語るは鬼、語れど鬼
君は鬼を知っているかい?
大昔から人間に恐れられ、敵対してきた忌むべき存在のことだよ。俗に『悪鬼』と人間達は呼んでいるね。容姿は様々で、大きいのもいれば小さいのもいるし、赤いのもいれば青いのもいるのだけれど、一つだけ共通の特徴があるんだ。
それは『角』。
これが人間とは違う、鬼の最大の特徴。奴らは人間を主食にして生きてきたから、君達とは決して相容れることのない存在なんだ。普通の人間ならば、あっという間に殺され食べられてしまう程の圧倒的な力を持っているんだよ。
でも、人間の中にはそんな奴らを退治できる者も存在するんだ。
一つは藤ノ宮家の人間。
一つは蛭間家の人間。
一つは朝桐家の人間。
これらの一族は今でも、子々孫々と鬼退治士として活躍しているらしい。僕もよく見かけているよ。あと一つ、神成家の人間もいるのだけれど、彼らは表舞台に出るのを極端に嫌う一族みたいで、詳細はよく知らないんだ。
とにかく、そういう人間もいるとういうことを覚えておくといいんじゃないかな。君も鬼に襲われた時は、彼らに助けてもらうといい。
そうそう、最近その中でも面白い子を見つけたんだ。藤ノ宮の子供なんだけれど、とても力の強い子でいつも苦しんでいるんだ。僕はきっと、あの子と良いお友達になれると思う。だってあの子、いつも心が一人なんだもの。僕と同じ。
え、僕が誰だか気になるの?
僕はね――『鬼』だよ。
驚いてしまったかい? そうだよね、『鬼』に思えないよね。だって僕は人間の言葉を話すことができるし、心だってある。それに見た目だって人間と何ら変わりないだろう。まあ、角があるわけだから鬼ではあるんだろうね。でも、それで鬼だと決めつけるのも、何か可笑しいと思わないかい。いや、僕が可笑しいのかな。きっとそうなんだと思うよ。鬼にも混ざれない、人間にも混ざれない、そんな中途半端な存在なんだ。
君はどう思う? 僕が怖い? 君は僕を受け入れてくれるかい?
…………ごめんね、こんなこと言われても困るよね。君は普通の人間なんだもの。僕の気持ちなんて分かるわけがないんだ。だからね、早く藤ノ宮の子に会いたいんだ。あの子ならきっと僕の気持ちを分かってくれる。
あ、鬼がこっちにやって来たね。君を狙っているみたい。あの鬼達といると、僕が一人だということを思い知らされて嫌になってしまうから、そろそろ帰ることにするよ。
え、置いていくなって?
僕が君と一緒にいることで、何か利点でもあるんだろうか。正直、君が鬼に食い殺されようがどうされようが、僕には全く関係ないことだし。
あれ、何か勘違いしているみたいだね。別に僕は人間が好きなわけじゃないんだよ。だって、人間を食べなければ僕だって生きることはできないのだから。そんな君らに一々肩入れしていたら、僕が損するだけ。それともあれかな。あいつらに食われるより、僕に食われてしまいたいのかな。そうだね、痛くないように食べてあげるよ。それぐらいの気遣いは僕にならできる。あいつら馬鹿な鬼には不可能だ。本能で生きているのだから。
君、震えているよ。大丈夫?
安心おしよ、全て僕に任せるといい。
さあ、こっちにおいで――