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日が経つにつれ、睦のお腹はどんどん大きくなっていくとともに、睦の体調が悪化していったのは初夏のことだった。
「お加減いかがですか、お嬢様」
「いい。と言いたいところだけれどね……………あんまり良くはないわね。もともと暑いのは苦手なのよ」
苦笑する睦に母親を心配する子供達が不安げに見つめる。
「ここは蒸し暑いですからね。そういえば毎年お嬢様は仕事にかこつけて北へ向かわれましたね」
子供達用にリンゴをウサギの形に切っていた平林は向き終えて楊枝を刺して皿を差し出すと長子の海桜が受け取り弟達が取ってから自分も手をのばす。
「海桜様は本当にしっかりなさっておいでですね」
「そうね。海桜には本当に苦労をかけてるわ。もっと子供らしくはしゃいでもいいのに……………頼みたいに」
「頼仁様には頼仁様の良さが、海桜様には海桜様の良さがありますよ。もちろん誠一様にも」
穏やかに笑いながらリンゴを向き続ける平林に睦は嘆息した。
「まさかお前がここまで子供好きとは思わなかったわ」
そんな主人の言葉に苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
長年付き従ってきて、いかにこの方面に疎いかは知っていたが……………。
「お嬢様のお子だからですよ。お嬢様には返しきれないご恩を頂きましたので」
「あら、口が上手くなったわね」
いつのまにか子供達は折り紙に夢中になっていた。
「ご兄弟仲が良くていいですね」
「頼仁は不満そうだけれどね。あの子は外ではしゃぎたいから……………」
「昨日、海桜様が庭に連れ出されましたから、今日は誠一様のお相手の番と決められてるのでは?」
誠一は母に似て体が弱い。
頼仁が生まれるまではほとんどベッドから動けなかったのだ。
そんな誠一を海桜はことのほか可愛がっている。
弟思いの海桜は誠一でも遊べるものを持ち込んでは長い時間遊んで、くたびれてお互いに眠りこけることもしばしばだった。
ベッドから起きられるようになったことも誰よりも喜んだぐらいに誠一を可愛がり、誠一も唯一自分を構ってくれる姉にべったりだった。
「海桜、何を折ってるの?」
「鶴だよ。千羽折ると病気が治るって昨日佐伯に聞いたの。だからきっと母様の病気も治るからね」
そう言うと、満面の笑みで母に抱きついた。
「そうね。そしたらすぐね。有難う、海桜」