それは、突然の出来事。
眩しい日差しが、大地を容赦なく照らす。見上げれば、燦々と輝く太陽が、世界を見下ろしていた。
しかし、それは木々の葉の隙間から僅かに見える光景であり、視線をおろせば自分が今立っているのは薄暗い森の中であることがわかる。
──獣の甲高い鳴き声がした。
その声に反応してか、木々の枝から飛び立ち、ばさばさと音を立てながら空を横切るのは、鮮やかな紅色の猛禽類。鷲のような見た目であるが、多分鷲よりも遥かに大きな鳥であろう。
その鳥の嘴や爪の鋭さに息を呑んで辺りを見回せば、目に飛び込んできたのは巨大な蜘蛛。スカイブルーの身体は人の体長と変わらない大きさで、口からは牙が覗いている。──私は思わず悲鳴をあげた。
ゆっくりと近づいてくるそれから逃げようと身体を反転させ、森の中を走り出す。
苔で滑って転び、太い木の根に躓いて転び──膝も掌も痛い。目からこぼれ落ちる液体を拭う暇もなく、息を切らして走り続ける。がざがさと何かが追いかけてくる音が、背後から一人響いてくる。
──怖い怖い怖いっ! なんで私が、こんなと森の中にいて、こんな目に合わなければならないのか。
惨めだ。何かおかしなことをしたわけでもないのに、気がついたらあんなところに立っていた。
私が一体、何をしたというのか。いつものように、朝食のだし巻き玉子と味噌汁とご飯を食べて、高校に向かっただけだというのに、何がいけなかったのか。
──きっと、神様なんていない。それか神様は酷い人なんだ。そうでもなければ、ただの女子高生を、こんな場所に置き去りにしたりしない。
理不尽さに、唇を強く噛み締めた。晴れ渡っていたはずの天から、涙のような滴がぽたりぽたりと落ちてきて、私の頬を洗う。
顔をあげ視線を向けた先に偶然見つけたそれに、私は僅かに顔の強張りを解いた。洞窟だ。雨宿りができる。
ぐっしょりと濡れた身体を引きずるようにして、躊躇もせずに暗闇の中に足を踏み入れた。
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