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夏も終わろうかという時に、睦の陣痛は始まった。
「はぁ……………相変わらずキツイわね……………」
「大丈夫ですか?少し休まれては?」
「そしたら赤ちゃん出てこれないじゃない…………」
「お嬢様……………?」
「……………ねぇ、平林。この子は女の子よ。だからね、梨湖って名付けたの。果物の梨に湖よ。覚えていて頂戴」
わかっていたのだ。平林はそう直感した。もともと体の弱い睦がこれまで3度の出産に耐えられたのは奇跡で−−−−−。
「何をおっしゃ……………」
「この子を守って頂戴、平林。せめて……………この子が大人になるまでは……………」
「お嬢様……………?」
すぐに医者を呼んだが結局睦は助からなかった。
胎児は帝王切開で生まれ、故人の意思を尊重して梨湖と名付けられた。
いつかは来ただろう永遠の別離れ。
自分と主人の場合はそれが少し早かっただけで……………。
だけど平林には受け入れられなかった。
主人が−−−−睦がいたからこの邸で過ごせたのだ。
「お嬢様……………」
愛しい愛しい主人はもういない。他の男のものになっても諦められなかった最愛の人。
彼女に拾われ生き返ったのだ。その彼女がいないならば生きてる理由など平林には−−−−ない。