主法の授業の様子
「はい、初めまして。近藤 春樹です。僕が教えるのは、火、水、風、の主役的魔法です。これからよろしくねー」
転生して初めて私並みに普通の名前をやっと聞いた気がする。皆変わった名前多いもんね。当たり前なんだろうけどさ。
この軽い話し方をする近藤先生はこれでも凄い人なんだよ。魔法に関して凄い詳しい。質問したら必ず答えが返ってくるの。
近藤先生は茶色い短髪の似合う赤目の人で、いたって一般的な顔だ。親近感を感じるよ。
「さっそく始めるよー。えー、まずは火、水、風、この三つの魔法のことを主法と言います。まずはこの主法を君たちにマスターしてもらうよ。まぁ内容はAクラスの君達なら簡単にこなせちゃうと思います」
近藤先生はそう言って三つの瓶を教卓に並べた。
「一つ目、火を使った訓練です」
近藤先生が瓶に手をかざすと、瓶の中に炎が灯り、みるみるうちに瓶を溶かしていった。
「はい、これ。この瓶を溶かすのは意外と繊細でねー、やり過ぎたら爆発しちゃうし、気を使いすぎても熱がこもるから爆発しちゃう。いい具合があるから、それを自分で見つけることー」
近藤先生が、次は二個目の瓶に手をかざした。
「はい、じゃあ次は水。ちょっと難しくなるよー」
さっきみたいに、また水が瓶の中にでてきた。そしていっぱいになった水で、今度は瓶が砕けた。
でも瓶は砕けたはずなのに、中身の水は瓶の形をしたまま残っている。
「主法に限らず魔法っていうのは形になるものはすべて自分で操れます。だからこの水の形を保つのも、多分自然にできるよ。ただし、水の量は火の加減よりも繊細作業です。瓶を割る分だけ少し増やさないといけないんだけど、それがまた難しいんだよねー。瓶が割れても水の量が多過ぎると形にならないし」
形に残っていた水は蒸発して消えてしまった。多分あれは水に火を足して蒸発させたんだろう。
「はい、最後!風だけど、ちょっと危ないよー」
三つ目の瓶に近藤先生が手をかざすと、中で風が形になり、ヒュンヒュンと踊り出した。
目で見えるってことは、きっと相当な速度のはず。って、これは漫画上雷牙が勘付いていた心の声なんだけどね。だから雷牙は今そう思ってるんだろうな。
瓶は小さく削られる様な音を立て続け、そして気付けば瓶が消えていた。
「風に強度をつけて瓶を削り、全部消してください。これほんと、不器用な子であればあるほど瓶が飛び散るから、皆気を付けるんだよー。じゃあ、各自黒板に主法の印が書いてるから、瓶を持ったらそれを唱えて始めちゃってください」
ミスったな。これは練習してない。初歩もちゃんとやっとくんだった。できる自身がないよ。
授業は1時間半あった。
それはもう散々だった。
火。これは完璧だった。一回めは失敗したものの、少し魔法の加減を調節すれば二回目には成功した。
でも、水と風。
どんなけ繊細なんだよ!!!!
綿菓子を溶かさずに温めてくださいと言われているような気持ちだ。
水は瓶が割れても形にならない。風は瓶が飛び散って切り傷ができた。
周りを見てみても同じな様で、辺りは瓶の破片だらけ。
ただ、やはりザクロは違った。誰よりもはやく主法をマスターし、つまらないと言いたげに堂々と寝ていた。
悔しい……。なんだか転生したせいか変なプライドを持ってしまう。
私だって!!!!
「いたっ」
隣で雷牙が悲痛な声を漏らした。
「これ難しすぎるよ。一時間もやり続けてる。あと30分しかないのに」
白が苦々しくそう言ったけれど。大丈夫だよ。
白も雷牙もちゃんと出来るから。
心配なのは私と冠那ちゃんだよ。
冠那ちゃんは不思議なことに、水、風はクリアしたものの、火が全く駄目みたいだ。
私は火しかできてないよ。どうすんだよ。私の未来は分かんないんだよ。
「ぬぬぬぬぬぬぬっ」
パリーンと、また瓶が割れ水が飛び散った。病みそうだね、うん。
「できた!!俺できた!!」
はぁ。雷牙はクリアしたんだってさ。知ってるよ!!!!初めから分かってたよ!!!!
「僕ももうすぐいけそうだよ。水が綺麗に形を取れたら……」
「……」
「……」
私と冠那ちゃんはだんまりしていた。力加減に集中しないと全くだめだからだ。
「……あっ!!溶けたぁっ」
「おめでとう冠那っ!」
「やったじゃん!これで冠那も主法は大丈夫だな!」
三人を両端にきゃっきゃされちゃあさすがにへこむ。私だって頑張ってるのに。できないんだよ、なんでだよ。
雷牙がそんな私に気付き、顔を覗き込んできた。やめてよ、多分凄いふてくされてるんだから。
「千秋は水と風ができないんだろ?」
「う、うん……」
「うーん、なんて言うのかなぁ。水はほとんど形に集中するんだ。形を整えて、整えれたと思ったら水を増やして瓶を割る。風は強度を最初からあげるんじゃなくて、少しづつ上げていくんだ。強度だけじゃなく、風の範囲もね。大丈夫、落ち着いてやればできるよ」
雷牙……。雷牙の優しさに不覚にもきゅんとしてしまった。なんて優しいの。
「頑張る……」
白も冠那ちゃんも応援してくれた。何より雷牙がコツを教えてくれたんだ。やってやる!!
何度もしょげて何度も励まされてを繰り返し20分。
「で、できたぁ」
「やったね!千秋!!」
雷牙が私の肩を嬉しそうに叩いた。
やっとできたよ。ヘトヘトだよ。
「千秋ちゃん、おめでとうっ」
「これで三人とも大丈夫だね」
皆嬉しそうに言ってるけど、まだ初授業なんだよ?
そんな可愛くないことを思いつつも、頬が自然と緩んだ。
「ありがとう、みんな」
「いいんだよっ」
雷牙は笑顔も優しいなぁ。
「皆できたかなー?大丈夫ー?」
近藤先生もタイミングを見計らって皆に声をかけた。
「もうチャイムが鳴るころかな。みんなお疲れ様でした。分からないことがあれば僕に聞きに来てくださいねー。僕は四階の科学室によくいるので。では、次の授業頑張ってくださーい」
最後まで軽いノリで近藤先生は出て行った。
ザクロは今でも寝ている。生まれながらの天才は羨ましいよ。
私はこの時、何も考えていませんでした。
寮に入ったら、ゼクロと会えないじゃん。
これを後々になって後悔することになる。