負の感情、鬼の覚醒
ふと見つけた塀の向こう側の少女。あの子はいつも一人だった。何もかもを諦めたような目をして、布団に寝そべりながら縁側の庭を眺めていた。
晴れの日も、曇りの日も、雨の日も。
僕と同じ。ただ無意味に無気力に。時を過ごす。
学校帰りに古めかしい屋敷に立ち寄るのが日課になった。そこがあの子の家なのだ。屋敷の裏手は池やら松の木やらがある庭になっており、縁側に面した部屋にあの子はいつもいた。庭を眺めるのが好きなのか、襖は開きっぱなしで、石でできた塀の透き間から見つけることができた。
ただ時折 、襖がピッタリと閉じられている時がある。調子が悪いのか、気候のせいなのか。あの子を見られない日は、とても残念で仕方なかった。あの子を見ると、どこか安心できたんだ。
一人じゃないって思ったのかもしれない。そう思えたのかもしれない。
『無能』『役立たず』『一族の恥』
今までどれだけの陰口に耐えてきたか。
この世には、僕ら人間達の平穏を脅かす鬼が存在する。俗に悪鬼と呼んでいるが、僕はそんな奴らを退治する一族の血を引いている。だけど術を一切使うことができない僕は、ただ愚弄の言葉を受け入れるしかなかった。
そして、それはきっとあの子も同じなのだ。特に、鬼退治士の一族の中でも大きな力を持つ御三家のトップの血筋なのだから、僕よりも風当たりは強いに違いない。
だけどある時から急に、あの子に会いに来る人間が二人、現れた。しかも御三家の人間だ。何であんな奴らが。僕らの気持ちなんてわかるわけないのに。
何で、何で、何で。
何で、あの子は笑ってるんだろう?
駄目だ。あの子は僕が救ってあげないと。
それにはどうしたらいい。どうしたら。
――力が。力が必要だ。やはり力がないと、何もかもうまくいかない。
力がないのなら、取り込めばいい。
鬼の、鬼の力があれば。僕だって。あの子だって。ずっと。ずっと、一緒に――
鬼の巣窟、鬼ヶ島。気付いた時には、僕はまた一人だった。周りにはおびただしい数の――鬼。腹が減った、人間が喰いたいと、低能な思考ばかり伝わってくる。
ああ、空が赤い。ここはつまらない。帰りたい。
――どこへ?
あの子は、あの子はどうしているのかな。
――あの子って誰?
「……あれ?」
己の額にある、大きな大きな――角。
「僕は……誰?」




