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予想外の展開

結局あの後、夜になるまでお父さんに火柱をひたすら上げさせられた。寒いはずなのに汗だくだったね、うん。

もちろん二倍になんてなってないさ。多少は大きく上がったけど。

ヘトヘトに帰って私はベッドにバタリだった。入学したての頃を思い出したよ。ひさびさに疲れてお風呂に入れなかった。

……帰ってきたはずなんだけど、なんかおかしいよね。

それはともあれ、目を覚ませばもう空には太陽が高く上がっていた。お昼だ。

今日は、ゼクロと顔合わせなんです。そう、ゼクロ!!

寝起きからドキドキしながらお風呂に入り、少しリラックスしてリビングに向かった。

ざわざわと賑やかな声が聞こえる。今日も夫婦そろって仲良しだ。

……ん?いや、おかしい。お父さんって、仕事だよね?

訝しげな思いでリビングまでの足を速めると、なんだか聞き覚えのある声。

「おはよっ!千秋っ!」

「……は!?」

そこには雷牙がいた。

「いやぁ、俺たちって集合場所とか決めてなかったじゃん?で探したんだ千秋の家。苦労したよ、すっごい時間かかっちゃってさ。やっと見つけて千秋のこと呼んだら、お母さんが千秋がお風呂から出るまでどうぞって家に入れてくれたの!このパン超美味しいんだけどっ」

ベラベラと喋りたくった雷牙はお母さんが出したのであろうクルミパンを幸せそうにかじった。そんな雷牙を見て母もまた嬉しそうである。なんで打ち解けあってんだよ。

「そ、そうなの……」

動揺が取れない私はそれしか言えなかった。情けないなほんと。

「千秋も食べなさい。お腹空いてるでしょ?」

「あ、うん」

なぜかお母さんと私、そして雷牙の三人で朝ごはんを食べている。妙だ……。

「千秋、ザクロの家なんだけど、新葉って凄いのな。通りすがりの人はみんな知ってたよ。ここからそう遠くないからすぐに行けるよ」

「どうしたらいいんだろ?まさか新葉の家にむかってザクローなんて大声出せないしね」

「まぁ、その時はその時でしょ。呼び鈴付けてくれてるんじゃない?」

「そうだね、大きな家だし」

「あらぁ?千秋、新葉の家見たことあるの?」

グッとパンが喉に詰まって慌てて水で流した。

「い、いやいや!だって有名だからさっ、噂で沢山聞くの!大きいらしいよ!」

そうだよね、新葉家は行ったことないから全く知らないはずだ。漫画で見てたからつい言っちゃった。

「そうねぇ、お屋敷みたいよ。古い伝統を受け継ぐ珍しい家だから、とても立派だったわぁ」

「お母さんは入ったことあるの?」

「えぇ、新葉家の人とは仲良くやってたから。ザクロのお母さんとお父さんも知ってるわよぉ」

「千秋のお母さんとお父さんは凄いんだね。新葉家と顔見知りはいても、仲の良い人はそういないだろうし」

雷牙がキラキラした顔でそう言った。

……なんで私ってこんな平凡に転生しちゃったわけ?立派な両親の家系に転生させるなら立派な子どもじゃないとダメでしょ!?

ちょっと転生させる時に設定作った奴恨んじゃいそうだよ。誰か知らないけど。

「新葉家の人たちは頭の堅い人ってイメージである意味怖がられてるけど、実はそんなことないのよ?頭の堅いって言うか、堅実と言うのかしら?誤解されやすいだけねぇ」

「ザクロって堅実かなぁ?」

雷牙がおかしな顔でつぶやいた。まぁ、確かにそうだね。

「ふふ、あなた達はまだ幼いから。そんなこと意識しなくていいと思うわぁ。でも、とにかく新葉家の人は良い人よぉ。大切なものは大事にするし、約束は破らないしね。ちょっぴり頑固だけど」

お母さんは楽しそうに微笑んだ。

「ザクロもそんな風になるの?」

雷牙が納得しない顔でそう言った。

「なると思うわぁ。だってザクロくんの両親、素敵な方ですもの」

自信を持って言ったお母さんに雷牙は自分に言われたかのようにはにかんだ。分かるよ。友達が褒められたら嬉しいよね。

ザクロはトゲトゲしてるけど、根本的に優しい所は私たちも知ってるしね。


「じゃあ千秋、行こっか」

話しがひと段落つき、ついに新葉家に向かった。

緊張と寒さで私はふるふる震えながら歩いた。雷牙は平気なようで、鼻歌を歌っている。凄い根性してるよ。さすが主人公。

「あ、あれじゃない?ほら大きい建物。確か古くからあるって言ってたから、ちょうどあんな感じでしょ?」

「う、うん。あれだね」

遠くても立派なことが分かる。迫力が凄いよ、実物で見たら。本当にお屋敷じゃん……。

正面の門がまた高い。そんな高くしなくても多分誰も忍び込まないって。怖いもんなんだか。新葉って名前だけでも強いイメージを与えるのに。

門の先には横開きの玄関が見える。それさえも大きい。

呼び鈴はどこだっけ、とキョロキョロする。どっかにあったんだけどな。なんでそんな分かりずらいところに設置したんだ。

「ザクローーーー!!!!」

「ぎゃっ」

突然隣で叫んだ雷牙に驚いて変な声が出た。さすがにチキンすぎて恥ずかしい。

てかそんなことより何やってんの!?怒られるって!!

「ザークーローーーー!!!!」

「ああああああ……」

パニクりすぎて私は雷牙に向かって手をバタバタさせながら奇声を発した。や、やめてっ!!

ガラガラっ、と玄関が開く音がした。手遅れだ。もうおしまいだ……。

恐る恐る振り返る。

「そこに呼び鈴が付いているでしょう。門の前で騒ぎ散らかされては困ります。新葉の名に傷を付けないでいただけるかしら?」

で、出たぁ。ザクロのおばあちゃんだ。新葉 オチョウだっけ。ちょっとしか出番なかったくせに毎回怖かったんだよこの人。謝るのが聡明とみた。

「ご、ごめんなさ……」

「あ、俺南 雷牙です!ザクロいますか?」

ひーっ!雷牙のバカ!!そんな口の聞き方したら何言われるか分かんないって!!

「南?聞いたことのない名ね。ザクロとはどういう関係かしら」

ほら言ったじゃん。子どもに言うには重い嫌味と嫌そうな顔。はぁ……。もういいや、どうにでもなってくれ。

「学校で仲良くしてる友達です!ちなみに千秋も。なっ」

「あ、はい……。風上 千秋です」

話しを振られ泣きそうになりつつ、とりあえず名乗った。

「風上……?」

予想外に新葉のおばあちゃんが食いついたから焦った。なにこの展開。

「あぁ!ミズキとゼンが仲良くしていた家ね。てことはあなたは……」

「いま風上と言いました?」

綺麗な声が新葉のおばあちゃんの声を遮った。

「風上家の娘さんよ」

新葉のおばあちゃんは振り返ってそう言った。あれ、声の調子良くなってない?

「まぁっ、顔を見せてくださいな」

ガラガラと全て開かれた玄関から登場したのは、ザクロのお母さんだった。ザクロにそっくりだ。

「まぁまぁまぁ、ザクロったら桜刈の子どもとお友達になってただなんて!」

入って入って、とザクロのお母さんは嬉しそうにはしゃいだ。

雷牙をふと見るとぽかんと口を開けている。仕方ないよね。まさかまさかの展開すぎるもん。私だってなにがなんたか分からない。

ガシャーンと開け放たれた門をくぐり、私たちはザクロのお母さんの元へ歩いて行った。

「あらぁ、桜刈にそっくりねぇ!でも目元は京水さんに似てるかしら?来てくれて嬉しいわ、私ザクロの母、新葉 ミズキといいます。ザクロと仲良くしてくれてるのでしょう?ありがとう」

「い、いえ、風上 千秋ですっ」

声が裏返っちゃった。は、恥ずかしすぎる。

「お隣の子は?そちらもザクロのお友達でしょう?」

「み、南 雷牙です」

雷牙までもが大人しくなってる。レアだねこれ。

「そう、よろしくね、千秋ちゃん、雷牙くん。ザクロは多分自室にいると思うわ。広間に呼ぶから、中へ入ってくださいな。ザクロもそこに呼ぶわね。さ、どうぞ」

優しい笑顔に迎えられ、私たちは中へ入った。

お母さん、こんなに仲のいい人がいたなんて聞いてないよっ。しかもザクロのお母さんだって!?言ってよ!!

てかちょいちょい漫画とは違うことが起こるのやめてほしいんですけど。どうしたらいいか全く知らないし、分からないからね。そこんとこ私はかなり弱気になる。

でもおかげで楽に中に入ることができた。この家、本当にデカイな。なんたって家の中に長い長い廊下がある。織田信長でも住んでそうだ。

そして全員着物を着ていた。もちろんザクロのお母さんも、おばあちゃんも、仕いの人や家の中にいる人皆だ。

お金持ちで有名ですってオーラがぴしぴしと伝わる。こっちまで姿勢が良くなるよ。


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