転生しました
私の名前は風上 千秋です。
18歳のいたって普通な高校生。
友達もそこそこいて、そこそこ彼氏もできて、そこそこ充実した日々を送っていました。
中でも一番充実した時間といえば、漫画を読んでる時。
一冊一冊に30分はかけてゆっくり読むのがわたし。絵もセリフも、大事な場面は尚更じっくり読みます。
私が読んでる漫画には少々むごい所があって、よく人が死ぬんです。でもそれもまた味がでるもので、私は嫌いではありません。
ただ自分の大好きなキャラクターが死んだ時は、心の底から作者を憎みます……。
そんなある日。
学校の帰り道に、好きな漫画の新巻を買っていそいそと自宅へ向かうものの、我慢できず結局読みながら帰っている時。
新巻はちょうど最終章へと動き出し、戦いが盛り上がっていた。
それはそれは道なんて内容が面白くなってくるほど見えやしない。
でも何年も通っている道だから足取りは先を見ずとも自慢げだ。
(やばいやばいやばいやばい……っ)
心拍数も跳ね上がり、これでもかってぐらいテンションが上がった時、私は一度漫画から顔をあげる癖がある。
バッとその時も顔をあげた。
そして再び漫画を読み続けるのだけれど、私は漫画に顔を戻し、また上げた。
「……!?」
声にならないほどの衝撃って、こういうことなのか。
目の前は草原。というか。
えっ。なんで?
「……!?!?」
とりあえずは固まった。
落ち着いて状況整理しようにも、あまりにも不可解な事態にそんなことができるわけがない。
なにここ。どこ、どこなの?
道はどこいったわけ?
道っていうか、草原!?
のちに私は数十分の時間をかけて、転生という言葉に辿り着きました。
辿り着いたというものの、それも半信半疑。
転生だなんて小説の中のお話し。本当にそんなことありえるのだろうか。
でも実際自分がそういう風になっている。
いや、でも転生とは限らないんじゃ……。
半信半疑と戦って数十分、私は、
「え、最高じゃん」
開き直ってました。
転生ってことはまぁ近い時代とかそんなんじゃないだろうし、よくあるのはゲームの世界とか。
最高じゃん。
何度も思ってきました。あー、二次元に行きたいわー、って。
(まさにこれじゃん)
転生って考えたらここはどのゲームの世界なんだろ。ゲームも沢山してきたけれど、草原はどのゲームにもよくある。
あれがいいな、これがいいなと色々考えていたけれど、やっと状況がつかめてきた。
(帰れるの?これ。そして私は転生してどうやって生きていくの?)
でもその悩みはすぐに解決した。
「千秋ー!!」
背中からかかるその声に私は変な汗をかいた。その人物で私の転生した世界がどこか分かるんだから。
千秋と馴れ馴れしい呼び方から尚更転生したんだと実感する。
恐る恐る振り返ると……。
「千秋、またこんなところに来て。はやく帰るわよ、ご飯食べなさい」
(ダレ?)
まったく知らない美人さんがブロンドの髪をなびかせ、優雅に私を手招きしていました。
本当に誰でしょう。
そして、背が大きい。とても大きい。
「なにぼーっとしてるの。はやくおいで」
素直にその美人さんの元へ行こうとして気付いた。
私めっちゃ小さいじゃん!
なぜか私は子どもだった。
美人さんが大きいんじゃなくて私が小さいんだ。
転生って年齢変わっちゃうものなの?そんなのありなの?
冷静にそんなことを思いながら、私は美人さんの元へ再び歩み出した。
「千秋ったら相変わらず本がすきねぇ。お父さんの書庫からいつも持ち出すんだから」
自分の手元を見ると、小さくなった手に新品の漫画。そしてよくよく見ると、服もぜんぜん違っていた。
白いシャツに黒の半パン。すごいシンプルだな……。
美人さんも淡い紫のワンピースを着ていてシンプルだった。
てか鞄もないじゃない、私。
たぶんここではいらないのだろうけれど、財布も入ってるのに……。
……ん?待てよ待てよ、この美人さん、お父さんって言った?
だいぶ遅れて私の脳内がピンときた。
(この人お母さん!?)
まさかのこの美人さんが!?
「なあに?千秋ったらじっと見て」
「えっ、いや、なんでも、ない」
「あなたは本当に変な子ねぇ」
クスクスと少し酷いことを言ってお母さんは笑いました。顔が可愛いから何を言われてもぜんぜん辛くない。
「将来はどんな魔法使いになるのかしら?」
「魔法使い!?」
「何びっくりしてるの。学校も行くんでしょ?」
まーさーかーの。まさかの魔法ってことは……。
今私が手にしている漫画こそ、魔法がでてきます。そして魔法はもともとあまり好きではなかったので、私の知っている魔法が出てくる漫画やゲームといえば、この手にある漫画ぐらい。
(うっそ。本当に……最高じゃん!?)
パアッと自分でも顔がほころぶのが分かった。
まさか転生した先が、自分の一番好きな漫画の世界!?
まだ決まったわけじゃないけれど、私の中ではもうその漫画の世界でした。
「そういえばねぇ、今年の新入生にザクロくんがくるらしいわよ。とても優秀なんでしょうね」
(きたぁぁぁぁぁああああっ!!!!)
ザクロくん、知ってますよザクロくん。
新葉 ザクロ。新葉家は代々優秀な魔術師の家系で、この国ではかなり顔の広い一家だ。
その家に次期当主として生まれたのがザクロ。生まれつき魔力が多く、幼くして使える技も、容量も普通の人とはケタ違いだという設定だった。
だからなのか人を見下すタイプ。
これやばいよ。私の読んでた『0の魔術師』のせかいだよ。
やばい、本当にやばい。
これってお話しはそのまま進むのかな。
てことは0の魔術師の話しがリアルに体感できるってことじゃん。
(きゃーーーーーーーーーっ)
私は嬉しすぎて心の中で叫びました。