそのものだった。それだけ言うとレイナルドはボブゴブリンの方に向き直り剣を構えた。

「早くいけ。何度も言わせんじゃねえ」

レイナルドはいつもみたいに威圧的に言った。ロベルトは悔しそうな顔をしてその場を去った。

「やっと行ったか。たく、聞き分けにない奴だな」

笑って文句を言いレイナルドは少し安心した様子だった。

「待たせたな」

ボブゴブリンは先ほど同様いつでも殺せると思っているからか、動かないでレイナルドが構えるのを待っていた。

「ここから先には行かせねえぞ」

レイナルドは決死の覚悟でボブゴブリンに挑んだ。



ロベルトは森を駆けながら迷っていた。

(くそ、俺はなんでこんなに迷わないといけないんだよ。あいつはオヤジを酷い目に合わせたクズだろ。殺したいと思ってた奴だろ)

(なのに、なんでこんなに苦しいんだよ。なんでこんなに辛いんだよ)

(それに、あいつ、俺の夢のこと覚えてたのか)

走りながらロベルトは昔の事を思い出していた。



6年前

二階建ての校舎の屋上。まだ幼さが残る2人の姿があった。2人は大の字で寝転がっている。

「あークソ、また負けた」

悔しがっているのはロベルト。髪を金色に染めオールバックにしている。服を着崩し見るからにヤンキーだ。

「そう簡単には負けないよ」

爽やかに言うのはレイナルド。今と違い髪は全て金色で、服はきちんと着ており、ザ・優等生と言う感じだ。

「なんで勝てねーんだよ、クソ」

ロベルトが言っているのは武術の試合のことだ。リンドベルクの学校では座学と武術の授業があり、武術の試合でロベルトはレイナルドに勝ったことがない。

「俺の方が長く武術をやってるからね。まあ、ロベルトには一生負けないけど」

余裕そうに言うレイナルドにより一層悔しがる。

「次はぜってー負けねーからな」

2人は空を見上げながら休む。風が吹き木々の揺れる音が鳴る。その音が2人の疲れを癒していく。爽やかな時が流れた後ロベルトが口を開いた。

「なあ、なんでそんなに頑張ってんだ。武術も座学も成績トップだろ。やっぱ王子にもなるとそのくらいは出来ないといけないのか」

純粋な疑問をぶつけた。

「いや、王子だからって成績を求められてる訳じゃ無い」

「じゃあなんでなんだ」

レイナルドの方を向き尋ねる。

「夢の為だよ」

少し驚いたロベルト。レイナルドも自分と同じで夢が無いと思っていた。

「へぇー夢か。どんなだよ」

ロベルトが図々しくも尋ねると、レイナルドは少し迷ったあげく答えた。

「誰にも言うなよ」

少し恥ずかしそうなだけど真剣な顔でいうレイナルド。

「ああ言わねぇ。男の約束だ」

ロベルトも真面目な顔で答えた。

「俺さ、父さんとジィジを超えるような勇者になりたいんだ」

「父さんの様に聡明で、ジィジのような武術の達人に。そんで歴代最強の勇者って言われる様になって、リンドベルクを更に発展させるんだ」

夢を語るレイナルドの真剣な顔は覚悟の大きさを感じさせた。ロベルトはそんなレイナルドを見てすごいと感じていた。それと同時に自分の事を考えた。

(俺と同い年なのにもう将来を見つめてるのか。俺は何にも無いなぁ)

少し気落ちしていると今度はレイナルドが聞いてきた。

「なあ、ロベルトは夢とかないの」

「俺はねぇよ、んなもん」

そう言ってロベルトは顔を背けた。

「お父さんの鍛冶屋を継ぐんじゃないのか」

レイナルドの問いにロベルトは背を向けたまま答えた。

「それは夢じゃねえ。ただの義務みたいなもんだ」

つまらなさそうに言うロベルトを見て、レイナルドは何か考えていた。

「じゃあさ、俺の旅についてこないか?」

突然の申し出に驚き、レイナルドの方に向き直る。

「な、お前何言ってだよ」

ひどく驚いた様子のロベルトだった。そんなロベルトの事は気にかけず言葉を続ける。

「それで一緒に探そうぜ。ロベルトの夢」

平然と言うレイナルドにロベルトはたじろいだ。

「お前は国の次期代表として全国を回るんだぞ。俺みたいなヤンキーがそんな旅に付いていける訳ねーだろ」

そう言うとまた顔を背けた。その姿を見て残念そうな顔をするレイナルド。

「次期国王とかヤンキーとかそういうの関係なく、ただ友達として一緒に行きたかっただけなんだけどな」

そう言うとレイナルドは起き上がった。

「そろそろ休み時間終わるぞ。教室に戻ろうぜ」

レイナルドは立ち上がり階段に向かった。

「おい待てよ」

するとロベルトがレイナルドを呼び止めた。振り向くとロベルトは立ち上がりこちらを見つめていた。

「なんだよ急に。授業に遅れるぞ」

レイナルドがそう言っても動かず見つめ続けた。

「お、おい、流石にそんなに見つめられると気持ちわりぃよ」

レイナルドが不愉快そうに言ってもロベルトは目を離さない。そして急に真剣な顔で言った。

「俺の夢、決まったわ」

ついさっきまで夢がないと話していたのに、急に夢が決まったと言われて戸惑うレイナルド。

「どんなの」

戸惑いながらも尋ねると少し恥ずかしそうに言った。

「世界一の鍛冶師になる。そんで、修行のためにも全国を回る」

そう言うと何か口ごもり始めた。何か言おうとしているのだろうけどなかなか言い出せないようだった。覚悟を決めたロベルトはついに言った。

「だから、そん時はダチとしてお前の旅に連れてけよ」

そう言い終わるとロベルトは顔を赤くした。どうやら「ダチ」の部分がどうしても恥ずかしかったようだ。

「ああくそ、なんでこんなに恥ずかしくならなきゃいけねーんだよ」

頭を掻きながら照れ隠しをしている。

「ああ、もちろんだよ。約束な」

そう言うレイナルドの顔は微笑む様に笑い凄く嬉しそうだった。その顔を見たロベルトも嬉しくなった。

「そこの2人!何やってんのよ」

声の主は外にいたスリアだった。

「もう次の授業よ。早く降りてきなさいよ」

そこにはアンナとポルタもいた。

「やばい、時間のこと忘れてた。急がなきゃ」

2人は急いで外に向かった。



ロベルトは食料箱の前に立ち迷っていた。自分の選択が本当に正しかったのかを。

(これで良かったのか、本当に。この選択で俺は後悔しないのか・・・)

迷ったあげくロベルトは目を閉じ、拳を合わせ呼吸を整え始めた。深く吸って深く吐く、それを何度か繰り返す。ロベルトは心を落ち着かせ、自分の本当の気持ちを問いかけた。

幾何いくばくか時が経った後、ゆっくりと目を開けた。

「やっぱこっちか」

そう言うとロベルトは食料を置いて走り出した。

(待ってろよ今行くからな)

ロベルトは全力でレイナルドの下へ駆けつけた。



日も落ち、すっかり暗くなった森の中をロベルトは走った。来た道を辿る様に走りレイナルドの下へ向かった。日の落ちた森はロベルトが思っていたよりも暗く、見通しが非常に悪かった。

(この道であってるはずなのに、どんどん不安になってきやがる)

森の暗さはロベルトの不安を煽り、徐々にロベルトの足が遅くなっていた。

「くそ、見えねえ」

自身の足跡すら見えなくなってきたロベルトは足を止めてしまった。

(そんなに離れてないはずなんだ。多分すぐ近くなんだ)

迷ったロベルトが視線を落とすと、レイナルドに渡された道具に気がついた。

「これは、フレアか」

ロベルトはフレアを取り出し使った。するとフレアは強烈な光を放ち出した。

「な、思ったより眩しい」

ロベルトは眩しさに耐えながら地面を照らし、足跡を探した。

「よし、これなら何とか見える」

ロベルトが足跡を辿っているとレイナルドの姿が見えてきた。レイナルドを見て安心したのは束の間。その事態は一刻を争っていた。

全身傷だらけのレイナルドが力無く木にもたれ座っていた。そんなレイナルドの前にボブゴブリンが立ち、右手を振り上げ止めを刺そうとしている。

(このからじゃ間に合わない)

ロベルトとボブゴブリンの距離は15mは離れていた。ロベルトが急いで近付いてもボブゴブリンの攻撃を止めることは不可能だった。

レイナルドはボブゴブリンの右手を見て人生の終わりを感じていた。

(ああ、これで終わりか。案外呆気なかったな)

レイナルドは悔しかったが顔は生気の抜けたままだった。

(死ぬ時は、人生を振り返りたいと思ってたけど。そんな時間は無いか・・・)

レイナルドは覚悟を決め、ゆっくりと目を閉じた。

ボブゴブリンはレイナルドの頭目掛けて右手を振り下ろした。

バンッ!鈍い音が森に響いた。



・・・・・・俺は死んでないのか。

レイナルドが目を開けると自分のすぐ左にボブゴブリンの右手があった。どうやらボブゴブリンの右手はレイナルドの頭を外し、後ろの木に当たったようだった。

(なんで外したんだ)

レイナルドが不思議そうに周りを見ると、ボブゴブリンの右足に岩が刺さっていた。

(これは・・・ロックエッジか)

ロックエッジとは地面から岩の剣を突き出す魔法の事だ。ボブゴブリンは痛みで狙いがずれたようだ。

(誰が魔法を)

レイナルドが魔法の発動者を探そうとしていると、右側から叫びながら走ってくる人影があった

「うおぉぉぉぉ」

それはロベルトだった。

(なんであいつが)

既に逃げたと思っていたレイナルドは驚いた。その顔は少し生気が戻っているように見える。

ロベルトはボブゴブリン目掛けて突っ込み、少し手前で飛び頭めがけて蹴りを繰り出した。ボブゴブリンは右手を頭の前で構え、迎え撃つ気だ。

(ダメだ。足が砕かれる)

ロベルトの足とボブゴブリンの右手が衝突した。足と石。勝負は見えていた。ボブゴブリンは少し笑って余裕をかましている。しかし、その顔からは徐々に余裕が失われていった。驚いたことにボブゴブリンの右手はどんどん砕けていった。予想外の事に驚ろくボブゴブリンの顔面をロベルトの足が捉えた。

「ゴブッ」

ボブゴブリンの巨体は宙を浮きながら吹き飛び、大きな音と共に地面に叩きつけられた。まさかの光景に驚くレイナルド。あの巨体が宙を浮くことなど想像もしていなかった。

ロベルトは驚くレイナルドに近づいた。

「おい大丈夫か。随分ボロボロじゃねーか」

少し馬鹿にしたように言うとレイナルドは睨みつけてきた。

「何しに来たんだよ」

不満げに言うレイナルドにロベルトも不満げに返した。

「何しにって見りゃ分かんだろ。助けに来たんだよ」

その言葉を受け急に怒り出すレイナルド。

「助けに来たって、食料はどうしたんだよ。持って逃げるはずだったろ」

「ん、ああ、それは森に置いたままだ」

悪びれもなく答えるロベルトに更に怒った。

「置いたままだ。じゃねえよ。お前は俺の話を聞いてなかったのか」

目くじらを立てて怒るレイナルドの姿に少し安心した。その顔はついさっきまでの生気の無い顔では無かった。

「うるせーよ。お前の指図を受ける筋合いはねーんだよ。だいたい命救ってもらって何怒ってんだよ。まずはお礼だろーが。命救ってくれてありがとうございましたって言えよ」

「ハッ、言う訳ねえだろ。ちょっと命救ったくらいで恩着せがましいんだよ。だいたい、あいつを殺さなきゃ意味ねえんだよ。どうせ助けるなら1発で決めて完全に救え。そしたら地面に頭つけてお礼言ってやったよ」

「な、マジでテメーは最低だな」

2人は言い争いを続けている。

「だいたいな、なんだその話し方は。昔みたいなヤンキー喋りじゃねえか。言葉を伸ばすなイライラする」

「それをお前が言うのかよ。ちょっと傷ついてまともに話すようになったからって偉そうに。そうやってころころ態度や話し方変える方がムカつくんだよ」

2人が言い争っている内にボブゴブリンが立ち上がった。それを見て2人は言い争いを止めた。ボブゴブリンは殺気立っている。

「たく、こうなったら2人で仕留めるぞ。足引っ張んなよ」

「お前に言われたくねーよ」

2人は協力してボブゴブリンに挑むことにした。

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