入学式で馴染みの顔に出会う
今回は少し長いですが、最後までお付き合いしてくれたら嬉しいです。。
私は天才だ。そう天狗になって一週間、今日は入学式。
魔法は完璧だった。こんな簡単でいいの?ってぐらい。加減が出来なかった魔法もコツを掴めたし、漫画にある呪文は全てやりきった。
首席まじで狙っちゃおうかな。ザクロにも今は負けてない気がする。
入学式ということは、主人公やその周りの人たちとも顔合わせできるということ。
緊張より楽しみの方が大きい。私の好きなキャラクター達が勢ぞろいしてるんだから。
ただ残念なのは学校に行けば卒業まで遼生活となること。せっかくの美男美女のお母さんとお父さんと、離れてしまう。残念だ。
指揮官のお父さんとは、もしかしたら会えるかもしれないけれど、それはほんのわずかな可能性だった。
漫画では雷牙やザクロが指揮官と顔を合わせる機会があるけれど、私はそんな機会がないかもしれない。
ただ、指揮官やってるうちのお父さんはなぜ漫画に現れなかったんだろう。
私が転生した影響で生まれた二人なのかな。
「千秋ー!着替えたらはやく朝ごはん食べないと遅刻よー!」
お母さんが一階から私を呼んだ。
今私は制服を着て鏡の前に立っている。
(なんか似合わないなぁ)
というのが本音だった。
まぁ、そこらの皆に比べて私は顔は薄い方だと思うし、日本人顏だから似合わなくてもしかたない。
だってこの制服絶対外国人向けだもん。日本人はよっぽどじゃないと似合わないよ。
ちょっとショックを受ける。
「千秋ー?」
「はーい!」
お母さんがそろそろ痺れを切らしそうなので、私は下へ降りた。
お父さんは朝早いから昨日のうちからお別れを告げている。
『お前ならきっと上手くやるよ。パパとママの子だからね。でも無理せずにやりなさい。魔法は負担がかかるものだから、絶対自分の力量を越えるような無茶はしないでね。心配だけど、立派になって帰ってくるって信じてるよ!千秋!』
一字一句ぜんぶ覚えてる。ちょっと泣きそうになった。本当にいいお父さんだと思う。
頑張るよ!と、昨日も言ったことをもう一度心で言う。
「あら、千秋」
似合ってないって言われるかな、と私は傷つかないように身構えた。
「似合ってるじゃない!立派な学生に見えるわぁ」
予想外の言葉に私は顔が赤くなってしまった。普段ものをはっきり言う人だから、尚更嬉しい。
「そうねぇ、千秋ももう学生になるのねぇ。なんだか親離れみたいで寂しいわぁ」
「お母さん……」
「お母さんもお父さんと同じ気持ちよ。だから自信持ってやりたいことやってきなさいね」
「うんっ」
「はい、じゃあご飯にしましょ」
また泣きそうになった。親子愛って素晴らしい。
いつもより気合の入ったご飯を噛み締めながら食べ、私は家を出ました。めっちゃ寂しいよ。
私の姿が見えなくなるまで見送ってくれたお母さんを背に、学校へ向かう。
お母さんが見えなくなった途端、だれてきた。瞬間移動とかないかな。……ダメダメだな、私。
息を切らしながらもなんとか学校へ辿り着いた。周りを見渡すと生徒達がわんさかいる。髪色がカラフルだ。漫画の世界ってなんでもありだな。
見上げると、これまた白で統一された建物。めっちゃ高い。そしてめっちゃ綺麗。学校に見えないよこれ。
「っしゃー!やっとこの日がきた!!」
その声に私はびくっとしました。心臓の鼓動が急に速くなる。
「ん?なに突っ立ってんの?行かないの?」
は、話しかけられた……雷牙に。
まってよ、雷牙ってこんなイケメンなの?詐欺じゃん。いや、漫画よりかっこいいから逆詐欺?
「い、行く……」
私の言葉に雷牙はにこっと笑った。
「じゃあ行こう!新入生でしょ!俺もそうなんだ。俺の名前は南 雷牙。あんたは?」
「風上 千秋……」
「千秋か!よろしくね、千秋」
「よ、よろしく……っ!?」
手をガシッと掴まれて、私達は学校の門に入っていきました。
雷牙とまさかこんなにはやく仲良くなれるなんて。ラッキーだ!!イケメンだし!!
と言っても、ザクロも雷牙もまだ子どもなんだけどね。子どもの割にはなかなかの破壊力だよほんと。
「お、あれって新葉 ザクロじゃん。優秀って噂の」
少し先の方に無表情なザクロが歩いていた。ザクロらしく一人だ。
「新葉家は血が優秀な魔術師の家系だからね。何度か新葉家の人が神導師になったんだよ」
「へぇ、千秋って魔法の事とかに詳しいんだ!これは頼もしい友達ができたかな?」
はにかんで言われるとさすがに照れるよ。恥ずかしくなって私は俯いた。
私ってこんな女々しかったか!?
「式場はこっちだね」
今だ手を握られたまま、私達は式場へ入った。どこへ行ってもカラフルだな……。ここまでくるとさすがに自分の方が浮いて感じる。
ここの式場、漫画で見るのとはぜんぜん違った。漫画は白黒で分かりにくいけど、実物で見ると凄くキラキラしてて綺麗だ。
ちょっと派手な教会、って感じ。
しばらく私達はお互いについて話していた。雷牙は自分の出身を話してくれたけど、良くしってます。私はしらこく聞いていたけどね。あ、さすがに手は離してるよ。ちょっと残念。
開始のチャイムが式場に鳴り響いた。
そして扉から……
(キターーーーーーーー!!!!)
私の大好きだった先生、銀城 一茶!!銀髪黒目の綺麗系美男!
この人めっちゃ強いの、しかも優しい!それでいい働きするんだよ。ほんとあの時のあの行動とセリフは……。
式場の真ん中をずらりと歩くのは、ここで私達を教える先生達。皆背が高いね。私達が小さいんだろうけどさ。
知ってる知ってる。皆知ってるよ。
「なんで笑ってるの?」
「えっ!?いや、嬉しくて……その、学校に入れたんだなって」
「俺も同じだよ」
危ない危ない。知らない間ににやけてたらしい。気を引き締めとかないと。
「俺は神導師になるんだ、絶対にね」
そう言う雷牙の顔は自信で満ち溢れてた。
……知ってるよ。雷牙のその想いは漫画が進むごとに強くなるんだ。
戦争が始まって、さらにザクロが復讐に駆られた時、泣きながら何度も言うんだよ。神導師になって皆を守りたい、って。
あの時は泣いたなぁ。
「応援してるよ」
心からそう思う。驚いた顔をしたあと、雷牙ははにかんで嬉しそうに言った。
「ありがとねっ」
「これより入学式、始式を始める!」
校長先生が大きな声で言うと同時に式場が静まり返った。
この先生顔がいかついから好きじゃなかったけど、実物はしぶくてかっこいいかも。なんなの?実物はイケメンにされる設定なの?
「私の名前は翼鷹 昴。この学校、ランウィール学校を仕切る校長だ。君たちは今日からここの生徒となるためここへ集った。来るか来ないか自由なこのランウィールに来たということは、夢を持つ者もいることだろう。神導師を目指す者、己の腕を極めたい者、誰かを守るために力をつけたい者、さては他の何かか……。私達教師は全力でそれを応援し、支援する。君たちにこれからの未来を託すためだ」
周りの子達は校長先生の言葉を聞いてそれぞれな顔をした。私も気合いが入る。
「だがここへ通う者の中で、途中で辞めさせられる者もいる。年ごとに試験があるが、それにそぐわなかった者は躊躇いなく家へ帰ってもらうことにしているのでな。だがそれらを六年間クリアし、見事卒業した者は印騎士になり、さては地域を仕切るほどの魔術師になり、さては指揮官になり、神導師となる。君たちの夢は六年間どう過ごしたかで決まるだろう。ここに集っただれ一人として、引き帰さなくて済むように願っているぞ」
校長先生の演説を聞き、それぞれの教室と部屋に案内された。
部屋は一人一人。さすが大きい学校なだけあって設備がしっかりしてる。お風呂もトイレも部屋自体も綺麗だ。
ここに六年間住むんだ。よろしく私の部屋。
「あのっ」
「はい?」
声をかけられ振り向くと、開けっ放しだった扉の向こうに女の子が立っていた。
「私隣の部屋なの。よかったら仲良くしてほしいな……」
かーわいい。超可愛い。ピンクの髪をボブにした女の子。クリクリおめめが愛らしい。こんな子が0の魔術師にいたなんて。
「よろこんで!私風上 千秋って言うの」
私の言葉に不安げだったその顔はパアッと明るくなった。
「私は桜魏 冠那!よろしくねっ」
可愛い友達ゲットしました。ありがたや。
私達新入生最初の授業は確か魔力計測だ。どれだけ自分に魔力があるかでそれぞれ別のクラスへ振り分けられる。
AからDまであって、Aから一番魔力の多いと判断された順番に入っていく。
ここまでハッキリした制度だと怖い。雷牙とザクロはAに入るはずだから、私もできればAに入りたいところだ。
「そろそろ時間だね。一緒に行っていい?」
「もちろんだよ、えっと、冠那ちゃん」
少し照れて名前を呼んだら、可愛らしい笑顔を向けてくれた。
集合場所は一階の大きな部屋だと言われていたのでそこへ向かっていると、何人か漫画に登場する子がいた。
これが現実だなんて凄いなぁ。なんて思いながら、私は冠那ちゃんと目的の部屋へ入った。
「はい、そこに一列にならんでねー。はい、後ろの子、あなたこっちの列ー」
「あっ」
メガネをかけたおばちゃんが私達を引き離した。
あとでね、冠那ちゃん。そっちに行くよ。で誰だよまたこのおばちゃん。意外と初めてのキャラ多いな。
「一年生諸君!これから魔力計測を始める!簡単な印を教えるから、その印を結び自分の最大の魔力を込めろ!この印は火柱となり、魔力が多い者ほど高く上がる。ではそれぞれの列の先生の所で言われた通りにしてくれ!」
私の列の先生には刈峯 十雅先生がいた。銀城先生は五列向こうだ。くそっ!!!!
一番目の子が言われた印で呪文を唱えると、そこそこの火柱が上がった。そして何か紙を渡されている。きっとあそこにAからDのどれかが書いてあるんだろう。
ぞろぞろと、生徒達が少しずつ部屋を後にし、書かれたクラスに向かっている。
「次、風上 千秋!」
「は、はいっ」
緊張でどもりつつ前にでる。
「印は呉の火、泥の火、角の火だ。手を上へ向けて心で唱えなさい」
言われた印を心の内で唱えると、手の平から精一杯込めた魔力が火になり噴き出した。自分の真上だからどれほどのものか分からない。
魔力を収め先生をドキドキしながら見つめる。
渡された紙には……A。
やったぁと喜ぶ前に、二列向こうから巨大な火柱が上がった。
で、でかい。ザクロだ。なるほど、ザクロなら納得。にしても凄いな。
「お前もあれほどではなかったが大きかったぞ。幸運を祈る」
「ありがとうございます」
ザクロよりはダメかあ。でも褒められちゃった。ふふん、どうだ!だてに転生してないよ!そしてなによりザクロと雷牙と同じクラスだ。冠那ちゃんはどうなったのだろう。
(A、A……あった)
シンプルにAとだけ書かれた扉を緊張しながら開くと、何名かの生徒が座っていた。皆が皆無表情で少し怖い。漫画もそんな感じだったけど。
ふとザクロと目があったけれど、顔をしかめたと思ったら目をそらされた。……嫌われすぎじゃん私。
「千秋!千秋もAになったんだ!同じクラスじゃないか。こっちおいでよ!」
「う、うん」
奥の方に座っていた雷牙が私に声をかけてくれた。静かな教室には似合わないその笑顔は私を安心させてくれる。
なんで子どもなのに皆そんなに落ち着いてんのさ。おかしいでしょ。もっとザワザワしようよ。
よいしょ、と雷牙の隣へ腰を下ろす。
常にクラスには人が増え続けているけれど、そんなに多くはなかった。
作者さん、あれでしょ?Aのクラスに人多くしたら、登場させないといけない子が多すぎて他のクラスに詰め込んだでしょ?
あんなに沢山生徒いたもん。他のクラスなんて絶対パンパンだよ。
「千秋、そういえば千秋は何か夢があるのか?」
突然の雷牙の質問に私は戸惑った。
なんでって言われると……ザクロが復讐者になるのを、ゼクロが殺されるのを止めるためで。
「……守りたい人がいるから、かな」
「かっこいいね。千秋はなんだか大人だなぁ」
結論で言うとそうだもんね。
ただただこの先の残酷な結末を止めるために私は学校へ来た。それにはゼクロを守るためにザクロと関わる必要があったし、力がいるから。
雷牙は大人と言うけれど、大人とは言えないよね。私の考えは中身の薄い覚悟もないようなものだし。
なんて、少し考えてしまった。
「隣座っていい?他空いてないんだ」
思想の世界からその声で現実に呼び戻された。
「あ、どうぞ……」
本当、私って運がいい。
「ありがとう。なんだか黒髪って珍しいね。名前は?」
「風上 千秋、です」
「そっちの赤髪は?」
「俺は南 雷牙!」
目の前の男の子はにっこり笑った。
「僕は椿 白。よろしく、千秋、雷牙」
「よろしく」
「よろしく!」
椿 白。白も重要人物の一人。私も気に入っていたキャラクターだ。仲間をとても大事にし、責任感があり優しいが、戦いになると無感情で動く人形のようにめっちゃ怖い。紺色の髪と黄色い目がよく似合う清楚な男の子。
白に話しかけられるのは予想外だった。
私ってどこまでもツイてる。
「そろそろ入ってくる人もいないんじゃないかな。僕はかなり最後の方だったから」
白が言ったとおり、その後クラスに入ってきた生徒は二人だけだった。
と、思いきや。
「あっ!」
不安気に入ってきたのは、冠那ちゃんだ!!よかった!Aだったんだ!って、失礼だけど意外だ。あんなに可愛いのに強いのか。
「冠那ちゃん!こっち!」
「千秋ちゃんっ」
冠那ちゃんは白の隣に座ると、雷牙と白に自己紹介をした。二人もまた自己紹介をする。
最高だよ。最高のクラスだよ。まぁそりゃそうだけど、冠那ちゃんまで同じクラスだなんて!
Aのクラスには冠那ちゃんは漫画上出現しない。だから飛び入りなんだ。
私は嬉しくて、しばらく周りを気にせず無邪気に冠那ちゃんとしゃべっていた。
そしてしばらくして振り分け終了のチャイムが響く。
左には雷牙、右には白。さらにその隣には冠那ちゃん。(かなり)前にはザクロ。
私って、すんごい優遇されてんじゃん?
呑気にそんなことを思いながら、初めての授業を待つのでした。