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もと勇者御一行様 ~還暦からの世直しじゃ!~  作者: 永月裕基
止まった時間が生んだもの
10/44

強敵

森に入った一行は急いで痕跡を辿った。足跡を辿る訓練などしていなかったが、あまりにも大きな足跡なのでレイナルド達にも辿るのは容易だった。

「食料箱で体重が増えてるは幸いだったな」

一行が森を突き進むと前方にゴブリン達が見えてきた。ゴブリン達は手に木箱を抱えている。荷車を襲ったのはこいつらに違いない。レイナルド達はこっそり忍び寄る。

「作戦通り行くぞ」

レイナルドが声を落として言うと3人は頷いた。森に入る前にレイナルド達は作戦を考えていた。


-森の入口前-

「時間が無いから簡単に説明するぞ」

レイナルドは皆を集めて作戦の話をした。何故かその中にはサジェフもいた。

「まず、今回の目的は食料箱の奪還だ。だから可能な限り戦闘は避ける。逃げれるなら逃げ、相手が逃げたなら追わない。分かったか」

4人は頷いた。

「次に奪還した物資だが、此処に集めよう」

そう言ってレイナルドは壊れた荷車を指差した。

「何で此処なんだ」

ロベルトが尋ねる。

「他では目印が無いからだ。それに此処にはサジェフがいる」

相変わらず年上を呼び捨てるレイナルド。サジェフはあまり気にしてないようだった。

「でもサジェフさんは負傷しててまともに戦えないよ」

ポルタがそう言うとレイナルドはポルタの道具袋を渡すように言ってきた。レイナルドは道具袋の中からフレアと爆弾を取り出した。

「サジェフにはこれを持っててもらう」

そう言ってサジェフにフレアと爆弾を手渡した。

「今は西日でフレアの光が城からでは見えにくいが日が落ちれば見えるはずだ。だから日が落ちたらこれを使って救援を呼んでもらう。爆弾は万が一の時の護身用だ」

「お前らもフレアを持ってろ。森ではぐれた時使えば合流できる」

そう言うとレイナルドはフレアを配った。レイナルドとロベルトは1個。アンナとポルタは2個。残り4つはサジェフが持つことになった。

「どうやって使うんだ」

サジェフの問にポルタが答えた。

「左右を捻れば使えます。使いきりでだいたい10分位しか持たないです」

「爆弾は火を点けるか強い衝撃を加えると爆発します。これは微弱な爆弾なので半径50cm程しか爆破範囲が無いです」

サジェフは理解したのか道具をしまった。

「念のため爆弾はアンナとポルタも持ってろ」

そう言って2人に2個ずつ手渡した。

「食料箱は最低でも3箱は取り返す。前線組は俺とロベルト。ポルタとアンナは奪還した食料箱を運んでくれ」

3人は頷く。

「絶対に成功させるぞ」

レイナルドの号令と共に4人は森へ入り、サジェフは荷車の上に陣取った。



敵は4体。食料箱を抱えているから動きが遅い。レイナルドは最後尾のゴブリンに忍び寄り、首を切り落とす。頭が無くなり倒れそうになるゴブリンからロベルトが箱を奪いポルタに渡した。箱は思った以上に重く1人で運ぶのが難しい。なのでポルタはアンナと運ぶことにした。

「よし。まずは一個」

レイナルドが呟き次に取りかかろうと思ったら、ゴブリンがこちらに気付いてたしまった。

「くそ、バレた」

ポルタとアンナは急いでその場を離れた。レイナルドとロベルトは構える。

ゴブリン達は食料箱を地面に置き近付いてくる。そこで初めてレイナルドとロベルトはゴブリンの違いに気が付いた。

「こいつ、ただのゴブリンじゃない」

2人の前に現れたのはボブゴブリンとソルゴブリンだった。ボブゴブリンは通常のゴブリンと比べてデカイ。身長は2mは優に越している。横幅は人の2倍3倍は大きい。まるで大きな岩が歩いているようだ。ソルゴブリンは180cm程の身長に、横幅は通常のゴブリンよりも細身に見える。あまり強そうには見えない。残りの1体はただのゴブリンだが木の棍棒を持っている。

「これはまずいんじゃないか」

2人の間に緊張が走った。ただのゴブリンなら倒せる自信があるが、ボブゴブリンとソルゴブリンの力は未知数だ。

2人が動けないでいるとゴブリン達の方が先に動いた。

ゴブリンはポルタとアンナを追って走り出した。ロベルトが止めようと動いたが、ソルゴブリンが立ちはだかり、追うのを邪魔した。レイナルドは動かずボブゴブリンと睨みあっていた。

(ゴブリンがポルタ達の方に行っちまう)

ロベルトが急いでゴブリンを追おうとするとレイナルドは叫んだ。

「行くな。ゴブリンはアイツらに任せればいい。お前は目の前の敵に集中しろ」

レイナルドの言葉には余裕が感じられなかった。その切羽詰まった言葉にロベルトは気を引き締める。

(こいつ。傷付きか)

ボブゴブリンの顔には傷があり、その傷は剣で斬られたような痕だ。つまり、このボブゴブリンは人と戦い、倒したことを証明していた。

(傷付きだろうと高がゴブリンにボブがついた程度の奴だ。ビビることはねえ)

レイナルドは剣を力強く握り、ボブゴブリン目掛けて走り出した。

「オラァ」

渾身の力を込めて降り下ろした剣は、あっさり止められた。

「そんな・・ばかな」

つまむように止められた剣。その光景に驚きレイナルドの反応が少し遅れてしまった。気付いた時にはボブゴブリンの拳はレイナルドの顔面を捉え、吹っ飛んだ後だった。

無言で吹っ飛んだレイナルドは初めて実践の痛みを感じた。

(何だよこれ。兜着けてこの痛みかよ。兜が無かったらどうなってたんだよ)

想像を優に越える痛みにレイナルドは恐怖を感じた。


一方ロベルトの方も苦戦していた。

(くそ、早すぎて避けるので精一杯だ)

ソルゴブリンの繰り出すパンチは早く、ロベルトはギリギリでかわすのがやっとだ。

(どうにか攻めないと、このままじゃじり貧だ)

そう頭では分かっていてもなかなか攻めに移れない。徐々にロベルトの体力は削られ、動きが鈍くなってきた。

(ダメだ、体力が持たない)

ロベルトが弱気になった瞬間、ソルゴブリンのパンチがロベルトの腹を捉えた。

「うぷっ」

殴られた衝撃で体制が崩れた。

(ヤバい。ラッシュをかけられる)

そう思ってロベルトは急いでガードを固めるが、ソルゴブリンは殴ってこなかった。それどころか距離を置いてきた。

(何でだ。今チャンスのハズだろ)

ロベルトが困惑していると、ボブゴブリンがソルゴブリンに何かを言った。勿論ゴブリンが何を話したのか何て分からない。人間の耳には「ゴブ」としか聞こえないからだ。何か言われたソルゴブリンはさっきよりも気合いの入った様子でこちらに向かってくる。

「こっからが本番かよ」

ロベルトはぼやき拳を固く握った。

ボブゴブリンも背中から棍棒を取り出し、早々に方を付けようとしている。その棍棒は丸太のような太さをしており、くらえばひとたまりもないのは明らかだ。

「くそ、ボブがついたくらいで」

レイナルドの手に力を込める。

「調子にのってんじゃねーぞ」

勢いよく斬りかかるレイナルドだが、ボブゴブリンの棍棒を受け大きく体制を崩してしまった。すかさずボブゴブリンが詰め寄りレイナルドに棍棒を降り下ろす。レイナルドは剣を頭上に構え何とか受け止めた。しかし、その衝撃で足が地面に埋まってしまい身動きがとれなくなった。するとボブゴブリンはレイナルドの胴体を勢いよく殴った。あまりの衝撃にレイナルドはまたしても吹っ飛んだ。

ガン、ガンガンガン。

吹っ飛び地面に転がったレイナルドの甲冑の音が静かな森に響く。 

「おい、レイナルド。どうした」

心配になりロベルトがレイナルドの方を見たその瞬間、ソルゴブリンが一気に距離を詰めた。

(な、)

ロベルトは慌ててガードをして左フックを右腕で受け止めると、今度は右手でボディブローを打ってきた。ロベルトは反応しきれず腹を殴られると右手のガードを緩めてしまった。するともう一度左フックを打たれ、今度は顔面を殴られてしまった。ふらつくロベルトの左脇腹にソルゴブリンの強烈な蹴りが入った。堪らず苦悶の表情を浮かべるロベルト。しかし、ソルゴブリンは手を休めない。蹴りをかました右足を引いて、全体重を乗せた全力のストレートを顔面に食らってしまった。

「ぐはぁ」

大きく吹っ飛んだロベルト。

レイナルドもロベルトも倒れ込んでしまい動けなくなってしまった。

(何なんだよコイツら)

胸の痛みを感じながら宙を眺めるレイナルド。見上げてもそこには木ばかりで、日の光りも届かなくなってきた。

(こんな所で死ねるかよ)

レイナルドは立ち上がりボブゴブリンを見た。レイナルドが倒れている間に追い討ちをかけることも出来たハズなのに、ボブゴブリンはレイナルドを殴った位置から動いていなかった。

(いつでも殺せるから追い討ちの必要はねぇってことか)

その余裕がレイナルドを怒らせた。

化物モンスターの分際でなめんてんじゃねーぞ」

レイナルドは剣を構え直す。だが、さっきまでの様に無策に突っ込む様なことはしない。ボブゴブリンを観察しどう攻めるか考える。

(まずは棍棒をどうにかしないとな。だがその前に)

レイナルドはロベルトを見た。

「おい、ロベルト。いつまで寝てんだ。早く起きろ」

その言葉に反応したのかロベルトは徐々に起き上がった。

「うるせえ。せっかく気持ちよく寝てたのによう」

悪態をつきながら立ち上がるロベルト。

「何が寝てただ。完全に伸びてただろうが」

「もしかしてもう降参か。案外根性ねーな」

レイナルドがバカにしたように言うとロベルトは怒りだした。

「誰に向かって言ってんだよ。早く終わったらつまんねえから手加減してやったんだよ」

そう言うとロベルトも拳を構え直した。その様子を見てレイナルドは少し安心した様だった。

「なら遊びはここまでだ。一気に決めるぞ」

レイナルドは剣に手をかざす。

属性付与エンチャント・・・フレイム」

レイナルドが叫ぶと炎が刃を覆うように燃え、揺らめいている。

「全部焼き払ってやるよ」

攻め込むレイナルド。ボブゴブリンは先程の様に棍棒で薙ぎ払おうとしたが、レイナルドは棍棒の当たらない距離で止まり、かわす。

「2度もくらうかよ」

レイナルドは剣をボブゴブリンの顔に突きだす。すると剣をまとっていた炎が伸び、ボブゴブリンの顔を焼いた。

「ゴォォブゥゥ」

叫び声をあげながら顔にかかった火を払うボブゴブリン。

(今だ)

レイナルドは渾身の力を込めてボブゴブリンの右手目掛けて剣を降り下ろした。剣は右手を捉え、棍棒ごと斬り裂いた。

「ゴブゥゥゥゥ」

ボブゴブリンは叫び声をあげる。

レイナルドはボブゴブリンからは距離を取るため後ろに下がろうとすると、ボブゴブリンは剣を掴んだ。

「な、」

予想外の行動に声が漏れた。ボブゴブリンは刃のついてな方を掴み離そうとしない。剣は燃えており、掴んだ手はどんどん焼けていく。

「くそ、どういうつもりだ」

困惑しながらも必死に抵抗するが、力が強すぎて剣を動かせない。すると、ボブゴブリンは剣に斬られた右手の断面を押し付けた。

「な、おい、何すんだよ」

ジュ~。肉の焼ける音が鳴り響き、血生臭い臭いが辺りに漂う。

「コイツ。俺の剣で止血してんのか」

剣の炎を消して止血出来ないようにしたが、遅かった既にボブゴブリン手からは血が出なくなっていた。

「くそ」

止血し終わると剣を離し、レイナルドを睨み付けた。すかさず距離を取るレイナルド。

(くそ、あのまま距離を取れてれば大量出血で殺せたのに)

悔しがるレイナルドをよそにボブゴブリンは手を地面につけ、何かを始めた。

(なんだ)

レイナルドが様子を見ていると切られた右手に石が集まってきている。集まった石は徐々に手を覆い大きな球体に変化した。

(こいつ、魔法で手の代わりを造ったのか)

驚き焦るレイナルド。石の手を作られたことで迂闊に切り込めなくなってしまったからだ。 そんなレイナルドをよそにボブゴブリンは首を回し準備運動をしている。どうやらここからが本気のようだ。

「たく、どんだけ強えーんだよ」

息を呑み、再度剣に炎を纏わせる。

(まともに打ち込んだら剣がダメになっちまう)

「斬れねーなら。叩き潰せばいいだけだろ」        

レイナルドは剣を反し、ボブゴブリンに突っ込んだ。


優勢なレイナルドとは違い苦戦を強いられるロベルト。

(動きは分かってる。俺の隙が無いときは左右の手で軽いジャブを打ってくるだけだ。隙が大きくなったときはフックを打ってくる。分かってはいる)

避けるのに集中していたロベルトは、ソルゴブリンの攻撃パターンを完全に覚えていた。しかし、分かっていても攻撃の糸口は見つからない。

(くそ、俺のパンチの早さじゃ決められねえ)

それは純粋なスピードの差。ロベルトのパンチの速度では打っても避けられるかカウンターを決められるは明白だった。

(仕方ねぇ、いっちょやるか)

ロベルトはワザと体制を崩しフックを誘った。狙い通りソルゴブリンはフックを打ってきた。ロベルトは体を斜め後ろに倒し避ける。

(今だ)

ソルゴブリン隙を付き腹目掛けて打ち込んだ。しかし、パンチは避けられ顔面にカウンターをくらってしまった。

「ぐはぁ」

よろめくロベルトに詰め寄り、パンチを浴びせる。最初は腹を殴り、次に顔面を殴る。殴られた衝撃で倒れそうになったロベルトは殴ってきた腕を掴んだ。突然腕を掴まれたソルゴブリンは一瞬動揺した。

「待ってたぜ、この瞬間をな」

ロベルトは腕を引っ張りソルゴブリンの体制を崩す、体制を崩されガードが緩くなった顔めがけて思いっきりぶん殴った。

「ゴブッ」

殴られ倒れそうになるソルゴブリンの腕を押し、無理やり体制を立て直させる。

「1発で済むと思ってんじゃね」

ロベルトはまた手を引っ張り顔を無理やり顔を近づけさせる。するとまた顔面めがけて思いっきりぶん殴った。倒れそうになるソルゴブリンの腕を押して体制を戻させ、また腕を引っ張り顔面を殴った。

「オラオラオラァァ」

何度も繰り返し顔面をひたすら殴り続けていると遂にソルゴブリンは崩れ落ちた。その姿を見てロベルトは手を離した。

「ハァハァハァ、手こずらせやがって」

ロベルトも披露困憊でその場に片膝を着いた。

(ああくそ、全身が痛てぇ。特に蹴られた脇腹が痛てぇ)

苦しそうにその場で少し休むロベルト。

(あいつの方はどうなったんだ)

痛い体を起こし立ち上がりレイナルドの方に向かう。戦っている中でいつの間にか2人の距離は離れていた。

(これは。あいつの足跡か)

ロベルトはレイナルドの足跡をたどりレイナルドの方へ向かう。

「なんだよ・・・これ」

ロベルトは自分の目を疑った。そこには刃の折れた剣が転がり、砕け散った甲冑の破片が散らばりっている。そして、その中心には木に寄りかかり血を流し倒れるレイナルドの姿があった。



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