ザクロとゼクロじゃん
この世界へきて少したてば、色々なことが分かりました。
まず、文字はよくわからない形。でも不思議と読めるんです。転生さしたどこかの誰かさんのサービスかな。
そしてお母さんの名前。風上 桜刈というようです。
お父さんの名前は風上 京水。お父さん、毎晩帰ってきます。もう毎日帰ってくるのが楽しみです。
すっっっごいイケメンなんです。
黒い髪に黒い目という日本人風の容姿ですが、日本人ではないような神秘さがあるんです。これはきっと見ないと分からない。ほんと見て欲しい。
それに、印騎士の指揮官を勤めてらっしゃいます。学校の近くにある軍の人達がいる建物に行けば会えると、お父さんはキラキラした笑顔で私に言いました。もちろん行けるわけないのは分かってるよ。
私の誇りになったお父さんお母さんです、はい。
そして魔法についてなんだけれど、魔法に関しては私、かなりできるんだこれが。
なんたって漫画にだって印や呪文はのっているから、覚えていた。
それをこの前の草原でちょっと試してみたら、ちびりそうになった。漫画でも威力はあるけど、まさか実物だとそんなに炎が怖いものだと知らなかったんだよ。
自分でやった魔法に自分で驚くなんて、周りから見れば相当間抜けだったろうな。
誰にも見られてなくてよかったよ。
魔力が多い少ないはまだわからない。人の魔力は感じ取ることができると漫画に描いてたけど、コツがあるのかもしれない。
私ははやく学校に行きたくて行きたくてソワソワしていた。
「千秋には首席はむりでしょうねぇ。千秋だもの」
「そんなことはないさ。俺と君の子だから」
お母さんのまたまたキツイ一言に、お父さんがやんわりカバーしてくれた。
「入学式っていつだっけ?」
「あと一週間後よ。制服もちゃんとアイロンしておいたから」
一週間って。もうすぐじゃん。さすがにびっくりだよ。
てか制服!制服!かっこいいんだよ学校の制服!
魔術は聖なるものとされ、基本魔術師は白い服で身を包む。学校の制服もそれにちなんで白だ。
男女共通ズボンで、黒いシャツに白のブレザー、そして深い青のネクタイ。もちろん下のズボンも白。
これを着てるザクロを生で見れるなんて、転生させたどこかの誰かに感謝だ。
私はその夜、どうしたらあの小難しいザクロと仲良くなれるか考えながら眠った。
もちろん主人公雷牙のことは頭からほっぽりだされていました。ごめんね、雷牙。
今日も他に使える印や呪文がないか試しに草原へ行くところだ。
昨日夜に散々考えた結果、賢いザクロはそれなりにこちらも賢ければ興味を持ちやすいかもしれないと考えた。
だから極力使えるものはマスターしておきたい。
「うーん……」
人通りの少ない道のおかげで思考はくるくる回転してくれました。
漫画では印と印をアレンジで組み合わせ、さらなる強い呪文を作ったりもしていた。
(アレとアレを組み合わせるのは相性いいんじゃないかな……?あ、アレもいけそう。とりあえずやってみないとね)
うんうんと何個か合わせてみるものを考えていると、前から珍しく人が来ました。
でもそんなことはどうでも良いほど私の頭の中は印を組み合わせることに必死です。
無視、のはずでした。
「制服絶対似合うと思うな、ザクロお兄ちゃんだもん。いいなぁ」
「ゼクロもいずれは着るようになるよ」
立ち止まらずにいられない。
ザクロとゼクロだ……!!
頭の中の印達はどこかへ消えて行き、代わりにザクロとゼクロでいっぱいになった。
(まってまってまってまって)
すごく二人を凝視しながら立ち止まっているものだから、私に気付いたザクロが不審な視線を投げつけて来た。
(痛い……)
かっこよすぎて視線が痛い……。
その眉間を寄せている顔、何度も漫画で拝見してました。実物で見るとたまらんですね。とゆうか漫画より実物の方がかっこいいかもしれないです……。
「何見てる」
イケメンって怖い。吸い寄せられそうだ。
と、そんな場合じゃないね。これ怪しまれてるんだもんね。
「え、あの………」
「不審なヤツ。誰だよお前」
「……風上 千秋です」
別に名前を聞かれてるわけじゃないんだろうけど、フルネームで素直に答えてしまった。
私の言葉が気に食わないのだろう、尚更ザクロは嫌そうな顔をした。それでもかっこいいけど。
「何を見ていた」
「……」
私は浮かれていました。ザクロを目にして、かなり浮かれていました。
「新葉 ザクロとゼクロじゃん……」
「……なぜ知っている?」
「ファ、ファンだから、です」
「……気持ち悪いヤツ」
そうだよね。そりゃそうだ。見たこともないやつがフルネーム知ってて、さらにいきなりファンですなんて真顔で言われたらそうなるよね。
不審なヤツから気持ち悪いヤツになっちゃったよ。
(い、痛い……)
さすがにさっきとは違った痛みが走りました。辛い……。
「ゼクロ行こう。こうゆうのは関わらないのが一番だ」
「う、うん………」
可愛いお顔が私を心配そうな目で見つめながら通り過ぎた。ヤメテ、同情シナイデ。
背後に二人の気配を感じながら、私は絶望しました。
仲良くならなきゃいけないのに、さっそく嫌われてしまった……。
作戦大失敗だ。最悪だ。
なぜあんなバカバカしいことを言ったのだろう。もっとうまく言えばよかった。
(私ってほんとバカだ)
くっそー!と地団駄を踏むけれど、やってしまったものは仕方ない。賢くなる以外道はないです。
頑張ろう、私。
消え去った印達を必死に思い返しながら、私は重い足取りで草原へ向かった。