父の真相、そして覚悟
「静のお兄さんのところに行くのか?」
「うん、そう」
楼はにこりと微笑んだ。
無理に話をさせたせいか真っ青になった静を寝かせ、政景達は居間に戻って今後について話し合っていた。
「オレは……気が進まねえな」
ぼそりと呟き、遠回しに反論する翔兵。
「そうは言っても、ボク達だけで解決するには手に余るよ。本来なら、静がさらわれた時点で報告しなくちゃいけないんだから」
ということは、まだ御三家に報告はしていなかったということか。 結構、大事だと思うのだが。政景の心を読んだように、楼は「だってさ」と続けた。
「頭首達にそんなこと報告したら、静の立場がますます悪くなる。完全に家の中に閉じ込められるよ」
確かにそうだと政景は納得する。ただでさえ好きに外出ができないというのに、さらわれたことが発覚すれば、もう外出は許されなくなるかもしれない。
「動さん……だったか。 その人は信頼できるのか?」
「そうだね、少なくともボクは信頼してる。頭首達より頭は固くないし。それに今回の白鬼の件は、動さんが旗頭として解決に取り組んでるから、話すなら彼が適任だと思う」
「でもあの人……静を嫌ってるだろ」
翔兵の言葉に、楼はちゃぶ台の上で頬杖をつき、
「さあ……それはどうかな」
少し考え込むように言った。
「静が……力を使えないからか」
『無力』の者と同様だということなのだろうか。
「静はいつからあの屋敷に?」
前々から疑問に思っていたことだった。
「普通なら小学校に上がる年からだ。最初の頃は藤ノ宮夫妻も会いに来てたらしいが、オレが見掛けたのは母親が数回顔を見せに来た程度だな。動さんが来たのは見たことねえ」
翔兵はかったるそうに欠伸をした。
「動さんも何度か来てるよ。ほんの数回だけど」
翔兵は「へえ」と興味なさげに呟いた。
何にしても、あの屋敷に閉じ込められて家族との交流はほとんどなかったということか。あんなにも苦しんでいるというのに、政景は彼女が不憫で仕方なくなる。
楼は「でも」と続けた。
「他に適任者がいるとは思えないよ。すごく頭の切れる人だから、無下にはしないさ。結構、仕事で恩を売ってるし、今後のことを考えれば、ボク達との関係もこじらせたくないだろうし」
「今後のこと――か。静は頭首の娘だって聞いたけど、そのお兄さんである動さんは次期頭首になるのか?」
「その通り。そしてボクは、頭首の座を狙ってるからね。御三家の未来を担う者同士、無駄な争いはしたくないって思うのが普通でしょ」
ここ数日の付き合いで、楼がそれらしき発言をすることが多々あったのだが、先日の戦闘を見る限り相当の実力を持っている。鬼退治士は実力主義の世界と聞き及んではいるが、あの力なら十分だろうし、加えて頭首の息子なのだから、それは大きく考慮されるはずである。
「楼なら狙わずとも、確実に頭首になれるんじゃないのか?」
「いや~、それがちょっとね、馬鹿な従兄弟が先に生まれちゃったせいで苦労させられる破目になってるんだ」
笑顔のまま毒を吐く。
成程、彼を『鬼才』と揶揄するのはその従兄弟に肩を持つ朝桐の者なのだろう。
翔兵は頭首の甥っ子とのことだが、頭首の座についてはどう考えているのか。ちらりと視線を送ると舌打ちされた。相変わらず態度が悪すぎる。
「オレは頭首の息子じゃねえから、跡取り問題にも首を突っ込むつもりはない」
きっぱりと告げられた。仮に彼が頭首になったら、確実にヤクザな一家になるに違いない。
「そういえば、翔兵と政景くんは少し境遇が似てるよね」
「おい」
不機嫌そうな翔兵の声。
「いいじゃない。ボク達ばっかり政景くんのこと知ってるなんて、フェアじゃないよね」
今さらそれを言うのかと思いつつ、一体どう境遇が似ているのか興味が湧く。
楼の笑顔の圧力に耐え兼ねたのか、翔兵はボリボリと頭を掻きながら、面倒くさそうに政景を睨み付けてきた。
「……殺されたんだ」
「え……」
「オレの両親は、鬼に殺されたんだ」
「っ!」
――そういうことか。翔兵も親を鬼に……。
「ま、オレはお前みたいに、この力と鬼から逃げはしなかったがな」
嫌味ったらしい言い方に政景はムッとする。少し親近感を覚えた自分が腹立たしい。
「まあまあ、神成はボクらと違って守りの術がメインなんだから、政景くんが鬼や御三家と関わりたくないと思うのは当然の心理だよ。さて、これで少しは和解できたかな?」
いや、何もできていないだろう――笑顔の楼をジト目で睨む。
「もうさ、ボク達だけで話し合っても埒が明かないから、動さんに相談することは決定事項! いつ静を取り戻しに来るかもしれないし、さっそく行こう。政景くんも来てくれるととっても有難いんだけど」
楼はおかまいなしに纏めに入った。
しかし、静の兄だという動にも興味がある。ここまで関わって素知らぬ顔もできまい。
政景は頷いて答えたのだった。
向かった先は、藤ノ宮の道場。一般的な道場と同じような大きさの建物である。藤ノ宮本家の敷地は優に一万坪は越えているという話を聞いて、政景は驚きを通り越して呆れてしまった。遡れば千年以上前から活躍してきた一族なのだから、当然のことかもしれないのだが。
ちなみに本家は遥か遠くに聳え立っている。道場は敷地の一番端に建てられている為、ここからだとはっきり視認できないが、古い御屋敷のような外観だ。道場とは比べ物にならないくらい巨大な建物だろうと感じる。
「静かだな。今日は稽古してないのか?」
翔兵の言葉に視線を道場に戻す。立て看板が堂々と立てられており、『藤ノ宮道場』と達筆な文字で書かれている。かなり古い建物のようだ。二人によれば、この道場は経営しているわけではないらしい。鬼退治士の訓練をする為だけの場所であり、普段は鬼退治士としてまだデビューしていない少年少女達が利用していることが多いという。蛭間と朝桐の一族も気軽に利用が可能らしく、翔兵と楼も昔はよく通っていたとか。
「でも――人の気配はするね」
楼は引き戸に手を掛けて、ギシギシと軋んだ音を響かせながら中へと入る。政景達もそれに続き、道場へと繋がっているであろう重厚な両開き戸を開けた。中は意外と綺麗にしているようで、床はピカピカに磨かれていた。
奥に一人の男性の姿が目に入る。胴着を身に付け、正座をしている姿は、驚く程に堂々としているにも関わらず、気配が非常に静かであった。
目を閉じている様子から、瞑想でもしているのであろうか。
政景達は一定のところまで近付くと、彼の深緑色の瞳がゆっくりと開いた。
ああ、彼が静の兄なのかと、政景はやたらと納得した。
「……ここに来るなんて珍しいな。楼、翔兵」
精悍な顔立ちに、よく通る声。藤ノ宮の次期頭首としての風格は十分にあるように感じた。
「動さんしか頼れる人がいないんですよ」
楼は真顔だった。
「……静のことか?」
一瞬、翔兵に視線を移して動は言った。その視線に翔兵はムスッとするが、静のことでもないと彼に会いに来ることがそうそうないのだろうと推測する。
「お察しの通りで。ただ――最近噂の白鬼も関係してまして」
「……それは興味深いな。奥で話そう」
動は表情を厳しくし立ち上がると、政景へ視線を送った。
「その前に……そちらは?」
「あ、すみません。神成政景と言います」
慌てて一礼する。
動は少しだけ目を見開き、ジッと見つめてきた。
「動さん、政景くんが困ってますよ」
「……ああ、すまない。君が神成のご子息か。まさか会えるとは思わなかったから驚いたよ」
動はそう言って握手を求めてきた。
「俺は藤ノ宮動。妹が随分と君に世話になっていると、使用人から聞いているよ」
とりあえず右手を差し出し、握手に応える。
「あまり役には立てていないんですが……」
「とんでもない。あの静が顔色を良くして外出したなんて、何年振りのことかわからないくらいだよ」
切なげな表情の動に、翔兵は呆れたようにフッと笑った。
「さすが、静のことは全部把握済みなんスね」
まるで嫌味のようだ。しかし動は気にする様子もなく「もちろん」と即答する。
「妹なんだから当然だろう。ましてや病弱だからいつも心配しているんだよ」
少し物憂げに話す様子からは、とても嘘を言っているようには見えない。翔兵が言う程、嫌っていないのではないだろうか。
まあ、心配と言う割には会いに来てはいないらしいし、専ら使用人からの報告を受けているだけだろうから、ただ監視しているという感は拭えないが。
「……とにかく、奥で話を聞くよ」
彼は踵を返し、出入口とは反対の奥の扉へと向かった。
後をついて行くと、その扉の奥は一つの部屋に繋がっていた。二十畳くらいはあるだろうか。テーブルや椅子、冷蔵庫と流し台が設置されている簡素な休憩室のようだった。
席へと促され、政景達はそれぞれ腰掛ける。
動はコップを四つテーブルに用意し、冷蔵庫から麦茶を取り出して手際よくそれに注いだ。
「さて、どこから聞こうか」
彼も席へとついて、三人を見回す。
「じゃあ、順番に説明しますね」
楼が笑顔で切り出し、いきなり静が白鬼にさらわれた経緯から説明を始めた。沈着冷静そうな動も、さすがに驚いたらしく暫く聞き返しながら話を進めていたが、白鬼が元人間だという話まで辿り着くと、すっかり黙り込んで話を聞いていた。
一通り話終えると、楼は一息ついて麦茶を飲んだ。
「ぷはあ。――とまあ、そんなわけで。白鬼はもうすぐにでも本格的に動き始めると思うんです。静を独り占めにする為に、邪魔者を全員殺すつもりらしいですから」
動は顎に手を当て、険しい表情だった。
「色々と――驚くことが多いな」
楼はクスリと笑う。
「そうですか? 藤ノ宮の禁術、鬼結の術は静から聞いた内容をさらっと説明しましたけど、動さんも知ってるんでしょう。昔、静と仲良く一緒に藤ノ宮の蔵に忍び込んだと聞きました」
本人は無理矢理連れてかれたと言っていた気がする。楼は恐らくかなり楽しんでいる。
しかし動はまるで取り乱す様子もなく「そんなこともあったな――」と自嘲するように呟いた。
「未だに見ることが許されない、いくつかの禁術をそこで覚えたよ」
とんでもない子供である。政景はどうしても聞いてみたいことがあった。
「あの、どうして静を連れて行ったんですか?」
本当にただの言い訳の為に連れて行ったのだろうか。
その質問に少し驚いたようだったが、不意に深緑色の瞳が揺れた。
「罪滅ぼし……かな」
ぽつりと漏らしたその言葉の真意を、政景には理解することができなかった。何故、蔵に連れて行くことが罪滅ぼしとなるのだろうか。
もう少し突っ込んでみようかと口を開きかけるが、「白鬼に関する情報は以上か?」と話を戻されたので諦めた。
「ちょっと待った。何スか、罪滅ぼしって」
いや、諦めないのが一人いた。
「え、翔兵知らないの? 過去に犯しちゃった罪を、善いことして償おうっていう……」
「んなこたぁ、わかってる! オレが聞きたいのは罪滅ぼしになる意味を問いたいだけで……!」
「やだなぁ、翔兵。だから罪滅ぼしの意味は、過去に犯しちゃった罪を」
「だからそういう意味じゃねえ!」
「はは。相変わらず仲が良いな、二人共」
楼とのやり取りを動に笑われ、翔兵は物凄く不機嫌そうな表情になる。無言のまま、ぷいと顔を背けてしまった。
子供か――
政景が呆れていると、動は苦笑して立ち上がった。
「とにかく事情はわかった。だが、これは俺一人で抱えていい問題でもないからな。夕柳の子供と、鬼結の術が関係するということは頭首達に報告させてもらう」
やはり、内密にするのはさすがに無理があるか。
「だが、白鬼が出現した原因に静が関与している、というのは適当にぼかして説明しておくよ」
「お願いします。これ以上、静の立場を悪くしたくないので」
楼はまた真顔に戻って動を見た。彼が頷くのを確認すると、「それじゃあ、ボク達は戻ります」と言って席を立つ。翔兵は不機嫌な表情のまま、すぐに出て行ってしまった。
政景も立ち上がって楼の後をついて行こうとすると、動に肩を叩かれた。
「政景君。少しだけ話をしたいんだが、いいかい」
「え、あ、はい」
少し躊躇いながら頷き、楼にチラリと視線を向ける。
「じゃあ、外で待ってるね」
にこりと笑顔で返され、扉を開けて出て行ってしまった。
「すまない。君のことについて、少し話しがしたくて」
「おれのこと……ですか」
「ああ――」と言って、彼は部屋の小さな窓へ視線を向けた。
「今の話を報告すれば、御三家はすぐに重い腰を上げることになるだろう。もちろん、楼と翔兵も駆り出される。うちの重要な戦力だからね」
何だかどこかでも聞いたような話の展開だ。動は視線を政景へと戻した。
「正直、鬼退治士は近年、人員不足でもある。御三家の中には、神成を欲している者もいるんだ」
「え……」
「君が思っている以上に、神成の力は稀少で信奉者も多いんだよ」
それは初耳だった。てっきり御三家からは裏切り者として認識されているのだと思っていた。
「中にはあまりよく思ってない者もいるが、それは少数かな。とにかく、このまま静と関わるのであれば、神成に興味を持った者が何かしら君に接触してくると思う。御三家の意向としては、神成を鬼退治に参戦させるつもりはないようだが、やはり昔の栄光を夢見ている者もいる」
大昔に神成が活躍していた時代のことか。
「それに、静の近くにいれば、悪鬼との接触も避けられないだろう」
確かにその通りではある。つまり、彼は――
「政景君。これ以上、御三家に関わるのはやめたほうがいい」
やはり――そういうことか。
政景は俯いた。正直、迷いはある。鬼に関わりたくはない。今までだってそうして生きてきた。どうしたってこの気持ちは消し去れない。そしてこの中途半端な気持ちは、きっと静達に態度で示してしまう。この前の文化祭がいい例だ。知り合いとバレれば面倒だと、真っ先にそう思ってしまったのだ。
「君の父親――神成晴景さんも、それで亡くなったんだからね」
思いもよらない言葉に、 政景は顔を上げた。
「どういう……意味ですか?」
父親は確かに鬼に殺された。だが、御三家は関係ない。神成の血が原因なのだ。
「やはり知らないか。知っていれば、静を助けようなんて思わなかっただろうからね」
動は肩を竦めた。
「……一体、何なんですか」
「晴景さんは御三家と仕事の契約をしていたんだよ。その時も少し厄介な鬼が現れてね。藤ノ宮が熱心に勧誘し、彼が折れたんだ」
まるで聞いたことがない話だ。
「その悪鬼を倒すまでの契約ではあったんだけど、その戦いの最中――俺の父親、藤ノ宮頭首を庇い、晴景さんは亡くなった」
「……っ!」
父親が死んだと聞かされた時、悠子からはただ外出先で悪鬼に襲われたということしか聞いていなかった。
政景は唇を噛む。
「おかげで悪鬼は倒せたようだが。これは全て極秘で進められた件だから、知っているのは関わっていた現頭首達くらいだろう。もちろん、楼達も知らない」
つまり、父親は鬼退治士として亡くなったというのか。
この前、悠子から父親の知り合いで懇意にしている御三家の者がいると聞いたが、それで知り合ったのかもしれない。
「それ以来、頭首達は神成との接触を一切しないことに決めた。あの人達なりの償いなんだろうな。さっきも言った通り、一部では政景君の力を欲している者はいるけれど」
「母は……もちろん知っているんですよね」
動は「知らないはずはないだろう」と頷いた。
「これでわかったろう。捉え方によっては、晴景さんは御三家のせいで死んだと言える。家族である君の立場なら尚更だな。そんな御三家の者に関わるのは不本意だろう?」
父親の死――あの時から、政景は自分の力が嫌いになった。神成の血が煩わしくて仕方なかった。
でも今、政景は彼らの側にいる。普通を望みながら、非日常の世界を過ごす彼らに神成の者として力を貸している。
それは静の為――?
もちろん、そうだ。彼女の元気を取り戻してあげたかった。だけどそれだけではない。自分の力が誰かの役に立てるのであれば、この力は無駄ではないのだと感じることができるのであれば、それは政景にとって生きる意味と同義なのだと思った。
「おれは自分の力を人の為に役立てることができて、嬉しかったんです。それは――例え父が死んだ原因である人の娘であっても、です」
今の話を聞いたからと言って、静を恨む気にもなれないし、御三家がどうとも思わない。
動は眉をひそめる。
「父親と、同じ道を進むつもりか?」
「死ぬつもりはありません。だけど、今さら見て見ぬ振りもできません。おれは自分の意志で、彼らの力になりたいんです。父もきっと、そうだったんだと――思います」
父――晴景も己の意志で、御三家と共に戦うことにしたのだ。力を貸したいと思ったのだ。
そうでなければ、命を懸けて藤ノ宮の頭首を庇うことはなかったはずである。
真っ直ぐに視線を向けると、動は観念したというように、溜息を吐き、「血は争えないな」と苦笑される。
「極力、君には迷惑を掛けないよう配慮はさせてもらおう。静のこと――頼むよ」
再び差し出された手に、政景は大きく頷いてその手を握った。
「あ、政景くん。お疲れ」
「待たせて悪い」
外に出ると、楼と翔兵が出迎えた。
楼は少し気まずそうに「なんか言われた?」と聞いてくる。政景はどう答えたものかと逡巡していると、翔兵が前に出てきた。
「お前、もう帰れ」
突然の言葉に驚くが、ただの『帰る』という意味とは違うのだろうと感じた。
「翔兵も『関わるな』って言いたいのか?」
政景の言葉に、楼が「やっぱり動さんに言われたか」と呟いた。
「元々、オレ達に関わること自体、嫌なんだろ?」
嫌味ったらしく、鼻で笑った。
だが、政景はすでに何か吹っ切れた気持ちになっていたので「ああ、否定はできないな」と、はっきり答えてやる。
「そっか~。ボク達、ここまでかな?」
残念そうに笑う楼に政景は「でも」と続ける。
「おれは最後まで、君達と一緒にいることにした」
そう宣言すると、二人は目を見開いてこちらを見た。
「やっぱり放っておけないし。静のこともあるけど、翔兵と楼もちょっと……いや、かなり変わってるから何を仕出かすか心配だし、一人ぐらい常識人がいたほうが纏まるだろ?」
まあ、今まで常識人として役立ったことがあるかと問われれば、なかったような気もするが。
二人の反応を待っていると突然、楼が「ぶはっ」と吹き出した。腹を抱えて笑っている。対して翔兵は、仏頂面のまま政景を睨み付けている。
「おい、政景。矛盾してねえか?」
「わかってるよ。だけど、どうしたってこのまま無関係にはなれない。翔兵達が反対しても、おれは自分の意志を貫き通させてもらう」
我が儘に聞こえるだろうか。政景は元から、姑息で卑怯な性格なのだ。普通を装って周りを騙しながら生きてきたのだから。
別に卑下しているつもりはない。それで今まで上手くやれていたし、それが自分なのだ。
この性格はすでに彼らも承知のようだし、それで彼らを傷付けることを恐れても仕方がないのだと思った。
「政景くん、ボクは嬉しいよ! 折角、育んできた友情を、ここで終わりにしたくはなかったからね~。翔兵も政景くんと友達でいたいでしょ」
「な、バッ……! 誰が友達だっ!」
「照れちゃって~」
ようやく笑いが治まった楼はかなり上機嫌だった。まあそんなに友情を育んだ覚えもないのだが、彼らとの奇妙な関係は、やはり友人と表すのがしっくりくる。
「翔兵には、もう少し友人だっていう自覚を持って、おれに接してほしいけどね」
「だから、誰が友達だ!?」
思い切り怒鳴られる。が、何故か翔兵はがっくりと肩を落として「くそっ」と悪態をつくと、急に金髪頭をぼりぼりと掻き乱し、ムスッとしながら政景を見た。
「……ま、そんなに友達になりてえなら、なってやらなくはないけどな」
「うわ、ドン引くぐらい素直じゃない」
「うるせえ!」
政景は二人のやり取りを見て、声を出して笑ってしまった。
父――晴景がどうして御三家に力を貸したのか、それはわからない。だけど、きっと自分の意志で決めたことだから、後悔はしていないはずだ。微かに記憶に残っている晴景は、堂々として常に前を向いている人だったのだから。
まあ、なるようになるさ――
政景は覚悟を決めた。




