水
それは最早手に入らぬもの。
いつの間にか手放してしまったもの。
縋りついていたものは既に遠くにある。
闇の中に揺蕩う小さな光は隔絶されている。
出口を求めて盲目に進む。
立ちふさがる壁をこじ開け、道を塞ぐ蔦を払う。
帰りたい。
その一心で駆け抜けて来た。
走って走って走って。
見えた光に手を伸ばして。
掴み取ったそれは掌から零れ落ちる。
青く美しく澄んだそれは残酷だった。
掬いとったそれを暫し見つめる。
それは冷たく、指の隙間から流れ出ていく。
それでも拒絶することはなく、ただ真実のままを映した。
ここはこんなにも優しく受け入れてくれる。
青から赤く染まる景色をただ眺め、その身を任せる。
流れ出る赤は何時の間にか止まって。
微睡みがゆっくりと訪れる。
包み込まれる感覚に、やっと帰って来れたのだと思い至る。
眠りに落ちる。
安らかに。